第十七節 真戦・轟魔轟獣 ①
爆発を纏った魔獣の腕が、空を押し潰す勢いで振り下ろされる。
わたしは風を蹴って旋回し、かすめる軌道をすり抜けた。
すれ違いざまに矢を投げつける。
だけど、矢は背中の甲殻に弾かれて、火花のように散った。
魔獣は巨体の重みを乗せたまま落ちていき、
着地とともに丘陵――丘ひとつを、丸ごと吹き飛ばした。
わたしは宙に留まり、風の魔力で姿勢を保つ。
巻き上がる破片を、展開した風の膜で弾く。
地上から魔獣が、爆風の残滓を揺らしながらわたしを捉える。
――弾かれた。あの矢じゃ話にならない。
もっと魔力を込めれば強くできる。鋭く、大きく。
でも……重くなる。風の機動が鈍って、避けられなくなる。
魔獣がこっちに向けて爆ぜるような唸りを上げ、ビリビリと圧が走る。
上空で溜めたところで、目立つ矢なんて放てば潰される。
それに、そんな分かりきった殺意、こいつは正面から迎え撃ってくる。
「……っ」
いまのわたしでは、まだ技術が足りない。
でかい矢を扱う風の制御が。
なら、どうするか――。
消耗戦? どっちかの力が尽きるまで?
……あれ?
クニツカミ……。
魔獣が全身に力を込めた。
爪を地面に深く刺さり、大地が震える。
「……まさか」
ここに跳んでくる気だ。
これで、離れた位置から矢を作って奇襲するも無理。
これが……――
「……轟魔轟獣……」
世界の果ての山には届かない。その手前で、最強の魔獣。
わたしは新たな矢を構える。
魔獣が跳躍しようとした――爆風を裂く勢いで――
その瞬間、地面を割って一本の巨木が伸び上がり、魔獣の腹を叩きつけた。
尖った魔力をまとった木の先端が甲殻にぶつかり、木の方がそこから崩れていった。
木の魔力が散っていく。
魔獣は、ほんの一瞬動きを止めただけ。
「違う……」
……そうじゃない……ランドが得意なのは――。
魔獣はクニツカミ――ランドへ向けて咆哮した。
ランドは衝撃を避けるように頂上から離れ、魔力坐にのって浮いた。
クニツカミの二本の腕は地面に突き立ち、さっき胴体をぶち抜かれて下半分が無くなった体を、無理やり支えている。
咆哮の余波で、胴体が前後に揺れる。
わたしは、違和感に気づいた。
……クニツカミの腕の先端が、ない。
出現したときに、放出魔力の波動をまき散らしていた、分厚い大きな葉の塊があったはず。
「……」
上空から意識してよく見ると、
その魔力が、いまは二つの腕の先から地中に張り巡らされていることがわかった。
まるで、根っこのように。
――クニツカミは、まだ生きてる。大量の魔力を大地に流し続けて、攻撃の準備は整っている。
わたしは降下して、魔獣の視界に入る。
そのままランドへ向けて宙を一直線に駆け抜けた。
魔獣が、わたしを追ってくる。
背後で、大地を踏み砕く爆裂音が連続する。
わたしは前方のランドを捉える。
――まだ、撃たないでっ……!
引きつけて……!
ランドとすれ違う瞬間――
「押し出してっ! わたしがやる!」
――貫くのは、わたしがやるからっ!
わたしは速度を落とさず上昇し、弧を描きながら高度を上げる。
地中に張り巡らされたクニツカミの根が一斉に収束。魔獣の前方の一点を突き破って巨木が噴き出した。
獣力の圧に逆らいながら、巨木の拳が魔獣の顎を跳ね上げた。
放出魔力を噴き上げながら伸び続ける巨木が、魔獣の巨体をその上へと力任せに押し上げていく。
その更に上にいるわたしは、風を蹴り裂いて急降下した。
落下の加速と風の魔力を矢に束ねて――
解き放つ!
荒れる爆風の壁を、突風でねじ伏せるように突き破った矢は、
押し上げられ、体勢を奪われた魔獣の背へ突き刺さって、
その衝撃ごと、巨木の腕を巻き込んで大地へ叩き落とした。
わたしの風と、砕け散る木の魔力、魔獣が放つ爆風がぶつかり合い、衝撃が地面を震わせる。
砂煙と魔力の波動が渦を巻き、魔獣の姿がかき消えた。
まだだ――
仕留め切れてない。
落下の速度を落とさず、次の矢を形成する。
矢を放つ、その瞬間。
魔獣の咆哮。
「くっ……!」
空気が裂けるような揺らぎが迫り、わたしのすぐ側で獣力が爆ぜた。
爆圧に弾き飛ばされる。瞬く間に、爆発があたり一面を呑み込んだ。
地上の砂煙が晴れる。
魔獣は突進の構えをとっていた。
地面が深く抉れ、爆発魔力が地表を揺らしながら暴走している。
さっきよりも――遥かに強い突進が来る。
向かう先は――
「ランド――ッ!」
ランドが即座に木の盾を展開した。
三十メートルの巨躯が爆発を纏い、迫る。
地形ごと押し潰す衝撃が直撃し、盾は一瞬で砕け散って、ランドは叩き飛ばされた。
吹き飛ばされていくランドへ向かって、わたしは宙を蹴り、一気に駆けた。




