第二十一節 カントリーロード ~夜の川~
歩き続けて世界は夕暮れ、あっという間に夜が来た。
わたしたちはいま、静かな街道を歩いている。
草原を貫くまっすぐな道は、夜の光のなか、ひっそりと彼方へと続いている。
空にはいくつもの星が浮かんでいた。
あたりに昼のような躍動はなく、ただ静寂だけが広がっている。
夜の川。
光に照らされ、ぼうっと浮かぶこの道は、いつしかそう呼ばれるようになった。
戦線にも、叙情的な人はいるものだね。
戦士たちは街道を通って、拠点となるそれぞれの街へと帰る。
今日の戦いの余韻を、夜に委ねながら。
この道をずっと進んだとき、たどり着く先を誰もが知っている。
進み続けた先に、それはきっとある。
必ずそこに在る――けれど遥かに遠い。隔てるものすら、まだ見えない。
どこまでも続くように見える、この道の先にあるのは世界の果て。
そこへたどり着けるのは、高みへと至った者だけ。
恐れずに立ち向かった者だけ――
前へと進むにつれて、空は重く、大地は冷たくなる。
それでも、この道だけが温もりを与えてくれる。
ここに刻まれているのは、妙な安心感。
わたしたちはいま、光に包まれた夜の川を歩いている。
静けさに流れる深みの中へと。
この夜中に。
…………。
*
「何か、風が吹いてないか」
――と、ランドの声がする。「リオナの魔力か?」
「……へ? あー、戦線に風が吹くのは珍しいねえ。わたしの魔力じゃないよ……。なにか、来るかもねえ」
わたしは、にや……っと笑った。
「……は?」ランドがぎょっとした顔でわたしを見る。
「まさか……眠いのか?」
「なんで! 眠くないっ!」
ランドはため息をついた。
「……だから言ったんだ。急ぐかって。なんならおれは走ったってよかった」と、ぼそぼそ言っている。
「あれ、返事したの聞いてた? 冒険者受動的思惑時間。アーリアがつくった言葉。旅してたらこういう時間は必ずあるよね、ってこと」
歩きながら組織のみんなの説明をしておいた。ランドが入ったから、七人になった。
わたしは目をぱっちりとさせて、
「ねむくなんてない。非常に冴えてる」
その様子を、ランドが目を細めてじっと見ている。
「……なあ、疲れないのか? ずっとそんな調子で」
急に――まるで、溜まっていたものを吐き出すみたいに――ランドはそう言った。
「なんというか……そうだな」ランドはわざとらしく首をかしげる。そして、間を置いて、
「ずっと、ふざけてるよな?」と言って、口元だけで笑った。
とても失礼なことを言われた気がしている。
「ふむ……」軽く受け流す。「心外だね。わたしはいつも本気。それは知ってた? あと、言ったよね、ふざけてるのはミナコ――」
「ずっとだよ」。さえぎられた。
…………。
ランドは歩くペースを少し早めた。わたしは、そのまま。
――あの崖の上でのことは、ランドの中で、どうやら無かったことになったらしい。
追いついたときにはもう、普段のランドに戻っていたから。
別に、それでいいと思う。わたしがなにか言える立場じゃないのは、十分わかってる。
それに、他に言いたかったことがあるわけでもない。きっと。
わたしたちは、そういうの向いてないみたい。
とりあえず、ランドは放っておけない存在だってこと。
その気持ちは、ずっと、変わってない。
うん。
ここまでの道中で、いろいろ話をしておいた。
ここは、戦線に五本ある街道のうち、ちょうど真ん中にあたる道。
わたしのママとパパが宿屋をやっているのは、一本上――十番戦線の街道沿い。つまり、わたしの生まれもそこ。
魔獣は、夜に活動しない。だから人も休む。
「寝込みを襲うのか?」と、ランドは聞いてきた。
そんな戦士はあまりいない、とわたしは答えた。
これはもう、戦士としての誇り? とか、そういう話になってくるのかもしれない。
合理的な――ランドは少し考えていた。それから、納得した。
今日はリガ街に泊まって、明日はこの街道を通って五番戦線の拠点に戻る。
さすがに明日は、魔力を使って急ごうかな。
みんなにランドを会わせるのが楽しみ。
そのとき――
遥か前方の空がざわめいた。
瞬く間に、巨大な魔力のうねりが、大地を震わせるように広がっていく。




