第十四節 大樹の力 ②
魔獣がランドの存在を感知した。
低く身構えた魔獣の鋭い視線がランドを射貫く。
気配が一瞬にして怒気を帯びる。
魔獣はランドに向かって咆哮。放たれた圧が草原を揺さぶった。
魔獣は全身にぐぐぐっと力を込め、一気に突進。その衝撃で後ろの地面が砕けて、激しく吹き飛んだ。
体長十五メートルの麒麟種――
この気配からして大魔超獣級。だけど、発達した長い首を持つその体躯は、七番戦線に現れる他の魔獣よりも、威圧感を増しているように見える。
ランドは空を、魔獣は大地を駆ける。互いの距離が縮んでいく。
地面から巨大な魔力の樹が出現した。ランドの乗る魔力坐よりもはるかに太い。
みるみるうちに伸びた樹は、上空で広がり、丸い形状を形づくる。その頂点には五つの凹凸ができている。
――拳をイメージしてる?
瞬く間に、草原に腕のような巨木がそびえ立った。
巨大な腕が動き出す。
根元からねじれ、しなりながら後ろへ引かれる。根元を起点に左方向へ回転が始まった。その動作はゆっくりだけど、わたしのいる離れた場所からでも、そこにねじ込められた放出魔力の強い圧を感じる。
――でも! 魔獣はすごい速度で突進してきてる! そんなにゆっくりで間に合うの……!
後ろへ引かれた腕が、円を描き、半分の位置まで反転すると、動きが止まった。
しなり、ねじれ過ぎた樹の先――拳が地面と水平になって、その頂点は魔獣の方へ向けられている。
――次の瞬間、
溜めていた力が弾けるように、拳が解き放たれる!
巨大な腕がうねり、空気を裂いて、魔獣へと振り抜かれた。
横薙ぎの一撃は魔獣の首を捉える。
黒い甲殻と樹が激突、鈍い音が響き渡った。そして衝撃波が来る。
魔獣の巨体が揺らぐ。だけど、魔獣は地面に爪を突き立てて踏みとどまった。反動で地面が抉れ、土煙が舞い上がった。
「あっ……!」
ランドの攻撃は、首の側面に叩き込まれたけれど、耐えられてしまった。
木の拳と魔獣が激しく押し合う。そのさなか、ランドが杖をかかげるのが見えた。
木の腕から、いくつもの枝が伸びてくる。腕は形状を維持したままで、押し合う力は少しも緩まない。
腕から生えた枝は絡み合って収束し、大きな二本となり、魔獣の首へと巻き付いた。
ランドは、杖で坐を突いた。大きな二本の枝は、首へ巻き付く力を更に増し、下方向へ魔力を放ちながら魔獣を持ち上げる。その途方もない魔力の出力で、草原は突風を受けたように荒れた。
魔獣の足が地面から離れ、巨体が浮いた。
これで魔獣は踏ん張れなくなった。いくら甲殻に覆われているとはいえ、首に巻き付いた放出魔力の猛威には抗うことができない。
決着は、ついた。
草原に静けさが戻る。
だらんとなった魔獣の身体は、伸びてきた別の枝に支えられて、草原に降ろされた。
「…………」
わたしは、言葉がでない。
とりあえずランドのもとへ行く。ランドもこっちへ歩いてきた。
木の魔力の特性――成長と、放出魔力の性質の相乗効果。
何よりも驚くのは、あの巨木を――あれほどの魔力を離れた位置から自在に動かしていたこと。
誰もが生まれながらにして持つ魔力の素質。
その系統のひとつ、操作に特化した才能――。
与えられたすべてを、高いレベルでうまく使いこなしてる。
……えっ?
もしかしてランド、もう一番戦線まで行けるんじゃないの……。
いや、もしかしなくても……。
わたしと同じ……。
――嫉妬……
えぇ……しっと? いや、まさか、そんなこと……。
――どっちが強いのかな?
だからそうじゃなくてっ! 仲間でしょ!
わたしは歩いてくるランドに気づかれないぐらいに、小さく首をふった。




