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星姫 〜天の星、地の人〜  作者: 猫様のしもべ
第3章 “星姫”の成せる限り
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第28話 祈りと共に訪れた咆哮

夜の天焰(ティエンヤン)宮は、星空の下でさらに輝いていた。


無数の灯籠が、紅の回廊を照らしている。

金細工の施された壁画からは、龍が飛び出してきそうな気迫を感じさせる。

揺らめく炎は、まるで不死鳥の羽ばたきのようだった。


案内役の侍女に導かれ、回廊の奥に辿り着く。

眼前には、朱色に塗り固められた巨大な扉。

音を立てながら、ゆっくりと開かれる。


今宵、星焰(シンヤン)連邦国が催す歓迎の宴。

ラニアケア皇国からの客を、主賓として招く。


サフィールは、宴会の場に足を踏み入れた。


横に広い宴会場には、幾人もが待機していた。

真紅の円卓が、金の装飾を抱えて輝いていた。

高い天井には、龍を模した飾りが吊るされている。

水面に映る星のように、幾重にも灯りが揺れていた。


力強い色に反するような、穏やかな音楽が流れる。

どこか幻想的で、緊張を溶かすような音色。


サフィールは、最奥の右隣にある円卓へ向かう。


ふと、視線を会場に巡らせた。

緋色の揺れる髪を、思わず探していた。

けれど、どこにも姿が見当たらない。


玉婷(ユーティン)さんは来ないのかな・・・?)


少しして、大扉が開く。

奥から、ラニアケア皇王と星焰(シンヤン)国家主席が並んで入る。


最奥の円卓まで歩くと、国家主席は壇上に上がる。


「本日は星焰(シンヤン)連邦国にお越しくださり、誠にありがとうございます」


丁寧な一言から始まり、演説は短く終わった。


「それでは歴史的瞬間を祝い、乾杯」

「乾杯!」


グラスを掲げ、声を上げる。

そして並々と注がれた茶を、飲み干した。


星焰(シンヤン)連邦国の、伝統的な宴会の作法だった。


続けて、フルコース料理が絶え間なく運び込まれる。

円卓の上に、所狭しと白磁の大皿を並べてゆく。

あえて食べ切れない量を出すのも、また伝統文化だ。


宴会料理は、5種類の前菜盛り合わせに始まる。


紅色の蟹が、丸ごと乗せられたフカヒレスープ。

まるで黄金色の海を泳ぐ、サメのように揺れていた。


一際大きな皿が入ってきたかと思えば、巨大な蒸し魚。


真紅の海老料理に、艶やかなアワビの煮込み。

香辛料の香りだけで、もう満腹になりそうだった。


それでもまだ続き、小籠包や翡翠餃子、春巻きも来る。


最後には、フルーツ入り杏仁豆腐と特製のデザート。

円卓はもう、箸の置き場もないほどいっぱいだった。


(・・・すっごく、豪勢な食事だな)


手をつけられずにいると、音楽が止まった。


舞台を見上げると、10人ほどの舞姫が現れる。

ひらりと、とても長い布が静かに浮いた。


途端に、華やかな音楽が流れ始める。

伝統的な楽器を使い、胸に響くような音色を奏でる。

それに合わせ、舞姫たちは布を操る。


星焰(シンヤン)連邦国の伝統舞踏、彩綾舞だ。


会場の灯りが、陽光に隠れる星のように消えていく。

まるで音が、夜空に吸い込まれるようだった。


「・・・綺麗だね」


気づけば、目を奪われていた。


赤、金、白など、鮮やかな色彩の布。

夜空を泳ぐように、手を振るたび翻る。


彩綾舞には、特別な技法は用いないと聞いた。

ふるなげるちぎるからめるまわる

そういった基本的な動作のみで、行われるもの。


それでも、このような美しさを保てるのは、舞姫たちの技量あってこそなのだろう。


腕を払うたび、布が閃いて弧を描く。

幾重にもなるひだが、空中で交差していく。

流れるような軌跡と共に、ドレスが煌めく。


観客たちから、感嘆の吐息が溢れる。


「すごいですね・・・」


ノエルも魅入られて、声をこぼしていた。


やがて、演奏が高まってゆく。

舞姫たちが、一斉に布を横へ広げた。


咲き誇るような色彩が、壇上で揺らめく。


そして。


すべての音が消えた。

灯りが消え、舞台の中央にひとつの光が落ちる。


舞姫たちの布が、舞台袖へと退いてゆく。


まるで焰天園のように、別世界に来たかのよう。

先程までの華やかさが消え、神秘的な空気に包まれる。


色彩の間から、純白と紅色が姿を表す。


透き通る羽衣を纏った、ひとりの少女。

布より柔らかい髪が、光を受けて煌めいた。

羽衣は、風もないのにふわりと浮かぶ。


「ーー星に捧ぐ、星煌舞踏」


とても静かな声だった。


けれど、思わず息を呑むような強さ。

微かな笛音が、会場を覆うように響く。


玉婷(ユーティン)は、ゆっくりと腕を掲げる。


流れる袖、靡いた髪、揺らめく羽衣。

ひとつ、ひとつの動きが、すべて神秘的。

まるで、天女が地に舞い降りたようなーー。


(・・・いや、祈っているんだ)


サフィールは、なぜかそう感じた。


誰のためなのか。

誰に捧げているのか。


けれど、祈りの先にいる存在を知っている。


玉婷(ユーティン)の表情は、まるで迷っているようだった。

諦めようとして、諦めきれないように。

いくつもの(しがらみ)の中で、彷徨うように。


胸の奥に、昼間の言葉が浮かんだ。

年相応の寂しさを見せた、横顔と共に。


『とても大切な子がいたんです』


純白の鈴蘭と、羽衣が折り重なる。

夜空のような静寂と、炎のように瞬く髪。

今にも、雲に隠れてしまいそうな気がした。


ふいに、黄金色の瞳が揺らいだ。


楽器の音色が、少しずつ遠ざかっていく。

天から注ぐような光が、範囲を狭めていく。


誰もが言葉を失い、ただ見惚れた。


羽衣がゆっくりと、宙を流れる。

玉婷(ユーティン)は静かに、舞台へと膝をついた。


そしてーー

音楽が止まり、静寂が包み込む。


誰しもが、息を止めてしまった。


玉婷(ユーティン)は、そっと顔を上げる。

純白の袖が翻り、細い指先が天へ向いた。


その瞬間。


ーーグォォォォォッ!!


まるで大地が吠えたような咆哮が、夜空を裂いた。

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