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醒めない悪夢は無い


 【傀儡の】 虚空から伸びる糸に繋ぎ止められた鯨の白骨体 身体を支える糸と共に悠々と虚空を泳ぐ。 深淵は鯨の微睡みさえ呪い歪める どれほど泳ごうとも先は無く 有るのは深海の闇でも無ければ大海原の光でも無い 唯の虚しい生の呪いであろう。


 【千本骨の呪縛者】 馬の白骨体が幾重にも押し固められ 腐肉と呪いを撒き散らす 悍ましき者 下半身は無数の脚が絡まりながら虚空へと伸びる。 呪縛者を吊るす糸は 怨嗟の幻影か 聞こえるだろうか 彼らの悲しき蹄の音が 生と死を弄ぶ先に終着駅は無く 未だ夢見る平原には着かない


 



 作戦開始時刻となりました。 本日はオペレーターである母に変わりまして私、アナスタシアが務めさせて頂きますので宜しくお願いします。



 …本作戦はプラジュナーとサルヴァの両国の合意に基づいた共同作戦となります。


 場所はプラジュナー領【ヘブンスカー古代森林群】、貴方(ハービンジャー)には先攻部隊と共にデーモンと人工竜機兵の混成部隊の殲滅を主目標として本作戦を遂行して頂きます。


 又、貴方を除いた死神部隊の隊員にはヘブンスカーの外縁部に出現した呪縛者達の掃討作戦が予定されています。



 今回の作戦は深淵の兆し、その発生点を見極める重要な作戦となります。 必ず生きて帰って来てください…深淵に縛られ、死ねぬ者達へ正しき死と安寧をどうか…お導き下さい。



 


 ◆◇◆◇


 巨大な輸送用武装ヘリコプターのタンデム式ローターの独特のエンジン音と振動に揺られながらメインシステムの報告に耳を澄ませる。



 《機体バイタルチェックシーケンス正常に進行。 防御機構サブ・ジェネレーター還流圧…150%。 修正出力誤差0.034%》


 《照準アシスト機能動作チェック中…。 …正常動作を確認》


 《メインジェネレーター点火。 エネルギータービン動作圧力値オールグリーン。 出力制御棒のエネルギーバランサー基準値内です》


 

 「まさか輸送用ヘリコプターに揺られながら作戦領域に向かう事になるとは…」


 「英雄様…どう? 乗り心地」


 何百年振りの独特の振動に酔いそうになり、誤魔化す様に視線を床に向けているとセレンディが耐圧スーツの上に防護服を着込んだ状態で覗き込んで来た。 


 小さく細みのある身体は安全具によって倍近い厚さになっており、手足も防護仕様の為に分厚くてとても重そうだ。


 「こりゃぁロバに跨っていた方がマシだな」


 「でしょでしょ〜。 慣れるのにだいぶ苦労した…」


 「凄いじゃないか。 …まぁでも慣れちゃうと眠くなっちゃうんだよなぁ」



 ケロッとしてるセレンディを見るに大分苦労したみたいだな…僅かに香るミントの匂いが良い証拠だろう。


  「所でジャイトはどうしたんだ? 一緒にいるんだろ?」


 「あっちで搭乗する兵器の最終点検してる〜…」


 「ほぉ、関心関心…」


 顔を上げてセレンディ姉妹が搭乗するであろう戦車に目を向ければ其処には二重履帯式の足回りが合計四組八本にもなる強襲を意識した足回りに、武装はバルカン砲二門・スペクトラム重陽子拡散砲一門・実弾式28連装ロケット砲一門が搭載されている外見からも分かる程の重武装が施された戦車が其処に鎮座していた。


 その出で立ちはまさに要塞と言っても差し支えないだろう。


 「うわぁ…いや、すっごいデカいな!?」


 「スネイルおじさんが発掘したから乗って良いって言ったの」


 「こんな物が埋まってたんか…やっぱ凄いなこの星」


 私の何倍もある全長と横幅も有るのだからきっと私なんかより何倍も活躍してくれる事だろう。 それに比べれば此方は数ある量産機の最後の生き残りに過ぎないし、装甲や武装からしても雲泥の差が明白だしな。


 「そんでジャイトは何処だ…?」


  

 「ん、ジャイトー…」

 

 「僕は此処だよここ〜、最終チェック完了。 内燃式発動機の機嫌は良好、まるで猫が喉を鳴らす様だよ」


  

 私とセレンディの呼び掛けに応じたジャイトが戦車の後ろから顔を出し、かなりの高さのある上部から飛び降りた。


  輸送用ヘリの揺れる床を物ともせずに足裏から床に着地し、ふくらはぎから太腿と尻、背中を使って衝撃を和らげた五点着地…素晴らしく見事だな。


 「やけに手慣れてるじゃないか。 さてはジャイト、日常的に使ってるだろ」


 「えへへ…この着地法なら食堂から寝床までの道のり最速なんだよ」


 「「えぇ…」」


 姉のジャイトと一緒に困惑している手前、こう言う事は言いたく無かったが…。


 「セレンディ…お前さんの妹はその、個性的だな!」


 「ん、褒め言葉にも慰めにもなって無い」


 

 「えへへ…褒めたって何も出ないよ姉ちゃん、ヘラルド様」


 「「危ないから辞めなさい」」

 

 「えー」



 本当にこの星の人間は良い意味でも悪い意味でもストイックなんだよなぁ…地球の何倍の身体能力があるヒヤヒヤのは知ってるが見ててしてしまう。


 《先攻部隊へ通達。 作戦領域内への降下まで残り190秒となりました。 各自待機せよ》


 「「「了解」」」


 無線からオペレーターの緊張して無機質気味になった声を聞き、私とセレンディ姉妹はお喋りを切り上げて自らの定位置へ戻る。


 …いよいよだ。 まだ私は死ぬ気は無い、好きに生きて理不尽に死ぬには未だ早い。


 私なら…私達ならきっと大丈夫だ、その筈なんだ。



 「あ、あーマイクテストマイクテスト…ヘラルド様? 聞こえていますかどうぞ」


 「あぁ、感度良好。 作戦遂行中の此方のコールサインはハービンジャー…ハービンジャーと呼んでくれ」


 「了解しましたハービンジャー。 此方のコールサインは【プロペレンス】」



 ハッチが軋む音を立てながら開き、風が埃を勢い良く攫っていく。


 眼下には生い茂る熱帯雨林の如く広がる木々の大海原が姿を見せる。 耳を澄ませばヘリのエンジン音と風の唸り声に混じって全てを恨むかの様な怨嗟と救済を渇望する声が聞こえ、方や匂いには不穏な未来が硝煙と共に一層と漂っていた。



 



 ◇◆◇◆



 《先攻部隊、降下地点内に入りました。 エントリーを実行せよ!》


 

 「aaa…目標は既に此方を捕捉し対空砲火を開始! 最低高度で降下ブースターを点火せよ!!」


 「了解! プロペレンス降下! 最低高度でブースターを点火!」


 「そうだ行くぞ! 地獄の遠足の始まりだぁっ!!」


 《メインシステム戦闘モード起動》


 作戦領域内に到達するなり無数の人工竜機兵と呪縛者による苛烈な対空砲火に、無人機達が爆弾を投下しながらも次々と爆風と破片を撒き散らしながら撃墜されるのを見ながら私達は勢い良く重力に従う。


 プロペレンスが降下するのと同時に輸送用ヘリに人工竜機兵の陽子砲が直撃して後部が破断し、炎を噴き上げながら錐揉みながら私とプロペレンスの間を縫って森の中へ消えて行く。


  「あ…落ちちゃった」


 「誰かが死ぬよりマシだ。 おらよッ!」


 降下する緊張の最中に紡いだセレンディ姉妹の名残惜しそうな声を聞きつつ安全装置を切って主武装であるエンフォーサーを構え、此方に陽子砲を放とうとする2体の人工竜機兵の喉元に向かって引き金を引く。


 メインジェネレーターから供給されたエネルギーは穿つ事に特化した緋色のEN弾となって一寸の狂い無く人工竜機兵の喉元を貫き、行き場を失ったエネルギーが動力炉に逆流し周囲の人工竜機兵と呪縛者達を巻き込み爆発する。


 「アチチでメラメラだ…」


 「意外と乾燥してないから助かるな。 オペレーター、森林火災は広範囲で延焼中…火消し出来る奴を後方で待機させてくれ」


 《了解。 鎮火作業部隊を後方に待機させます》


 爆発に伴う爆風は巨木を薙ぎ倒すだけではなく地面の枯れ葉や乾いた木々の表皮を燃料に燃え広がっていく、降下中にもヘブンスカーの外縁部と内縁部で黒煙や魔力による火の手が見えたので戦況は混戦状態と見るべきか…。


 

 「降下ブースター起動。 戦闘システムオンライン」


 「先攻部隊。 コレより掃討作戦を開始する」



 《右肩のENオービット【アド・セクター】自動戦闘モード移行します》


 

 プロペレンスの分厚い装甲部、その左右の側面に装着された降下ブースターが落下速度を落とす為に下方に向けノズルから凄まじい噴煙を地面へと叩き付け、箒状に可燃ガスと炎が倒壊した樹木や人工竜機兵と呪縛者達だった残骸を四方八方へと吹き飛ばす。


 

 「図体がデカいとやはり、小細工如き撃ち方では仕留め損なうか」


 

 先程の爆発から運良く生き延びた人工竜機兵の数体が拉げた手足を動かし、胴体から溢れる内臓を引きずりながらも此方に陽子砲の照準を合わせて口を開く。

 

 

 このままでは私もプロペレンスも着地のタイミングで瀕死の状態に成りかねないので右肩の武装を起動する。

 


 EN弾式オービット、アド・セクター。 自動追尾、射撃の両者を熟す箱形の収容機に収容されているアド・セクターは実弾式オービットに比べてストッピングパワーが少ない上に実弾式よりも威力が低い点が欠点とされている。


