表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

回り回って繋がる首の皮


 【メビウス自動小銃】 ボルトテック・アームズ社が高級将校向けに製造した小銃。 独特の角張った銃身にスマート・カペレ方式の7.62mm自動追尾ミサイル弾、40発マガジンを採用したこの小銃は照準さえすれば複数の対象の頭部を確実に砕く次世代の携帯武器として期待されたが 発射機構や専用弾薬の高コスト問題を解決出来ず 極少数の製造に留まった。 弾薬の自動追尾ミサイル弾は後の名銃 アサルト・ワインダーシリーズへと引き継がれた。


 【魔法文字】 魔法と魔術が体系として分岐する以前の技術。 言葉は呪い 文字は契り 意志ある者の使命とは自ら背負う 十字架の名を読み解く為にあった。 



 作戦開始時刻に成りました。 概要をオペレーターアナトリアが説明させて頂きます。



 先のヘブンスカーでの作戦行動により極めて大規模な地質調査が進み、地下に大規模な埋没構造体が複数発見されました。


 プラジュナーの先行調査隊により今回の深淵の発生原因があると思わしき場所が主に2か所。


 一つは埋没した数十階構造の建造物、2つ目は凡そ3階層になる地下塹壕が有力視されています。


 また汚染されて時空間異常が発生している上、地下深くである関係上オペレーティングシステムの支援は出来ない物と考えて下さい。


 そして死神部隊、第二議席である貴方(ハービンジャー)と第一議席のコンフェドール様には地下塹壕の探索…並びに深淵の排除が主目標となります。



 一時的に抑制されているプラジュナー領の深淵の侵食は根源である深淵の破壊でのみ解放されます…確実な任務遂行が期待されており、失敗は許されません。


 星を啄む鴉の勲章…その責務の遂行を世界は求めていますので…どうかご無事に帰投する事を願っています。

 



 


 ◆◇◆◇



 

 【地下塹壕前・封鎖仮説拠点】



 「ハービンジャー現着した。 現在の状況を報告を頼む」



 ヘブンスカー古代森林群での作戦を終え、修理と休息を得た翌日の正午。


 未だ終わらぬ世界の危機に緑花の職員やプラジュナーとサルヴァの二国の兵士達の顔色は優れない様子が見受けられる。




 …故郷も帰りを待つ家族も亡くなってしまう可能性が有るのだから当然か。



 「ハハッ。 現在周辺地域の封鎖が完了し、住民の退避は9割方完了致しました! 又、地下塹壕内の先行調査隊約12名の内3名が帰還し、現在地下塹壕の入口は完全封鎖作業が進んでおります!」



 報告を聞く私がいるのは地下塹壕前に仮設された拠点。 そのヘリポートから離れた場所で、私は疲弊を隠し切れない森人の兵士の責任者と共にいる。


 仮設拠点とは思えない程の頑丈な建物は呪いの拡散を封じる魔法陣が至る所に刻みやすい様にする為が故だろうか。


 何方にせよプラジュナーの人達の魔力の扱いに関する技術の高さは噂通りである。



 「承知した。 済まないな忙しいのに」


 「い、いえ! 貴方達死神部隊がいるからこその我等の命。 その責務を果たせるのは本望と言う物…お気になさらないで下さい」


 「相分かった。 これから私はヘリで此方に来る死神部隊の第一議席を出迎える。 …地下塹壕に突入出来る準備を頼む」


 「ハッ…!」



 敬礼し、急ぎ足で離れて行くのを見届け。 私は空を見上げる。



 呪縛者とデーモンによって立ち込めていた暗雲は息を潜めて今は青空が広がり、人の慌ただしさとは無縁の様に聞こえて来る森のざわめきや生き物達の鳴き声に耳を傾けて神経を研ぎ澄ましていく。



