第十三節 大樹の力 ①
気配はひとつ。
右斜め前――北東の方向から。
「まだ、こっちには気づいてないか……」と、ランドはつぶやいた。
「おれがやる」
わたしは思わずランドを見る。
「えっ……大丈夫?」
その問いには答えず、ランドは静かに右手を空中に広げた。
放たれた魔力がぼんやりと棒の形状を成し、瞬時に一本の木の杖へと変化する。
――わたしはすぐさま、杖をじっと見る。
尖った杖先から真っ直ぐ立つ支柱は、上にいくにつれ四本の細い枝にわかれて、ねじれながら透明な魔力の球を抱いている。手のひら大のその球は、細い枝に支えられながらも、それを無視するように、周囲に魔力の圧を放っていた。
ランドは空中に直立する杖をさっと掴むと、くるりと一回転させ、杖先を地面にとんっ、と打ち付けた。
目の前の地面から魔力の木が出現する。そのてっぺんは円形で平らに広がり、まるで大地から生える円卓のよう。
ランドは背負っていたリュックを降ろして、ゆっくりと伸び続ける木の魔力の台座――魔力坐に乗った。
わたしは、ランドと魔力坐を交互に見る。
「なんで……? どうやってそれを覚えたの!」
驚いたのは魔力坐のことだけじゃない……うん……すべての動作が、あまりにもさまになってる。
「街へは行ってたからな」と、ランドは言った。
「魔獣と戦った経験があるからってこと? だとしても、何回も戦ったわけじゃないよね? ……それに、魔力を知って、まだ五年でしょ……」
五年って結構長いようには思うけれど、魔力だけじゃなく、この世界の他のことだって何も分からない状況だったのに……。
やっぱり、天才なの?
ランドは無言で首をまわして、横にいるわたしを見返してきた。そのまま視線を変えずに、杖先で坐を軽く突いた。
木の成長が加速し、頂上にランドを乗せた木が勢いよく上へ伸びていく。
ランドは、まだ無言のまま、わたしを見下ろしている。
「さっきから、五年だとか……すごいとか言ってるけどな」と、ランドは言った。
「戦えないやつを誘って、どうするつもりだったんだ?」
「え……? もちろん、わたしが戦うよ。魔力の使い方もあとで教えるつもり……」
わたしの話が終わる前に、ランドは視線を魔獣へ移した。杖先でまた坐を突くと、成長を続ける木の幹が徐々に前方へと曲がっていく。木全体に、今にも破裂しそうな魔力の高まりを感じる。
もうっ! まだ言ってないことあるのにっ!
「待って! 戦線のことは知ってるの?」わたしは声を上げる。
ランドは首をかしげた。
「あとで、詳しく話すから!」わたしはランドを真剣に見つめる。「決して気を抜かないで!」
ランドはわたしをちらっと見て、こくりとうなづいた。
ランドを乗せた木の魔力が、魔獣へ向かって解き放たれる。
――放出魔力だ。間違いなく。
停滞魔力だったら、進行方向に何個も魔力坐をつくらないといけないから。
――魔力が発動した瞬間から、何の介在もなく一定の方向へ突き進み、放たれ続ける力。
それが、放出魔力。
木が奥へ進むにつれて、わたしの横にある支点――根元――がぐんぐん伸び続ける。でも、距離が離れていくうちに傾きが増して、根元と地面の角度が次第にきつくなってくる。
魔力を下から出現させるのは、ランドの木に対する思想の影響が強い。本来、空中からでも木の魔力を出すことができるのに。
そう思っていたら、木が根元からぶつっと途切れて、あたりに魔力の残滓を漂わせながら、消散した。
残ったのは、ランドが乗る魔力坐。速度は変わらず、空を駆け抜けていく。
わたしはランドのリュックを拾い上げる。「おもっ……」
風の魔力を放って宙を浮遊しながら、あとを追う。




