第17話 剣を取る、その前に
〜前回のあらすじ〜
正式にセレスティア家の娘となった、セフィリア。
ソフィにも紹介し、これから輪に溶け込めるだろう。
そんな中、マーラプア学園の一大行事が訪れる。
特別は、手の届かない存在ーー。
ーー視線を感じる。
マナはいつものように、学園へ歩んでいた。
新緑の芽吹く木が並び、陽の光がとても暖かい。
そんな小春日和とも言える陽気の中で。
期待とも、品定めとも取れるような視線が降り注ぐ。
学園までの道のりには、多くの生徒がいる。
マーラプア生に限らず、他校の生徒も。
だが彼らの視線は、マナに向けられている。
(やっぱり、明日のせいかな・・・)
マナは思い当たることがあった。
とりあえず、学園へ進む。
◯
学園に着くと、視線の数は増えたように感じる。
1年特級クラスの扉を開けると、ソフィが駆け寄る。
「マナ!おはよう、そして可愛い!」
「おはよう、ソフィ」
「ふふふ、可愛い〜」
フィーユも気づき、そばに来た。
今日はどこか、いつもより静かだ。
マナは席に荷物を置くと、ソフィに言う。
「なんか今日、すごい視線を感じるんだよね」
「むっ、ストーカーか・・・って普段なら言うんだけど今日は違うね」
「普段から違うと思う・・・。やっぱり明日かな?」
「そうだね。だって明日は、剣術大会だもん!」
剣術大会ーー
それは、マーラプア学園の一大行事。
何をするかは、名前のまんま。
その時、扉がガラッと音を立てて、開いた。
担任の登場だ。
ソフィたちは急いで席に座る。
「おはようございます」
みんな挨拶し、先生が説明を始める。
「次に、明日の剣術大会についてです」
剣を持ち、強さを競い、王者を狙う。
他校の生徒であれど、一度は耳にする大会だ。
教室の空気が、少し張り詰める。
先生は言葉を続けた。
「形式は例年通りになります。普段は10人のサバイバル戦から始まるトーナメントです」
先生はチョークを手に取り、黒板に円を描く。
だが、一息ついて、言った。
「ところが、今年は違います」
教室で小さなざわめきが起こる。
みんな、予想はしていた。
「皆さんご存知の通り、球技大会での一件で、中級クラスの生徒が1人自宅謹慎になりました」
顔を曇らせる先生と、生徒たち。
球技大会と剣術大会は、どちらも似ている。
『才能のないやつは、存在することさえ許されないんだ!』
レイの、兄としての言葉が、蘇った。
剣術大会ほど、才能が露わになる行事はそう多くないだろう。
暗い雰囲気を破るように、1人が声を上げた。
「先生、つまりは学年対戦なのに、199人しか人がいないってことですよね?」
「はい、その通りです」
「199って素数やん・・・。どうするんですか?」
生徒の質問に、先生はチョークを持ち直す。
数学の先生ゆえ、少し語りたそうな表情。
だがそれを抑え、説明を始める。
「今年は、11人対戦から始めます」
「え、つまり・・・」
「そう、初めから1人外します」
先生の言葉に、教室がざわめく。
ここにいる生徒たちも、聞いたことのない形式。
マナは机の上で、手を重ねる。
その指先は、少し冷えていた。
先生は、説明を続けた。
「そして、外される1人を今決めます。教員の会議でも、特級クラスから外すのが妥当だと決まりました」
みんなの視線が、揺らめく。
この中で最も“特別枠”に相応しい者。
生徒の考えは、一致していた。
先生はその様子を見て、言う。
「やっぱり、みんな同じ考えですね」
マナは周りを少し見まわした。
ソフィは何かを考え込んでいた。
フィーユだけ、マナから目を逸らした。
先生の一言が、落とされる。
「マナ・セレスティアさん。異論はありませんか?」
「・・・はい」
どこか胸に、小さな痛みを感じた。
言葉には表せない、微かな想いだった。
他の生徒も、ソフィも、サフィールも。
何も言わず、ただ受け入れた。
そうなるだろう、とみんな分かっていたように。
「では、マナさんは予選を免除します。そして準決勝で初出場とします」
先生の言葉もまた、淡々としていた。
まるで“当たり前”かのようだった。
その一言でHRは終わり、授業となった。
◯
昼休みになり、ソフィとフィーユが席に来た。
いつものように、食堂で昼ごはんを食べる。
だがやはり、数多くの視線からは逃れられない。
「は〜、お腹すいた〜」
ソフィが豪華な弁当箱を開けながら、気の抜けた声を出す。
フィーユは相変わらず、サンドイッチとフルーツ。
マナは言う。
「ソフィ、ずいぶん豪華なお弁当だね」
「明日はもっと豪華だよ〜。マナも、フィーユも食べてね!」
「ありがとう、食べれたらね」
「あ、確かにマナは特別枠だから普通の席じゃないかもね」
「うん・・・」
周りの席でも、噂する声が聞こえる。
1年だけではなく、他の学年にも広がってるらしい。
マナは少し、セフィリアを思い浮かべた。
もし彼女がいたら、どれだけ特別か。
セフィリアなら、特別枠であることを誇るだろうか。
そう、ふと考えた。
「なんか特別枠って言われると、不思議だね」
フィーユがそう、つぶやいた。
マナは驚くように目を見開き、言う。
「不思議?」
