今日も悶々
「······おはようございます。直角さん」
総務課の島流し的な部署の室内で、丸平他与太は唯一の同僚に小声で挨拶をする。他人との距離間をどう取っていいかまるで分からない他与太にとって、朝の挨拶をすればそれで今日1日人間関係の半分は終わったも同然だった。
後はひたすら口を貝のように閉じ1日をやり過ごす。それが他与太の社会人スタイルだ。否。スタイルだった。
他与太はその唯一の同僚に恋しており、可能なら朝から晩まで会話をしたい気持ちがあったが、自分のスペックではそれは不可能と骨の髄まで自覚していたので想いを押し殺していた。
「おはようございます。丸平さん」
他与太に素っ気ない挨拶を返した直角直子は、姿勢良く椅子に座りながら9時の始業開始時刻を待っていた。
始業前の業務は違法であり、直子は壁に掛けられていた古びた時計と、自身の腕時計と、スマホの時刻を常に3往復しながら正確な始業時刻を確認していた。
直子『······マルピー(直子が勝手につけた丸平他与太の愛称)。今日もその中途半端に伸びた髪型素敵だわ。あら? 後ろの髪がすこし跳ねてる。癖毛なのかしら? マルピーって髪質が硬そう。いいなあ。触ってみたいなあ。指でツンツンしたいなあ』
他与太『······なおなお(直角直子の苗字と名前の1文字を取って勝手に付けた愛称)。今日も可愛いなあ 。相変わらずスタイルもいいよなあ。あの綺麗な白い指に触れてみたいなあ。あの大きい胸をわしづかみしてみたいなあ。ああ朝から何を考えてんだ俺は。最低だよまったく』
「9時ですね。業務を始めましょうか。丸平さん」
「······はい。直角さん」
島流し的な部署では、今朝も静かに1日が始まった。




