昔覗いた見慣れた地獄
【ルイヤの貴弓】 霧雨の森の狩人ルイヤの聖銀で編まれた弓 空に向けて射れば魔力の弓矢を悪しき者へ降らせる。 狩人ルイヤは代々闇祓いの家系であった 故に彼の引き絞る弦には高い破邪が宿り 呪詛の囁きを祓う力を宿す。
【ローレシアの槍】 敵対者が踏む事で発動する魔術 踏む事で導線が繋がり 無数の槍が突き上がる。 魔術師ローレシアが記した兵法には第一に魔術特性における遅延工作の重要性を説いていた。
死神部隊へプラジュナー共和国より緊急要請を伝えます。
発掘兵器、無人護衛戦艦【ゼノン】の無力化を要請します。 昨夜未明ガウィス領にある古代兵器研究所より、発掘兵器の残存機能の起動実験中に研究員の制御下から逸脱したとの緊急通報が情報統制局、並びに遺物管理局へ入りました。
鎮圧軍の編成後、直ちに現地に送りましたが自体は一国では対処し切れない状態まで悪化、既に数千人規模の人命が亡くなっている深刻な状態です。
現在発掘兵器…通称ゼノンと呼ばれる艦船はプラジュナー共和国の上空に留まりつつ、高度を徐々に上げる行動を取り始めました。
意思も目的も不明であり、依然として自体は悪化の一途を辿っております…身勝手な依頼と承知しております…ですが罪の無い民が蹂躙される未来は阻止されなければなりません。
…どうか此の国の未来をお救いください。
◆◇◆◇
けたたましい警報音と赤い警告灯が通路を照らし、職員や整備兵が四方八方へと慌てふためきながら駆けている。
未だ夜明けの来ぬ前に響き出した緊急警報が基地内の全ての職員を叩き起こし、僅かな眠気さえも基地の敷地内からも視認出来てしまうプラジュナー上空の巨大飛行物体が吹き飛ばしてしまった。
「カーミラ。 戦闘補助システムの応答強度は確かめたか?」
「ん。 遅延時間は誤差の範囲、与圧システムもオールグリーン…何時でも出れるよ」
「今回の相手は艦船だ。 手短に推進力を奪わないと被害がデカくなるぞ…」
無線越しからでも分かる程の寝ぼけ浮つく声で機体の最終チェックを素早く行なっているカーミラに声を掛けつつ、メインシステムと繋がったオペレーターから提出された撃破目標の情報を頭に叩き込んでいく。
【ゼノン】 全長は凡そ5キロ前後、建築材を寄せ集めた様な造形の無人機である故に主砲は無いが大型タレット60基。 中型タレット40基程が船体に沿ってズラリと上部と下部に並んでおり、火力は戦艦級と言っても過言でも無いだろう。
超大型のエンジン2基は船体後方下部に…埋め込み式である為、狙って破壊するには奴の火線に身を晒す事になるだろう。
そして船体とエンジンを守る大型のシールド発生機は現在確認出来ているだけで6基か…。
…先ずは先攻部隊にタレットが向いている隙に私とカーミラはシールド発生機を破壊しなければな。
「あ、あ〜…ヘラルド? 今回の相手の事なんだけどさぁ…」
「ん? あの空飛ぶ揚げパンがどうかしたか?」
武装の動作確認に神経を走らせているとカーミラが申し訳無さそうに言葉を零す。
「揚げパンて…。 あぁ…うん。 あの艦船何だけどさ…多分エンジンを破壊出来ても堕ちないよ」
「…え?」
エンジンを破壊出来ても…堕ちない?
そんな事があり得るのか?
