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第六節 リオナの思惑

「ちっ……ちがっ!」くそ。上手くしゃべれない!


「大丈夫だ。おれも経験がある。街で買った薬が効くから」。違うしっ。


「ああいう肉食うのは慣れてないんだろ」。違うしっ! あるし!


「心配いらない。すぐ戻ってくるから」。あんた、さっきから全部間違ってるけど大丈夫?


「ちっ、ちがうってば! ラ、ランドのはなしきいてっ、泣きたくなっただけっ……!」


 やっと、少し喋れた。


 ランド、ばかなの。無口だと思ってたらいきなり語りだすし。


 もうっ!


「やめてくれるっ! さっきからカッコいい感じばっかしして!」


 あっ! 悲鳴を聞いてかけつけてくれたし、最初からいい人だったじゃん! 森で出会ったのは、とほうもなく優しい……ああ! またっ!


「このばきゃッ!」


 きれた。そして噛んだ。慣れないこと言うもんじゃないよね。まったく。



 *



「……なんかさあ。わたし、ランドに会ってからというもの、迷惑ばっかかけてない?」


「ああ」と、ランドは即答した。


 ひとまず誤解を解いたあと、わたしたちは――成り行きで――広場の中央の焚き火の近くにもどった。わたしはさっきと同じように丸太の椅子に座って、ランドもまたさっきと同じ距離感。変わらず体の正面をこっちに向けないので、わたしは斜め前にいるランドの横顔を見ている感じ。だけど、今回、ランドは草地に座っている。


 ランドに、さっきのくだりどこまで本気だったの? と聞いたら、なんのことだ。というので、


 お腹いたいことにしたこと。いっぱい語って急に恥ずかしくなったんでしょ? と聞いたら、顔をそむけられた。


 これでわたしは、ランドのさっきの語りについて触れるのはやめた。だって、ああいうのはあらためて話し合うものじゃないと思うんだよね。もし話題にでも出そうものなら変な空気になっちゃうんじゃないかな。顔がひきつっちゃいそう。


 それに、最大級の賛辞をおくりたい、って思ってたんだけど、あのとき言いたかった言葉が、いまはもうなにも浮かんでこないんだよね。泣いちゃったからかな。


 とりあえず言えることは、わたしはいまとても満たされた気分になっているということ。


 うん。お腹いっぱいになったということでは決してなくね。



「……じゃあランド、謝罪もかねていいこと教えてあげる。この森はすごいよ。見える? あれとか、あれとか」と言って、わたしは、黒い木々の上や下のあちこちを指さした。


 そこにあるのは、いくつもの黒樹石。ランドに連れられてここにくるまでの道中で気づいていたけれど、この森はやばい。遺物の宝庫だった。


 黒樹石は地中の黒い木の根っこでつくられるってことは知っていた。でも、それが地上の、幹に絡みついた根っこにまでできている。これは情報が間違っていたということではなくて、この森がどれだけ長くここに在ったかを証明していて、たぶん見つかった名残のなかでは最長なんだと思う。


「ランドは見慣れてるかもしれないけど、あれは遺物っていうの。あれを採って売り続ければ、ずっとお金に困ることはないよ」と、わたしは言った。


「ただでさえ見つからない黒い森に、そこで長い間かけてつくられる黒樹石、だから希少価値がとんでもなくすごいの」


 ランドは、木のほうをちらっとみて――いや、見てないかも――


「……そうか」。興味ない!


 まあそうなんだよね。この森にいて黒樹石が目に入らないわけないのに。いままでなにもしてこなかったんだもんね。


 わたしは上にある黒樹石を見る。


「すごいよねえ……ずっときらきらしてる。ここは明るいからよくわからないけど、じぶんで光を出すものなんて、あれと、太陽ぐらいしかないんだって。光体っていうらしいよ」わたしは話を続ける。


「へえ……。なら、光るのは、星もじゃないか。夜の。夜はあの石も光ってみえるぞ」


「ええっ? その光景を見ていて、ほんとになにも考えなかったの?」


「まあ、とくに」


「あはは。心配いらなかったね。もし売るときは絶対この森のことは明かしちゃだめって言おうと思って。ランドの住む場所なくなっちゃうから」


 ランドは少し考えてから、


「……だろうな」。伝わったかな。


 ランドはそのあと、


「……まあ、言われなくても、何もするつもりはなかったよ」と、言った。


 なーんだ。


 余計なお世話だったんだね。最初から。



 ……ふう。



 ――じゃあ、そろそろおわりかな……と、わたしは思った。



 そう。なんでわたしが、今回の旅の一番の目的である遺物――黒樹石のことを全部話してしまったかというと、もう方針が決まっていたからなんだよね。

 

 ランドがこの森に住んでいることを知ったときから薄々考えていたんだけれど、この森はランドの場所だ。


 ここでわたしが遺物を持ち帰ったとして、上手くやったとしても、わたしたちの組織だけで隠しておくには無理がある。いつかばれたとき、この場所がどうなるかは簡単に想像できる。


 このささやかな木漏れ日の場所は、なにも変わってほしくないっていうわたしのおもい。


 それになによりも、ランドのいのりを邪魔しちゃいけないって思う。


 あとは、今回の旅を依頼したあいつになんて言うかだけど……鋭いからなあ。ありませんでしたって言って、はいそうですかって……まあ無理だね。いいや、それはその時になったら考えよう。


 ――というわけで、


 もうやることがないんだよね。


 ……帰ろうかな……。


 えっ、えええーっ!

 

 もう、調査おわり? おわりなの?


 うーん……?


 ランドとだってせっかく仲良くなったのになあ。


 ……なった、よね?


 お別れなのかあ。


 ランドはどう思っているのかな。また無口に戻ったね。いまなにを考えてるんだろう。後ろに手をついて、どこかあっちのほうを見てくつろいじゃってさ。


 お互い黙って座ったままで、わたしが喋らなかったらずっとこのままなのかな。


 それもいいけどさ。


 わたしばっか色々話してきたけれど、ランドはわたしになにか聞きたいことはないのかね。まったく。


 それでもいいんだけどね。

 

 息を切らして駆けつけてくれたランド。


 今日はあんな出会い方しちゃったけど、


 また、会いに来てもいいかなぁ。


 ――いやいやいや、


 さっきからわたし、ランドランドランドランドって。


 ……え?


 トクン。


 いやとくんって。


 穏やかに微笑んだ――


 ああーっ!


 もうっ! やめ!


 だってさ、まだ会ってからそんなに経ってないよ。


 そんなのないよ。うん……。


 でもさあ……。


 普段のこの感じ、みんなに会わせてみたかったりもするんだよねぇ。


 ――ん?


 そういえば……ヴァンが……。



 そうだっ!


 そうだよ! 言ってたじゃん!



 組織を大きくしたいって! 使えそうなやつはスカウトしていいって。つかえそうって……うん。嫌ないい方するよね。ほんとに。それに、誘うならおとこがいいって。いまは女所帯だから。わたしにミナコ、アーリアに、最近入ったカルラ。で、リーダーとヴァン。女四人だって別に問題ないのにね。


 よしっ! 誘っちゃおう! 次の……商機?


 じゃあまずは、スマートに、何気ない会話からはじめよう。緊張しないように。



 ……とんでもなく長考してた。でも、わたしがずっと考えてるあいだずっと喋ってないよ。このひと。

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