窮余のポッキーゲーム
丸平他与太と直角直子が今一番会いたくないランキング1位に君臨する島流しでは無い方の総務課の上司が立ち去った後には、見るに堪えない負のオーラが2人が座る掘りごたつを支配していた。
「······丸平さん。そろそろ帰りましょうか」
精根尽き果てた直子は、緩慢な動きで会計伝票に 手を乗せる。その時、直子の手に他与太の手が重なった。
「!? ま、丸平さん?」
「な、直角さん。ここの支払いは俺が」
「サービスタイムのポッキーで〜す」
茶髪の巨乳ギャル店員が皿に盛られたポッキーをテーブルに置く。他与太が驚き茶髪巨乳ギャル店員に問いかける。
「て、店員さん。サービスタイムって何ですか?」
「は〜い。今の時間カップル限定で配ってるんです〜。ポッキーゲームに使って下さい〜」
「え? ポ、ポッキーゲームって?」
他与太が再度問うと、茶髪巨乳ギャル店員がポッキーを1本口にくわえて見せる。
「こうやって〜。互いにポッキーの両端を口にくわえて同時に食べるんですよ〜。ポッキーを口から落とした方が負けで〜す」
茶髪巨乳ギャル店員はそう言い残して去った。呆然とその説明を聞いていた他与太と直子は、眼下のテーブルに鎮座するポッキーに最後の望みを賭ける事を即断する。
「な、なな直角さん! お、俺は今ですね、自分史上1番酔っ払っていてですね(完全に素面)! 酔いに任せて前後不覚と言いますか、このノリと勢いでポッキーゲームなるものをやってみようかなと愚行する次第でして」
「そ、そそそうですね! ま、丸平さん。私も、もうそりゃあ千鳥足の無駄足の勇み足(意味不明)の三段構えの火縄銃(?)と言いますか。端的に言いますと重度の酩酊状態(完全に酔い冷め状態)でして、送別会の恥はかきすてと言いますか、ホップ、ステップ、ジャンプでオッパッピー(?)と言いましょうか、こうなったら清水寺の舞台から後方宙返りプラス捻りの勢いで下にいる外国人観光客に向かってロックバンドのボーカルの如くダイブするつもりでポッキーゲームをやっちゃいなよ的な感じです、はい!」
それは、暗黙の了解だったのかも知れない。それは 、酒量を言い訳にした大人のずるい言い訳だったのかも知れない。
ともかく、2人の男女は長さ13センチの細い棒状の菓子に運命の全てを賭ける事となった。 目指すべき到達点(唇)は決まった。覚悟も決めた 。他与太と直子は同時に立ち上がる。
他与太『なおなおに恥をかかす事は許されない。これだけは! これだけは男として譲れない! いや違う。男の俺がやらなければ駄目なんだ!!』
他与太は行動を起こす。自らポッキーを手に取り、その端を口にくわえる。そしてチョコでコーティングされたポッキーの先端を直子に差し向ける。
直子『!! マ、マルピー。なんて男らしいの? こんな異次元の恥じらいを伴う破廉恥なゲームの主導権を担ってくれるなんて。そうよ直子。恥ずかしがっている場合じゃないわ! マルピーの男気にこの身を委ねるのよ!』
直子はアルコールでは無く気恥ずかしさから顔中を真っ赤にしながらもポッキーの端を口にくわえる 。他与太と直角の互いの距離は、僅か13センチに迫った。
他与太『う、うわあっ! 生のなおなおの顔がこんな近くに! か、かわいい! やばい! やばいよやばいよ! これガチで心臓に悪いやつだよ!』
直子『マ、マルピーのナイスガイフェイス(?)がこんな近くに!? う、うわぁ。マルピーの眼鏡の中のお目目もよく見えるわ。だ、駄目。急に胸がドキドキしてきた。お、落ち着くのよ直子。今さらあとには引けないのよ。投げられた賽は、ルビコン川を渡って背水の陣に落ちたんだから!(意味不明)』
「ポッキーゲームスタート〜」
茶髪の巨乳ギャル店員がいつの間にか現れ、ポッキーゲーム開始の狼煙を上げる。口火を切ったのは他与太。
目的地(なおなおの唇)まで最短でたどり着くため、猛然とポッキーを噛み砕いて行く。 それに呼応するように、直子は血走った両眼でポッキーを高速の咀嚼で口の中へ送り込んで行く。
決着は一瞬だった。 他与太と直子の唇が互いに5センチに迫った時、無常にもポッキーは2つに割れテーブルに落ちた。
他与太『······え? これ終わり? 店員さんポッキー口から落としたら負けとか言ってたし。終わりなのか? ポッキーゲームと称して事故を装ってなおなおの唇にチューするチャンスは無くなったってことなのか?』
直子『······はい? これどうなるの? ポッキーが割れて下に落ちて。出来ないじゃない。この勢いに乗ってマルピーの唇にチューが出来なくなったじゃない。あ、駄目だ。私泣きそう。すぐ泣いちゃうやつだわこれ』
「残念引き分けですね〜。じゃあ2回戦〜」
茶髪巨乳ギャル店員のその明るい声に、他与太と直子は自失を取り戻した。2人は同時に目を皿にしてテーブルに置かれた皿に注目する。
そこには、次の出番を心待ちしているかのように4本のポッキーが横たわっていた。