「いやいやカーミラ。 アレはどう見ても宇宙空間で運用する艦船だろ? 宇宙空間でエンジンが破壊されて航行不能になるだけなら分かるが…」
「普通は、そうなんよね」
宇宙空間で運用する艦船の弱点、ソレは大気圏内での燃費と制御の難しさである。 あれらの設計は無重力空間での航行を想定しているので重力圏内を航行すると著しく燃費が悪くなり、操舵性能や速最大度も本来の30%前後の性能しか扱えなくなる。
なので普通なら母艦等は宇宙空間に留まり、大気圏内でも性能を発揮出来る小型中型艦が運用されるのだ。
駆逐艦ならまだしも戦艦級を地上に降ろしてしまったら大気圏内から脱出するのも命懸け。 ましてやエンジンを破壊されれば墜落は不可避である筈。
「アレも元は入植船の機械制御式無人護衛艦。 大気圏内での運用も組み込まれている訳…つまり反重力装置がエンジンに積まれているんじゃなくてエネルギー炉に直接反重力装置が繋がっているの」
「じゃあアレか。 直接エネルギー炉を叩かないと無力化出来んのか」
「うん。 そゆこと」
困ったなぁ…相手は無人機。 甲板も無いし、艦橋も無い…有るとすれば点検用の通路か排熱口だな。
「…まぁ兎にも角にもシールド発生機を潰さないとお話しにならん」
「機械を相手にするのはアタシとヘラルドの方が経験があるし。 …何より火力が下方に集中している設計だからドラジェとヴェニデには上部の対処をさせた方が良い」
「…それは優しさか?」
「…。 ううん…違う」
機体の両手にライフルを一丁ずつ握らせ、射出装置に向かう通路を歩き出すカーミラの背を私は追う。
眠気が抜けた彼女の吐息が無線を伝い、パイロットスーツの擦れる音が聞こえる。
「アタシ達は余所者。 例えこの星がどうなろうとも、やり直しが出来る」
魔導圧縮式射出台の付近で待機していた職員の携行灯に従い、私はBレーンに進み、カーミラは隣のDレーンを進む。
「そう考えるには長く触れ合い過ぎた…。 だから態々あの人達が渦中に飛び込んで行く、それを黙って見ているのは胸糞悪いとは思わない?」
「まぁ…な。」
仕事だと割り切るには大切な人が増え過ぎた。 それも事実の一つだろう。
「償いの道の片隅に咲く花をアタシは…散らしたく無い」
「あぁ…。 だからこそ私達はやるべき事を全うしよう」
やるべき事を成せば成るように成る、そう覚悟を飲み込んで射出装置に脚部を固定し、メインシステムを起動する。
《メインシステム起動。 パイロット人格データを認証しました》
《上位管理権限移行。 オペレーターアナトリアの神経網パターンを認識…同期を開始》
「あ、あ〜…変動神経系回線を解放した。 オペレーター聞こえるか?」
《…。 はい。 こちらオペレーターアナトリア…神経同期安定性を確立。 感度良好ですハービンジャー》
「了解。 死神部隊認識番号GR-02を伝達。 01・03・04との無線同期を開始する」
《特定同時通信の確立を開始》
「通信を確立した。 第一議席・第三議席・第四議席…こちらは第二議席、機体名ハービンジャー。 通信感度良好か?」
視界の端に複数の通信領域が立ち上がり、バイタルサインが流れ始めた。
「GR-01ドラジェ。 感度良好。 暫くの間は平和だったのに最低最悪にゃ〜」
「GR-03ヴェニデ! 感度良好! 愉快な早朝体力錬成の始まりだァッ!!」
「GR-04バレットマスター。 通信感度チョベリグ。 マジでなる早でやっつけチャオ〜…」
射出台が魔力の蒸気を噴き出し、身体を揺さ振る振動と共に迫り上がっていく。
《天井の防護外殻を開きます。 パイロットスタンバイ…》
「ドラジェ。 提案がある、聞いてくれるか?」
「どうしたニャ?」
「私とバレットマスターは撃破目標のシールド発生機を破壊し、内部からの無力化を試みたい。 その為にドラジェとヴェニデには船体のタレット群の破壊を頼みたい…」
下方に集中するタレット群では無く、比較的弾幕が薄いであろう上部へと。
「ソレなら皆でシールド発生機を狙った方が良くにゃい?」
「儂も同感だ。 何故二分する必要がある? 先攻部隊によって狙いが分散している今、態々リスクを増大させる?」
御尤もな意見だ。 相手は戦艦と言えど僚艦も連れていない、艦隊戦の経験がある私に言わせれば良い的だ。
たかが4メートルちょっとしか無い人型兵器を狙い撃ち何て有人機でも難しいだろう。 まぁ…一発でも掠ったら死ぬがな。
