episode 04|現実
祠を離れ、森の小道を歩き始めてからもしばらく
俺の手は強ばったままだった。
「ね、ねぇレイ……っ!」
隣で歩くフィリアの声が弾む。
抑えきれない喜びが、言葉の端々からこぼれている。
「さっきの……あれ、本当に“二刀流”だったんだよね?
ね、ね、レイの夢だよ? 十三年間ずっと追いかけてきたやつだよ?」
まるで自分の夢が叶ったみたいなテンションだ。
いや、俺以上に喜んでるまである。
「……まあ、うん。間違いないと思う」
「もうっ、“間違いないと思う”じゃなくて!
すっごいことなんだよ!? わかってる!?」
フィリアが肩をつついてくる。
弾む声と同じくらい、歩幅まで軽くなっていた。
「……お前、テンション上がりすぎじゃないか?」
「いやいや、そんなことないって!
むしろレイが落ち着きすぎ!二刀流だよ?嬉しくないの?」
「嬉しいよ。もちろん嬉しい。
ただ……なんだろうな、まだ気持ちが追いついてこないというか」
偶然通りかかった先に、偶然現れた祠があって、
触れたら偶然スキルカードが出てきて、
しかもその中身が――よりにもよって二刀流だった、なんて。
……そんな急展開を前に、「はい喜んで!」なんて切り替えられるわけがない。
「あー……うん、わかるよ。
嬉しすぎるとさ、逆に“これ本当に現実?”って思っちゃうよね。
夢か間違いか、どっちかなんじゃないかって。」
「そう!そんな感じ!」
俺の心境をズバリ言い当てたフィリアに対し、指をさして肯定する。
「じゃあさ、実感が湧いてきたら……きっとレイ、すっごく喜ぶんだよね?」
「いや、そんな大げさには――」
「ふふっ。絶対はしゃぐと思うけどなぁ。
ほら、昔だって屋台のクジで一等出たとき、
最初は真顔で景品受け取ってたけど……」
「黙れ。あれは偶然だ」
「家に帰った瞬間――喜び爆発して壁走ってたじゃん!」
「や、やめろそれは忘れろ!!」
思いっきり頭を抱える。
よりによって、その黒歴史を引っ張り出すか……!
フィリアは楽しそうに肩を揺らした。
「つまり今のレイは“真顔で景品受け取ってる段階”なんだよ。
後から実感が出てきたら、また家中走り回るんじゃない?」
「走り回らねぇよ!
……たぶん。いや、走らない。絶対走らないからな!」
言えば言うほど説得力がなくなっていくのを、自分でも感じる。
しかも横を見ると、フィリアが“はいはい、どうかな〜?”
みたいな目でこちらを見ている。
「おい、なんだその顔。ほんっとうに走らないからな!?」
「うんうん、レイは“落ち着いてるもんね〜”」
「やめろ、その言い方が一番ムカつく!」
フィリアの笑い声が森に小さく響く。
その音に、張り詰めていた胸の奥が少しだけほぐれていくのを感じた。
「まあ……しばらくしたら、実感も湧いてくるだろ」
「うん。レイが“今だ”って思えるまで、急がなくていいよ」
そう言って、フィリアが俺の袖をそっとつまんだ。
その手は小さくて、温かかった。
◆ ◆ ◆
「イイイイイイィィッヤッホオオオオオオォォウウウウ!!!
俺は……俺は本当に!!!
二刀流を……習得したんだあああああああああ!!!!」
夜の酒場に、俺の絶叫が炸裂した。
「……落ち着きとは?」
「……ね?」
店主とフィリア(なぜか来てた)の視線は、凍てつくほど冷たかった。