 然し当然利点もある。 実弾式オービットはENオービットよりも巨大である為に両肩の武装ハンガーに最大四基しか搭載出来ないがアド・セクターは両肩の武装ハンガーに搭載すれば最大12基と言う圧倒的な搭載可能数を有している。


 他には実弾式オービットは武装ハンガーから余り離れて戦闘する事が出来ないがENオービットならば実弾式よりもある程度大きく離れて可動し、目標を囲い込む様な戦闘が可能なのだ。



 そして私が実弾式オービットよりもアド・セクターを気に入ったのは稼働時間の長さである。 実弾式オービットは発熱量が大きく、余り長時間の運用では再び使用するのに時間が掛かる。 然しアド・セクターのENオービットならば1基辺りの発熱量は少ない上に再使用時間が実弾式よりも半分の時間で済むので火力支援に於いてこれ程便利な武装は他に余り無いだろう。



 「早速お手並み拝見と行こうか!」


 背中のブースターを吹かして落下速度を超え、炎に悶える人工竜機兵へと加速する中で右肩のアド・セクターの収容機から射出されたENオービット6基が私の背を越え、青い残光を曳きながら飛んでいき銃口から一定の間隔を守りつつEN弾を放つ。


 細くとも無視し切れない攻撃に人工竜機兵は思わず口を閉じて腕を滅多矢鱈に振り回したり、溢れる内臓を千切っては投げてENオービットを迎撃しようとするが何せ小さい的、当てるのが難しいのか振り回す腕や投げられた内臓は虚空を切るだけである。


 

 「「■□■□■■■◁▷◀◀ッッッ!!?」」


  「泣きっ面にはもう一撃…等と言うは無粋か」


 

 アド・セクターによって此方を向いていた視線が途切れた瞬間を見逃さずにジェネレーター出力を爆発的に上げ、首元に飛び込む。


 「aaa…眠れよ良い子も悪い子も」


 左手に握るレーザーダガーであるマデューラを構え直し古ぼけた装甲へと突き立てる。 機体の加速を殺さずにマデューラを突き立てた事による遠心力が左手を起点に働き、人工竜機兵の首元を通る動力経路を回り込む様に焼き切る。


 「正しい死が暖かな風を呼ぶ」

  


 「◀◀◀▷▷◁■■ッッ!!!」


 遠心力によって投げ出された私を叩き伏せんともう一体の人工竜機兵の腕が上段から下段へと振り下ろされる。


 真上から迫る腕を右半身のブースター出力を上げ、意図的に身体のバランスを崩して地面へ向かう斜め左下の回転状態を作り出す。 それにより接触する腕の中心点から私の身体は弾き出され、腕は地面を叩いて砂埃と衝撃波を扇状に広げるだけに留まる。



 「しかし、その選択を悔いずにはいられない」


 弾き出された身体を素早く立て直すが人工竜機兵の方が一枚上手だった。


 見上げた時には既に陽子砲の充填を済ませて開口された口から極光が視界を照らしていた。 頭部を削るアド・セクターを顧みず、振り下ろされた腕さえもこの一撃の為のブラフ…一杯食わされたみたいだな。


 「来いッッ! 受け止めてやる!!」


 「◁◀□■? ◁◀◀◁■」


 白昼の太陽光を一瞬奪い去り、一息遅れた全ての音が金切り声を上げながら陽子砲の奔流が私を守る防御シールドに照射される。


 「aaa…クッソ痛いじゃぁねえか。 心地良いよ…」


 防御シールドに当たり、流星群の如く散らばる陽子砲の運動エネルギーによって瞬時に高温のプラズマになって私の足元以外が蒸発…若しくは掻き消えていく。


 《防御シールド急速に損傷しています!? 回避してください!!》


 致死量の放射線と高熱の爆風がプラジュナーの森の木々の一部を消し炭にする…が、私はまだ死なない。 まだ死ねない、装甲がゆっくりと蒸発していき全身が激痛に苛まれているというのに。


 「■□□◀◁◁◀…」


 「私の勇姿を見てろよ嬢ちゃん! お前の母、アナトリアはこんな事じゃ動じねェェゾおぉオォッッ!!!」


 《メインシステム。 出力制御棒全開放》


 背中の制御棒を開放し防御シールドの出力を限界まで引き上げる。 白銀色に輝く陽子砲に削られて絶えず軋むシールドはそんな白銀色の奔流の中で出力が上がり、より蒼く深く輝きを増す。



 「◀◁◀◁□□■■?」


 「お前さん、何故此処までするか分かってないな。 私とて回避出来るならとっくにブースターを吹かして回避してるさ」



 戦闘時間は凡そ数十秒が経過した…もう来るよな?


 「君がそうした様に私も既にブラフを作り上げていたのだよ!」


 「■□■■■!?」


 此奴は私を優先破壊目標として上空から落下するもう1基の存在を失念してしまった。


 「■□■□――」


 「ハラショー!」


 「先攻部隊の大目玉見参って所だな。 …もう聞こえちゃいないだろうが」


 凄まじい轟音と衝撃波が防御シールドを揺らし、陽子砲の照射が止んだ事で晴れた視界に映るのは頭部だけを残してプロペレンスに潰された人工竜機兵の姿だった。


 恐らく数千トンの重量がある巨大な戦車が高高度から降下してきたのだ。 降下ブースターの補助があったとは言え、こんな重量物が生み出しうる運動エネルギーは私でも一溜まりも無いだろう。


 切っ掛け一つで私が押し潰されていたかも知れないと考えると…やっぱり無茶はするもんじゃないな。


 《防御シールド残量…残り46%です》


 「プロペレンス。 母なる地上へお帰り、どうだ高高度降下は? 内臓がヒューンってなったろ」


 「グワッてなってヒューンで楽しかった〜」

 

 「ぼ、僕は暫くの間はちょっと勘弁だよお姉ちゃん…」

 


 前方の武装操縦席と後部の操舵室の分厚いハッチが開いてセレンディが嬉しそうに飛び出て来る。 ジャイトの方は…ありゃぁ完全にグロッキーだな。


 兎にも角にも無事に降下出来たので任務はデーモンを相手取る段階に移ることが出来る。


 外縁部で任務を遂行する私以外の死神部隊の為にも人工竜機兵とデーモンは出来る限り撃破していかねば…。


 《メインシステムより報告。 付近に情報デバイスの信号を確認》


 「情報端末が近くに?」


 「どったの? 英雄様?」


 「早く進軍してデーモン達を轢き潰そ…サーチアンドデストロイぃ〜」


 「ちょとまってな…オペレーター。 そちらからスキャンモードを遠隔起動して信号の発信元を調べてくれ」


 《少し待ってください…。》


 私とプロペレンス以外は地に足を付けている者は遠目では見えず、視認出来るのはジャイアントセコイアの如く聳え立っている巨大な木々と野鳥と虫虫の生き姿だけである。


 《信号の発信元が判明しましたよハービンジャー。

 人工竜機兵の頭部…その内部から信号が出ているわ》


 「うわマジか…いやぁこれ…開くか、一応」


 「生首をバラす?」


 「それが今日の夕飯?」


 オペレーターに信号の発信元を告げられて人工竜機兵の頭部を見やる。 確かにここ以外は無いが…捌かんと取り出せんよな。


 …正直余り人に近い形の物は弄くりたくないがやるしか無い。


 「料理となると流石に私にもコレ(人工竜機兵)は手に余るよ。 少し頭をバラして情報を頂くだけだ」


 「お姉ちゃん、僕お腹すいた…なんか無い?」


 「んー…あ、エナジーバーならあるよ。 ンショ!」


 「はいよ。 ん〜美味」


 「お前ら意外と図太いのな」


 小腹を満たし始めた二人を他所に私は人工竜機兵の頭部にレーザーダガーで側頭部から頭頂部を横断状に切り込みを入れ、装甲から強化人工皮膚…金属製の頭蓋骨を切開していく。


 「チッ。 電動鋸が有れば良かったんだが」


 「お姉ちゃん、コッチは丸缶のチョコレートがあったよ」


 「…ん、一缶頂戴」


 「未だ作戦中だ。 食べ過ぎて吐くなよ」


 「「ダイジョブ!」」


 「ホントかよ…」


 慎重に切り進め、頭蓋骨取り除いたそこには硬膜が姿を見せる。


 …星外文明人達はこの兵器を何処まで人に近付けたのだろうか。 遥か昔、もしかしたら彼らには意思も感情もあったのかも知れん。


 「やっと脳みそが見えた。 良い子には見せられんなこれ」


 「おぉ~。 今日は帰投したら焼肉定食頼もう」


 「僕…もうお腹空いてきちゃった」


 「aaa…人の心とか無いんか…?」


 もうこの野次馬二人組みには突っ込まんとこ、私の常識と倫理観が崩れそうだし。


 

 戦車から覗いて来るセレンディ達から人工竜機兵の脳みそに視線を戻し、硬膜を切裂いて恐る恐る手を入れる。


 脳漿で湿る手に思わず無い筈の顔を顰めて情報端末を探す為に彼方此方に指を這わせると硬い何かが指先に触れたので慎重に取り出す。



 「コレだな」


 信号の発信元だと思われる脳漿塗れのカセットテープ位の大きさがある黒い箱が手に収まる。


 側面には接続端子やコネクターらしき部品が存在している事から誰が意図的に人工竜機兵の頭部内に入れたのは確実だろう。


 「オペレーター見てるか? 情報端末の摘出に成功した。 解析を頼む」


 《見事な手腕でしたよ。 解析班に情報を解析させていますので少しお待ちを…》


 「プロペレンス! そろそろ任務は第二段階に移る。 こっからはどれだけ人工竜機兵とデーモンを倒せるか競争だ…数によっては焼肉定食でも何でも奢ってやる」


 「本当!?」


 「やった〜。 でもハービンジャーが勝ったら何奢れば良い?」


 「私が勝ったら? …そうだなぁ、ジェネレーターのオーバーホールを手伝って貰おうか」


 《解析完了しました。 破損データを補完しつつ表示します》




 ◇◆◇◆



 