「aaa…2人の意見には正直ぐうの音も出ん。 然し機械の相手の経験や知識は俺とバレットマスターに分がある。 …ならば信じて欲しい、私達は決して死なない…必ずやり遂げる」
「「……」」
《射出台、方位計算に誤差修正完了。 発射シーケンスに移行します。》
夜明けが山を這い登り大地を照らし出す。
プラジュナー上空では激しい戦闘音と閃光が絶えず、景色を歪ませている。
「…ハァ。 思う所はあるニャけど…分かった。 ハービンジャー…先駆けでは無く先が欠け、たら許さにゃいからね」
「年長者として…いや、愚問だったな。 バレットマスター!!」
「え!? はいッっ!?」
無線越しだと言うのに張り上げられた教官の声に驚いたバレットマスターことカーミラが上擦った声を上げる。
「教官として助言しておくぞ! 草花は踏み躙られて初めて真価を発揮するものだ! 死なない程度に魂を散らして来い!!」
「りょ、了解であります!!?」
《射出まで残り10秒前…》
「カーミラ。 どうやら心配は杞憂みたいだぞ?」
「う〜ん…そうだけどさ…」
「あぁ…いらん心配って言いたい訳じゃない。 お前の気持ちは尊い物だ、持ち続けとけ…何時か役に立つからな」
一瞬、通信をカーミラにだけ繋いで励ます。 人はいつ死ぬか分からん…せめて考え過ぎない様に助言しておく。
最終的にどうするかは彼女次第なのだから。
《射出…5・4・3…》
各機のメインジェネレーターの唸り声が空気を震わせ、足元の射出機にエネルギーが流れ込み、魔力の蒸気と火花を散らす。
死地は目の前にある、息が苦しい…。
《2…1。 高圧魔力充電完了、射出開始!!》
「ドラジェ出る!」
「ハービンジャー出撃!」
「ヴェニデ発進するぞ!」
「バレットマスター往くよ!」
Aレーンからドラジェが撃ち出され、そのタイミングより一瞬遅れてBレーンの私の身体は射出装置が押し上げるかの様に一気に加速。
そして撃ち出される私に続いてドラジェとバレットマスターもプラジュナー上空の方角へと撃ち出された。
◇◆◇◆
【プラジュナー共和国・ブーゲンビル上空】
《撃破目標の警戒範囲40km内に到達。 死神部隊各機、戦闘モードを起動してください》
「ドラジェ・ヴェニデ。 手筈通りに頼むぞ」
「「了解だ!」ニャ!」
オペレーターの通告を皮切りに更に高度を上げるドラジェとヴェニデの両機を見送り、私とバレットマスターは更に速度を上げながら高度を落としていく。
「ハービンジャー。 …さっきはありがと」
「ん? 何の事だ? 」
「アタシが吐露した事、覚えていてくれたんでしょ」
風の唸り声が揺り籠になる空間に静かに波紋を伝える。
「…気にすんな。 私が勝手にやっただけの事だ」
「其れでも、ありがと…」
接敵まで1分弱、戦艦に群がる先攻部隊の無人機達が一撃離脱を繰り返す様子が見えた。
《メインシステム戦闘モード起動》
「――ッッ!! 行くぞ!」
「モチのロンッ!!」
タレットによって撃墜された幾多のドローンの残骸の合間を縫ってブースター出力を爆発的に上げ、戦艦の下部へと接近する。
《大型グラヴィトンタレット群・中型ポジトロンボルトタレットの掃射来ますッ!!!》
「ハービンジャー! 船体中央部に大型シールド発生機が2基!!」
「渦中へ! 乗り遅れるなよ!!」
豪雨の如く降り注ぐ大型タレットの重力弾と中型タレットの電磁加速弾を無数の無人機と共に突き進む。
天の川銀河で飽きるほど見てきた地獄の再現が今此処にある。
《大型シールド発生機にマーカーを付与しました! ご武運をッッ!!》
「アタシがシールド発生機の防御膜を中和する! ハービンジャーは駄目押しをッ!!」
「任せろ!」
鳴り止まぬ警報音、耳元を歪んだ重力弾の音や加速弾の音が絶えず耳を引く。
メインカメラの最高倍率でやっと姿が見えたシールド発生機、バレットマスターは2丁のライフルを掲げる様に構え、私は右手にエンフォーサーを構えて左手にはハンドキャノン【ガラン・ドゥ】を構え、照準を合わせる。
…機械の身体はこう言う時は便利だ。 恐怖に震えても銃口だけは震える事は無いのだから。
「チャージ…チャージ…、今!」
穿ち、撃ち抜かれ、地上へ落ちて行く無人機の残骸が戦艦の弾幕の隙間を空けた一瞬。 握り潰す様に引かれ、発砲炎を伴って吐き出された弾丸が大型シールド発生機に張られた防御膜を震わせる。
「ハービンジャーッッ!!」
「…視えたッ!」
戦艦からの弾幕、バレットマスターから展開された火力の嵐。 それら全ての動きが緩慢になり、防御膜が無数の弾丸によって僅かに食い破れた所へ…私は迷わず引き金を引いた。
