第二十二節 空の怒り
――遠く、黒い夜に、それは浮かんでいた。
太陽のような輝きをまき散らしながら。
「――リオナッ!」
異様な気配に、ランドが叫んだ。
木の杖を瞬時に形成し、わたしの行く手をさえぎる。
さっき、大地を迸った巨大なうねりは、いまや悲鳴のような音を伴っている。
輝きが生みだす、光と闇が混ざり合う空間。
その中で、ランドが振り向いた――
「ッ……!」
わたしが立ち尽くしているのを見て、ランドは、
「しっかりしろっ……!」
――違う……。
夜空に浮かぶ、光を放つ核が、ぐるりと回転し――ゆっくりと縮んでいく。
夜の暗さが、ふたたび辺りに戻りはじめ……
――そう思った瞬間、
核がパァッと光を放ち、そこからいくつもの光線が奔り出す。
十本、二十本……――もう正確には数えきれなかった。
すべての光は、真っすぐな軌跡を描きながら、地上へと突き刺さる。
着弾のたび、地鳴りが響いた。
近く、遠く――それぞれ、ばらばらの地点で、衝撃が次々に轟く。
そして、遅れてやってくる幾重にも重なる衝撃波。
――そこに何があるのか、とっくに分かっている。
――いた。
寝込みの魔獣を襲う戦士。すぐ近くに……。
やがて、大地を揺らした衝撃がおさまった。
それでも、魔力のうねり――悲鳴の余波は、耳鳴りのように残っていて、世界はまだ震えているようだった。
ランドは、いつの間にか杖を消していた。
背を向けているのに、その姿から、呆然と前を見つめているのが伝わってくる。
そして、「神……か?」と、独り言のようにつぶやいた。
光の核は、今も同じ場所に。小さいけれど、ぼんやりと輝き続けている。
「大丈夫だよ。ありがとう」
わたしの声に、ランドがぴくりと反応する。
「ランドは運がいいね! 三つ目の名を持つ英雄の魔力をもう見られるなんて」
わざと声の調子を上げてそう言うと、ランドはゆっくりと体をこっちへ向けて、目を細めた。
「……は? トライアド……?」
「うん。やばい人がいるなあって思って、立ち止まっちゃった」
「人、なのか……そうか……」
少し間を置いたあと、ランドは首をふった。
「……おれは、とんでもない所に来たものだな……」
そう言って、後ろ手で光を指す。
「……あれじゃ、まるで――」と、ランドは続ける。
でも、何かを言いかけて、言わない。
代わりに、つぶやくように言った。
「……なんで、あんなぶち切れてるんだ……?」
その言葉に、わたしは思わずくすっと笑ってしまった。
――ランドは、そんな存在を神だと思ったの?
わたしは夜空に浮かぶ光を見上げる。
「あの人、来ると思うよ、ここに」
「……は?」
「なんで怒ってるのか、聞いてみる?」
「は?」
ランドの反応に満足したあと、わたしは話し始める。
「ランドは、覚えてるかなあ?」と言って、演技っぽく指を頬にあてる。
道中でいろいろ話しておいたこと。もちろん、組織のみんなのことも、全部。
「魔力の属性は翼。特性は輝き。
――通り名は、空の咆轟。功績は二十年前、厄災の撃破」
「それって……」
そう。ある人を説明するために使った、さまざまな断片。
「うん。リーダーだよ、わたしたちの組織の。三つ目の名を持つ英雄は、名前の最後につくから――」
「ドレイザー・ミラーデュー=空の咆轟……」
そう言ったランドは、ふと夜空を仰いだ。
高みに至った戦士に、距離はあってないようなもの。
あの光は今、わたしたちのすぐ真上にある。
「世界最強の、魔獣嫌いだよ」と、わたしはひとこと添える。
肩のあたりから放たれるのは、輝く二つの魔力。
翼――
大昔、それを使って空を飛んだ種族がいたらしい。
それは、かつて、鳥種が空を往来していた時の名残。
翼の人が、目の前に降り立った。
夜はようやく、その静けさを取り戻す。
「やあ。こんばんは、リオナ」と、リーダーは言った。
「きみを待っていたんだよ」




