第九節 要請
わたしがすとんと、静かに着地したのとは裏腹に、その衝撃は遅れてやってくる。
木々が揺れ、丘の花はまた吹き飛び、あたりを黒い葉っぱと紫の花が舞う。
ランドは、風の圧力をまともに受けた。だけど杖を持ったまま、口を結んで、目を閉じてじっと立っている。
わたしも自分が巻き起こした風で、髪とか服が乱れる。
やがて、風がおさまった。
自分がぐしゃぐしゃになってるのがわかる。それを直さずに、わたしはランドを見据えた。
……耐えられた。吹き飛ばす気だったのに……。
――いや、なんで威嚇してんだわたしはっ……!
ランドは、訳が分からないはずのわたしの行動を気にもしてない様子で、まわりの葉と花の雨を見た。それから、視線を丘の方に移す。
ランドは持っていた杖を消して、
「強いんだな」と、言った。
は?
「どのクチが言ってんの! こっちのセリフだからッ!」
喧嘩する気なのかわたしは。
「というか! こんなっ……! こんな……」
ランドをにらむ。ランドも見返してくる。
あっ……?
微笑んでる……。
まるで、この状況を面白がっているみたいに。
行ったり来たりして、勝手に盛り上がって、はっきりしない、ランドからしてみればまったくわけがわからなくて、遠回しで、勝手に怒る、どこまでもひとりよがりなわたしの行動を……?
わたしは、さけんだ。
「こんなっ! わけのわからない森で! うんめっ……運命的な出会いしてて、いっしょに来ないってある? ふつう!」
ランドは微笑んだまま、下の草地を見た。
「運命、か……あの場所に、反対側から来てればあるいはな」
……もしかして、わたし、からかわれてるの……?
――いや、わかってる。
はじめて会ったときからランドはなにも変わってない。突然来たわたしをただ受け入れて、ただ誘いを断っただけ。わたしだけ、ひとりであれこれ考えて……。
どうせこうなら、最初からいろいろ気にせずに、ちゃんとした言葉でさっさと伝えていればよかったのかなあ……。
「……いいから……!
わたしと……一緒に来てよ……!
お願いだから……」
「…………」
沈黙。
それはほんの一瞬のことなのかもしれないけれど、ゆっくりと、とても遅く感じる時のなかで――
ランドが動いた。
――最初は、
倒れるのかと思った。ランドの体が徐々に下がっていったから。
でも違った。屈もうとしているんだとわかった。
次に、下に落ちたなにかを取ろうとしている? やっぱり違かった。下にはなにもないから。
ランドは片膝をついて、その体勢のまま動かなくなった。
そして、ゆっくりと頭を下げた。
「御意に」
ランドは言った。
「……は? え?」。すぐに立ち上がって、そう言ったのもランドだった。
まるで、時の流れがもとに戻ったように、すべてが一気に進みはじめる。で、わたしは理解が追いつかない。
「……どっ、どうしたのっ? 急に!」と、わたしは言った。
「御意にっていってた。ぎょいにって……! ……ランド……? 御意ってさ……」
「……肯定……だよな?」
「うん……なんでわたしに聞くの?」わたしは目をこすった。「……きてくれるの?」
「いや……」
「はァ?」
きれそう。
ランドは黙ってしまった。手をあごに当てて、いかにも、自分はいま考えてますよっていう感じで。
よくわからないけど、わたしは待つことにした。
「やっぱりか……」と、ランドは言って、わたしに向き直った。
「なあ、さっきの、おれが……何者なのかって話だけどな」
「ちょっと待って!」わたしはランドをさえぎった。
「……聞くけどさ。わたしがそれを聞いたとして、来るの? きてくれるの……?」
ランドの様子をうかがうために上目遣いなんかしたりして。めんどくさい?
「……はあ」。ためいきっ!
ランドは、少しの間があったあと、
「……ここでの生活なんて、あってないようなものか……
……光の大地の魔獣戦線。行ってみるか……」
それを聞いたとたんにわたしは笑顔になる。ランドは体ごと視線をそらした。
「だからもう泣くなよ……」と、ランドはつぶやいたけれど、わたしは聞こえないふりをした。
「うんっ! よろしくねっ!
――あれ? それで……」
ランドはどこか向こうを見たままだ。
「ああ。おれは、召喚獣だ」
えええええええーッ!
……たおれた。
でも、ゆっくりと膝をついて、ぺたんと地面に寝そべった。
今日はなんなんだろうねいったい。
「あ……違うか。正確には、人と召喚獣のハーフだ」
あおむけだから空が見える。あっ、葉と花の雨はいつの間にか止んでいた。