銃口から放たれ、緋色の軌跡を曳くEN弾が防御膜の隙間を縫い、シールド発生機の冷却ファンを貫き内部から爆ぜる。
「泣きっ面にもう一発ゥッ!!」
「そしてアタシからも更に駄目押しィッッ!」
1基のシールド発生機が派手に損壊した余波により、隣接していた1基の発生機の防御膜が吹き飛んだのを見逃さずに私は左手のハンドキャノンの引き金を、バレットマスターは右肩の三連装スマート・スピーダーミサイル【フユカゼ】のカバーを砕く。
六発のミサイル。 一発の小型榴弾。 ソレはシールド発生機を完全に爆炎の最中に沈黙させ、周囲の大型タレットを機能不全に陥れた。
「「良しぃッ!! 調子上って来たァッッ!!!」」
死線が撫でる神経の興奮、有り余った速度に私とバレットマスターは身体を反転し、船体を蹴り上げてブースターを更に吹かして音の更に先を奔る。
弾幕の有効範囲5kmを一瞬で脱し、旋回して次のシールド発生機の破壊を試みる為に死線に飛び込む。
「「何か私達、声が妙に重なってる!?」」
戦艦上部のタレット群を破壊して周るドラジェとヴェニデ。 その様子を時折離脱と肉薄を繰り返す最中に見やりつつ、シールド発生機を撃ち抜き吹き飛ばしていると私達は気付く。
五感が重なり混ざる酷く気持ちの良い感覚に、緊張・怒り・興奮・心拍数がまるで自身の感覚の様に。
「「良く分かんないけど好都合だ! 着剣!!」チャージ!!」
弾倉が空になったハンドキャノンを投げ捨て、ミサイルポッドを脱ぎ捨てる。
人型兵器乗りには幻想共鳴現象、別名【ファンタズム・ブレイン】が時折起こる。 コレは統括する神経同期システムが複数の搭乗者の脳波、神経系を誤って一つの人物と誤認識する事で起こり得る現象だ。
ファンタズム・ブレインによって引き起こされる副作用、それは…。
それは異常な闘争心と白兵戦への固執である。
「アタシ達「私達が恐怖だ!!」」
バレットマスターは左手のライフルを左肩の杭打ち機に持ち替え、私はエンフォーサーにマデューラを装着し、戦艦の先頭下部。 三基目と四基目のシールド発生機へと肉薄していく。
「突いて穿つ!」
「叩き付けて穿つ!」
爆発的なブースターの加速、破壊目標へと向けられた銃剣とパイルバンカーの杭が防御膜に触れ、黒板を引っ掻くような不快音が共に防御膜を散らし、シールド発生機を銃剣の切っ先と杭を伸ばしたパイルバンカーが穿つ。
爆炎と黒煙に紛れ、タレットの合間を飛んで最短距離で最後のシールド発生機の破壊を試みる。 恐らく最後の2基は船体後方下部にある筈だ。
「最後、最後をよぉ…破壊したらよぉ…どっから内部に侵入するんだバレットマスター?」
「後方にある前後推進エンジンの間に点検用通路の扉がある…筈!」
「うろ覚えかよ…」
「コレでも大分記憶が戻って来てるワケよ。 しゃーないでしょ!?」
《死神部隊に緊張通告! 付近の空間に共振反応あり!衝撃に備えて!!?》
最後のシールド発生機を破壊する為に弾幕を避けつつ、大きく旋回していると強い重力波の共振反応に身体を揺さぶられる。
光を歪める程の歪みから出て来たそれは無人護衛戦艦ゼノンの半分程度の全長に、有機的な姿と廃材の集まりの様相を呈していた。
「ふ、ふざけんニャあッ! 2隻も相手出来るかぁっ!?」
「前菜を平らげる前にパスタが来た訳だ! 冷める前に平らげるぞドラジェ!!」
ドラジェとヴェニデは対空砲火を避け、武装のハンドロケット砲と両肩の発射機から霧雨の如く放たれる無誘導ロケット弾は、着実に船体上部のタレット群を沈めている。
…然し、ドラジェの悲鳴に近い愚痴は最もな事実だ。
「無人駆逐艦!? マジやばい…一体何処に潜んでいたのッ!!??」
「オペレーター。 破壊目標の一時変更を通達…此れより駆逐艦の無力化を目指す」
《了解! 主要大型タレット、並びに小型タレットの位置にマーカーを付与します》
「バレットマスター。 これより散開、左舷と右舷を同時に叩く…行くぞ!」
「ガッテン承知!!」
戦艦の弾幕を脱し、後方から戦艦を護衛する様に距離を保つ駆逐艦の出方を見る為、すれ違いざまにエンフォーサーのEN弾を船体部左舷に数発当てて離脱する。
…すると駆逐艦は側面に造設されている対艦用大型グラヴィトンタレット2基、対戦闘機用小型ボルト・リピーダータレットで抵抗する様子を見せた。
「バレットマスター聞こえるか!?」
「感度良好! 何か打開策が見つかったワケ!?」
