第一節 ―リオナ― 限りない大草原で
出発は朝早くではあったけれど、結構な距離を進んできたはずで、それなのに、太陽はまだあんなにも高いところにあって、陽光はさんさんと大地を照らしている。
わたし――リオナ・ハートルルは、広大な草原のとある崖の上に立っている。
今回の旅の目的は、仲間のヴァンの頼みがあったからで、この草原のとある場所の調査だ。
世界の果てへ続く街道を逆方向、つまり、西へ向かってきた。そして街道は呆れるほど広い草原を分断するように走る。ここまで着くためにその街道を抜けて、しばらく南へ進んできたのに、世界はまだ暮れる気配がない。世界を暗くする気持ちなんて、あの太陽にはどうやらないらしい。
わたしは崖の下を見ている。崖の下も変わらずの大草原。だけど、何もない草原に似つかない、異様なものがひとつある。
ここからは黒い塊にしか見えない。それは、黒い森だった。
――わたしはとても驚いている。
「ほんとにあった……」
だって、不思議でしょ? 人の意識から外れる黒い森。こんな草原の中にぽつんとある森が、誰にも気づかれないで、ずっと存在し続けていたなんて。世界に数ある不思議のひとつだね。
ヴァンはどうやってあの場所のことを知ったんだろう。聞いても教えてくれなかった。
――あっ! すこし気を付けなきゃ。しばらく後をつけてきているヴサギが、いまにも飛び出してきそうだから。
「しゃーッ!」。ほらきた。
わたしは右手をかざし、魔力の針を形成する。それをぱしっと掴み、標的の方を見ずに、後ろに向かって投げた。ぽてんっ、と、もこもこの獣が地面に落ちる音がした。
後ろを見ると、投げた針は狙い通り、ヴサギの頬の辺りをかすめたみたい。その辺の毛が無くなっている。ヴサギの表情から感情は読み取れないけど、まるで冷や汗をかいて焦っているかのように、見えなくもない。
「まだやる?」
そう声をかけると、ヴサギは逃げていった。
そのもこもこを見送ってから、前を向いた。
「さあ、いきますか!」
わたしは、高い崖の上から飛び降りた。
当たり前だけど、崖の下も草原。地平線まで続く草原。さすがにちょっと広すぎるね。
「周りを黒い森に囲まれているくせにね」
今回の目的地は、その黒い森の名残り。この光の大地に取り残されて、長いあいだ誰にも気づかれることなく、悠久の時を生きてきた。と言っても、どのくらい経つのか知らないけれど。
「うんっ! 楽しみ!」と言って、わたしは歩き出す。
――というか、まだ歩くの……?
まあ、いいか! いい天気だし。魔獣の気配も全く無いし!