 「今日は最高にピクニック日和何だがなぁ…仕事が優先だよなやっぱ」



 目を閉じ、あり得たかも知れない可能性に耽る。 サンドイッチやパニーニを作り上げ…コンフェとカーミラが美味しい美味しいと食べてくれる光景が浮かぶ。



 恐らく此方が正史だろ…おのれ深淵め…絶対に許さん。


 何時かお尻ペンペンしてやる。



  「フフ…。 今度は何を作ろうか、料理本からまた探そう。 ―――ちょわ!?」


 …溢れ出る空想に思わずニヤけていると耳元で羽虫が飛ぶ音に驚いて足が縺れた。


 「オワー!!」


 閉所での戦闘の為に身体を縮めていた為に、手頃に寄り掛かれる壁に手が届かずに臀部から機材置き場に向かって転んでしまった。



 「アダダ…。 あ、」


 物音に驚いて数人の兵士が此方を見やるが気不味そうに目を逸らし、他の兵士に紛れて消える。



 穴があったら入りたい案件ですよ…本当に。


 …既に尻が嵌って抜け出せ無くなっていると言う突っ込みは聞かない。



 「な、ニャにしてんのヘラルド?」



 「あ、あ〜…コレはだなコンフェ。 事故なんだ…うん。 済まないが助けて」


 

 嵌ってしまった身体を何とかしようと藻掻いていると空からはローター音が響き、臨時のヘリポートにヘリが着陸する。


 後部のドアを職員が開け、深々と頭を下げて差し出した手を搭乗していたコンフェが取り、地面へと降り立った。


 左右を見やり、誰かを探す様に視線を泳がし…一瞬目が合うが信じられない光景を目にした様に此方の視線を無視して再び視線を泳がせる…が、やっぱり探し人は尻が機材置き場に嵌って動けなくなっているのを再認識したみたいで恥ずかしそうに此方に駆け寄って来た。




 ◇◆◇◆



 コンフェの手を借りて機材置き場から脱出した私は愛銃であるエンフォーサーの動作確認をしつつ、コンフェと共に地下塹壕の入口へ向かう。



 「いや〜あの時はどうなる事かと思ったよHAHAHA!」 


 「見てる側は恥ずかしくて仕方なかったニャ!」


 歩幅を合わせながら防護服を纏うコンフェが手に持つ銃の銃床で脇腹を小突いているのを感じ取りながら腰に手を回す。


 「何気に二人だけで作戦行動を取るのは久しいなコンフェ?」


 「…まぁ確かにそうにゃね。 カーミラちゃんとアスター教官は別の埋没構造体の調査に行ってるし…」



 …確か呪縛者の撃破以来だったな。 と言う事はめっちゃ久し振りじゃん。


 「そう言えば何気に始めてじゃにゃい? 機体を駆り、戦う以外の作戦行動は?」


 「あ…あ〜確かにそうだ」


 そっか…ビュンビュン右へ左へと回避行動が取れない環境での戦闘は初めてか。


 室内戦闘…程では無いとは思うが狭い場所は嫌いなんだよなぁ…。


 「まぁ…何にせよだ。 aaa…俺達は任務を熟して深淵の芽を摘むだけだ」


 「それもそうにゃね」


 今日もコンフェの横顔は凛々しく美しい。 間近で見れる私は幸せ者だ。


 「そう言えばコンフェ。 今日の武装は何を?」



 「今日? そうだね…先ずは腰に装着したホルスターにしまった拳銃でしょ?」


 そう言って腰のホルスターを叩く。


 形状からしてハンマー式か…。


 「手に持ってる銃…随分と角張った銃だな」


 「コレ? にゃふふ…ずーと、使ってみたかったんだよね。 名は【メビウス】弾薬は追尾ミサイル弾を使用するスマート・カペレ方式、40発弾倉で口径は7.62mm…しかも自動照準アシスト機能付きにゃ!」