 □□■□Y−0851惑星 ■□■の生物兵器への注入実験報告書。


 1%〜10%濃度時の性能変異――言語中枢の中度の発達を確認。 幼児レベルの思考パターン変化が見られる。


 戦線への投入試験の為、第三地下壕への輸送指示指令を第34□■■■□指揮官へ伝達。


 以下プロトタイプ・オデッセイ実験計画の続行承認。



 20%〜60%濃度時の性能変異――言語中枢、並びに思考パターンの高度な発達を確認。 認識知数テスト結果良好。


 実験計画□■□月◀◁◀日未明、複数個体にて命令への激しい拒絶反応を確認。 鎮圧部隊◁□□■による収容違反の対応にて□■□名の死傷者が出た為、命令プロトコルの更新を施行。


 脱走個体は第5支部□■■■に輸送し、封印凍結処置とする。


 異常個体の解剖を実施。 本来存在し得ない前頭前野、大脳辺縁系の異常増殖が確認された。


 この発見は前代未聞だ…もしかすると□■■□は本当に不老不死に、◁◀◀◀にだって成れるかも知れん。。。



 我々は神となる準備が出来た。


 

 70%〜95%濃度時の性能変異――殆どの個体にて起動不良が発生。 

 

 解剖結果。 人工内臓の異常増殖による多臓器不全と見られる。


 異常細胞切除後も異常増殖が進行、BSL-4に昇格。 本部への対生物災害部隊へ緊張要請。


 隔離区域を黒い膿状の物質が侵食 全ての隔離区域の遮蔽扉が作動。


 複数名の研究員、防衛隊員から不可解な幻聴の報告あり。 


 曰く心臓の鼓動…囁く声、赤子の鳴き声が聞こえる等の報告が多数寄せられる。


 然しその様な事象は確認出来ず、確認出来たのは海のさざ波だけの音だけだ。


 主任■◀■並びに研究員◁◆◆□□、◁◁◁◆◆◆、□■□◀、■◆■◆◁の感染を確認。 対生物部隊長■◀■□□、その他複数名の隊員が死傷。 


 本部は□◀時◀□分◆◆秒。 残存する人間ごと封印処置を決定。




 ――海がそこまで迫っている。


 


 ◆◇◆◇



 「確認完了した。 先攻部隊aaa…フェーズ2移行」



 《了解。 レーダーに新たな目標マーカーを表示します》


 視界内のコンスペクト・インターフェースが遙か先の木々の合間を進行する無数の人工竜機兵やデーモンが可視化される。 


 「「パンツァーフォー!!」」


 プロペレンスの履帯が地面の土を巻上げながら激しい回転し、黒煙の筋を後方に残す様に飛び出して行くのを見て私もブースターから緋色の噴射炎を爆発的に撒き散らしながら一瞬で森の中へ音よりも速く飛び立つ。


 


 「目標、射程圏内へ到達。 先ずはお前等だ…」


 音速の視界の前方から後方へと流れ行く木々を右から左と回避しながら目標との距離を急速に縮まる。


 レーザーダガーであるマデューラを左手に握りつつ、右手で構えるエンフォーサーを添えるように支える。


 一体の人工竜機兵を囲う呪縛者達を右肩のアド・セクターが自動的に優先順位を決め、自動戦闘モードで飛び回っていたENオービットが私よりも先に消し飛ばす事によって人工竜機兵に意識を集中する事が出来た。


 狙いを定め、高速接近する私に気づいた人工竜機兵が崩れて壊れかけている手を地面に突き刺して大口を開ける。


 向けられる陽子砲の光が黄昏の空に輝く一番星の様に輝きを増す。

  

 警告音が鳴る刹那、左に避けると防御シールドを掠めて白銀色の反陽子の奔流が通り過ぎたのを見て即座に引き金を引く。


 銃口から射出された3発の緋色のEN弾が人工竜機兵の胸部を貫き、背後の巨木に当たり消滅する。


 《二体目の目標撃破を確認》


 動力炉を損傷した事で力を失い、糸が切れた様に倒れ込む人工竜機兵の撃破をオペレーター告げたのを聞き、倒れ込む目標を一瞥しつつ三体目の目標の方角を見やる。



 「セレンディとジャイト。 私よりも速く目標を消している…コレは一息付いてる暇は無いな」


 

 私とは違う方向へと爆速するプロペレンスによって無数にいた目標達に付与されているマーカーが消滅していくので姉妹の腕前に関心し、内心悔しくもあるので出力を更に上げて次の目標へと急ぐ。


 

 木々の合間を抜け、暫くすると視界に年季のある石柱や水道橋、石材が敷き詰められた通路が現れる。 此処、ヘブンスカー古代森林群には点々と存在する遺跡があると事前に知らされていたが想像よりも遥かに広い。


 壊してしまっても弁償とか大丈夫…大丈夫だよな?



 「何が待ち構えているか分からんが、悪いが眠ってくれ…子供にかっこ悪い姿を見せる訳にはいかんのでな」


 視界に表示されるマーカーが示す先を目指し、植物が張り付いた石柱が立ち並ぶ遺跡の通路を飛行していると突然空気の質が変わる。

 


 薄暗い呪いの火、混沌の火の熱が遺跡周辺を侵食しつつ有るようだ。 空が灼けている…コレは恐らく呪縛者やデーモン特有の環境侵食作用だろう。


 「御山の大将って所か」


 視界の先、一部が崩落した金字塔の頂上にデーモンはいた。 女性的ではあるが石灰岩を荒く削り出したかの様な灰色の身体、その身体の表面には幾つ物のヒビ割れが奔り、混沌の火が揺らいでいる。


 頭部は混沌の火で構成されている為、その表情を窺い知る事は出来ない。

 

 

 「先ずは小手調べ――」



 アド・セクターのENオービットをデーモンへと向かわせた直後、混沌の火が幾多の巨大な槍となりて通路に突き刺さっていくので急停止からの右ロールをしながら急上昇し、上空へ回避する。



 「来たカ…ニンゲン」


 「アンタ喋れたんだな。 聖火が爆ぜるような綺麗な声だ」



 向かわせたENオービット達の攻撃はデーモンの身体を覆う赤い半透明の膜に遮られ、上空で浮かぶ魔法陣から放たれた混沌の火弾によって即座に撃ち落とされてグズグズの鉄屑に変わり、地面へと墜落していく。



 《右肩の武装システムロスト。 パージします》


 システムの正確無慈悲な判断により、飛行する私の右肩から火薬入りのボルトが爆ぜ、後方の地面へと吹き飛んで落ちて行くのを感じつつ、デーモンに向ける目線は外さない。


 アド・セクターがもう使い物にならなくなって残念だが攻撃の予兆を見逃せば鉄屑になったENオービットと同じ運命を私が味わう事になるのは目に見えているからな…。



 「全て、ハただ虚しい。 バカな世迷言、は…イキノこれたらイイ…ナサイ」

 


 「そうか? 私は世迷言を好きに言えば良いと思うがな。 何故なら其処に人間性の所以があるのだから」


 金字塔の頂上で佇むデーモンはそう言いながら手印を結び、無数の魔法陣を開いていく。 一十百千と大小様々に魔法陣は展開されて灼けた空を覆い尽くす。


 「アクムの最中デ、消えなさい」


 「黙って魔術を発動させるかよ」


 デーモンが佇む金字塔を中心に大きく急加速し、反時計回りで飛行しながらエンフォーサーを構えて引き金を引き、6発の緋色のEN弾が狂い無く奴の胴体を穿く。

 


 「エンフォーサーでも君を裁けんか…」



 

 …筈だった。 六発の緋色のEN弾はデーモンの胴体を破壊する事無く赤い半透明の膜に阻まれて消滅し、その膜を揺らすだけに留まる。



 恐らく魔術由来の防御。 必ず起点となる魔法陣がある筈だ。



 「オペレーターぁ!? 出来ればなる早で解析してくれぇっ!!?」


 《今やってます!!》


 無数の魔法陣から津波の様に此方を追跡する混沌の火を急加速、急停止、或いは急停止と見せ掛けて連続的加速からの急上昇急下降を繰り返し、何とか避けていく。


 《防御シールド残量…残り27%》


 然しジリ貧である事に変わり無く、防御シールドも段々と猛攻を前に負荷が蓄積する。



 《解析完了! 防御膜に魔力を供給している魔法陣を表示します!》


 視界が霞む程の速度の最中、デーモンの頭上に浮かぶ4つの魔法陣へマーカーが付与されたのを見逃さず逃げの一手から反転、攻勢へと躍り出る。


 「ウうゥ…来るナ、クルなぁッッ!!」


 「嫌だね! その願いは聞かん!」


 焦り唸るような声と共に更に苛烈にな様で焦りで大きく大雑把になった混沌の魔術を水道橋の下部の隙間に捻り込み、最短距離でデーモンへと近付く。


 水道橋の壁面に身体が擦れ散る火花が研ぎ澄まされていく視界の中でゆっくりと舞う。


 「エンフォーサー…出力補正最大。 マルチロックショットシステム起動」


 《武装、並びに身体内部の放熱板を開放します》


 地面からはうねる蛇の如く混沌が、空からは散る桜の様に舞う混沌が私の命を飲み込まんと迫る。


 然し不思議と恐怖は無く、金字塔の頂上で焦りを見せたデーモンを見上げ、構えるエンフォーサーの銃口は最大火力が収束し重く、熱を帯びて振動しているのに関わらずブレなかった。



 「落ち着いて…慌てず…に」

 

  

 収束し、圧縮された緋色のエネルギーは引き金を引いた瞬間に極大の奔流となって射出され、然し4つに分かたれてロックオンされていた4つの魔法陣を不規則な軌道をとりながらも実直に、確実に砕いた。


 《エンフォーサー排熱限界。 強制冷却開始》


 「泣きっ面にもう一発だァ!」


 

