ボタンに仕組まれた策略
丸平他与太の送別会は和やかな乾杯に始まり、2人は順調に杯を重ねていた。
「あ、泡盛ロックを追加で」
「な、直角さん。大丈夫ですか? さっきからずっと泡盛ロックでもう6杯目ですよ?」
「ら、らい丈夫ですよ丸平さん。今日は、今日だけは直ちに、速やかに、遅滞なく酔わないといけないんです」
直角直子はアルコールで身体がほてる事を自覚していた。これから彼女が行う行動は素面では到底出来ないからだった。直子は無意識に白いシャツの襟元に指を当てた。
直子『······ふ、ふふふ。今日今夜この時の為に! 何を隠そう私はマルピーを虜にする為にシャツのボタンに細工をしたのよ。襟元の第1ボタンから第5ボタンまで、縫い目を緩めボタンを外れやすくしたのよ! このボタンを上から順に外していって、マルピーの視線と心を鷲掴みにするのよ!』
直子は「ちょっと身体が熱いです」と囁きながら 、襟元のボタンに当てた指先に力を入れる。すると 、第1、第2ボタンが弾け飛び、直子の白い鎖骨が他与太の視界に入った。
他与太『うわ。なおなおの鎖骨って綺麗だなあ。いや、なおなおは肌が白いから全てが綺麗に見えるんだ。いいなあ。あの綺麗な鎖骨に触れてみたいなあ』
直子『うふふ。見てる見てる。マルピーが私の首元を見てるわ。酔いに任せて今夜はフルスロットルで行くわよ!』
間隙を置かず、直子は第3、第4ボタンを外して行く。すると、シャツがはだけ直子の白い下着と戦闘力(?)85の谷間が露わになる。他与太はそのあり得ない非現実的な光景に絶句する。
他与太『ちょ、ちょちょおいちょ待てよ!? これは現実なのか!? 俺の目の前に、なおなおの胸の谷間と白いブラが見えているだと!? こ、これは幻か? 夢か? それとも俺の妄想なのか? だ 、駄目だ。あの谷間から目を逸らせない! しっかりしろ俺! このままじゃあ、さっきの店員さんの谷間をガン見したのと同じじゃないか! なおなおに軽蔑される! 侮蔑される! 蔑まれる! う、動け俺の眼球! 眼球を上に動かしなおなおのご尊顔だけを見るんだ! 動けぇぇっ!!」
他与太は全身全霊で眼球を上に動かし、直子の顔を見る。だが、重力の神はそれを嘲笑うかのように他与太の眼球を容易く下界に叩き落とす。
だが、他与太はその重力の神に抗うように再びその眼を上に押し上げる。重力の神と他与太の壮絶なせめぎ合いは熾烈を極めた。
その結果、他与太の眼球は忙しなく上下激しく動く事となった。
他与太『目は上にぃぃっ! だ、駄目だまた下に落ちる。頑張れ俺! 上だあ! あ、また下に。上ぇぇっ!! 上、上、下、下、左、右、左、右、B、A(?)ってぇ! 何をやっているんだ俺は!』
錯乱する他与太の眼球は、最早振り子のように永遠にその軌道を繰り返すかと思われた。その他与太を策略の落とし穴に引きずり込んだ張本人は、妖しい笑みを浮かべていた。
直子『ふふふ。正直言ってちょっと自信無かったけど、マルピーは私の胸にゾッコン夢中のようね。 さあ。ここで一気に畳み掛けるわよ。2次会と称して、酔ったふり(酔ってます)をしてマルピーを押し倒して既成事実でオッパッピー(?)するのよ!』
「泡盛ロックお持ちしました〜。あ、お客さん、シャツのボタンが外れてますよ〜?」
茶髪のギャル店員は直子のあられもない姿を的確に指摘し、懐から出した携帯用ソーイングセットでたちまち直子のボタンを縫い付けていく。
その鮮やかな指さばきは、見る者をポカンとさせた。