 凄い高性能だな。 地球人には決して持てない重量物だろうに…軽そうに持っている辺りコンフェもこの星の人間らしくフィジカル規格外なんよな。


 「良くもまぁ復元出来たな…大変だったろ、そんな近代兵器?」


 「いや〜凄い大変だったよ。 にゃにせ弾薬も銃本体の構造も実弾やEN弾の発射機構と違ったしね」



 「流石に弾薬一発一発を復元して再利用している訳じゃないだろ、一発幾らなん」


 「にゃ…確か、一発金貨5000枚位かなぁ…」


 「ご、五千!?」


 じゃあマガジン一つで二万枚分かよ…そうなると白金貨二枚だから豪邸が沢山建てられるな。



 「ククク…もうそれ私が住宅を持ち上げて投げ付けた方がお釣りが来るな」


 「ニャハハ! 良いねそれ。 折角復元したから今回引っ張り出して来たんニャけど、次はそれを採用しようかニャ」


 軽い冗談を交わし、封鎖区画の番兵に目配せして足を進める。


 緊張が仮設拠点にいる全ての職員と兵士を伝い伝播していくのを感じ取り震えそうになる右足を叩き、コンフェの尻尾が逆立ち膨らむのを見て私は黙って頭を撫でて自分自身の緊張を誤魔化した。




 ◆◇◆◇


 【地下塹壕前・崩落口】


 

 「コンフェドール様。 コレより先は瘴気と毒性の霧が立ち込めます…完全密封性の防護ヘルメットの着用を」


 「了解。 ニャー達が地下塹壕に入ったら直ぐに崩落口の封鎖を」


 「ハッ…。 どうかご無事に任務が成功するのを我々一同願っておりますが…危なくなったら迷い無くお戻り下さい。 …命大事に、です」


 いよいよ地下塹壕の入口の前に立った私とコンフェは膝を付く兵士と職員の警告を聞きつつ、崩落口から下がらせる。


 森に良くある熊の洞穴にも似た場所からは既に瘴気と毒性の臭いを漂わせ、センサーが微かにそれを拾う。



 「既に空気は穢れを含んでいるな…中はもっと酷いのだろうな」


 「聞いた話だと帰還できなかった調査隊の隊員の全てが皮膚が爛れ溶けながら死んでいったらしいにゃよ」


 ヘルメットを被ったコンフェの首元に隙間がないか、念入りに確認しながら次いでに胴体と下半身の防護服の状態を確かめる。


 「良し、大丈夫そうだ」


 「ありがとうハービンジャー。 じゃあ…行こうかにゃ」


 「あぁ…」



 数秒間お互いの瞳を見つめ、武装の安全装置をきる。



 …もう後戻りは出来ない。



 「「「ご武運を」」」


 敬礼をする全ての者達に、私達は振り向く事は無かった。 進むは呪いの地…償いを、サヨウナラを死に逝く貴方へ。







 ◇◆◇◆



 【地下塹壕・第一階層】




 足元さえハッキリ視認出来ない暗い狭い道を身体を擦らせながら進んでいた私とコンフェに待ち受けていた光景は余りにも異質であった。



 「なぁコレ。 何かの冗談だよな?」


 「冗談なら笑えないニャよ」


 暗く狭い道を抜けた先にあったのは空、だった。 暗澹にも似た濁った雲が広がり、霧雨を降らせていた。



 兵士の報告にあった瘴気と毒性の霧は恐らくこの霧雨に含まれる何らかの呪いの事であろう。


  

 「この道を進まなければならないとは…」


 「長居は危険だね。 二階層への道を探さにゃいと」



 雨が溜まり泥濘んだジグザグの塹壕を銃を構えながら進んで行く。


 嘗ては誰かの戦場だったであろう記憶の回廊は恐ろしく静まり返っており、時々塹壕から見通せぬ程広がる地上を覗くが生き物が存在する気配は微塵も感じず…見えて聞こえるのは塹壕に流れ落ちる雨水と塹壕内を流れる雨水の音だけだった。