「あぁ…! 駆逐艦の船体上部、其処に貼り付け!」
マーカーが付与されたタレットの全てを視認し、分かった事がある。
あの無人駆逐艦は前後に小型タレットが四基、両側面に2基。 大型タレットは両側面に2基、下方に2基の合わせて四基。
コイツも例に漏れず、無人艦特有の下方に火力を集中している設計だ。 だからこそ上部が乏しくなる様で、駆逐艦の上部は全長の関係上タレットが設置されておらず、ガラ空きの死角となっている。
「――ッシィ!? は、貼り付けたよハービンジャー!」
「良くやった!! 私も今行く!」
パイルバンカーから再び持ち替え、右舷から2丁のライフルで駆逐艦の攻撃に抵抗していたバレットマスターに上部に貼り付くように指示を出す。
信じられない様な指示に、バレットマスターはおっかなビックリしながらも駆逐艦の攻撃を避けながら船体上部に無事張り付き、私にグッドサインを見せる。
「…あらよっとぉ!!」
「アタシのここ、空いてるわよ! …で、次は?」
当たれば即死のチキンレースを掻い潜り、私もまた駆逐艦の死角である上部に張り付く。
「先ずは死角からタレットをブチ壊すぞ。 そして、かなり危険な賭けだが…絶対に効力を発揮する作戦がある」
「…何か嫌な予感がするんですけど…」
バレットマスターが右側面から身体を乗り出しながらタレットをちまちま破壊し、私も左側面から身体を乗り出してタレットを撃ち抜き、駆逐艦を丸裸にしていく。
「オペレーター。 現在の高度は?」
《現在の高度…約18kmです》
「もう直ぐ19km…!? 普通の人型兵器の与圧システムじゃ耐えられない…!」
「あぁ…私達2人だけは兵器だが、ドラジェとヴェニデは無理だ」
適切な装備が無ければ人体は高度19kmで体液が沸騰して死ぬ。
この星の人間は規格外だが其れでも意識を保つのに精一杯な筈だ。
「だからこれ以上時間を掛けられ無い」
「じゃ、じゃあどうすんの!?」
「コイツを使うぞ」
そう言って私は、駆逐艦の上部を手で叩く。
それに何かを察したのかバレットマスターは無言でライフルのマガジンを新しい物に替え、ボルトを引いて戻して薬室に銃弾を送り込む。
「タレットが無くなって寂しそうなエンジンはもう要らないな」
「エンジンを破壊して上手く事が運ぶかは…確かに賭け、か」
「そうゆう…こったッ!」
私が左舷から赤いエンジンフレアを輝かせる前後推進エンジンをエンフォーサーで撃ち抜き、バレットマスターが右舷の前後推進エンジンに無数の風穴を開ける。
するとエネルギーの行き場を失ったエンジンの基幹部が部品を派手に吐き出し、物言わぬガラクタに成り下がった。
《無人駆逐艦、推進力低下。 停止します》
「やっと浮き輪になったな。 後ろに回るぞ」
「ラジャラジャ…!」
エンジンを破壊されてその場で浮くしかない駆逐艦の後ろへと移動し、武装を背に仕舞い両手を付く。
「メインシステム。 過剰出力排出弁を閉鎖、冷却装置起動しろ」
《承認。 閉鎖プロトコルを限定実施》
メインジェネレーターの過剰な出力内圧が身体を内側から軋ませ、身体から飛び出した冷却装置が赤熱の光でプラジュナー上空に緋色の星を輝かせる。
「ハービンジャー。 準備は良い?」
「モチのロン…だ!」
バレットマスターのメインブースターから幾つもの極大の蒼い光輪が大気を押し退けるように伸ばし、私もまた緋色の光輪を伸ばす。
…私が思い付いた作戦。 それは艦船には艦船を当てると言う、極めてシンプルな作戦である。
タレットや推進エンジンを破壊出来るものの、コレが人型兵器の限界だ。 無論殺ろうと思えば出来無い事は無いが…それは本当にイレギュラーな物だ。
無人護衛艦もまさか身動きが取れなくなった仲間を盾に突っ込んで来るとは予測出来まい。
「「チャージィッッッッ!!!」」
二者択一、去れど人で無し…今だけは十字架背負う者の覚悟の言霊なり。
成す術なく押され、駆逐艦は速度を上げていき…雲を切り、音を唸らせる。
事の重大さに気付いたらしい戦艦からの集中砲火が浴びせられるが私達には当たらず、大型タレットによって駆逐艦が一瞬で見るも無残になりながら火を噴き始める。
撃沈出来ず、回頭し始めるがもう手遅れだ。
「活路は抉じ開けた!」
「後はエネルギー炉を破壊するだけ…。 行こう! ハービンジャー!!」
速度の乗った駆逐艦が戦艦の後尾を拉げさせながら食い込み、巨大な前後推進エンジン2基を押し潰した。