 「ぐブゥゥあッッ!!?」



 防御膜に魔力を供給していた魔法陣が破壊された事によって硝子が割れるように弾けた所を私は加速からの更なる加速でデーモンへと近付き、無防備になった下腹部へとその勢いと共に武装を握る右腕部を引っ掛ける様に体当りし、金字塔の頂上から巻き込む形で壁面を転げ回って私とデーモンの両者共に地面へと身体が叩き付けられた。

 


 混沌の熱、私達の攻撃の余波…限界だったのだろう。 石材が敷き詰められた通路は2体のデカブツの身体が叩き付けられた衝撃によって地響きと共に崩壊し、私とデーモンは巻き上がる砂埃と崩落する石材と共に暗闇へと消える。



 《メインシステム戦闘機能、排熱限界。 ブースター使用制限開始》



 暗闇の中で物音がする…。



 規則的に叩かれる金属音だった。


 …暗闇の遙か先で火花が散る光が明滅する…手を伸ばしても届かない、誰かの深層意識の海だ…。 


 意識は手放す事を許さずに加速し続ける。


 …貴方を取り囲むのは彼女(デーモン)の終わりも救いも無い記憶だ。



 




 ◇◆◇◆





 「此処は…私、デーモンと一緒に落下していた筈だが…」



 気が付けば私は森の中でポツンと一人で立っていた。 デーモンへと渾身のタックルを食らわせ、共に金字塔から転げ落ちた筈だった。



 然しどうだろうか、今私は見渡す限りの森の中で一人立ち尽くしているではないか。



 「湿った地面に、漂う植物の独特な匂い。 幻…とは違うのか」


 屈んで地面の枯れ葉の混ざる土を摘み、指の腹で擦ると指から溢れた土がパラパラと落ち、指の腹には湿った土の跡が残る。


 「そういや前にもあったな…」

 


 確か呪縛者との戦闘の折に経験した呪縛者となる前の記憶? らしき事象に遭遇したが今回もそれに似た現象なのだろう。


 何故私が呪縛者やデーモンの記憶を覗けるかは分からないがきっと何か…重要な使命を図らずとも背負ってしまったようだ。



 「aaaはぁ…ま〜た悲惨な記憶を見せられんのか勘弁してくれ…」

 


 思わず溜息と共に肩が落としていると耳鳴りと共に森に差す木漏れ日がボヤケて広がりながら視界を埋め尽くす。


 どうやら始まったようだ。




◆◇◆◇



 「…フンッ! …フンッ! …ふむ、今日の鉄は上々じゃな」



 晴れた視界に映るのは先程の木々が生い茂る森、空からは木漏れ日が風で揺れて地面を水面の様に照らしていた。


 そんな森の中の一部を切り拓き、石造りのこぢんまりとした家が建っていた。 屋根には枯れ葉が乗り、所々で雑草が顔を出して風に揺れている。



  そんな古ぼけた屋根の下、ヒゲを蓄えた一人の(ドワーフ)が火炉の側で赤熱した鉄を金床で打つ姿が視界に映り、そちらに意識を集中すると視点が徐々に切り替わっていく。



 ペンチで掴まれた鉄が規則的に金床の上で金槌で叩かれる度に火花が跳ねては消える。



 「おいおっさん! また来たぞ!」



 「うむ…。 お、おお! また来たんかお嬢ちゃん。 此処はなんも面白い事なぞ無いんじゃ、他所に行かんか」


 着古した耐火服を纏い、一生懸命鉄を打つ男の元へ森の方から元気な女の子の声が響く。


 「おっさん! 僕はお嬢ちゃんじゃなくて偉大な自然の精霊の柱が一人。 火の上位精霊、イフリート様だ!」



 地面に黒く焦げ跡を残しながらイフリートと名乗る生き物が鉄を打つ男の元にやって来た。 火が人の形を取って動いている摩訶不思議な光景である。


 口振りからして何度も男の元にやって来ている様だ。


 

 「ハイハイ…分かっているわい。 で、今日は主に来たんじゃ?」



 叩いていた鉄を再び火炉に戻した男はよたよたと立ち上がり黒ずんだ耐火グローブを付けたまま髭を撫でながら精霊へと顔を振り返り、見上げる。



 「今日も勝負をしに来たんだ! そいつ(火炉)と僕、どっちがより熱いか!」


 腰に手を当てていた精霊が火炉を指差し地団駄を踏み出す。  


 「お前さんが火炉に勝負ぅ? ガハハッ! まだまだ儂の火種の方が熱いわい」

 

 「クソぉぉぉ馬鹿にしやがってぇ! 兎にも角にも勝負だぁっ!!」


 

 近くにあった切り株で作ったであろう椅子に座って笑う男に精霊は憤慨して身体の炎を逆立たせ、その勢いのまま火炉に飛び込んだ。


  

 「さて…何十秒持つかのぅ?」

 

 火炉の中で爆ぜる音が何度か響き、煙突からは勢い良く火の粉が噴き出る。


 そんな光景を見慣れたかの様に愉快そうな表情で男が火炉を見つめ、暫くすると突然火炉の中から火の塊が転げ出てきた。



 「うわぁぁぁ!! アチャチゃゃぁぁッッッ!!?」



 「ガハハハハハッ! 今回も儂の勝ちじゃな」


 

 「畜生ぅ…次は絶対に勝つからなおっさん! 」


 



 悔しがる精霊に対し、それを笑い飛ばす様に笑う男の姿がボヤケて視界を埋め尽くす。


 どうやら違う視点に映るようだ。



 ◇◆◇◆


 視界が晴れると先程の視点とは違い、精霊と男の背が映し出される。


 「なぁおっさん。 雨…何時まで降るのかなぁ?」


 「ふむ、そうじゃな…この調子なら数時間もすれば止むじゃろう」


 雨が屋根を叩き、流れる音が耳に入る。 森には霧がかった様な強い雨が振り注ぎ、獣のざわめきも息を潜めていた。


 「何故雨が降りそうなのに来たんじゃイフリートよ。 ソナタには火山と言う居場所があるだろうに」


 「いやまあ、そうだけど…。 あ、そうだ! おっさん何時も一人で寂しそうだから来たんだよ! うん」


 「余計な御世話じゃ。 嬢ちゃんはまだ上位精霊になって日が浅い、雨に打たれれば大怪我するのは分かっておるのか?」


 必死で理由を紡ぎ出した精霊に男は呆れ半分、心配半分に意識を寄せて自作のロッキングチェアに深く腰掛ける。


 

 精霊を見る目は何処か遠く…別の誰かを見ている様な寂しい目をしている様に見えた。


 「分かってるけどよぉ…他の精霊とつるむのは飽きちゃったんだ。 そうなったら僕が何処に来るのか何ておっさんなら分かるだろ」


 「クカカカ…それもそうじゃな。 なら雨が止むまで本を読んでやろうか」


 「本当! 聞く聞くぅ!」


 椅子から立ち上がった男は精霊の為に作ったであろう金属の椅子に座らせ、家の中から一冊の古い本を手に再び椅子に腰掛ける。


 「じゃあ読もうかの」


 「うん!」


 「題名は『火吹き山の巫女』昔々ある所に――――。 」



 

 鍛冶で節々が潰れ固くなった指で本を捲り読み聞かせる姿はまるで親子の様だ。



 読み聞かせの間…精霊は静かに男の声に耳を傾け、雨が止むまで湿気た身体の火を揺らし、時折眠そうに頭が揺れていた。 其れは単につまらないのでは無く穏やかで身を預けられる居場所を見つけたかの様な穏やかな寝顔に見えた。




 ◆◇◆◇



 視点が変わって森の木々の間からも分かる程の位置まで登った太陽が家を照らし、鍛冶場で真っ赤に熱せられた鉄を交互に打つ姿が視界に映る。


 「ほれ! 頓珍漢になっておるぞ!」


 「うへぇ。 もう腕が上がんないよぉ!?」


 真剣な眼差しの男と対照的に精霊は歯を食いしばる様に槌を振り下ろし鉄を鍛えていく、泣き言を言っている割には腰は確りと力が入っている辺り、何度もやっているのか精霊の鍛冶作業は様になっていた。


 男の肌を伝う汗は火花と共に夏の暑さと鍛冶場の熱さにに地面へと蒸発するかの如く消える。


 「良くやったなイフリート。 もう直ぐ刀身は完成だ」


 「はぁ…はぁ…。 僕を扱き使う何てこの大陸中を探してもおっさんだけだよ」



 手と膝を付いて疲労に項垂れている精霊を他所に男は素早く鍛え成形した鉄の切っ先に薄く土を塗り、その他の部位に土を厚く塗り水で冷やす。



 「イフリート。 お前が一緒に鍛えてくれる鉄は王国の同僚達から凄いって好評何だぞ? 喜べ喜べ」


 「あ、あっそ! そりゃ良かったね!」


 疲労による怒りか褒められた故の恥じらいか、身体の火を滾らせた精霊は胡座をかいて男が黙々と最後の仕上げを行う姿を見やる。


 「今日手伝って貰ったのは儂にとって特別な人の為なんじゃ。 とっても大切な」


 「ふ〜ん。 その特別な奴って誰なんだ?」


 精霊がそう尋ねると男は一瞬手が止まる、が何事も無い様な表情で作業を続けていた。



 「何…直ぐに分かるさ」


 「チェッ。 教えてくんねーのかよぉ〜…」


 「絶対にお前さんはびっくりするだろうなハハハッ」



 「もぉぉ! 気になる気になる!!」


 

 悔しそうに立ち上がった精霊は鉱物を手に鞴を踏んで火炉に立つ。



 「僕がびっくりしなかったらおっさんの髭をチリチリにするからなッ!!」


 「フッ…分かっておるわい」


 

 二人の微笑ましい光景も火炉の光が強くなるのと同時に霞がかった様に視点が変わる。




 ◇◆◇◆



 視点が変わり家から少し離れた位置に視界が切り替わった。


 

 森の木々は地面に枯れ葉の絨毯を敷き、葉の落ちた枝木から覗く空は重い灰色の雲で覆われている。


 

