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1話


「ジノア。俺たちの為にも、このパーティから出ていってくれ」


 ギルドに併設された酒場の一室。

 円卓を囲んで報酬を分配している最中だった。

 パーティリーダーのベルアスは、酷く軽くそう告げた。


 周りを見れば、仲間達にも驚いた様子はない。

 ただひとり――俺の隣に座っていたルリアを除いては。


「急な話ですね、ベルアス。それに酷く一方的ですが」


「急な話? そう思ってるのはお前だけだよ、ルリア。ジノア本人のほうは追い出される理由に、覚えがあるんじゃないか?」


 その問いかけに、努めて冷静に返事を考える。

 誤解があるなら解けばいい。

 ここで波風を立てて事を荒立てても余計に状況がこじれるだけだ。

 特に、ルリアのパーティ内での立場も悪くなってしまう。

 それだけは、避けなければならなかった。


「与えられていた仕事は、すべてこなしていたはずだ」


「俺達が欲しいのは背中を預けられる仲間であって、雑用係じゃない。そもそも青銅級のお前が、この白銀級パーティ『勝利の号令』に所属していること自体まったくもって不相応なんだよ。いつまでたってもスキルは成長しないで、下級のままだろ。俺達なら、もっと上を目指せる。もっと活躍できるはずなんだよ」


「おかしな話ですね。私とジノアをパーティに誘ったのは、そちらでしょう? それをいまさら不相応だと?」


 ルリアの言葉に合わせるように、セジルが鼻で笑う。


「丁度いいんだよな、その役立たずを追い出すのに。なんたって、あの『燐光の召命』のメンバーがこのポルトスに来るって話だ。こんな時期にこんな辺鄙な街に来る理由は、ひとつしかねぇだろ?」


「間違いなく、最年少で白銀級に昇格した俺達をスカウトするためだ。そんな大事な時期にジノアを抱えてはいられない。ギルドの規定上、青銅級は上位クランに所属できないからな」


「スカウト? それは貴方達の願望でしょう?」


「往生際が悪いよ、ルリア」


 今度は、杖を持った魔術師のキャティが冷ややかな視線を向けてきた。


「ジノアは『双星』……ふたつもスキルを持っているのに、その『薬草学』も『剣術』も下級で成長が止まってるんでしょ? もう白銀級で通用するレベルじゃないのは、本人が一番理解してるはずよ」


「下級のスキルしか使えねぇサポーターなんざとっくに用済みなんだよ。俺達のランクになれば、もっと優秀なサポーターを雇える。いいや、向こうから雇ってくれと売り込みに来るぐらいだ」


「もう俺のほうで候補は絞ってある。いずれも優秀なサポーターで、中位から高位の回復魔法や補助魔法が扱える。ありきたりなポーションしか作れない、お前とは違ってな」


 叩きつけられる言葉に、返す言葉を探す。

 しかし見つけられずにいた。


 『双星』。

 それは本来であればひとつしか授かることのないスキルを、ふたつ授かった者の呼称だ。

 大陸でも数人しかいない希少な能力ではあるがしかし、俺の授かったスキルはふたつとも下級で成長が止まっていた。


 『下級薬草学』は単純な効力のポーションしか作れず、『下級剣術』も現状では攻撃系スキルが使えるわけでもない。


 本来であれば戦いの中で成長していくはずのスキルは一向に成長せず、実力面では仲間達から取り残されている。

 その結果、将来性を期待されてパーティに誘われたにも関わらず、長らく後方でのサポートを余儀なくされていた。


「勝手に話を進めないでもらえますか? 不快です」


「いいんだ、ルリア。三人の主張も間違いじゃない」


「いいから言わせてください。駆け出しだったころ、依頼を受けやすかったのはジノアのお陰です。無名の私達が『双星』という知名度にどれほど助けられたか、忘れましたか?」


「それこそ見解の違いだな。俺達が、悪目立ちしていたお前らを拾ってやったんだ。『双星』でありながら、その両方が使い物にならない無能。確かに知名度は上がったが、それと同じだけ悪評も広まっただろ」


 知名度が上がるということはなにも、良い結果につながるとは限らない。

 冒険者という稼業を選んだのだから覚悟はしていたが、双星という称号がそのまま荒事につながったことも少なくはない。

 利害のどちらも引き寄せていたことは事実だ。

 だがルリアはベルアスの意見を聞いて、身を乗り出した


「だとしても――」


「聞くがな、ルリア。この前のスケイル・ワイバーン討伐の時、ジノアがなにをしたか答えられるか? バグスは猛攻を受け止め、俺は奴の翼を射抜き、キャティの魔法は空から奴を叩き落した。とどめを刺したのもお前の剣だろ、ルリア。だがジノアは後ろで突っ立って、ポーションを作って仲間に使っていただけだ」


「ジノアのポーションが戦闘の役に立っていたことも事実です」


「馬鹿でもできる仕事だ。それに回復魔法があればもっと余裕を持って勝てたとは思わないか? これからの戦いはもっと苛烈なものになる。一刻一秒を争う状況で、高位の回復魔法と下級薬草学のポーションのどちらが必要かなんて、議論する余地もないだろ」