 「止まれ、…何か来るぞ」



 「この毛が逆立つ感覚…人、では無いにゃね」



 足元を流れる泥水を掻き分け進んでいると進行方向から金属が擦れる様な不快音が聞こえ、私達は足を止めて霧雨で見え辛くなる視界を手で拭い銃を構える。



 「アァァ…□■■ア…」


 

 複雑な迷路の様に続く塹壕の道から姿を見せたのは人では無かった。 黒い膿で濡れそぼったトレンチコートを羽織り、ボルトアクション式の小銃を携えた人間の振りをした機械部品の塊である。



 道を流れる泥水を掻き分け、左右に蹌踉めき歩く度にギシギシと金属が潰れ擦れる音を響かせていた。



 《メインシステム戦闘モード起動》


 

 「コンフェは私の後に…」


 「うにゃ。 バックアップは任せて」


 横でメビウスを構えるコンフェを呪いに侵された呪縛者の射線に入らぬ様に背中側に下がらせ、私は構えるエンフォーサーの銃床付近に設けられているエネルギー供給チューブを伸ばし、左脇腹のダイレクトボックスに繋ぐ。



 《エンフォーサーへの接続を確認。 エネルギー供給開始》



 小さく唸る愛銃の照準を呪縛者へ向ける。 無い筈の心臓が跳ねては暴れ、気分が悪くなる。


 此処は戦場、死ぬ事以外がマシになる地獄である…戦う者達が居なくとも。


 「ターゲット捕捉。 射撃開始」


 「あぃ…■■■□」


 引き金に指を掛け、此方を視認した呪縛者が小銃を向けて放った弾丸がシールドに当たり砕けたのを見て引き金を引く。


 肩、胴体…首元に吸い込まれる様に緋色のEN弾が当たり、風穴を開けられた呪縛者は両膝を付く。


 「あ…あうあ」


 「今…殺してやるからな」


 銃口を下げ、武器ハンガーから抜き、左手に構えマデューラの緋色の刃を展開してゆっくりと奇襲を警戒しながら近付く。


 「ヤぁ、□■…が、娘■□帰りヲ」


 「再会出来る事を…祈っているよ」


 僅かに動く片腕で汚れたペンダントを掲げる呪縛者。


 そんな命乞いに目を背け、私はマデューラの刃でその首を刎ねた。


 頭を失った為に身体の力が抜けて腰が折れ、首元が小さく水飛沫を立てて泥水に浸かるのを暫く見つめてから顔を上げて周囲を見渡す。



 「敵影は…無いか、出来ればコイツだけなら良いが」


 「いにゃ〜どうかな? 報告によると第一階層のこの空間では今みたいな人型の呪縛者の他に色々いるらしいね…」


 はえ〜やっぱりそうだよなぁ…。 こんな霧雨で悪い視界の中でドンパチするのは好かないな。



 「はぁ…ふう。 じゃあ探索再開だな…出来れば早く次の階層に辿り着きたい。 死臭と泥に塗れるのは嫌だし」


 「え〜と…次の階層の入口は赤い扉? みたいにゃね」



 胸糞悪い空間に悪態を付く私を他所に、腕に装着した端末で報告書を読むコンフェがそう告げる。


 赤い扉ねぇ。 まさか血と臓物で赤くなっているとか言わんだろうな…。



 


 ◆◇◆◇



 「ねぇハービンジャー…」


 「ん? どうしたコンフェ?」


 「ん? どうした、じゃニャいよね。 迷ったよね私達」


 「あ、あ〜まぁそう、だな…」



 アレから私達は襲撃も受けずに数時間もの間、死体しか無い静かな戦場を彷徨っていた。



 塹壕をひたすら進み、塹壕を這い出て鉄条網を木の板で踏み越え、戦車の残骸を避けて時折トーチカや退避掩体の内部を漁ったりしながら進んでいたのだが一向に赤い扉は見つから無い。



