↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/41

16話


「どうした? まるで幽鬼でも見たような反応だな」


「な、なぜ貴様が……。」


「青銅級でも、採取依頼ぐらいは片付けられる」


 愕然と俺を見つめるセンシアは、言葉を失っていた。

 俺は山で死ぬはずだったのだ。

 平然と戻ってきたのだから当然の反応だろう。

 センシルは額の汗を拭いながら、必死に平静を装って笑みを浮かべる。


「い、いえ、ずいぶんとお早いと思いましてな。村の者でも、場合によっては日を跨ぐこともありますゆえ」

 

「そういえば、天候には恵まれていたな。とは言えそれ以外の問題も特にはなかった。目的だったベリーレッドベリルの種子も、こうして無事に手に入れられた」


「それならばなによりです。今日はゆっくりと体を休められるとよいでしょう」


 早々に話を切り上げようとするセンシルを、俺は冷ややかな声で引き留めた。


「あぁ、ありがとう。ただひとつ聞きたいんだが、俺の同行者……ソフィールがどこにいるか知らないか? 探しても見つからないんだ。最初に取った宿にも戻っていない」


「……さて、どうでしょうな。頻繁に人が行き交いますので、ひとりの動向を把握してはおりませんので」


 センシルは目を泳がせながら、白々しい嘘を吐く。

 

 宿に戻ったが、ソフィールは留守にしていた。

 依頼主への報告が何よりも優先されるが、依頼主がいなければどうにもならない。

 そして宿の人間に聞いても、煮え切らない答えしか戻ってこなかった。


 そこで事情を知っているであろう村長の元を訪れたのだ。

 センシルの反応を見るに俺の推測は、当たったとみて間違いない。

 ここで追加で探りを入れる。


「そうか、なるほど。じゃあ、あの助けた子供にでも聞いてみるか。ダンジョンの中にあった諸々に関しても、詳しくな」


「あ、あの中を、覗いたのですか!?」


「冒険者ならダンジョンに入っても問題ないはずだろ? それとも見られちゃまずいものでもあったのか?」


「それは……。」


 隠す気があるのかないのか。

 ダンジョンの中には、大規模な禁忌植物の栽培所が設置されていた。

 その植物の名は『シターデの幻草』。


 一定量の魔力がある場所での未栽培できる植物だ。

 元々は冒険者向けの鎮痛薬として流通・販売されていた。

 だが強い依存性と幻覚作用から、徐々に規制が進み現在では王国内では禁止されている。

 あんなものを大量生産していることがバレれば、関係者は軒並み極刑は免れない。

 どうにか隠し通せないかと、必死に思考を巡らせているに違いない。


 『灰色の雪原の迷宮』は沈静化しているため、魔物の脅威は比較的少ない。

 大規模な栽培所を作って管理することも容易かっただろう。  

 その結果として、この村の異様な発展を遂げた。

 村長であるセンシルが、それを知らないわけがない。


「なにか思い出したかもしれないからな。もう一度だけ聞かせてくれ。ソフィールがどこに消えたのか、思い当たることはないか?」


 再びの問いに、返ってくるのは重苦しい沈黙。

 そこで不安を覚えた。


 自分達の裏の事情を握っているであろう相手に、答えられない。

 それはつまり、俺の『シターデの幻草』の情報よりも強い拘束力を持つ何かが、この村を支配しているということだ。

 ソフィールはその何かと接触し、連れ去られた可能性がある。

 焦燥感を振り払うように、剣の柄に手を伸ばした、その時。


「お兄さん!」


 切羽詰まった声と共に、裏手から先ほど治療したティルが駆け込んできた。

 息も絶え絶えなティルは、転がり込むように俺の元まで走ってきた。

 その治療されたばかりの体には、新しくできたであろう殴られたような痣がある。


「だ、大丈夫か!?」


「ボクは大丈夫だよ、体は治せるから。それよりお姉さんが、連れ去られちゃったんだ」


「……誰が、どこに連れて行ったかわかるか?」


「連れて行ったのは自警団だと思うけど、どこに連れていったのかまでは……。」


 ティルが告げ、それと同時に自警団と思われる男達が数人なだれ込んでくる。

 俺はゆっくりと立ち上がり、センシルを、そして自警団の男達を睨みつけた。


 一連の件は村ぐるみの画策だったに違いない。

 それを知った俺を、生かして返すわけがない。

 必要以上に知った相手を殺し、そのまま全てを再び闇に葬るつもりなのだろう。


 ソフィールの居場所を知るためにも。

 実力行使は止む無しだ。


「お前達は、最初からソフィールが狙いだったのか?」


「問答などもはや無意味よ。もうそこら中に我らが仲間が集まってきておる。もはや手遅れ、お前が生き残る術はない」


「それが答えか」


 もはや取り繕う必要がなくなったセンシルは、酷く醜い笑みを浮かべた。

 俺が剣を抜き放ち、戦闘を覚悟した瞬間。


「お前ら如きが、ソフィールを害することなど、できるはずがないだろう」


 ◆


 静かだが、絶対的な威圧感を伴う声が響き渡った。

 瞬間、扉が蹴り開けられる。

 そこから姿を現したのは、鈍色の鎧に身をまとった女騎士だった。


「オーレリア、なぜここに……。」


 いるはずのない人物を前に、思わず問いかける。

 酷い血の匂いをまとった彼女は、俺を一瞥したあと、室内の人間へと視線を向ける。

 その左腕には気絶したソフィールが抱えられており、右手には血に濡れた銀槍が握られていた。


「愚問だな。私はソフィールを害する者を駆除するために派遣されたのだ。この程度の問題、事前に対策を講じることなど造作もない」


 ソフィールを俺の傍へと下ろすと、オーレリアは槍を構え直して冷酷に周囲を見据えた。

 その鎧の隙間から、漏れ出るような光がバチバチと激しく音をかき鳴らす。 

 

