第十八節 真戦・轟魔轟獣 ②
吹っ飛んでいくランドに追いつき、服の襟をつかんで、上昇する。
「ランド! 大丈夫ッ?」
「…………」
「ランドッ!」わたしはゆさぶる。
「ぐっ、はぁ……はぁ……」
「無事?」
「……あぁ……」
「よかった!」
わたしは下を見やる。
突進の爆風の残滓が、まだ魔獣の体を揺らしている。
あれだけの攻撃。魔獣はすぐには向かって来られないはず。
ふと、視界の端にクニツカミの腕が写った。
突進に巻き込まれても、地面からわずかに突き出たままの二本の樹が残っている。
とある考えがよぎる。
「……さっきの盾は、クニツカミから伸ばしたの?」
「……クニツカミ? ……いや……」
「ランドの戦いかた見てると、腕の――木二本分なら上手く扱えるってこと?」
「……ああ……」
「あの先はまだ生きてるの? 魔力は地面に潜んでる?」
「……ああ」
「じゃあ一本だけ使って、魔獣を二十秒抑えて! 残りの一本はわたしのやること見て判断して!」
「はあ?」
「次で決める!」
「ああ」
「落とすよ! 魔力坐出せる?」
「……は?」
「死なないで! お願いだから!」
「ああ……!」
ランドが落ちていく。
それと同時に、地中に残っていた片方の腕が根を収束させ、巨木となって上空まで伸び上がる。
わたしはその横をすれ違い降下して、地面から頭だけを出したままの木――右腕のもとへ降り立った。
十メートルの太い幹に矢を突き刺し、跳びながら力いっぱい引き抜く。
横を見ると、伸び続けていた左腕の木が、大きく後ろへしなっていた。これでもかと言うほどに。
ブォンッ――!
木は反動で弾かれ、ものすごい勢いで魔獣へ振り下ろされる。
でも、到達する前に爆発ではじけ飛んだ。
残った幹からいくつもの枝が伸びる。
それすらも、爆風だけで防がれる。
――ランド。
「ありがとう」
二十秒。
フッと、左腕が根元から消散していく。
あとは右腕に集中する気だ。
轟魔轟獣が振り向く。
振り向かないわけがない。
わたしを取り巻く暴風の気配に。
わたしは地面に立っている。
その矢の先端は、わたしの遥か後ろ。
矢の先に、クニツカミの腕がくっついた。
先は尖っている。
ランドは間違ってなかった。
ランドの得意なのは押し出す方だって思っていたけれど。
――さっきは全く効果なかった。
だけど、成長の放出魔力と、わたしの矢を投げる力があれば。
こんな時に、なぜか、言葉が浮かんできた。
わたしはつぶやいた。
「大地の矢」
魔獣が構える。獣力が爆ぜる。大地が抉れる。
光の大地を壊し続けてきた戦いは、次で決着がつく。
わたしは地を蹴り、矢を構え、突風に身を預けて舞うように振りかぶる。
その時――
魔獣の口がゆっくりと開かれた。
そこからキラリと光るものを見た時には、もう遅かった。
あ――。
魔獣の巨体が反動で後ろに下がり、波動が遥か上空まで広がり、雲を吹き飛ばした。
魔獣の口から黒い光線が迸る。
わたしは直撃を受ける。
――ああ……。
……そんなの、気づくわけないじゃん……。
思い出せるわけがない。最前線の魔獣が使ってくる攻撃なんて。
でも――
痛みも全部無視して、
歯を食いしばって最後の矢を放った。
軌道に突風を起こし、魔獣の巨躯を上から貫いた矢は、大地に刺さってからも風を巻き起こし、
深いクレーターを生んで、
魔獣を吹き飛ばした。
砕けた甲殻が散っていく。
「――まだぁッ!」
最後の力を振り絞って、矢を投げつけた。
轟魔轟獣の腕を捉えた矢は、爪を――外殻を飛ばした。
空中で、魔獣の身体が半透明になっていく。
空葬が始まる。
――あの光線は、獣力砲。
果ての魔獣しか使えない。
こいつの怒りは……それほどだったの?
「もう……二度と来ないで……」
轟魔轟獣の原形が、空へ昇っていく。
わたしは、落ちていく。
はぁ……。
いたくて……つらい。
飛びそうな意識のなか、懸命に抗っている。
あ……。
木に包まれるような感覚があった。
まあ……いいか。
ランドいるし……。
わたしはゆっくりと、大地へ落ちていく。
…………。
……。