 「参ったな。 戻っても進んでも違う場所なんだよな」


 「方位は狂ってないんだけどね…多分空間自体が捻れてるんじゃにゃいかな…。 このまま次の階層が見つから無いとなると、帰還する手段を探さないと」



 霧雨が齎すのは何も視界不良だけでは無かった。 進めば進む程、下がれば下がる程に場所が変わる。



 戦場特有の方向感覚の混乱かと考えたが違う様だ。


 困ったな…いや、本当に。



 「取り敢えず転移魔法で帰還して再出発はダメなのか?」


 「そうしたいんだけど魔力がね…練れないの。 恐らくこの霧雨が原因だと思う」

 


 コンフェが必死に魔力を練ろうとしているが霧散し、発動出来ない様で唸り声を防護服から震わせていたが…諦め、肩を落とす。



 「取り敢えず近くのトーチカで休息を取るかニャ…」


 「そうだna――伏せろコンフェッッ!!」


 

 警告音と共に霧雨で見えぬ先で一瞬、空気中の水分を乱反射する複数の閃光が走った事で緩んでいた気持ちが冷や汗と共に千切れんばかりに軋み伸びる。


 「グブゥッ!」


 「済まん! 今は銃を構えろ!」



 銃弾の乾いた飛翔音が耳元で聞こえ、近くの掩体にコンフェを突き飛ばした瞬間至近距離の地面が爆ぜて土や泥が爆風と一緒に私のシールドを叩き落ちる。


 「糞! 歩兵以外に戦車が複数いやがる!!」


 僅かに見える造形から判別するにかなり古い…恐らく実弾式だ。


 「私はどっちを!?」


 「お前は随伴兵を! 私が戦車をやる…!」



 《ジェネレーター出力を80%から115%へ上方修正》


 「aaa…死ね! 過去の亡霊がぁッッ!!」


 エンフォーサーの引き金を引き、キャタピラを響かせる戦車の車体下部をニードラーブラスター特有の貫徹力に特化したEN弾が戦車の稼働部に風穴を開ける。


 一瞬黒煙を空に吹き上げた後、連続した凄まじい破裂音と共に視界不良の中でもハッキリと分かるほどの炎を噴き上げて火達磨になり、砲塔が中を舞う。


 然しそんな物を眺めている暇は無い。


 「コンフェ! 次は右手からワラワラと兵士が突撃して来るぞ!」


 「分かってる!!」


 炎上する戦車に照らされ、黒く揺れる人の様なナニカが吶喊の声を響かせ小銃や機関銃を撃ちながら近付いてくるのを掩体から曝け出したメビウスのマガジンをコンフェは投げ捨てる様に変え、チャージングハンドルを引いて照準を合わせる。


 「マルチロック完了…! 逝けッ! 」


 引き金が引かれ、4発づつ放たれる特殊な弾丸は撃鉄で叩かれ火薬の爆発的推進力で銃口から押し出されて外殻を脱ぎ捨て、ミサイル状の追尾弾となって兵士の頭部を確実に追尾し砕く。


 「…ッッやらせるか!!」



 単身だと言うのに驚異的速度で随伴兵を一回の射撃で四人を屠るコンフェへ銃弾の嵐の中に戦車の砲弾が飛んでいくのが見えたので咄嗟に掴んで握り潰し、次々と此方に向かう戦車を撃ち抜く。