 多数に無勢の村人達はしかし、オーレリアの圧を前に一歩も動けずにいた。

 元王国騎士ということは、罪人相手に……人間を殺める訓練に明け暮れていたことを示唆している。

 もちろん盗賊やそれに類する活動をしていたのであれば、人間との戦いにも慣れているはず。


 しかし王国騎士とは、そう言った者達を狩る為に結成された組織だ。

 一介の辺境の村に巣くう盗賊など、相手にはならない。 

 センシアが、その銀色の切っ先に恐れおののくように喚き散らす。


「このような狼藉、自警団が黙ってはいないぞ!」


「必要ない、すでに黙らせた。一匹残らず、あの有象無象は私が駆除してきたところだ」


「そんな馬鹿な!? る、ルベンは……孫はどうした!」


「耳が聞こえないのか? 全て駆除したといっただろ。お前の孫がいたのなら、もちろん始末したはずだ。この槍でな」


 オーレリアが事も無げに告げる。

 だがセンシルの方は発狂したように顔を赤黒く染め上げた。


「貴様ぁぁあああ!!」


 スキルの詳細はわからない。

 だが爆発的な速度で、センシルが飛び掛かった。

 初老の体ではとても耐えられない速度だ。

 捨て身と言っても過言ではない。


 だが目の前で、白い閃光が空間を引き裂いた。

 続いて、銀色の槍が低い振動音と共にセンシルを穿った。

 瞬きひとつの間に。


 顔面に槍が突き刺さったセンシルが、壁に縫い付けられる。

 その体はピクリとも動かない。

 即死だった。


 惨状を見て自警団の面々は、思わず声を漏らしていた。

 それは恐怖という感情が漏れ出した証だ。


「吠えるな、屑が。そんなことをしなくとも、全員同じところに送ってやる」


 オーレリアの冷たい声音だけが、その場を支配していた。


 ◆



「オーレリア、お前はなにをしたいんだ?」


 血濡れの女騎士に、思わず問い詰める。

 静まり返った宿場町の広間で、オーレリアは槍の血を払っていた。


 自警団とオーレリアの戦闘は一方的だが、苛烈を極めた。

 どうしても村の秘密を守りたい自警団と関係者が襲ってきたが、オーレリアは一蹴。

 ただその騒動を聞いた村人達や宿泊客の多くは逃げ出し、殆ど人の気配は残っていない。

  

 あまりの出来事に、俺も頭の整理が付いていなかった。

 だがオーレリアは悪びれる様子もなく告げる。


「すまない。今回の作戦は絶対に失敗できなかった。そのためお前と、ソフィールを……遺憾だが囮に使わせてもらった」


 村の外周部には自警団達の遺体が積みあがっている。

 そこには先ほど殺めたセンシルの遺体もあるはずだ。


 なにがオーレリアの目的かは知らない。

 俺自身も自衛のために人を殺めているため、そのこと自体を責める気はない。

 そもそも盗賊の討伐依頼などは、まれに冒険者に回ってくる。


 だがオーレリアは、この死体の山を作るのにソフィールを利用したのだ。

 お互いに姉妹のようだと、親友だと語った相手を囮として。

 その身が狙われていると知りながら。


「お兄さん?」


「大丈夫だ。だがオーレリア、事情は話してもらうぞ」


 ティルが不安そうに俺の服の裾を掴んだ。

 俺は怒りを抑え込みながら、オーレリアに選択を迫った。


「簡単な話だ。この村はとある盗賊団との繋がりがあると考えられていた。その盗賊団を潰すにはその繋がりを探り、実際に証拠をつかむ必要がある。いや、あった」


「そんな目的のためにソフィールを囮に使ったのか!? お前達は親友だと言ってただろうが!」


 冒険者は危険と常に隣りあわせだ。

 命の駆け引きをしているのだから当然と言える。

  

 だがソフィールは違う。

 ただの露天商だった彼女を、こんな目に合わせるやり方は納得できなかった。

 それも、お互いに家族のように思っている相手を利用するような手口なら、なおさらだ。


「あぁ、そうだな。まったくもって、返す言葉もない」


 オーレリアは目を伏せ、わずかに苦渋の表情を見せた。

 その時、近くの荷馬車で微かな衣擦れの音がした。

 ふと視線を向けると、やはりと言うべきか。

 ソフィールが不安げに、俺達を眺めていた。


「なにが、起きたの?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。