 再びルリアが口を開いた瞬間、手でそれを遮る。

 ルリアがこちらに視線を向けるが、どうしてもそれを正面から見返すことができなかった。

 

 できることは全てやってきたつもりだ。

 実際には必要なポーションを即席で作り、バフやヒールを担当していた。

 だが後衛でひたすらポーションを作って仲間に使うだけ、というベルアスの主張もなんら間違ったものではない。


 事実として、高位の回復魔法が使えるサポーターがいた方が戦闘が安定することは自明の理だ。

 そしてそれが、ルリアの安全と活躍につながることも認めがたい事実だった。


「そうだな。議論の必要は……これ以上の口論は必要ない。俺はベルアスの言う通り、パーティから抜けさせてもらう」


「本気なんですか? なら私も――」


「あの街を、魔物から取り戻すんだろ。『燐光の召命』への所属は必ずその助けになる。その可能性があるなら、今はそれに賭けるべきだ」


 これまで俺がパーティを追い出されていなかったのも、ひとえにルリアのお陰だ。

 今やルリアは主力であり発言権を含めてリーダーのベルアスに次いでいる。 


 ルリアとは同郷であり、共に冒険者を志した。

 だからこそ俺の肩を持ってくれているのはありがたいし、感謝もしている。

 当時もお互いを支え合っていたがしかし、今やその形は酷くいびつなものになってしまった。


 方や最年少白銀級パーティ『勝利の号令』のエース。

 方やその新進気鋭の足を引っ張るパーティのお荷物。


 俺という荷物をひとり抱える代わり、ルリアという主力を手元に置いておくことは、ベルアスにとっても好都合だったのだろう。

 だが、ついに俺を抱えておくには限界が訪れた。

 大陸最高峰の冒険者クランからスカウトを前にして。


 ならば俺は潔く去るべきなのだ。

 ルリアが切望してやまない――故郷の奪還という夢の、足を引っ張ってしまう前に。


「話はついたか? ならさっさと出ていってくれ」


「……これまで世話になった」


「あぁ、自覚しているならそれでいい。リーダーの権限があれば話し合いなんてしなくとも追い出せる。こうして話し合いの場を用意してやってるだけでも感謝してほしいもんだがな」


 正直に言えば、気に食わない。

 ベルアスの態度も、この結末も。

 だが全ては俺の実力不足が原因だ。

 

 それにこれまでの結果を見れば、『勝利の号令』の実力が本物であることは明白だった。

 積み上げてきた成果と広まった名声。

 それらを加味すれば、『燐光の召命』にスカウトされてもおかしくはない。

 ルリアはこれで目標に一歩、近づくのだ。 


 そう言い聞かせて、席を立つ。


「ジノア!」


「約束は、必ず果たす。それまで、待っていてくれ」


 口先だけの言葉ではない。

 必ず戻ると誓い、そして部屋を後にする。

 胸の中にくすぶる未練を振り払うように。


 ◆


「これは……」


 宿へ戻れば、階段の脇に見慣れた荷物が転がっていた。

 確かめる必要もない。それらは俺の持ち物に違いなかった。

 カウンターに視線を向ければ、渋い顔の宿屋の主人と目が合った。


「昨日、お前さんとこのリーダーから話があってな。悪いがあの部屋は、今日限りで出て行ってもらうことになった。最低ランクの冒険者に貸し続けるのは、こっちとしても不安でな」


「いや、手間を掛けさせて申し訳ない。これまで世話になった」


 荷物を拾い集め、どうにか持ち運べるよう形に纏めていく。

 後衛として大きめのバックやポーチを買っておいたのが、不幸中の幸いだった。

 これなら荷造りには困らないだろう。

 最後に部屋の鍵を返却すると、宿屋の主人は鍵を磨きながら言う。 


「悪いことは言わん、さっさと故郷にでも帰れ。身の丈に合わん夢を見た奴の末路なんざ、この街で嫌というほど見てきた」


「忠告ありがとう。ただ、もう少しだけ続けてみるよ」


「はっきり言わんとわからんか? これからの見込みもない青銅級が、ひとりで生き残れるほど冒険者稼業は甘くないぞ」


「なら、死に物狂いで続けるしかないな」


 こみ上げる苦笑を抑え、主人に感謝を告げて宿を後にする。

 外はすでに夜を迎えており、肌寒い空気が張り詰めていた。

 

 まずは雑魚寝でもできる宿を確保すべきだろう。

 宿の多い街の地図を頭が引っ張り出し、その一角へと足を向ける。

 だがそこで、ぽつりと弾ける水滴に気付けば、しとしとと雨粒が降り始める。

 一層冷え込む街の路地裏を、出来るだけ速足で突き進む。 


「そうだろう、ルリア」


 今はもう、隣にいない相棒へと問いかける。

 ともに『あの街』の奪還を誓い合った。

 だが今の俺では、それに並び立つことすらできない。

 ならば鍛えるしかない。俺自身の実力を引き上げるしかないのだ。 


 たとえ見込みがないと言われようと。

 今の俺には、前に進むしか道は残されていないのだから。

応援ありがとうございます。


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執筆の活力となりますので、よろしくお願いします。

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