32話
馬車を破壊されたため、徒歩での移動となってしまったが、近隣の村で移動手段は確保できた。
謎の襲撃――表向きにはそういうことになっているらしい――を受けた、オータル村で使われていた荷馬車などを、近隣の村々が買い取ったというのだ。
それをさらに俺達が買い取ったのだから、何というめぐりあわせだろうか。
一連の問題が片付き『空の息吹の剣』も手に入れたことで、今は三人それぞれが各々準備を進めていた。
「じゃあ、ケルックはこっちで拘束しとくっす」
「エリーシア王女……いや、お前達はどうするつもりだ?」
「さぁ? ただ相手にやられたように、やり返すんじゃないんすかね」
気を失ったケルックを縛り上げながら、ダルクが不敵に笑う。
エリーシア王女が『燐光の召命』に働きかければ、バートラムは確実に追い詰められる。
切り札として息子のケルックの身柄もこちらが確保したのだから、ほぼ間違いないはずだ。
「ケルックを交渉材料に、バートラムを撹乱すればいい。後は燐光の召命が介入して終わりだ」
「そうっすね。まぁそうなるんじゃないんすか?」
「適当だな」
「まぁ、その辺は俺の仕事じゃないんで」
「後のことは貴族達に任せればいい。それよりジノア、お前はこれからどうするつもりだ?」
「俺は……しばらくは身を隠しながら、修練を続ける。『緋月の魔笛』が見つかった時、力になれるようにな。あの魔道具が残っていたらミラ・レスの惨劇が再び起こらないとも限らない」
オーレリアの問いかけに、俺は夜明けの光が差し込み始めた空を見上げた。
魔道具の片割れを回収し、一つの領地を巻き込んだ騒動をどうにか食い止めた。
だが、これはあくまで防衛戦を一つ凌いだに過ぎない。
根本の解決を目指すならもう一つの魔道具『緋月の魔笛』の回収も必須だ。
そして、それを目指すのは決して俺ひとりではない。
「私達も全力を尽くす。明星連合の野望を、打ち砕くためにも」
「修行するなら、エーデリアス領にお勧めの場所があるんで。姫殿下にも伝えておくっす」
「助かる。下手をしたら、俺もお尋ね者だからな」
貴族の派閥、『明星連合』と相対したのだ。
その程度は覚悟しておくべきだろう。
そしてこれからは、その『明星連合』と正面からぶつかることになる。
今のままの実力ではその戦いに付いていけるという保証もない。
修練を重ね、その時に実力を発揮できるよう準備を進めておかなくては。
「その『空の息吹の剣』はジノアさんが持っていてください。後から回収しに向かうんで」
「いいのか?」
「はい、もちろん。役立ててください」
確かにミラ・レス無きいま、本来の持ち主に返すことも叶わない。
ならば有効活用させてもらうとしよう。
腰に下げ、そして不思議な感覚に包まれる。
まるで魔力が体中に巡っているかのような、そんな感覚だ。
「いずれ必ず返す。その時に、また」
「しばしの別れだ、ジノア。達者で」
「あぁ、それじゃあ」
長い別れの言葉は必要ない。
再び戦いの最中に再開すると知っているからだ。
簡素な別れの言葉を交わし、ふたりは荷馬車で去っていった。
車輪の音が遠ざかり、街道には静寂が戻る。
残された俺の目的地は、ダルクの言ったエーデリアス領だ。
次の戦いで、全てを終わらせる。
ルリアに胸を張って再会するための、その時を迎えるために。
◆
そして、一年後。
「ジノアさ~ん! なんか豪華な馬車に乗ってきた人達が呼んでます!」
「あぁ、わかった! すぐにいく!」
エーデリアス領の辺境。
その小さな町に腰を据えていた俺は、僅かな手持ちの荷物を抱えて部屋を出た。
戦いの日々を経て、待ち望んでいた瞬間が訪れたのだ。
決着を付ける、まさにその瞬間が。
「来たか、この時が」