 男は古びた武具を着込み、両手斧を背負う。


 「な、なぁ!? 何で…何でおっさんが行かなきゃならないんだよッ!」


 「イフリート。 お前は自然に近い存在故に気付いているだろう…深淵が氾濫した。 このままでは星そのものが呪いに飲み込まれてしまう」



 家の前で待つ遠征隊。 恐らく深淵の中心地へと向かう臨時の部隊なのだろう。

 

 まだ兵隊として未熟な者から男を含めた年寄りが混在している事から状況は深刻な様だ。


 その遠征隊へと加わろうと向かう男を精霊は涙を零して必死に引き留めようとする。


 「分かってる!! ならせめて一緒…一緒に…」


 「其れはならん!! …良いかイフリート。 お前は儂にとって大切な、大切な平穏、太陽なんだ。 だから…待っていて欲しい、儂が贈ったその剣と共に」


 

 男は膝を付いて精霊と目線を合わせ、精霊が強く強く握り締めて小刻みに震える剣の鞘を手と一緒に優しく両手で包む。



 「でも、…でも」


 「お前は豊穣の為に身を投げた一人娘に良う似とる。 きっとコレは神の思し召しだったんだろう…儂はもう家族を見捨てぬと贖罪の女神に誓った。 だから…どうか待っていて欲しい」



 「…分かった。 僕は上位精霊イフリート様だ、ちゃんとこの家を守る」



 「ありがとう愛娘…イフリートよ」


 両手を離し、精霊を抱き締めた男は立ち上がり一つの像を渡す。


 「お父さん。 コレは?」


 「其れは封印の錠。 そのスペアだ。 まぁ…大丈夫だが万が一…遠征隊が帰らなかったら此れをとある人達に渡して欲しい」


 「変な事言うなよ。 僕は短気なんだぞ! 長くは待たないから直ぐに帰って来てね!」


 「ハハハッ。 分かっておるよ約束だ」

  

 苦笑いしながら男は指切りをして遠征隊の方へ足を向ける。


 「そういや誰に渡せば良いんだ?」


 「そうじゃった。 言い忘れていたな」


 精霊に指摘され、振り向いた男は告げた。 永く続く呪いの呪縛、その物語の始まりを。


 「緋色の翼を持ち、青い衣を纏いし者へ像を渡し…そしてこう伝えてくれ。 像をあるべき場所へ、呪いを収めよ…と」

 



 ◆◇◆◇




 帰りを待つ精霊に背を向け、遠征隊と共に森の奥深くへと姿を消す男の背中姿を最後に私の意識は侵食領域の最深部への加速を辞め、見るべき目前の光景へと視界が切り替わっていく。



 暗転し、抜けた天井から振り注ぐ光、瓦礫と混沌の炎があちら此方を焼きながら周囲を照らす光景がカメラに映る。



 「aaa…遺跡の地下にeこんな広い場所Gaあったのka…。 畜生ぅ…身体が痛ぇ」


 苛烈な混沌属性の攻撃によってグズグズに黒焦げた身体を奮い立たせて起き上がる。 すると其処には大きな広場に歪なアーチ状の構造物が広場を囲う様に建っていた。



 「起きたか…星のセンシ。 余りにも流暢なんじゃナイか?」



 「一応英雄何でな。 ドッシリ構えているわけよ…その方が皆、安心出来るだろう?」


 

 広場の歪な構造物、その中でもより一層歪で大きな物の傍にデーモンである彼女は佇んでいた。


 烈火の如く蠢く身体の炎は今や残り火の様に弱々しくなってはいるものの、その瞳には確かな力が宿り混沌の呻く残渣さえも欠片も見えない。



 「随分と元気そうじゃないか…良いね、やっぱり君の様な精霊は気高く美しい桜じゃなくちゃな」



 「悪いガそのヘッタクソな口説き文句は私には効かん。 僕ニハ帰り…ヲ、待つ人ガいるんだ。 それに僕はもう死に体ダ…お前の渾身の一撃で混沌の核を破壊サレ、最早身体を保つノデ限界だ」



 身体を構成する炎はゆっくりとだが白い灰となり、散りゆく桜花の様に霧散させながらデーモンはそう言い自らの胸に手を当てる。 その所作は先程の、私が覗いた記憶に登場した上位精霊の本来の立ち振る舞いよりも大人びた物となっていた。


 年月が齎した物か彼女自身の使命故かは分からないが私なんかよりも洗練された雰囲気と力を感じさせる。


 両者共に痛み分けとなった金字塔での一撃は確かな意味があったんだな、良かったよ…あれが上手くいかなければ私は混沌の炎によって再起不能になっていた所だったのだろうな。


 「ハハハッ。 言われちゃった…でも不思議な運命だよな。 こんな私を側に置いてくれる人がいるんだ…幸せ者だよ私は」


 「ソレガ、愛だよニンゲン。 然し僕ノホウガ愛はより強くオオキイぞ…」


 

 そうのたまいながら彼女は胸に当てていた手を奥底へと突き入れ、長く大きな何かを引き抜く。


 其れは一振りの剣だった。


  無骨でいて煤汚れた一振りの剣。


 鍔は僅かに熱で溶け、柄は握り跡に沿って黒焦げていた。


 其れは正に愛故の窶れ…時を研ぐ一振りの剣だった。



 「構えロヨ、ニンゲン。 僕がまた深淵に呑まれるマエニ」



 「あぁ…そう言えば名を名乗るのを忘れていたな。 私は死神部隊第二議席ヘラルド・RF・ガトウ。 天の川銀河、第3惑星地球の戦士だ」



 「僕ノ名はイフリート。 イマは深淵に身を落とシ、今まで彼岸のデーモンと呼ばれていた。 英雄譚は必ず悲劇デ終わル…ソレでも英雄と名乗りたいナラ来なよ」



 私はイフリートの名乗りに広場へと駆け、それを返事として返す。

 

 

 それに呼応するかの様に彼女は左足を前へ、右足を右横へ向けて腰を落とし、右手に握る剣の刀身に左手を沿わせるようになぞる。


 すると刀身に透き通る様な綺麗な火が纏う。

 


 イフリートは剣を右斜め下に構え走り出し、互いの最適な間合いへと迫る。


 「aaa…取って置きを出すしかないな」


 駆けながら右手に握るエンフォーサーを背負い、左手に握るマデューラを右手に持ち替える。 そして左肩の武装に動力を送り込み起動する。



 排気管から黒煙を咳き込み出しながらモーターを唸らせ、仮初の息を吹き返すそれは巨大な3本の束ねられた解体用鎖鋸だ。



 名は【アンナ・ネウス】。 元は解体用の重機の部品だった様だが発掘されてからはコンフェやカーミラを筆頭に魔改造された脳筋武装である。



 「ウラァァアァッッ燃えろ死神ィ!!」


 「燃えるかよォッ! 私は、何もかもを焼き尽くす黒い鳥(死神)だァッッ!!」



 駆け、勢い付いた格好の儘にアンナ・ネウスを右へ振り被り左横へと一気に振り抜く。


 回転刃が凄まじい音と共に火花を散らしイフリートの身体を削り飛ばさんとした初撃は彼女の跳躍によって虚しく宙を切り、火花だけを散らす。


 

 空中へと躍り出たイフリートは身体を丸め、最大回転の勢いを乗算した跳躍回転斬りへとその回避行動を昇華し、私の頭部目掛けて火を纏わせた剣を叩き付けんと迫る。



 「すっとろいナ! ヘラルドォ!!」


 「煩いなァ…! 神にお祈りしてただけだァ!!」


 右手に握るマデューラで咄嗟に防ぎ、弾いてアンナ・ネウスで薙ぎ払う。 然し、やはり当たらずにイフリートは軽やかに空中で避け、私の攻撃の余波を利用する様にバックステップで距離を離す。


 

 距離を離したイフリートは火が纏う剣を突き刺し、火を固めた剣の幻影を地面から這わせてながら剣を構えつつ接近して来る。


 うねりを伴う剣の幻影は左右の動きに顕著に反応を示すので敢えて寸での所まで私から走り込み近づき、右斜め前へと前転する様に避けると既にイフリートは私の懐に飛び込んでいた事に遅れて気付いた。


 

 「しまッッッッ!?」


 「オラよぉオォッッ!!」


 既に振り抜かれた刀身は私の胴体を捉えてシールドを砕き、右肩から左脇腹へと袈裟斬りの要領で斬り裂かれて遅れて到達した衝撃波に身体が後方へ吹き飛ばされ、アーチ状の構造物を砕き抜く。


 

 《防御シールド機能過負荷限界。 サブジェネレーター緊急停止します》


 「ッッ――。 あァァ…」


 

 「おいおいオイ! コレで終わりナドと、言わンよナァ英雄様よぉ?」


 

 グウィンとは違う殺気。 血色の違う命の危機だと言うのに…。



 「aaa…クヒヒヒィ…アッはははハハ!!?」


 

 笑いが止まらない。


 立ち上がり左手にあるアンナ・ネウスを見やり、右手のマデューラをしまう。


 「済まないイフリート! 俺は覚悟の為に色んなモンを切り捨てて燃やし尽くして来たお前への誠意が欠けていたようだ!」


 「テメぇ…誰だヨ。 難儀だな、マルで壊れたブリキの人形ダ」


 ブリキか…そうだな、そうかもな。


 「オペレーター。 聞いてんだろ? 右腕部のスペアを用意しとく様に言っといてくれ」


 《…母達に怒られても私は助けませんからね》


 アンナ・ネウスに右腕部の出力を注ぎ込み、唸るような回転が悲鳴に変わったのを聞き、私は右腕部を削り刎ねる。


 右腕が宙へと高く飛んでくるくると舞う。 正気ではあり得ない光景にイフリートの視線は上へと向く。

 

