第九章 改装された私の部屋で、三十五歳の男が落ち着かなくなった話
1
午後四時、部屋のドアをノックする音が響いた。
「失礼ですが佐藤悠真様でしょうか。家具納品の者です。設置作業のため、中へ入らせていただいてもよろしいでしょうか」
私は一瞬きょっとし、今朝詩織がこの部屋を大掛かりに改装しようとしていたことを思い出した。これほど早く実行されるとは思わなかった。玄関にいる作業員たちに難色を示す理由もない。彼らはただ仕事をしているだけなので、脇を開けて中へ通した。
一時間ほど経ち、運搬スタッフたちは帰っていった。部屋いっぱいに新しい家具の独特な香りが漂っている。私は布団の上に座り、ふっくらとした新しい布団に手を触れ、見慣れぬ様相に変わった部屋にただ戸惑っていた。
そっとドアが開かれた。
神崎宗一郎が玄関に立ち、スーパーの紙袋を手に持っている。中には弁当と飲み物が入っていた。いつもきちんと整えられている髪は今日は乱れており、目の下には夜更かしによるくまが濃く浮かんでいる。彼の視線が部屋中を巡り、表情が硬く固まり、まるで踏み入れるべきではない現代アート展に迷い込んだようだった。
「ドアが開いていたから、君はきっと……邪魔だったか」言葉を途切らせ、部屋に入ることさえ忘れてしまった。
「いいえ、神崎さん、どうぞお入りください」私は自信のない口調で答えた。
2
部屋の激変ぶりに彼は途方に暮れていた。
耳障りに鳴っていた蛍光灯は撤去され、代わりにシンプルなデザインの暖色フロアランプが置かれている。
黄ばんだ古い布団も姿を消し、濃いグレーの柔らかい寝具が敷かれていた。
そして私は詩織が届けてくれた部屋着を着て、角ばった無垢材のテーブルの前に座っている。
宗一郎は自分の革靴をちらりと見下ろし、かすかに眉を寄せた。それ以上前に進まず、玄関の古い床材の上に立ったまま、彼女によって清められたこの部屋を汚してしまうのを恐れているようだった。
3
「たまたま近くに用事があったから、この時間ならまだ食事をしていないだろうと思い、食べ物を持ってきた」
彼は紙袋をテーブルの端に置き、渇いた声で話しかける。「ここでの暮らしは慣れるだろうか」
フロアランプを眺め、続いて私の服を指して問いかける。
「これらは全部……」
「彼女が用意してくれたものです」
私はうつむき、彼の顔を見られず、後ろめたさなのかそれ以外の気持ちなのか自分でも分からなかった。
宗一郎は黙り込んだ。部屋中を見渡すと、ゴミも乱雑な様子もなく、かつてここで生きていた佐藤悠真の痕跡はすっかり消えている。ただ高価な調度品が並び、その中に同じく完璧に飾られた少年が座っているだけだ。
「佐藤」
落胆を滲ませた低い声が響く。「元の場所に戻ろう。この部屋はどこか不自然だ。君は精巧な箱に閉じ込められてしまっているように見える」
4
私は顔を上げ、目の前の三十五歳の男を見つめた。
彼の顔には疲労と真心が溢れている。だが彼には、詩織が与えてくれるような完璧な居心地を与えることはできない。
「ここは……大丈夫です」
私は嘘をつき、手のひらを強く握りしめて青白くなった。
宗一郎の瞳から光が失われていく。照明に手を伸ばしかけたがすぐ引っ込め、ただ紙袋をそっと手前へ押しやった。
「分かった」
背を向け、重たい口調で言う。「それでは帰る。弁当は忘れず温めて食べろ」
玄関まで行き足を止め、背中を向けたまま続けた。
「もし彼女のことで嫌な思いをしたら、いつでも電話しろ。どこにいようと、必ず迎えに行く」
5
ドアが閉まった。
部屋には私と高価な家具だけが残された。
テーブルのスーパーの弁当を見ると、プラスチック包装に細かい水滴がついており、それは何気ない日常の温もりの証だった。周りを見渡せば冷たい雰囲気の家具ばかりで、気を遣うことも手入れをする必要もない空間。
宗一郎は私に自由を与えてくれた。
しかし詩織は、塵一つ許されない完璧な世界を私に与えた。
私は冷たいテーブルの表面に手を伸ばし触れる。
一体どちらが、私が居るべき場所なのだろう。
どちらを選ぶのが、正しい道なのだろう。