「うん。なんか、マナがすごく遠い存在みたい」
「・・・確かに、そうかもね」
「・・・お姉様よりも、ずっと、遠くに感じる」
フィーユはそう、静かに言った。
“お姉様”という言葉を聞いたのは、初めてかもしれない。
マナはどこか、心に空白のようなものを感じた。
(星姫は、誰よりも遠い・・・)
こんなに近くにいるのに、ただ遠かった。
まるで、空に浮かぶ星のように。
近くに見えて、1番遠いものだった。
ソフィは何か言いかけて、ひとつ息をついた。
ほんの少しの沈黙のあと、ソフィが笑顔を作る。
「でもさ、マナはここにいるもんね!」
「うん、そうだね」
「話変えよっか。そういえば、そろそろ星祭りだね」
ソフィが丁寧な前置きと共に、話を変える。
マナは少し、肩が軽くなった気がした。
そして言う。
「そうだったね。星に願いを捧げるお祭りだっけ」
「うん!同時に、サフィール殿下の誕生日でもあるんだよ」
「あ、確かに。おめでたい日だね」
「それ、どっちの意味で?」
マナの含みある言葉。
それに対し、そう質問したのは、サフィールだ。
マナは少しびっくりしたが、答える。
「ずいぶんいい日に生まれたんですね」
「やっぱり。素直に僕の誕生日を祝いそうにないなと思いましたよ」
「よくお分かりで」
マナとサフィールの会話に、ノエルは口を挟めず悩んでいる。
ソフィは即座にカメラを構え、音もなく撮る。
「セレスティアさん、明日は“全力”でお願いします」
「準決勝まで勝ち残れていたら、ですけど」
「皇子の名は伊達ではありません〜」
ほんの短い会話だった。
それでもなぜか、心が温まるのが分かった。
昼ごはんのあとは、また授業を受けた。
剣術大会前ということもあってか、先生たちは少し忙しそうに見えた。
◯
マナは家路を歩み、家まで帰り着いた。
「ただいま」
「おかえり、マナ!」
元気に出迎えるのは、セフィリア。
お菓子を頬張っているらしい。
マナは思わず笑いながら、言う。
「セフィリア、もうお菓子食べてるの?」
「だって3時過ぎたもんね。あとはお菓子があるのが悪い!」
嬉しそうにそう言うセフィリア。
マナはリビングに荷物を置き、教科書を開く。
今日は宿題が多いので、早めに終わらせるつもり。
その時、それをセフィリアが覗き込んだ。
「マナ、それ何?」
「教科書だよ。見たことないの?」
「いろいろ書いてあるね。読んでみていい?」
「どうぞ」
マナは教科書を、セフィリアに渡す。
それをじっくり読むセフィリア。
勉強するのは、初めてなのかもしれない。
教科書を読むセフィリアの隣で、少し宿題を進めていた。
その時、セフィリアが教科書をパタンと閉じた。
「・・・うん、覚えた」
「え?もう・・・?」
「ふふん。ボクにかかれば、楽勝だよ!」
セフィリアは誇らしげに言ってみせる。
マナは少し信じられず、教科書を見る。
マナにとっては難しい、化学の教科書。
セフィリアは、これが理解できたのだろうか。
「私、これ苦手なんだ」
マナが教科書の一文を、指で示す。
セフィリアはチラッと覗いた。
「化学反応式ってやつ?名前長いよね」
「・・・覚えればいいって言われるけど、覚えられないんだよね。なんかイメージできなくて」
「なら、お菓子にしちゃおう!」
「お菓子・・・?」
マナはきょとんと首を傾げた。
セフィリアは塩味のポテトチップスを1枚取る。
「これが水!なら、水素がじゃがいもで、酸素が塩!数を変えてくっつければ、別のものになるんだよ」
「・・・すごい、先生より分かりやすいね」
「でしょ。ほんとは全然違うけど、雑でも後から理解できるんだよ!」
セフィリアは笑顔でそう言うと、パクッと食べた。
そしてもぐもぐ噛みながら、言う。
「分からなくても、イメージしちゃえ!」
「それが難しいんだよ」
「マナなら難しくてもできるよ。ボクがいるから!」
「・・・ふふっ。そうだね」
マナは微笑み、セフィリアのポテチを取る。
そして2人で食べながら、勉強を続けた。
マナは不思議と胸の奥が軽くなった。
特別を受け入れているセフィリア。
それがとても、美しいものに見えた。
(もし、星姫であることを受け入れられたらーー)
明日はきっと、その第一歩になる。
今回は、一部の生徒たちが定める、暗黙の了解を紹介します。
【サフィール殿下観察時の、ポイント】
1.ノエル様との会話は見逃すな!
子供っぽさが表れてて、ギャップ萌え最強。
ただし失神するとバレるので、ほどほどに。
2.女子との会話は見ないように!
特にマナ・セレスティアさんとの会話。
嫉妬するので、自らの心を守りたまえ。
3.無理に追いかけるな!
皇子相手だ、捕まるぞ。
【公爵令嬢ソフィさんと仲良くなる方法】
1.基本的にはマナ・セレスティアさんを褒めよう!
なんなら写真を持っていくと、かなり良い。
2.絶対にマナさんを貶さないように!
内容によっては修復不可能レベルになる。
3.あまり問い詰めるな!
あくまでも、公爵令嬢だ。
謎すぎますね、さすがはマーラプア。
けれどこれらは、学園の平和な一面を表しています。
とても、楽しい生活は保証されるでしょう。
星への願いが、叶いますように。