 「お、お前ッ!?  ――ゴブぅォッッ!!!」


 「aaa…アタシから目を離したらいけんよ!」


 私の右腕に気を取られたイフリートとの間合いを詰め腹部を芯で捉え、抉り込む。


 急襲に対応出来ず、滑る様に床を転げ回る彼女へ追撃の一撃を与えんが為に右腕が無くなり、重心バランスが崩れた身体を引き摺る様に駆け出す。



 かなりの距離を転げ回った彼女が苦悶の表情で剣を床に突き刺し、体勢を立て直そうとしている所へアンナ・ネウスを地面へ喰い込ませて倒れる様な姿勢から胴体へ蹴りを放つ。



 「あらよっとォ!」


 「グゥ!? く、な…舐めるなぁッッ!!」


 寸での所で胴体の前に剣の刀身を差し込んで蹴りを防いだイフリートはバックステップで素早く間合いを空け右から左、左からの右、そして再び左からの右、右から真っ直ぐと、袈裟斬りから横斬りから派生する回転斬りを繰り出し最後に素早い突きで右腕が無くなり出来た反撃の死角を狙う。



 私はそんな猛攻をアンナ・ネウスの分厚い回転刃で削り弾き、一連の動作の終わりに僅かに出来る隙を縫い、甘く少し出過ぎた彼女の足を踵から足先へと足で掬う。


 それにより身体が突んのめる事で剣を振れぬ隙が出来たのでアンナ・ネウスで殴り削る。


 「グギィいあアァあァッッ!?―――」



 「…」


 削られ千切れ飛ぶイフリートの身体の一部が加速する意識の中でゆっくりと私の黒焦げた装甲に当たり、散らばり落ちるのを見ながら次の一手の為に踏み込む。


 痛みに反射的に後ろへと蹌踉めく彼女に体を捻り、左斜め前へと踏み込んだ右足を起点に捻りを加えた身体を解放するように回転し、裏拳を当てる要領でアンナ・ネウスが綺麗な顔にぶち当たる。



 「グビュぅッ!?――」


 「今のが上手くいくとは…随分と手応えがあったな」


 予想よりも遥かな手応えと共に突き刺さった裏拳擬きによって回転しながら吹き飛びアーチ状の構造物を破壊し、土埃の中へと消えたイフリート。


  

 何と無く…次で両者の運命を分かたれる一撃になるだろう。



 「イフリート! 死んでいるなら返事してくれ!!」


 「し、死んで…イタ…ら。 返事ぃ、出来…ネェだろ!!」



 巨大なアーチ状の構造物が地響きと共に崩れ巻き上がる土埃の中から崩れ行く半身を押さえ、出てきたイフリートの目からは涙の様に零れる風前の灯火が太陽に違わぬ強い光が宿っていた。



 「付き合えよ英…雄…。 コレが、最後の…僕の。 神々に立てる中指…ダ!」


 「やはり来るか…!」



 イフリートが頭上へと掲げられた剣が纏う火は巨大で、然し圧縮された極光を纏い始めた。


 《身体内部の排熱率安全域へと再移行。 ブースター開放します》


 当たれば確実に死ぬ。


 だが今日死ぬ気は無い…だからこそ全力で叩き潰す。



 「ならば此方は冥土の土産に見せてやるッ!! 英雄の一撃必殺をッッッ!!!」


 ブースターへ身体が自壊しかねない程の出力を込め、アンナ・ネウスを構える。 


 

 決死の覚悟に呼応する様に回転刃の音色が重く湿り気を帯びる。



 周りの音さえも歪み、深く沈んでいく。




 「ヘル・プロミネンス(残火の祝福)



 「私こそが恐怖なり(アウター・ヘブン)



 振り下ろされた剣へ音のより速く間合いを殺し、唸る回転刃をその振り下ろされる剣へと薙ぎ当てる。


 

 スプロケットからの悲鳴を無視してスロットルレバーを握り潰す様に握り締め、決死の覚悟で互いに鍔迫り合いに持ち込む。



 火の魔力が圧縮された刀身は熱く硬く、馬力に物を言わせても尚押し出すことは叶わずに刀身の表面を削る火花を散らすばかりだ。


 「お前が本当にぃッ!!

予言の通りの奴ならぁ!! 打ち勝って見せろォォッッ!!!!」

 

 

 「グぅッッ!? …実直に言ってくれるな…!」

 


 上から押し潰し、斬らんとする刃は重く…全身を激痛が走る。


 膝を付きたくなる…だが、それは漢として…最強の称号を軽々しく大切な人の前で口走った代償は確りと払わなければならない。


 これ以上の十字架は、今はまだ背負え無いのだから。



 「ナァッ!? 片腕な筈、何処にそんなチカラがッッ!?」



 「言ったろ? 冥土の土産に英雄の必殺の一撃って奴をッッ!!!」



 震え折れそうな膝を奮い立たせ、アンナ・ネウスを更に更にと前へ回転刃を押し出す。



 鍔迫り合っていたイフリートの剣は段々と削れ割れ、その罅が刀身全体に広がる。



 「ハァァァッッ!! 必殺の一撃、しかと受け取れ!!!?」



 「ァ…―――。 」



 刀身の罅が遂に限界に達し、振り抜かれたアンナ・ネウスの3本の回転刃がイフリートの左半身を…削り飛ばした。



 


 「あ〜ァ。 コレで終わりカ…」



 「本当に強かったよお前は。 私が出会った人達よりもな」



 ボロクソにされた身体を引き摺り、白い光の粒子へと霧散していく彼女の足元に膝を付く。



 正直本当にギリギリの戦いだった。 暫くはこんな死闘は御免だ。  


 「僕からオマエに、最後の土産…ダ」



 「コレは…」


 消え逝くイフリートが私に差し出したのは薄汚れて黒焦げた一つの像だった。


 「予言…ドオリなら、お前は必ずロンドールの封印を担う土地にムカウだろう? コレが鍵になる」


 「この…不気味な像がか」


 受け取った像は熱や経年劣化により薄汚れていたが不気味な笑みをしている事だけは判別出来た。 アンナ・ネウスのスロットルレバーから手を離し、像を懐に仕舞って宙を掻く彼女の手を握る。


 「イフリート。 必ず死神部隊が…いや、私が必ず…この終わりも救いも無い物語を終わらせて見せるよ」


 「ヘヘ…。 精々深淵にノマレンなよ…」



 握っていた手が音も無く崩れ、霧散していった。



 「おっさん。 僕…アンタの太陽に…なれたかな」



 手をすり抜ける白い光の粒子は最後に大切な誰かの元へ辿り着けるのだろうか?


 今の私には分からない。


 しかし、何時か知る事になるだろう。


 《仮称【火精のデーモン】の撃破を確認しました。 今回収機の手配を…》


 「いや、いい。 まだ戦える…作戦領域内の撃破目標のマーカーの更新を頼む」



 そう私が言うとオペレーターの息を呑む様な震えた息遣いが聞こえた。


 《機体の稼働限界まで残り僅か。 右腕は欠落、シールドも機能不全です》


 「分かってる」


 《分かってません貴方は。 貴方が死ねば誰がコンフェドール様の隣に立つのですか?》



 視界の端に映るマップに撃破目標が再びマッピングされる。

 

 「…済まんな」


 《良いんです。 どうせ貴方は往くのでしょうハービンジャー? 》



 右腕が無くなりバランスの崩れる身体を庇いつつ、ブースターを吹かして地上へ上昇していく。


 

 《…もし死んでも代表が地獄から貴方を引き摺り出すでしょうしね…》


 「ありがとう。 君は私の様な大人に成り切れない大人になるなよ」


 《頼まれたってなるものですか。 早く行って…そして生きて帰って来て下さい、あの人の為に》


 無理な飛行によって引き伸ばされた部品の隙間から(機械油)を垂れ流し、音を越えて巨木の生える森へ、金字塔を飛び越えて私は進み続ける。



 …後ろは決して振り向く事は無かった。





 


 ◇◆◇◆



 「撃破目標捕捉。 バックアップを頼む」



 《了解しました。 開放されている出力制御棒1基を格納し、シールドを擬似展開します》


 オペレーターの指示とレーダーを確認しながら森を飛行していると、撃破目標をカメラが捕捉する。



 大盾と斧槍を携える人工竜機兵一体…はぐれ者か。


 《システムより報告。 シールド残量20%へ移行しました。 ゲストユーザーとの不明な手段による中枢接続を確認…攻勢防御を起動しますか?》


 「しなくて良い。 彼女に上級権限を付与し、高度干渉を許可してくれ」


 

 《システム。 中級権限者の情報を更新…脳の神経配列並びにシナプスネットワーク強度パターンを記録しました。 現在の上級権限者は4名…》



 指令も行く当ても無い人工竜機兵が汚染された大脳に刻み込まれた防衛プログラムに従い、高速接近する私に大盾と斧槍を構える。



 「◁◀◀◁◁□◀?」


 「何言ってるか分からん…私のシステムが翻訳出来る程度で喋ってくれ」


 迎撃態勢を見て此方はアンナ・ネウスのスロットルレバーを握り、回転刃が火花を散らし動き出す。



 《撃破目標。 右腕部より高エネルギー反応出現、攻撃来ます!》


 人工竜機兵の罅割れた右腕部から青白い光が漏れ出し、その光は斧槍の柄を伝い刃を這うように覆う。


 その斧槍を祈る様に眼前へ掲げ、身体の急所を大盾で守る構えに沿うように斧槍の切っ先を私に向け、大盾の側面を擦りながら突きを放つ。


 「シィィッッ!!」

 


 高速で接近する私に向かって放たれた一撃をメインブースターと関節部のブースターによる瞬間的回避機動で避け、突きの勢いで切り裂くような風を纏う斧槍の柄の表面を駆けて奴の眼前へと近付く。


