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3.晩餐会

「初めに白竜が出たと聞いてから、気が気でなくて、王都からほぼ不眠不休で走ったよ。多分、アルにもかなり無理をさせたと思う。でも、若かったからね…。ただでさえ焦っていたのに、領地に入り、傷ついた父を見た時、怒りで理性が飛んだ。そうしたら、アルが必死になって止めてくれたんだ。犬死にしたいのかって。」


 リチャードの話を聞くと美しい友情物語になっているが、実際はそんなものじゃない。ボス用に常用している三重デバフをかけて、殴りとばしただけだ。それよりも、一週間の道中を三日で移動なんて、もっと体力を温存すべきだろ。でもまあ、リックの言う通り、俺たちは若かったのだ。


「君たちの導師様は、こうやって無茶する俺を止めてくれていたんだ。それで、頭を冷やして、……」

「ブランシェ山に向かったんですね。」


 吟遊詩人の「白竜討伐」の話はここから始まる。ティオは少年のように目を輝かせていた。


 そこから先は「白竜討伐」に基づいて進んだ。ただリチャードがことあるごとに、「アルは優秀だった」とか「天才的だ」といったお世辞をはさんでいることだけが、気になってしょうがなかった。


「明日もあるだろう。名残惜しいが、そろそろお開きにしよう。」


 リチャードが、全体に向けて呼びかけ、会はお開きになった。副団長のハワード達と宿へ向かおうとしたら、リチャードに呼び止められた。


「アルベルト殿、後で執務室に来てもらえないだろうか。」

「分かりました。参りましょう。」

「明日のことであれば、私も参りますが。」


 ハワードが気を利かせてくれる。


「個人的な話だから、大丈夫だ。長居はさせない。」

「積もる話もありますよね。承知しました。」


 そういって、一行を引き連れて宿へと帰っていった。


「アル、執務室で待っていてくれ。酒とつまみを持ってくる。」


 周りがいなくなったからか、呼び方も口調も辺境伯でなく、友人のリックになっていた。それなら、遠慮なくこちらもアルでいかせてもらう。


 夜の執務室にはわずかな灯りしかなく、酒を飲むにはちょうど良い雰囲気が漂っていた。


「これでいいか。」


 リチャードが瓶を2本と2人分のグラスを持って、入ってきた。


「見ない酒だな。」

「最近、うちの醸造所で作り始めたものだよ。味は悪くない。」

「お前に味がわかるのかよ。」

「なんだと。」

「昔は、アルコールが入っていれば、構わずにガブガブ飲んでいたくせに。」

「それはいつの話だ。」

「30年前かな。瓶を貸せ。今のお前に注がせると、上品すぎて酒が不味くなる。」

「なんだと、お前のキザな仕草こそ、笑いものだったぞ。」

「ふっ。」


 そこから二人そろって笑い始めた。あの頃に戻ったとは言わないが、懐かしい相棒が目の前にいる喜びが、口から漏れた。


「それにしてもアル、元気そうで安心した。」

「何言ってるんだ。王宮からいいように使われて、ボロボロだぞ。」

「でも、稀代の宮廷魔導士様だろ。」

「やっぱり、てめぇ、からかってるだろ。」

「すまない、すまない。まあ、飲もうや。」


 乾杯もせずに各自手酌で好きにやり始めた。リチャードの瓶の持ち方が、すっかり昔に戻っている。グラスに並々と酒を注ぎ、喉の渇きを癒していく。こちらもひとまず一杯。そして、2杯目を注いだ。


「それにしても、さっきのはなんだ。お世辞が耳に入るたびに、虫唾が走ったわ。」

「いやぁ、お前のところの若い奴があまりに可愛くてな。」


 案の定だ。あんなに真面目な顔で嘘をつくなんて。真面目なことを言っても冗談にしか聞こえなかった奴が、いつの間に腹芸なんてものを身につけていやがる。アルベルトは空になっていたグラスに、酒を注ぎ足した。


「そんなこといえば、レオもだろ。あいつが成人ってこともびっくりなのに、結婚なんて…。」

「だろ。あいつは俺に似ずに、まっすぐ大きくなったからな。」


 子どもの頃から何度も聞いているだろうに、リチャードの話をティオ程とはいかずとも、熱心に聞いていた、レオの姿を思い出した。


「まっすぐすぎて、大丈夫なのか。」

「俺もそう思うが、今はそういう時代なんだと。」

 リチャードは酒を注ぎ、一気に煽った。


「それより、聞いてくれよ――」

 コンコン。

「入れ。」

 リチャードの声色が変わった。

「リチャード様、お時間が。」

「分かった。」


「すまん。こんな時間になるまで、引き止めてしまって。また時間を見つけて、やろうじゃないか。」

 昔は無限に思えた時間が、今は限りあるものだと、アルベルトもよく分かっている。ここで切り上げることに素直に賛同するほどの、分別を身につけてしまった。


「そうだな。じゃあ、ご馳走さん。」



 酔いを覚ますために、少し歩くことにした。冷えこんだ夜の空気が、熱った体に心地よい。故郷でもないのに、この街の地図は身体が覚えている。適当に歩こうが、迷うことはない。気の向くままに足を運ぶ。


 懐かしい話と懐かしい景色、そして懐かしい顔を見て、アルベルトは酒に酔っていたのか、それとも懐かしさに酔っていたのか、自分でもよく分からなかった。こういう時はロクなことを考えない。あそこで飲むのを切り上げたのは、そういう意味でも正解だっただろう。


 気づけば白竜の大樹のところまで来ていた。樹齢三十年とは思えない大樹を見上げる。


 完全に悪酔いだ。


「さて、明日からは仕事だ。」


 自分に言い聞かせた言葉が、岩壁にこだまする。その反射音にやられる前に、来た道を引き返した。


全7話で、毎日投稿をしています。よかったら、続きもよろしくお願いします。

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