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4.修復作業

宮廷魔導士団の仕事は、白竜の封印確認から始まった。


まずは無造作に伸び絡まる根元の部分から、大元になった封印の術式が刻まれている箇所を探さなければいけないが、通常の魔法探知は通じない。よって、このために編み出した古代魔法用の探知術で封印位置を正確に割り出さなければいけない。


今回は、これを副団長のハワードがティオに教える。ティオが幹に手を当てて、術を発動してみる。


もちろん念のために、その間にアルベルトも自分の手で封印位置を確認しておく。凹凸の目立つ手を幹に当て、そのままゆっくりと幹に沿わせて回っていく。樹液の流れからエネルギー源を辿り、外部との距離を計測して、記録していく。


1周が終わったところで、張り出した根に座りこんだ。昔と比べると随分と時間がかかったな。それに体力の消耗も大きい。座らずにはいられない。もちろんそんなことに気づくのはリチャードぐらいだろう。休憩がてら、他の二人の様子を見ていた。


「これ、すごい難しいですね。普通の魔法よりも緻密で、操作も多いから、慣れるまで結構体力持っていかれます。」


なかなか封印位置を見つけ出せないティオが、手を止めて座り込んだ。


「そうなんだよな。」

「悪かったな。出来合いの魔法で。」

「すみません、導師様。そういうわけじゃなくて。」

「いや、これから使っていくのはお前達なんだから、好きに改良してほしい。」

「そんな無茶なこと言わないで下さいよ。導師様以外に、誰がこんな高度な魔法が作れると思っているんですか。」


いつもこう返されるが、アルベルトはいつも本気だった。使えるものがいるうちに、色々と遊んだ方がいい。記録したところで、使わなければ、失われていくだけだ。


「おお、ちょうどよかった。」


そこにリチャードが数人の騎士とレオを引き連れてやって来た。


「そろそろ、ひと休みだろう。軽食を持ってきた。」

「うわぁ、ありがとうございます。」


ティオが、騎士の差し出した籠を喜んで受け取りにいく。こんなに元気が残っているのならば、及第点だ。


「やっぱり、宮廷魔導士団は優秀だな。こうやって、難しい技術を短時間で身につけるなんて。」

「そんなことないです。まだ上手く出来ないですし。」


まだ三分の一も終わっていない現実を思い出し、気が重くなる。すると、リチャードが近づいてきて、耳元で囁いた。


「安心しなさい。あそこにいる副団長殿も導師様もみんな始めはこうだった。」

ティオの顔がパッと明るくなった。

「本当ですか。」

「ああ。特に導師様なんて、試行錯誤の連続でな。1回目の計測には1ヶ月はかかったんじゃないかな。」

「え、そんなに。」

「まあ、前例がなかったからな。本を読んでは試して、修正して、のくり返しだったぞ。」

「その間、リチャード様も付き添われていたんですか。」

「まあ、最初の30分だけな。あとは飽きて、ワイバーン狩りをしていた。」

「ええっ!」


ティオが笑い出すと、アルベルトがこちらに気づいた。


「リチャード殿、部下に嘘を吹きこまないでほしい。」

「真実を伝えただけだ。」


そう言って、リチャードは訝しむアルベルトを笑顔でかわしながら、戻っていった。若いころの無茶を吹聴されて、今の自分と比較されたら、たまったもんじゃない。アルベルトは小さくため息をついた。



残りの位置探索はティオとハワードに任せることにした。アルベルトはというと、午後からは城壁にかけられた結界魔法を、レオに付き添ってもらいながら行った。


途中、中庭では騎士団が訓練を行っているのがたびたび見えた。訓練は実践によったもので、かなり激しくぶつかり合っている。リチャードはそれを見て、檄を飛ばしたり、動きの指導をしている。

それだけではない、傷ついた兵士の搬送や応急処置法までも訓練に組み込み、戦闘以上に彼は手厚く指導していた。リチャードの包帯を巻く手つきは様になっていた。



「ずいぶんと看護の方にも力を入れてやっているんだな。」

「そうですね。辺境地にとって、人員はかけがえのない資源です。仲間を助けることが自国を強くするのに繋がる。そう、教えられています。」

「そうなのか。俺はあいつに手当てしてもらったことなんてないんだがな。」

「そうなんですか。でも、父はアルベルト様にいつも治してもらってと言っていますよ。」

「そりゃあ、俺は治癒魔法が使えるからな。前衛にいつまでも寝てられると困るだろ。」

「さすが導師様ですね。」

「お前まで、そんなこというな。」

「そんなことって。」

「次に褒めたら、お前の結婚式の日に雨を降らしてやる。」

「そ、そんな魔法聞いたことがありませんよ!」

「そうか、まだ聞いたことがないのか…。」

「えっ、まさか…。」

「はははは。レオ、お前はやっぱり可愛いな。」

「伯父さんったら!怒りますよ。」


全く怖くのない怒り顔を見て、リチャードの言葉を思い出す。レオが辺境伯になってからも、しばらくは持つように念入りに魔力を流し込んだ。


こうして一日目が終わった。ティオとハワードは慣れない探知魔法で、アルベルトは領地を歩き回ったために、疲れ果てていた。夕飯は宿で簡素に済ませ、早々に寝床に潜った。



封印の修復が始まったのは翌々日の三日目となった。


ここからの作業はさらに繊細さを極める。根の奥にある高低差のある術式を魔力で均等になぞり、歪みや綻びが出来そうなところは、描き直していく。手順を誤ったり、書き損じると、封印が崩壊しかねない。例年はアルベルトが行っていたが、今年はハワードが主体となり、そのサポートにティオをつける。


ハワードは、始めこそ表情も固く、危なげだったが、進むにつれて、いつもの冷静さを取り戻していた。それを見届けてから、アルベルトは城壁の結界修復へと向かった。


全7話で、毎日19時に投稿しています。次回はやっと何かがあります。よかったら、読んでください。

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