 「◀□□□――」


 「ツぅッ!!」


 唸る3本の回転刃を振り被り、無防備な顔を加速ざまに抉りながら原型を残す後頭部を蹴り上げて次の撃破目標へと加速し続ける。


 《目標の撃破を確認。 残りシールド残量17%》



 「次だ!」


 ヘブンスカーの最深部へ進めば進む程に視界に呪縛者やデーモンの環境侵食作用による宵闇の帳が降り、張り付く様な生暖かい呪いが濃くなっていく。


 長居は不味いか…プロペレンスと出来るだけ早く合流しなければ。



 《直ぐに視認距離に入ります…3、2、1…コンタクト!》



 呪い濃くなる森を縫う様に飛行しているとポッカリと広い空間に出る。


 …唯の開けた空間では無さそうだ。


 「何だ此処…些か不自然な」



 《呪縛者の環境侵食による事象の様です。 …そこ! 中央にいます!》


 「アレか…」


 空いた空間の外縁を旋回しながら中央にカメラを拡大すると其処に呪縛者は居た。


 細長い荒削りの大岩。


 確かに呪縛者の反応をシステムも拾ってはいるが…。


 「なぁオペレーター。 呪縛者にしては随分と無機質そうだ――」


 疑わしさを思わず口に出そうとした刹那、細長い大岩が上下半分に分かれたと思うとシステムのアラートが鳴り響くのと同時に怨嗟の塊が弾幕を形成し、此方に迫る。


 「危なッ!!」



 《注意してハービンジャー。 今の貴方が掠りでもしたらヤラレちゃいます!》



 迫る弾幕を右腕部の欠損によるバランスの崩れ、横滑りする身体を利用しながら弾幕の射線をギリギリで避けながら呪縛者との距離を縮めていく。



 「剛石の呪縛者とでも呼んでやる…かッ!」


 弾幕の僅かな隙を狙い、ブースターを吹かして一気に近付き上下半分に分かれて露出している赤い宝石にアンナ・ネウスを叩き込む。



 《コレは…!?》



 「硬ったいな! …砕けるかコレ?」



 弱点らしき赤い宝石部分に回転刃を叩き込んだが表面に罅を作るに留まり、余りの硬度に弾かれて反撃とばかりに濃厚な怨嗟の応酬で返されたので急加速で離脱して回避行動を取りながら再び呪縛者の周りを旋回する。



 困った。 弾かれるとは思わ無かった…。



 どうしたものか…。



 《ハービンジャー。 少しばかり時間稼ぎをお願いします》

 


 「何か良い策でも見つけたか?」


 弱点らしき場所を突いて呪縛者を怒らせたか、追尾弾が新たに混じり苛烈な攻撃に昇華した弾幕を避けている最中にオペレーターが言う。


 《私は母よりは未熟ですが弱点を看破する術を持っています。 なので術式の発動までどうか! どうか持ち堪えて下さい!!》


 「了解した。 任せろ」


 赤黒く悍ましい怨嗟の弾幕を地面に転がる森人の亡骸と目線が交わる距離を飛び。



 追尾弾を回避する為に一気に急上昇…死線を遥か上空に貼り付かせる。


 「aaa…勝利とは誰が為、我等が報われる時は来るか? この未来に私の最期がある…どうやって報われるか、私達は信じ続け無ければならない」



 凍てつく冷気に身を晒し、上昇し続け…死は直ぐ後に迫っていた。


 痛む右腕部からは絶えず血が流れ、雨となるのを見ながら追尾弾を避ける為に敢えてブースターを止め…耳を澄ませる。


 

 なんて静かなのだろう…私はこの静けさの中で生き続けたかった。


 だがどうだろうか? また私は死線と視線が交わる場所にいる。 


 漢とは愚かだ…たかが惚れた弱みで戦場へと再び転げ回る等と…。



 《弱点看破完了。 最高の一撃、頼みます!》


 「待っていた。 恋い焦がれていたとでも言おうか!」



 反転。 最高出力で急降下し、ブースターから緋色の光輪を後方へと押し出して追尾弾を一気に引き離す。



 速度超過により大気が潰れ、歪みとなって視界に映るのをシステムを介して修正しながら呪縛者の弾幕の真っ只中を進む。


 「当ての無い野原よりも茨の道よな。 aaa…声無き声に耳を傾け、さぁ越えようか…あのミルキーウェイを」


 

 死線が絶えず私を見つめ、死神の鎌は首筋に添えられる。


 死神を名乗る以上避けられぬ問いの連続を右へ回る様に避け、左にステップを踏む様に…或いは右足を踏み込むと見せ掛けて左へと躍り出るのだ。


 「ターン、クイッククイックスロー。 ターン、スロー…スロー、クイッククイックスロー…」



 距離が縮まり、呪縛者の赤い宝石の一部に緑色の光が瞬く…あの場所がトリガーポイントなのだろう。


 「南無」


 全てを置き去りに、最高速度で私は緑色に光る部分へとアンナ・ネウスを叩き込んで回転刃を回す。



 《お願い…届いて!》


 「砕け砕け砕け…ろォッッ!!!」



 叩き込んだ衝撃、破砕音を立てながら無数の赤い宝石残渣を火花と共に撒き散らしながら回転刃が呪縛者を削り続ける。


 後方から呪縛者の最後の一撃であろう夥しい数の追尾弾が迫り、いよいよ脳裏に死の一文字が降りてきた。



 「…貴公。 正しく死に、善き人と成り給えよ」


 

 死の一文字に肝が冷える前に呪縛者の赤い宝石の様な外殻は最初の一撃を起点に亀裂が走り、弱点看破によるトリガーポイントへの最後の一撃によって全体へと波及する。



 弱点全体へと波及した亀裂はミシリと音を立てて弾け、大量の血と黒い膿を私の身体へ吹き出して呪縛者は石屑へとその姿を変え、後方から迫っていた夥しい数の追尾弾は風と共に静かに消え去った。



 《剛石の呪縛者。 撃破を確認…作戦領域内の撃破目標は残り一体と成りました》



 「…了解」


 血と膿を頭から浴びて放心しつつ、オペレーターの声に導かれる様にレーダーと作戦領域内のマップを確認する。


 確かに周辺には呪縛者やデーモンの反応は…無いな。


 中央部の一体を残すばかりか…。 あともうひと踏ん張りだな



 「少しばかり…疲れたな」




 呪縛者だった瓦礫を踏み越え空を見上げる。


 最後の撃破目標がいるであろう方向に目を向け、墨で塗り潰したかの如く暗いヘブンスカーの中央へと飛び立つ。



 




 ◆◇◆◇


 【ヘブンスカー古代森林群・中央部】

 


 《呪縛者。 接…敵予、定…時。 凡、そ…通…妨、害》



 「通信が途絶えるか…不味いな」


 「ハービンジャー。 真っ暗で何も見えないからマジやばがいるのかな?」


 「お姉ちゃんコッチの通信も回復しなそう…視界も悪いし」



 剛石の呪縛者の撃破後、私はセレンディとジャイトの駆るプロペレンスと合流し、最後の撃破目標へと向かっているのだが…。



 「此処からは何が起きるか分からん。 二人も気を付けるんだぞ」


  「「は〜い」」



 ヘブンスカーの中央部に近付けば近づく程に呪いは濃くなり視界さえも深淵に呑まれ、一寸先は闇。 あれだけ存在を主張していた巨木は一切の姿を見せなく無った。


 元から無いのか、或いは深淵に侵食されて消滅しているだけなのか今の私達には窺い知る事は出来ない。


 「そう言えば何が起きるか分からんって言ってる英雄様の方が既に何かあった状態なのどうにかならなかったんです?」


 「あぁ、僕が言い辛くて言え無かった事をそんなストレートに…」



 「あ、あ〜何だ…その…色々あったんだ。 まぁ…未だ何とか動けるからまぁ…多少はね?」



 「「満身創痍じゃん!」」



 姉妹に痛い所を突かれ思わず目を背ける。


 …帰ったらしこたま怒られるかな?


 「何なら右腕無いじゃん!」


 「僕。 装甲が彼処までグズグズになってるの始めて見た…」


 「死ぬ以外はかすり傷って言うし…まぁ大丈夫だ」



 満身創痍…な私と違い、並走するプロペレンスは凹みや黒焦げた跡が目立つが、堅牢な巨体にはかすり傷にもなっていないだろう。



 やはりガチタンは正義か…。



 「オイルと冷却液ダダ漏れなのによく言いますよね」


 「姉ちゃん駄目だよ、そうゆうこと言っちゃ。 影で宇宙から来た高速爪楊枝って言われてるからって…」



 「aaa…ごめんちゃい。 そこまで追撃しなくても良く…良くない?」



  

  束の間の会話に肩の力が抜け、安心感を任務中だと言うのに感じつつあったが視界を流れる景色に無視出来ない程の森人の死体や無人機の残骸が目立つようになり、心は戦いへと深く沈む。



 「プロペレンス。 そろそろ来る筈だ…周辺の警戒を引き上げろ」



 「了解。」



 死体や残骸だけが散らばる不自然な空間を暫くの間進んでいると突然に形容し難い刺激臭が私の鼻を突く。



 「この臭いは…腐臭か。 かなり酷いな」


 「腐臭? 発動機の臭いで分かんないなぁ…お姉ちゃんはどう?」


 「いや、分かんない。 でも嫌な感じはする…」



 

 私だけがこの臭いを感じ取っている?