無人護衛戦艦の動きが止まり、高度は約19.8km。 本当にギリギリ…何なら地球人ならもう死んでる。
「オペレーター! ドラジェとヴェニデを安全圏へ。 ハービンジャーとバレットマスターはコレより戦艦のエネルギー炉の破壊を試みる!」
「火力支援は任せて…!」
《了解しました。 ステータス01から02へ移行…警戒態勢を維持。 》
オペレーターの音声を聞きつつ、エネルギー炉に誘爆したらしい駆逐艦が全部から爆ぜて部品を地上に撒き散らし、ゆっくりと墜落していくのを見届けた。
後はもう…やることは決まっている。
「目覚めて早々だけれど、永眠して貰うわ…」
「あぁ…。 もう戦いは終わったと教えてやろう」
拉げた戦艦の後尾から覗かせる点検用通路、その道を高速を維持しながら駆け…エネルギー炉へと私達は目指す。
…お開きにしよう。 戦い続け者達には赤い花を手向けるべきなのだから。
◆◇◆◇
【戦艦ゼノン・エネルギーブレイン】
通路を駆け、進む程に絶えず問い掛ける様な言葉のノイズが響き渡る。
「煩いな…何て言ってるんだバレットマスター?」
「コレは…、アタシ達異星人の…年寄り共の訛り言葉だと思う…。 「徹底的な戦争を・一心不乱の略奪を・汚し犯して身も弁えぬ狂乱の戦争を…」と、ひたすら繰り返してる…。 まるで気狂いの戯言、ね」
…戦争大好きかよ。 戦争の何が良いのか理解に苦しむな。
「中々に狂ってんな…。 企業戦争の産物がよ」
「不愉快だしさっさと終わらせないとね。 …まあ、一筋縄ではいかない気がするけど」
暫くの間、ガードメカ等の妨害も特に無く…嫌な位に順調に進んでいる。
まるで招かれていると錯覚してしまいそうだ。
「aaa…糞、不気味なくらい何もねぇな…」
「一応、点検用通路だし。 記憶が確かなら操舵室も無いからさ、警備ロボも置いてなかった気がする…」
一時の不安を口ずさんでいると、視界の先に通路が無いのが見えて思わず足を止める。
切り取られた様に道が途切れ、端から下を覗くと薄暗い底だけが見える…有るとすれば端から伸びる2本のレールのみだ。
「何だ…道が無くなったぞ?」
「ここから先はエネルギー炉。 遮蔽壁によって区切られた道になるし、普通じゃ通行出来ない様になってる感じ何だよ」
「じゃあ飛んでくか…。 身体を彼方此方にぶつけそうだがな」
今の私達では通り過ぎる分には余裕があるが、飛行する分には少々狭過ぎる。
「ミキサーに切り刻まれる果物じゃないんだから【グラインド・レール】の出番ね」
「グラインド・レール? 何処かに乗り物でもあんのか」
此処までは曲がりくねった一本道、トロッコを動かす様な設備は無かった筈だが…。
「あぁ…ハービンジャーは知らなかったね。 グラインド・レールに乗るのはエネルギー炉に向かう、その人自身だよ」
「うむ。 あ〜…正気か? 綱渡りの要領で進んでたら日が暮れてしまうぞ」
日系の宇宙コロニーで昔、聞いた事がある…。 債務者が返済に苦しむと鉄骨を命綱無しで歩き、渡り切るとそれで返済代わりに出来たと。
…それと似た感じなのか?
「…まぁ兎にも角にも見てて」
そう言ってバレットマスターが一本のレールに脚を掛けた瞬間、その機体は物凄い速度でレールの上を滑り出した。
「何それ!? 滅茶苦茶オモロそうじゃん!」
「速く来ないと、アタシ一人でエネルギー炉をぶっ壊しちゃうからね〜!!?」
「待って今行く! 」
どんどん遠ざかる彼女を見て、私は同じ様にレールに脚を掛ける。 すると足裏から引っ張られ感覚と共に身体がレール上を滑る様に走り出した。
「コレは一体どんな仕組みなんだ!?」
「グラインド・レールには指向性の強力な磁力が働いているの! だから本来は金属製の安全靴で乗って移動するって訳よ!」
足裏が小刻みな振動と火花を散らして前へ前へ進む。
前に重心を傾けると速度が上がり、逆に後ろへ重心を傾けると速度が下がる。
…煩いのが難点だが、移動に関しては慣れてしまえば怖くないな。
「銃を構えてハービンジャー。 いよいよエネルギー炉に到達するよ」
「バックアップは頼むぞ…」
底の無いレールを滑り、幾重にも分けられた遮蔽壁を越える。 すると私達の視界に映るのは巨大な球体状のエネルギー炉、そしてその周りを這う様に張り巡らせられた4本のグラインド・レールだった。
「これはこれは…」
「朧気な記憶をぶん殴りたくなる位にはデカい…ッ!」
この規模のエネルギー炉なら防衛機能も相当な物を搭載しているだろう。 aaa…どうぶっ壊れるか…見ものだなぁ? ハハハッ!!
