昔の彼氏、昔の彼女
大きな地震に見舞われた総務課の島流し的な部署では、余震を警戒した丸平他与太と直角直子はまだ机の下に身を潜めていた。
非日常の緊張感からか、2人はそれぞれの実家に残してきた家族の事を案じていた。
直子『······実家の方は揺れてなかったかしら? ぽん吉(実家で飼っている柴犬10歳♀)大丈夫かな? あの子太り気味で鈍いからなあ。いざって時に逃げられるのかしら? 心配だわ』
他与太『······実家は大丈夫かな? さくら(実家で飼っている虎模様の猫8歳♂)はのんびりで昼寝ばかりしているからなあ。こんな地震の時は心配になるよ』
「······久しぶりにぽん吉のお腹吸いたい(犬吸い)なあ」
「······久しぶりにさくらに指を舐められたいなあ」
それはほぼ同時だった。心の内の思いを互いに意図せず言葉にしてしまった瞬間、直子と他与太は、それぞれ相手の呟きを正確に聞き取っていた。
他与太『······ぽん吉? 今「なおなお」ぽん吉のお腹吸いたいって言ったよな? ぽん吉? お腹吸いたい? ぽん吉って彼氏のあだ名かな? そうか! 「なおなお」の昔の彼氏か!(現在の彼氏である可能性は都合良く排除)それにしてもお腹を吸いたいって······。そ、そうか。なおなおは元彼とそう言うプレイを嗜むのが好きだったのか! く、 くそ! 昔の彼氏とは言え悔しさ甚だしいなこれがまた! お、落ち着け俺。あんなに可愛い「なおなお」なら恋人の1カートン(?)や2ダース(?)くらいいたっておかしくないだろう! それよりもだ! 過去の事は考えても仕方ない。俺がすべき事はなおなおがそう言うプレイが好みだと言う事だ 忘れないように魂に刻むんだ! いつの日か、なおなおとそうなった時に俺は「これが好きなんだろ?」 的な余裕でそのプレイに及べばいいんだ!』
直子『······マルピー、さっき「さくら」に指を舐められたいって言ったわよね? さくらって誰よ? どこの女よ? どこの阿婆擦れよ!? お、落ち着くのよ直子。 き、きっと「さくら」はマルピーの昔の彼女よ。そうに決まってるわ。今の彼女の筈が無いわ絶対に!(現役彼女の可能性は頭が拒否)ま、 まあ致し方ないわよ。あんな天然癒しオーラを出すマルピーが、異性にモテない筈が無いわよね。恋人だって1匹や2匹、いや3羽か4羽。いやいや5尾か6尾。え? 待ってマルピー。いくら私でも7杯以上はメンタル的に耐えられないわ。お願いマルピー。何とか彼女遍歴は7頭以内に収めて頂戴。後生だからお願いマルピー!』
「······お腹舐め舐めプレイ、お腹舐め舐めプレイ。よし。完璧に覚えたぞ!」
「? 丸平さん。何を舐めてプレイするんですか ?」
「!? ち、ちち違うんです直角さん! 近いうちに、い、いやそのうち、いやいや将来的に「なおなお」とああなってこうなってそんな事になった時に、お腹舐め舐めプレイをしようなんて言ってません! 断じて口にしてませんから!」
「何を将来的にプレイするんですか? マルピー」
「え? 直角さん。今マルピーって言いましたか? 」
「!? い、いい言ってませんよ? マルピーなんて決して言ってませんよ? マルピーの過去の女共を地獄の釜茹に放り込んで、圧力鍋の如く細胞レベルで破壊して、その粉はザルで濾して雑草ばかり生えているうちの実家のお庭に花咲か爺さんよろしく撒こうなんて思ってません! 絶対に思っていませんから!」
「念のためこれ置いといて〜」
まだヘルメットを被ったままの島流しの部署では無い総務課の上司が、古びたラジオを机の上に置いて行った。