 そんなまさか…現に腐臭以外に腸に手を入れた様な湿り気を身体で押し退ける空気からセンサーが拾って―――。



 「避けろプロペレンス!」

 

 「―ッッ!」


  

 突然けたたましく鳴る警告音に反射的に飛び退く。



 「ゲゲゥゲゔィゥゥゥ…」


 (ハービンジャー)とプロペレンスがほぼ同時に回避行動を取った刹那、ソレは悍ましい蹄の音を響かせて私達を追い抜く様に姿を現した。


 前脚が進みながらも分かる窪んで濁る白い瞳、肋骨から腐り落ちそうになる臓物を揺らす白骨化した上半身。 下半身は無数の後ろ脚が暗い虚空に伸びて終わりは見えない。


 「あれは…馬、なのか?」



 「あんなのが馬な訳…」



 「姉ちゃん。ハービンジャー…あれが何であれ、死ねずに苦しんでいるのは確かだよ。 行こう…アレが見え無くなる前に」



 どんどんと駆け抜けて行く馬の塊…? 千本骨と呼ぶか。


 「良し、行くぞプロペレンス。 深淵を駆ける呪縛者に…暖かな陽だまりまでの道を示してやろう」



 「「了解。 安らぎを正しく死ねぬ者達へ…」」




 履帯が一層と唸り声を上げながら回り【千本骨の呪縛者】を追跡する為に速度を上げるのを見て私も出力を上げて呪縛者の後を追う。



 深淵の闇を切り裂く様に飛び、不気味な走り方をする呪縛者の真横へと一足早く追い付く。


 

 「悪く思うな…よッッ!」



 「ゲゥヴィィッッ!?」



 並走する私が見えていないのか、腐臭と呪いを撒き散らしながら走り続ける呪縛者にアンナ・ネウスの回転刃を叩き込む。



 呪縛者の脇腹に当たった回転刃は肋骨を砕き、撒き散らしながら臓物をも巻き込んで刃を汚す。



 「ゲゲゲゥ…!!」



 アンナ・ネウスで身体を削られ、やっと此方を視認したのか濁る目に殺意が混じりお互いの視線が交差する。



 「ッッ…!」


 「ヴィッッゲゲゲゲ」


 呪縛者の臼歯と臼歯の隙間から溢れ出す臓物が私を貫かんと伸び、咄嗟に上空へと退避するがどうやらそれは悪手だったみたいだ。



 「コイツ一体何処まで――危なッッ!」


 高速で飛行する私を延々と鞭の様な臓物が枝分かれしながらシールドを掠め、不快な引っ掻き音を引き起こす。


 

 急速離脱による衝撃波に身を捩らせ、蹄で地面を蹴り上げて進む呪縛者は更に速度を上げ、深く暗い風をより纏う。


  

 「下がってハービンジャー!!」


 「スマン助かったッ!」



 四方八方から迫る臓物に対して防戦一方に陥りそうになっていると後方からロケット弾やスペクトラム重陽子拡散砲、バルカン砲の圧倒的面制圧の暴力が無数に迫る臓物を消し飛ばす。



 「あの呪縛者…一体どうやって走っているのかな?」



 「走っているんじゃなくて走らされているんじゃないかな…」


 セレンディとジャイトの言う通り呪縛者の姿を見ても分かるが下半身にある後ろ脚は走る機能は無く、下半身の繋ぎ目から無数の脚が集まり虚空に伸びている…。


 まるで操り人形だ。


 「もしや…」


 「何か来るッ!」


 「ヴゥ…ゲゲゲゲゲ?」



 呪縛者を中心に数え切れない数の魔法陣が生成され始めるのを見つつ、虚空に伸びている下半身の先へとカメラの倍率を合わせる。



 「アレは…!!」



 「グッ! 散開するよハービンジャー!?」



 無数の脚が伸びている末端…そこにあったのは糸。


 複雑に絡まり3つの束と化した糸だったのだ。



 「ゲゲゲッッゥヴゥヴゥゥ」


 

 呪縛者を倒す方法が確定では無いが判明した…が、相手が待っていてくれる筈も無く、魔法陣からは下から上へと照射される光線や針状の呪いを吐き出す球体状の呪いの塊が現れる。



 「プロペレンス。 お前達は針を吐き出す奴の対処を頼む」


 「ハービンジャーはどうするの?」


 「私は呪縛者を操り人形にしてやがる趣味の悪い糸を切ってくる!」




 プロペレンスが地上の厄介な呪いの塊を吹き飛ばしている隙に私は地上から照射される光線を避けながらブースターから緋色の光を伸ばし糸へと音を越え接近していく。



 「おらぁッッ!」

 

 死の柱が天を駆ける。 その僅かな隙間を抜け、右腕部から散る血がパチパチと弾ける様に呪いを拒絶して蒸発するのを横目に一束の糸を切り裂く。



 「ギュゥヴィィアァァ!!!」


 「手応えありだ。 悪いが狩らせて貰うぞ」



 《シールド残量…7%》



 切り裂いた糸が暴れ、地面を抉りながら遥か後方へと流れて行く。


 あと2つ…何が起こるか、私は未来が見える訳では無いから分からない。


 …然し呪縛者が呪いから解放される気がする。 そんな根拠の無い確信だけが心で渦巻く。



 「ハービンジャー! 行動パターン変わるよ!」


 「姉ちゃんそろそろ発動機が限界だ! 爆発しちゃうよ!?」

 


 大きく旋回しながら次の糸の束を狙いながら地上を見やる。


 無視出来ない程の攻撃に揉みくちゃになるプロペレンス。 ロケット砲があった部分は溶解、バルカン砲とスペクトラム重陽子拡散砲の砲身は運用限界を越えて真っ赤に熱を帯びていた。



 ジャイトのいる発動機操舵室からは黒煙が溢れ出ている。 一刻も早く糸を断たなければ姉妹の命が危ないだろう。



 断つための道は下から上への攻撃、塊と言う点から断続的な弾幕…そして新たに回転しながら切裂かんとする横薙ぎの攻撃が増えて侵入は命懸けとなる。



 「死は確実な外れくじ。 何れ来る順番など今更怖くない…!」


 《緊急的防御機構停止。 人為的オーバーロードが受託されました》


 

 心臓が火を噴き悲鳴を上げる。 動きを止め身を投げ出せば直ぐにでも呪縛者の手によって楽に成れるだろう。



 だが、子供の前でそんなダサい格好を見せる訳にはいかん…コンフェに失望されたくないしな。


 「aaa…任務が終わったら頭をナデナデして貰おう、ソレが良い」



 余りの速度による摩擦熱で身体が自壊し、部品を撒き散らしながら呪縛者の攻撃を真正面から突き抜け糸の束をアンナ・ネウスで吹き飛ばす。


 「後一つゥッッ!!」

 

 「「行って下さい英雄様!!!」」



 「ギゲゲッッゲゲゲゲ!!?」



 2つ目を吹き飛ばした衝撃で回転刃が壊れたアンナ・ネウスを投げ捨て、相棒であるレーザーダガー【マデューラ】を構えて呪縛者の直線上に侵入する。



 慌てて全ての攻撃を私に向け様としているのか全ての攻撃が止み、呪いが極限まで圧縮され紫色の極光が視界を埋め尽くす。


 「お前は必ず期待に応えてくれるよなマデューラ…」


 紫色の極光に対して緋色の光の輪が何重にもブースターから伸び、呪縛者の侵食領域に拮抗する様に光り輝く。



 「ハァァァぁあッッ!!!!」


 「ゲゲゲッッ――」



 衝撃波が天を裂き、紫色の極光とマデューラの緋色の光がぶつかり合って空間に無数の罅を走らせる。


 自壊し、壊れるのは私か。


 駆け抜ける呪縛者が平原へと辿り着くのが先か……。



   



 「……善い子に成れよ」


  「――ヒィィィィッッン!!!」



 馬の嘶きが火達磨になっている私の耳に入る…その刹那、圧縮された呪いを緋色の刃が穿き…。



 最後の糸の束が断たれた。




 「ハハ…。 やったぞお前達、カッコよかった…だろ、私は」



 「カッコよかったですハービンジャー。 いや、ヘラルド様!」



 「姉ちゃん機体を動かして…ヘラルド様が落ちて来るから」



 《機体大破。 ジェネレーター…その他システムを強制停止します》



 火達磨になっていた身体がエネルギーを失って鎮火すると同時に落下し始め、塵となり消え逝く呪縛者の身体を伝いながら転げ回り、地上へと向かう。



 「もう指一本も動かせねぇ…無理、するもんじゃないな…」


 暗滅する意識の中、自由落下による風切り音だけが頭に響く。


 落下の衝撃を覚悟して目を閉じる…。 が、然し身体は小さな衝撃のみを受けて晴れゆく空が視界を流れる。



 「プ、プロペレンス…お前達どうやって」


 「どう? 凄いでしょ。 コレが私達の卓越した操縦技術」


 「ゲホゲホ…。 姉ちゃん今ので足回りが、破損した…よ、ゲホ…」


 僅かな力を振り絞って仰向けの状態から起き上がる。 どうやら私はプロペレンスに受け止められたみたいだ。

 

 …あの高さから一体どうやって?



 「呪縛者の身体をこう…ダダダー、て」


 「死ぬかと思ったよ…ケホ」


 

 「脳味噌…筋肉で、出来てんのか…お前達」




 子供の命懸けの行動で助かったが…無茶するなと釘を刺さないとな。



 まぁ…私が言えた事では無いが。

 

 《通信回復。 最後撃破目標の消失を確認しました。 お疲れ様でしたハービンジャー》


 「まぁ…何がともあれ」



 「やっと帰投出来るね」


 「あ〜お腹すいた〜。 ヘラルド様、約束通り焼肉定食奢ってー」


 「ハイハイ…幾らでも奢ってやる」



 空は晴れ、日差しが私達を照らす。


 ミッションコンプリートだ。


 【血涙の指輪】 血の如く赤い宝石が嵌め込まれた指輪 着用者の危機に比例して身体能力を向上させる。 本来聖女とは人間種が務めるが例外が現れる 獣擬き 獣人が神に選ばれるなどあってはならぬと 多くの血が流れた 流れなくても良い血も流れた そんな経緯を得て 贖罪の女神ベルカの聖女に コンフェドール・ベルカは聖女となった 万人の罪を赦す為に刻まれた傷 凡そ数千 身体に刻まれた治る事の無い生傷こそが 聖女が聖女たる由縁となった。


 【碧き聖銀の水盆】 贖罪の聖女から流れる血と涙を貯める為の祭具。 その涙と血は汎ゆる傷を癒す高い力を宿す 血と涙は溜まり 増えて沈んでいく だが誰もその苦難を知ろうともしない だから滅びに向かうのだ 愚か者共 さっさと去ね 私だけがあの娘の味方なのだから だからこそ 深淵に沈んでしまえよ 

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