「先手必勝ぅッ!」
構えたエンフォーサーの引き金を引き、銃口から緋色の尾を引きながらEN弾が吐き出され…巨大なエネルギー炉の表面を傷つける。
…すると赤い警告灯の光と警報音がけたたましく鳴り響く。
《侵入者を検知。 防衛フェーズに移行…排除します》
「…ッ! 何か来るよ!」
「レールを乗り換えながら殺るしか無いなッッ!」
エネルギー炉に向かってひたすらに引き金を引き続け、隣を並走するバレットマスターもまた、引き金を引き続けて薬莢を底へと降らせているとグラインド・レールを逆走する様に電撃の塊が疾走してくるのが見え、咄嗟に私達は二手に別れて左右上下が分からぬレールへと飛び移って滑り続ける。
目まぐるしく変わる視界、繋がり変わり迫る死線、その様は正に序曲の管楽器の静かな殺意だ。
「aaa…機械の辛い所は命令で雁字搦めに成っちまう事だと思わんか! えェ!?」
「デカい的。 土手っ腹に穴を空けやすくてマジ助かるわッ!」
グラインド・レールの進行上、必ずエネルギー炉が目と鼻の先まで接近する瞬間が訪れる。
硝煙と金属ヒュームの咽る銃火を絶やさずに。 然し、銃剣の残光を…パイルバンカーの祝砲を贈り奏でる。 命の熱を絶やさぬ様に。
《脅威度修正。 防衛フェーズを再試行》
「行動パターンが変わった!?」
「モチつけ! レールを飛び移って引き金を引き続ける事は変わらん!!」
序曲は協奏曲へと移行し、レールを奔る電撃の塊の他にエネルギー炉の表面を半透明の障壁が這い回り始めた。
「そんな障害物でアタシの銃弾が防げると思って――ッ!」
バレットマスターが放つ銃弾が半透明の障壁を砕くかと予想された…が、それは銃弾の弾道を予想を覆す様に反転させて四方八方へと飛び散らせる。
「大丈夫か! アレは恐らく反射シールドだ! 障壁のない部分を狙うしか無い!!」
「クッソ…! 装甲板が傷付いたじゃない!!」
いきなり始まった針の穴を通すかの如き技の要求。
だが、やる事は変わらない…撃ち抜き続ければ何時かは堕ちる。
撃って撃って穿ち…。 突いて裂いて斬り裂いて…。
上を下を左右を、滑り抜けて行く。 その度にエネルギー炉の損傷が広がっていき、至る所から火を吐き出す。
《防衛…bo□■□。 フェーズズズ…》
「「いくぜ駄目押しッッ!!」」
バレットマスターがパイルバンカーを構え、私はエンフォーサーの出力を限界まで引き上げる。
《エンフォーサー。 過剰出力充填を開始…》
冷却装置が開き、唸り声を上げながら緋色のエネルギー残滓を散らす。
エネルギー炉は最後の抵抗とばかりに反射シールドを全体に纏わせる。
「人間を舐めんなよ…」
こうなった以上、至近距離での近接攻撃のみが通用すると思われがちだが…チャンスは確実に存在していた。
損傷による反射シールドの揺らぎの一瞬、僅かな隙間が出来ている。
…狙うなら其処だ。
「タイミングは任せるよ…ハービンジャー」
「あぁ…!」
奔る電撃に2つの残光、注射器に不幸を促す様な幸福と金属の擦れる福音。
私達は死に口付けを、欠けた自意識の懺悔を垂れ流し、全ての死を願い、自らの幸福を願いながら蜘蛛の糸に縋る。
結局の所は金属から散る火花が可視化する幸福の残響を、端から垂れる錆び混じりの不幸の涎を指で掬い取り、舐め取るだけだった。
「今だッッッ!!!」
「――フォレ・ボーレンッッ!!」
引き金に擦れて痛む人差し指は、確かな瞬間を掴み…エネルギー炉を覆う反射シールドの一瞬の揺らぎを捉えた。
銃口から緋色の閃光を曳き、本を捲って栞を挿し込むように…。
エネルギー炉を貫いた。
一瞬の静寂が、その後に吹き返す様に引き出された爆炎と衝撃波がエネルギー炉の外殻を完全に吹き飛ばして中心部のエネルギー臨界核を曝け出す。
外殻の残骸が降り注ぐ最中に露呈した致命傷をバレットマスターは見逃さず、左手に持ち替えられたパイルバンカーの杭を当て、臨界核を穿ち弾いた。
「目標の破壊を確認! 堕ちるぞ!」
「反重力装置の機能不全も確認。 ハービンジャー! 早く退避しないと私達までぺちゃんこになっちゃうよ!!」
エネルギー炉が破壊された事で足元のグラインド・レールを流れていた指向性の磁力が消えたので滑り続けた足裏の痺れを解す様にメインブースターを吹かし、滞空しながら足を擦る。
今日も何とか死なずに済んだ。
「それもそうだな。 一刻も早く脱出を――」
エネルギー炉の浮かぶ空間が小刻みに揺れながら自壊し始めたのを見て、私がバレットマスターへ脱出の号令を掛けようと顔を向けた直後、自壊し始めた空間に激しいノイズが駆け巡る。
《さいィィ、終ゥウウ。 プロプププコトル、ロコトル始動ドウドド。 自爆開始…シシ三十秒ママ、エ前…》
「「自爆ぅッ!?!?」」
そんな余力が一体何処に!?
「そんな…! 臨界核は砕いた筈」
「いや、まさか…あ! アレを見ろカーミラ!」
突然の自爆プロトコルの音声に戸惑いながら視線を四方に動かしているとエネルギー炉の根元付近で蠢くナニかを見つけた。
カメラの倍率を変え、目を凝らすと…其処にはこの星で何度も見た黒い膿。 深淵の呪いが根元付近を覆い尽くす光景が…。
「ッッ!! 絶対に振り返らず逃げろォッ!!?」
「…りょッ!!」
《死ね。 死ねしねシネシネシネシネシネシネシネシネシネ…》
叫ぶ様にバレットマスターへ脱出を促し、背中に広がる冷たさを振り払う様に全力で点検用通路へと飛び込む。
呪いの怨嗟を垂れ流す機械音声を無視し、通路の壁や天井に身体をぶつけながら全力でブースターに出力を注ぐ。
息が苦しく、肺が破けそうな痛みを飲み込み、来た道を駆け抜ける。 熱が背中から遙か先の出口まで飛び抜けていき、爆炎の圧力が背中を押す。
「ヤバい! ヤバいぃッ!!」
「死ぬ気でジェネレーターを! ぶん回せッ…!!」
私の防護シールドとて今は無傷だが戦艦の爆発に巻き込まれたら一撃で吹き飛ぶし、何なら身体が鉄屑に早変わりだ。
後ちょっと…! 頼む頼む頼む…! 爆散するのは待ってくれ!!
