11話
「お、オーレリア。お前、依頼に出かけたんじゃ……」
「あぁ、昨日の内に全て終わらせて戻ってきた。あの程度の魔物など、相手ではない。それで、これから先は私が相手をするが、どうする?」
長身の女騎士は短く揃えた金髪を揺らしながら、こちらへ歩み寄る。
身に纏うは鈍色のフルプレートで、その高い背丈と相まってかなりの威圧感がある。
加えてその首元に輝くのは白銀級のプレートだ。
それらすべてが、彼女の只者ではない実力を物語っている。
ゆっくりと近づくオーレリアと呼ばれた人物が、背に負った槍へと手を伸ばす。
ただそれだけ追い詰められた男達のひとりが、虚勢を張るように唾を吐き捨てた。
「この街で俺に喧嘩を売ろうってんだろ、いいぜ。買ってやるよ、オーレリア」
「言葉には気を付けるべきだな、ケルック。お前は自分で喧嘩を買う気はない。自分の父親に言いつけるのが関の山だろう」
「だったらどうした? 今さら後悔したって遅い。ギルドマスターに目をつけられりゃ、冒険者としてはおしまいだ。たとえお前だろうとな」
見ればその男が集団のリーダーなのだろう。
一歩踏み込み、オーレリアへと食って掛かる。
黒鉄級のプレートをぶら下げながらも、かなり上等な装備で身を固めている。
だがオーレリアの方はと言えば、小さく口角を上げるにとどまっていた。
「なに笑ってやがる、てめぇ!」
「いやなに、あまりに滑稽でな。ケルック、まさかメル・クラウスの流儀では父親に泣きつくのが喧嘩なのか?」
「きゃんきゃん吠えるなよ。いきがってるがお前も所詮は、王国騎士団から逃げ出してきた負け犬の分際だろうが」
ケルックがオーレリアの胸元を指し示す。
そこには大部分が削られたであろう紋章の跡が残っていた。
つまりケルックの言葉は――オーレリアが王国騎士であったことは事実なのだろう。
本人もまた、その指摘を否定することはなかった。
その代わりにケルックの目の前まで、堂々と歩み寄る。
「確かに、私はいまや冒険者の身だ。だがな、最初に言っておく」
オーレリアの纏う空気が豹変する。
一瞬にして冷たく、そして鋭く研ぎ澄まされた。
「抜けだしたということはつまり、騎士団に入団できるだけの実力があったということだ。お前達を叩きのめすのであれば、造作もない。試してみるか?」
「……っ」
王国騎士とは冒険者とは違い、人間を取り締まる機関だ。
冒険者が魔物との戦いに特化しているのならば、王国騎士は人間との戦いに特化した集団である。
そんな相手と真正面から戦えば、たとえ冒険者と言えどもただでは済まない。
圧倒的なプレッシャーの前に、男たちは完全に気圧されていた。
やがて彼らは舌打ちをすると、短剣を乱暴に鞘に収めた。
ケルックもオーレリアの横を素通りし、路地の向こうへと消えていく。
そんな剣呑な空気が霧散した頃。
俺の影に隠れていた少女が飛び出した。
「オーレリア!」
難を逃れた少女――ソフィールが、安堵の涙を浮かべてオーレリアに駆け寄った。
「怪我はなかったか、ソフィール。それにそちらの冒険者も、感謝する」
「やめてくれよ。まぁ、巻き込まれたのは事実だが……すぐに逃げなかった俺にも責任はある」
構えっぱなしだった剣を下ろし、鞘に納める。
実際、彼女が現れなければ面倒な乱戦になっていたところだ。
それも黒鉄級五人相手では、一方的にぼこぼこにされていたに違いない。
元は巻き込まれたとはいえ、窮地を救われたことに変わりはなかった。
だがオーレリアは大袈裟な仕草で、頭を深く下げ始める。
「いや、ソフィールを助けてくれたのだから、礼を言わせてくれ」
「そういえば、お名前を聞いてませんでしたね、冒険者さん。私はソフィール、近くで露天商をしています」
ソフィールと名乗った少女は、花咲くような笑みを浮かべた。
栗色の長い髪の毛、柔和な笑みを浮かべる顔は思わず目を引くほど整っている。
見たところ動きやすい恰好をしているが、どこか気品のようなものを感じさせる。
立ち振る舞いか、それとも言葉遣いがそう感じさせるのか。
ソフィールに続いてオーレリアが応える。
「オーレリアだ。見ての通り、今は冒険者をやっている」
「俺はジノア。同じく冒険者だが……いや、同じと言ったら失礼か」
俺の首元に下がっているのは青銅級のプレート。
対してオーレリアのプレートは白銀級だ。
その輝きの違いはそのまま実力差でもある。
ただソフィールが不思議そうに、俺達を見比べて小首をかしげた。
「失礼、ってどういうことなんですか?」
「青銅級の冒険者は主に採取の依頼を受けている。冒険者と一般人の間のような立ち位置だが、そのおかげで街の産業も支えられている側面もある。そこまで卑下する必要もないと思うが」
流石のフォローをオーレリアがいれるが、それはあくまで一般論だ。
事実として俺は魔物の討伐依頼も大きく制限されている最下級でしかない。
ただそのやり取りを聞いてたソフィールの目の色が、不意に変わった。
「採取の仕事をって……ジノアさん、この後に時間はありますか!?」
「あ、あぁ、一応は」
「なら是非ともお話ししたいことがあるんです!」




