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33話


「お久しぶりです、ジノア様」


「ロサさんもお久しぶりです。変わっていないようで、良かったです」


「そういうジノア様は……大きくなりましたね」


 馬車の傍にい合っていたメイド姿のロサは深々と頭を下げた後、俺を見上げた。

 この一年の修練の中で俺の背丈もずいぶんと伸び、体つきもかなり変わっている。

 それらが認められたようで妙な嬉しさとむず痒さを体感する。


「この一年間、各地を巡っては戦って鍛えて食べて寝る生活でしたから。それで、わざわざ迎えに来てくれたってことは、見つかったんですね」


「はい、『緋月の魔笛』が発見され、そして『明星連合』の目的も判明いたしました」


「魔道具を組み合わせて他の領地に攻撃を仕掛ける。それ自体が連中の目的ではない、ということですか?」


「残念ながら、それ以上に恐ろしい目的が」


 簡単に領地を滅ぼすことのできる魔道具を使って成しえること。

 その具体的な中身を聞き出そうとした俺の耳に、聞き覚えのある鈴を転がすような声が届いた。


「魔神の復活が目的みたいなの」


「エリーシア王女、なぜここに?」


 馬車の扉が開き、少しだけ大人びた赤いドレスのエリーシア王女が姿を現す。

 幼い印象だったが、今では女性と少女の中間という危うさと美しさの同居する、ひとりの女性へと成長を遂げていた。

 危うく見とれるところだったは、すぐに邪念を振り払う。


「このまま同じ目的地まで向かえば、手間が省けるでしょ?」


「まぁ、それはそうですが。魔神の復活って……あの精霊時代の魔神のことですか?」


 それは神話や伝説でしか聞いたことのない名前。

 かつて精霊がまだ多く地上にいた頃、精霊時代と呼ばれたその時代に世界を脅かした存在。

 それが魔神だった。


「精霊達は魔道具を生み出し、人間達に与えては魔神の封印を成し遂げた。一説には、精霊女王が人間にスキルを与えた、とも言われているわ」


「その魔神を復活させて、明星連合になんの利点が……。」


 破壊を齎す存在を呼び出したところで、政治的な利益を得られるとは思えない。

 ならば『緋月の魔笛』で事足りるからだ。制御できるかもわからない存在に頼るとは思えない。

 俺が率直な疑問を向けると、エリーシア王女は愁いを帯びた表情で答えた。


「魔神は契約を行うことで、力を与えると言われているわ。おそらくそれが狙いでしょう。そして魔神の封印を解くには、魔力の地脈を活性化させる必要がある。その手法としてダンジョンの活性化という手段を取っていたみたいなの。まるで大地を穿つ楔のようにね」


「その一か所として選ばれたのが、ミラ・レスだったということですか?」


「ごめんなさい、もっと早くに気付いていれば……。」


 成長しているがしかし、エリーシア王女が全く変わっていないことに安堵する。

 こんな王族が国を治めてくれるのであれば、あるいは治めていたのであれば、ミラ・レスのような犠牲は出なかったのだろうと悔やまれる。

 そして今、彼女を責めたところでなにひとつ解決することはない。


「謝罪は必要ありません。今はただ、次の犠牲がでないように行動しましょう。『緋月の魔笛』は、どこにあるんですか?」


「ヴィダールよ。巨大な地脈の上に作られた魔法都市。そして……魔神封印が執り行われたという伝承のある街」


「ロサさん、ヴィダールへお願いします」


「かしこまりました」


 ロサが一礼し、馬車の中へ乗るように手で促す。

 俺が足を踏み入れようとすると、エリーシア王女が面白そうに口元を綻ばせた。


「冒険者君、少し大人になったみたいね」


「そうある為に、この一年を費やしてきましたからね」


 誰かを守るため。

 そして緋月の魔笛を奪還するため。

 その強さを手に入れるために、ただもがき続けた日々。

 

 成長したその成果を叩きつけるべく、俺は静かに馬車へと乗り込んだ。


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