「「うおぉォォォォッッッ!!!」」
出口の光に手を伸ばし、爆炎が背中を突き飛ばす様に私達を戦艦の外へと押し出したのを自覚したのは空中に投げ出され、船体の中心から捻じれて爆散した戦艦の姿を背中から落下する最中に見届けた瞬間だった。
「ヤバいってコレェッ!?」
「aaa…排熱限界だ。 最早これまで…死ぬ前にまた、食事をしてみたかったァァァ〜…!」
全力を出し過ぎた事が祟ったのか、私とバレットマスターはブースターを吹かせずに錐揉み回転しながら地上へと落下して行く。
視界の端にはオーバーヒートの警告灯が点滅しており再起動にはクールタイムが必要。
…つまり積みである。 この高さからの落下は私達の機体では耐えられるとは思えない。
《ハービンジャー!? バレットマスター!? 今、収機による空中回収を試みます! 姿勢をどうにか立て直して!!》
タイミング良く? オペレーターとの通信が再接続され、姿勢を立て直す様に言われる。
…簡単に言ってくれるが今は姿勢制御ブースターも吹かせられんのよ。
「バレットマスター…! サブジェネレーターを姿勢制御ブースターに回せッ?! 回転が、止まる筈…だ!」
「ちょっとやって見るぅ…!」
《メインシステム。 防護シールド機構を一時停止…スタビライザー回路弁への接続を開始…》
身体を覆う防護シールドが消失し、サブジェネレータの出力が緊急動力回路へ唸り流れて行く。
数度の空吹かしを得て関節部のブースターが緋色の羽根を吐き出したので錐揉み回転を繰り返す身体を立て直し、回収体勢を維持する。
「此方は回復出来たぞ。 手伝おうか?」
「モーマンタイ! 今出来る所…! 」
ジャムを塗ったパンが落ちる様に回り回っていた身体を何とか立て直し、バレットマスターの方を見るとあちらも何とか体勢を立て直せた様だ。
「バレット…、いやカーミラ! 私の手を取れ…!」
「よい…しょっ! 届いた!」
武装を背に仕舞って左手を体勢を崩さぬギリギリまで精一杯伸ばし、バレットマスターの右手を握る。
《回収機、間もなく現着。 体勢を維持し、待機を》
「「了解した」」
全身に風を受けながら高度を落として行く、すると視線の先に黒い点が現れて此方に急速に接近して来る。
「英雄様〜迎えに来たよ」
「来ちゃった〜」
「おぉ! セレンディ、ジャイト! 助かるよ」
「ヴァレス級宇宙兵員輸送艇じゃん!? 良く復元出来たねあんな骨董品」
落下し続けている私達の元へ、元気いっぱいの姉妹の通信と共に平べったい宇宙艇が近くまで接近する。 然し、此方は落下を続けているので姉妹は器用に船体の後部を此方に向けながらランプドアを開く。
「二人仲良しで乗って!」
「なる早だよ、なる早〜」
「おう、今行くぞ〜…」
「帰ったらシャワー浴びないと…もう全身びっしょびしょ」
バレットマスターの手を握っていた左手を腰に回し、抱き寄せて輸送艇の中へと転げ回る様に私達は回収される。
…ミッションコンプリートって訳だ。
《機体の収容を確認しました。 お疲れ様です、任務完了を全部隊に通達…、これにて通信を終了します》
「ふぅ…。 今日も死に損なったか」
「…何か言った? ヘラルド?」
「ん。 何でも無いさ…」
戦闘モードを通常モードに移行しつつオペレーターとの通信を切断し、床に膝を付く。 輸送艇の振動を、視界を閉じて只々それに神経を這わせる。
疲れから零れ落ちる余計な言葉は大切な人を傷つけてしまうから。
【寵愛の鎧】 鈍色の騎士ハームスの鎧 くすんだ表面には寵愛の女神を象徴する右手が隙間無く彫られている。 誰にも愛されず 誰も愛さなかった騎士は いる筈も無い女神を愛したと言う 君、唯愛だけを想うが良い。
【偶像の火種】 火山島の奥底で眠る火種 常に熱を帯びており 受領した者の魂を その姿をも変質させる。 誰もが抱く恐怖 それは不確定的な明日であり 何時か露見するであろう自身の本性である その惨めな物を覆い隠すのも限度があり 故に渇望してしまう その、ありもしない生まれ変わりを




