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episode 04|現実

「嘘だろ……」



 二刀流の文字が刻まれたスキルカードを手にし、呆然と立ち尽くす。あまりの出来事に、脳が上手く働かない。



「レイ?どうしたの?」



 そんな様子の俺を見て、フィリアがひょいと顔を覗かせてくる。普段の俺ならそのしぐさにドキッとしただろうが、今の俺にそんな余裕はなく、カードを見つめたまま棒立ちをすることしかできなかった。



「もー!レイってば!聞いてる!?」



 それを見かねたのか、フィリアは俺の頬を両手で掴み、引っ張り上げる。



「痛っだだだだだ!!??」



 あまりの痛さに現実に引き戻される。俺の様子が変だからフィリアが頬をつねったんだろうが、それにしては強すぎないか!?このままじゃ冗談抜きに頬が引きちぎれるぞ!?



「ストッふストッふ!分かっはから!」



 頬をつねられ、口を自由に動かせない中、なんとか言葉にすると



「ん」



 パッと手を放すフィリア。自分の顔に頬が付いているのか怪しかったため、頬をさすり、確認する。どうやら頬はちぎれてなかったらしい。



「お前いきなり何すんだよ!頬がちぎれたかと思ったわ!」



 俺は間違いなく1mmは伸びたであろう頬をさすりながらフィリアに訴える。



「ほっぺはそんな簡単にちぎれないよ、レイ。」



 何を言ってるんだお前?と言わんばかりに首を傾げ、こちらを見つめてくるフィリア。比喩というものを知らんのかこの女は。



「わーってるよ!そんなことは!」



 相変わらずどこまで本気で言ってるのか分からないやつだ。もし本気でそう思ってるのであれば、今の発言は比喩だ、と伝えるべきなのだろうが、もう面倒なのでスルーすることにした。



「それで、様子が変だったけど何かあったの?」



 フィリアのその言葉で、俺は忘れかけていたスキルカードの存在を再認識する。そしてフィリアにスキルカードのことを共有しようとする。



「フィリア、そのこれ、…っ」



 しかし、声が上手く出ない。小さく、震えを帯びた声を出すのが精一杯だった。



「大丈夫。落ち着いて。ゆっくりでいいから。」



 そう言いながら、フィリアは俺の手を両手でぎゅっと包む。フィリアの体温が手を通して伝わってくる。段々と落ち着きを取り戻し、震えも収まってきた。



「もう大丈夫だ。ありがとう。」



「うん。」



 そう伝えるとフィリアが手を放す。先ほどまで俺の頬をつねっていた手と同じとは思えない、温かくて、優しい手だった。俺はその手に少し名残惜しさを覚えた。



「すうぅ………はぁぁ………」



 俺は静かに息を吸い込み、静かに息を吐く。そうして気持ちを整える。その間フィリアは何も言わずに見守ってくれていた。



「…これを見てほしい。」



 深呼吸を終え、決心がついた俺はフィリアに二刀流のスキルカードを見せる。



「これって…二刀流のスキルカード!?」



「ああ。」



「存在してたんだ…っていうかやったじゃんレイ!!」



 そう言って再び俺の手を取るフィリア。まるで自分のことのように騒ぎはしゃぐフィリア。



「お前、はしゃぎすぎだって…」



「いやいや、そんなことないって!むしろレイが落ち着きすぎ!二刀流だよ?嬉しくないの?」



「いや、嬉しいよ。嬉しいに決まってる。ただ実感が沸かないというか、嬉しさよりも困惑が勝つというか…」



 偶然見つけた宝箱を開けたら、偶然スキルカードが入ってて、それが偶然二刀流のスキルカードだったというのだ。急に喜べと言うほうが無理な話だ。



「あー、まぁ。気持ちは分からなくはないよ。嬉しさってある一定のライン超えちゃうと、夢なんじゃないか、何かの間違いなんじゃないかって疑っちゃうよね。」



「そう!そんな感じ!」



 俺の心境をズバリ言い当てたフィリアに対し、指をさして肯定する。



「でも、夢じゃないことは確認済みでしょ?」



 そう言って、フィリアは自分の頬を人差し指で、ぽんっと突く。



「…そうだな。」



 まだ少し痛む頬をさすりながら、俺は肯定する。おかげで夢ではないということが分かったが、やはりあれはやりすぎだと再認識した。



「それに、時間が経って落ち着いてきたら段々現実味を帯びてくるよ。」



「そういうもんか。」



 時間が解決してくれる。そういって、フィリアは笑顔を向ける。なぜだろうか、フィリアがそう言うのであればそうなんだろうと、根拠のない納得感が生まれる。



「でもそうなったら大変かもね。」



「どういう意味だ?」



 フィリアの言った意味が分からず、その真意を探る。



「だって本来二刀流を習得したら、レイってすっごく喜ぶはずでしょ?」



「そりゃあ、10年以上追い続けてきたからな。」



「なのに今はこうして落ち着いてる。なら、二刀流を習得した実感が沸いてきたら、反動ですっごく喜ぶんじゃないかな?それこそ狂ったように。」



「バカ言え。そりゃ喜ぶには喜ぶだろうが、それは言いすぎだ。これでも自制心には自信がある。」



 なんせ俺は、屋台のくじ引きの1等賞を真顔で受け取った男だからな。フィリアとは違う。



「ふーん。まぁその様子だとしばらく時間かかりそうだし、とりあえずは大丈夫そうだね。」



 そういって、俺たちはメウスト森林を後にした。











「イイイイイィィッッッヤッホオオオウウウウゥゥゥ!!!!!!俺様はアアァァアア!!二刀流をおおおぉうううぅぅ、習得したんだアアアァァうううぅぅぅ!!!!!」



 その日の夜、酒場での出来事である。






 

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