表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/40

第二十三節 リーダー

 さっきのことなんて何もなかったかのように、リーダーは微笑んでいる。


 みんなでふざけ倒している時も、わたしとヴァンが言い合いして――わたしが負ける――険悪になっている時も、穏やかに、黙って眺めている。


 いつもと変わらない、その顔で。


「なんか、久しぶりな気がする! こんな遅くにどうしたの?」と、わたしは声をかけた。


 リーダーはわずかに首を傾けて、


「そうだったかな。ヴァンの作戦に巻き込まれると、時間の感覚が曖昧になるんだ。きみは無事に抜け出せたかい?」


 う……。


 言葉に詰まる。毎回、少し戸惑ってしまう。


 ずいぶん遠回しで――ふわっと逸れていくような言い方をするから。なんか、遠くから話しかけられているみたいに感じる。そのせいで、佇まいと見た目まで、余計に浮いて見える。


 いつも通りの黒ずくめ。大きめのコートを羽織って、袖の先からは手がほとんど出ていない。


 頭にはビーニー、右目には眼帯。癖のある銀色の髪が顔の右半分を隠していて、眼帯の痕跡は、左眉の上にバンドがわずかに覗くだけ。

 

 身長は、一六八センチのわたしより低い。


 それに、決して健康そうには見えない青白い顔。夜の暗さもあいまって、ひ弱な感じが際立つ。全身ほぼ黒だから、顔だけがぽつんと浮かんで見えた。


 ……それなのに。


 この人が、八歳のときに、光の大地を荒らした厄災を討伐したなんて。


 組織で、同じ部屋に並んで座っていたりすると、たまに信じられなくなる瞬間がある。


 雰囲気は、驚くほど静かで、優しい。


 けれど、その静けさの奥には、計り知れないほどの深い魔力――


 そして、激情。怒りの咆哮。


 分かったつもりになって、また分からなくなる。そんな存在。


 それが、リーダー。


「うん、一応。ヴァンの頼みごとって、ほんとめちゃくちゃだから。今日の依頼は、いつにもまして雑だったけど――あっ」


 わたしは、隣にいるランドに目をやる。


「黒い森の名残を調査してこいってさ……」と続けて、


「それで、仲間が増えたよ。不思議なランド!」


 そう言って、ランドの方へ片手をぱっと差し出す。紹介の合図。


「ランド」――今度はランドを見ながら、


「リーダーのドレイザー」手をリーダーの方へ向ける。


 これで、紹介おわり。


「へえ」リーダーは笑った。「さすがヴァンだ」

 

 そう言ったあと、


「遅くなったね。よろしく、ランド」


 ランドは無言のまま、こくり、とうなづいた。


 ――そういえば、()()()存在を初めて見るランドはどうなんだろう?


 そう思って、ランドの様子をうかがう。


 ――ふふ。


 目をまるくして、リーダーを凝視している。瞬きも忘れて。おどろきと……探っている? なんの表情なのか、判断できない。


 ――ランドはまだ、理解が追いついてないみたい――


 わたしは視線を戻し――いや、またランドを見る。


 ……いや、見すぎじゃない?


 そしたら、ランドは急に落ち着いた素振りで背筋をはって、うやうやしく、()()()をした。


「ランド・ランディア」


 ……へ?


 そういえば、下の名前聞いてなかった。ランディアって言うんだ。


「というか、その感じなに?」と、わたしは声に出して言った。


 リーダーは、小さな声で、確かめるようにランドの名前をつぶやいた。


「よく聞くような、聞かないような。まさに風が運んできた名前だね」


「うわっやば……」


 引いてるわたしを無視して、ふたりは会話をはじめる。


「……流されて、気がついたら、連れ出されてたような……」


「はは。奇妙なこともあるものだ。ヴァンからは、リオナが七番戦線にいるとしか聞いてなかったんだ。まさか、歩いてくるとはね」


「ええ。なので、道中でいろいろ聞きました。まだ会ってないのに、まるで、皆さんがすぐ近くにいると思えるぐらいに」


 ランドはぼそっと、「……延々と」とつけ加えた。


「ねえ、商売人の世間話? わたしのときはそんなんじゃなかった!」


 ランドは無言で見てきた。


 わたしは、ランドをにらむ。


「……なめくさってたってこと?」

「そうだが?」

「なんだこいつっ!」


 ……あきれた。


 なにさっきの流暢(りゅうちょう)な会話。

 

 ぜったい、目覚めてから五年じゃないでしょ。


 やれやれ……。わたしは、リーダーに顔を向ける。


 リーダーは、そんなわたしたちを微笑んだまま見つめていた。


 そして、「想像がついたよ」と、穏やかに言った。



「……それで、リーダーは何しにきたの?」


 わたしが七番戦線にいたことしか知らないみたいだし、よくわからない。


「その通り……ただ、本題の前にもうひとつ寄り道してもいいかい」


 そう言って、リーダーはじっとランドを見つめた。まるで、演技っぽく、素敵なお人形をながめるみたいに。


 でも、これはわざとで、もう次に何を言うのかもまとまっているのは知ってる。いつものリーダーの手口。


「それで、調査対象の黒い森の名残は見つかったんだ? ……誰もが見落とす忘れられた森、だったかな。そこにランドがいた……と」


「うん。目的は遺物ね。だけど、森が本当に在ったことはヴァンには言わないで。決めたから」と、わたしは言った。


「ふむ……?」


 リーダーは演技の姿勢を崩さず、わたしに顔を向けた。


 少しの沈黙。


「わかった。それでいこう」


 いたずらっぽく笑って言った。

 

 理由は聞いてこない。――それが、リーダー。


 リーダーは、話を続ける。


「それで、だ。ふと、思い浮かんだことがあってね。


 ()()()()についてなんだけど」


 

「えええええーッ!」

「――――――ッ!」



 思わず、叫んでしまった。


 ――まさか、ランドがハーフだって見抜いたの?



 どうやって……!


 言葉をうしなった。ランドの視線は、どこかあっちの方を行ったり来たりしている。


 リーダーは演技するのをやめた。といっても、いつもの微笑みに戻っただけ。


「さて、本題に移ってもいいかな。


 カルラから、ちょっとしたお願いがあってね。ある人をスカウトしてきてほしいみたいなんだ」


 言うだけ言って、こっちの反応を見ただけで、勝手に満足して、それ以上は踏み込まない。


 どうやったら次の話題に移れるのかさっぱり分からない。


 ――そう、


 これが、リーダー。最強の傍観者でもある。


 混乱したまま、わたしはリーダーが言ったことをまとめる。


 カルラ、依頼、ある人を、スカウト……?



 つまり、今日ランドを誘ったのに、明日はまた別の人を誘いに行くってこと……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