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ダダ漏れな2人  作者: tosa


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ワンショット田部田の「今日は飲んじゃう?」

 ようやく余震も落ち着き始めた頃、総務課の島流し的な部署では、机の上で災害用のラジオが流れていた。仕事中にラジオなどもってのほかという考えの直角直子も、非常時には致し方ないと黙認する。


「は〜い。ワンショット田部田たぶたの「今日は飲んじゃう?」の時間でーす。皆さっきの地震大丈夫だった? 俺ビビってトイレに駆け込んだよ。そしたら急にお腹下しちゃってさあ。これって一石二鳥って言うのかなあ?(違います)」


  その陽気で酔っぱらっているとしか思えないしゃがれた声は、突然ラジオから流れてきた。ワンショット田部田。ヘベれケーズと言う知る人ぞ知るマイナーなロックバンドのボーカルだ。


  そのバンドメンバー全員が元アル中患者と言う親が子供に見せたくないランキング上位に入るバンドだった。そして、偶然にも他与太と直子はこのラジオコーナの熱心なリスナーだった。


「そうか。この時間は「今日は飲んじゃう?」だった。仕事中に聴けるなんてついてるなあ」


「え? もしかして、丸平さんもワンショット田部田が好きなんですか? わ、私もヘベれケーズが好きなんです」


「え? ほ、本当ですか直角さん!? でも意外ですね。真面目な直角さんがこんな色物のバンドを好きなんて」


「え、ええ。確かに彼等は元アル中で物騒な事件も起こしましたが、必死に更生してその経験を楽曲に投影している姿を応援したくなって。特に彼等のキャリアで最高売り上げ1900枚を記録した曲「寝ぼけた朝に飲んだ黄色い泡ジュースはノーカウント」は秀逸ですよね」


「はい。全面的に同感です。直角さんって優しいですね」


「い、いえそんな」


  互いに想い合うも気持ちを打ち明けられない2人が、初めて共通の趣味を分かち合えた。それは、他与太と直子をいつもより明るくさせた。


「は〜い。じゃあ、早速皆のお便りをじゃんじゃんガブガブ飲む、じゃなくて紹介してっちゃうよ」


  ワンショット田部田が素面とは思えない呂律でラジオコーナーに寄せられたお悩み相談を紹介して行く。


「はーい。ラジオネーム「またたび商店の看板娘」 さんからでーす。なになに? 最近交際を初めた恋人と今度ヘベれケーズのライブに行きます。嬉しいね。ありがとね〜。ラジオネーム「またたび商店の看板娘」さーん。おっと続きを読むね。なになに? そこで質問です。ライブには素面で行ったほうがいいですか? それとも1杯引っかけてから行ったほうがいいですか? なるほどなるほど。これはまた際どくて鋭い質問だねー。そうだね。俺が1つ言える事は酒は飲んでも飲まれるな、逆にまるっと全部飲み込んでやれ。が答えかな〜? 参考になったかなラジオネーム「またたび商店の看板娘」さーん。ライブ楽しみにしててね〜」


  ワンショット田部田は軽やかにお悩みコーナーを進行して行く。


「は〜い。次のお便りはラジオネーム「悶々し過ぎて1周回って煩悩が上昇気流気味で下腹部がハッスルマッスル」さんからでーす。何々? 僕は職場に片想いの人がいます。でもその人が素敵すぎてアプローチできません。何とかその人の胸を揉む方法はありませんか? 成程なるほど。それは切実で切迫していてなおかつ男女交際の手順をぶっ飛ばした内容だねー」


「ぶふぇっ!!」


  ラジオで相談者が紹介された瞬間、他与太は口に含んでいたほうじ茶を口から吹いた。


「だ、大丈夫ですか? 丸平さん」 


  直ぐ様直子が他与太にハンカチを差し出す。他与太は赤面しながら直子のハンカチを謝絶し、アドレナリンが出まくった脳内を必死に落ち着かせようとする。


 他与太『う、嘘だろ? まさか俺の出した悩み相談メールが紹介されるなんて!? ま、まずいぞ! なおなおにバレてないか?「この相談者って丸平さんですよね?」って思われてないか? 気づかれてないか? なおなおのシックスセンスかメンタリスト的女性の勘が発動しないか?』


 他与太は心配そうに自分を見る直子に探りを入れる。


「な、直角さん。こ、この「悶々し過ぎて1週回って煩悩が上昇気流気味で下腹部がハッスルマッスル」をどう思い······ますか?」


「え? ああ。この相談者ですか? そうですね。いくら片想いの相手に打ち明けられないからって。いきなり身体的接触はちょっと順序が違うと思います」


「そ、そそうですよね? そりゃあそうですよね。あははは」


 愛想笑いを見せながら他与太は安堵していた。直子はもっと冷徹な毒舌を「悶々し過ぎて(以下略)」に浴びせると予想していたからだ。


「はーい。じゃあサクッとこのお悩みに答えちゃうよ? ヒック。おおっと失礼。シャックリ出ちゃった。シャックリだからね? お酒飲んだ時のやつじゃないからね。そうそう答えね! いいかいラジオネーム「おっぱい揉みたい星人君!(相談者の名前が全く違う)」おっぱい揉みたいって今の君はそれが全てになっている。1歩引いて冷静になって好きな彼女を見てみるんだ! どうだい? 彼女はおっぱいだけじゃないだろ? 唇があって、腰のくびれがあって、おっぱいだってもう1つあるだろ? いいかコララジオネーム「揉み揉み野郎」! まず左手で彼女の腰を掴み、右手で彼女の乳房を掴み、てめぇの唇を彼女の唇に重ねるんだよ! おいラジオネーム「揉みなんたら男」! それを同時にやってベッドに押し倒しちまえ! イーヤッホー!!」


  ワンショット田部田のその絶叫の後、本人とスタジオのスタッフと思われる声が電波に乗って流れた。音声は不鮮明だったが、他与太と直子の耳には確かにこう聴こえた。


「おいおいお前ら? ブースに入ってくんなよ」


「コイツやっぱり飲んでやがる!」


「一旦放送止めろ!」


「誰かアルコールチェッカー持ってこい!」


 ······ラジオはしばらくの間放送が止まった。




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