 「ヘラルド!?」


 「問題無し。 見据える瞳に揺らぎは無い…!」


 砲弾が左手の中で炸裂し、痺れるのを痩せ我慢で誤魔化して最後の1両に照準を合わせて引き金を引く。


 速射によって穴の開いたチーズの様になった戦車の車体が左右に裂ける様に爆裂、砲塔が空高く舞ってクルクルと回転しながら地面に落下して私の側を転がる。


 《主武装排熱限界。 強制冷却開始》


 システムの報告が入った後、エンフォーサーの冷却装置が展開して陽炎が立つ。


 「周囲に新たな敵影無し…全く勘弁して欲しいものだ」


 「此方も片付いたニャ。 …あ〜もう、身体がバキバキ、防護服が無かったら蜂の巣だったにゃね」



 砲撃が止み、銃撃も止んだ戦場は再び静けさを取り戻す。


 先程と違う所は呪縛者達と戦車の残骸が辺り一面に散乱し、硝煙が身体に纏わり付く霧雨に付着して拭っても拭っても臭いが落ちない事である。


 「コンフェ、手を」


 「ありがとハービンジャー」


 掩体の中にいるコンフェの手を取り地上に引き上げる。 防護服は泥だらけになり、所々に銃弾が当たり砕けた跡が散見されるのが確認出来る。


 とんでもなく痛いだろうに…男性だってライフル弾が防護服を貫通せずとも衝撃は硬式野球の死球の比ではない威力であり、のた打ち回る痛みで苦しむ筈だ。



 「コンフェ…」


 「ん〜? どうしたの?」


 「いやその…緊急事態だったとはいえ、掩体の中に突き飛ばしてしまった。 本当に済まなかった」


 「フフ…大丈夫だよあの程度。 …それに私の為だったんでしょ? なら怒る理由も無いにゃよ…何なら命を助けて貰って感謝してる位なんだから」



 「…優しいんだなお前は」



 咄嗟の反射的行動だったが漢としては最低であるのにも関わらず、コンフェは防護ヘルメット越しにはにかむ笑顔を見せてくれる。


 「…それにしても彼らは一体何処から来たんにゃろうね」


 「偶然か、或いは深淵が意志を持って差し向けて来たか…3階層に辿り着けば分かる筈だ」


 

 頭部が薔薇の花弁の如く開いた散らばる呪縛者達の遺体は半ば機械と融合している異様な状態。 大部分が吹き飛んでいるが内部に残っている埋め込まれた機械部品には企業のロゴが刻まれ、少なくとも彼らの意思かどうか関わらず趣味が悪いに程があるだろう。


 …全身機械の私が言えた事では無いがな。


 「これ以上の行動は体力を消耗するだけだ。 休息を取るぞコンフェ」


 「疲れたぁ…。 ヘラルド抱っこして」


 「お安い御用だ」


 エンフォーサーを背に仕舞い、腕を広げて待ちの姿勢を取るコンフェを抱き上げる。


 「赤い扉探しは…まぁ何とかにゃるでしょ」


 「だと良いがなぁ…」



 塹壕を飛び越え、泥濘み滑る足元に気を付けながらトーチカの裏手に周り地雷を踏み避けて入口に辿り着く。


 内部は分厚い鉄筋コンクリートで覆われていて少々肌寒いが外よりは大分マシである。 中にポツンと錆の涙を流す重機関銃が埃を被り、歴史の悲しい部分を明確に映し出していた。



 「少々汚くて埃っぽいが外よりは良いか…」


 「雨風防げるのは意外と貴重、文句は贅沢になっちゃうにゃよ」


 「…全くおっしゃる通りで」


 抱き抱えていたコンフェを降ろした私は片膝を付き、トーチカから外を覗く。 戦車の残骸から立ち昇る黒煙が霧雨による視界不良の中でも良く見える以外は静寂が支配していて私達の身動ぎする音だけが反響する。



 「赤い扉…赤い、扉ねぇ」


 「どうしたの? ハービンジャー」


 外を眺めながら無意識に出た言葉に、コンフェが地べたに座ってメビウスに付着した泥汚れを拭いながら聞いてくるのでそちらに視線を移す。


 「扉…何処にあんだろうな〜て。 あんな延々と続く戦場に果たしてあるのか?」


 「報告には赤い扉と、記載されてたけどもしかしたら違う物に変異しているのかも…深淵による侵食領域は絶えず変化する訳にゃし…」


 「う〜ん困った困った…」



 一体どうしたもんかな…このまま彷徨うのは得策とは到底思わないし、かと言って扉を探さないと次の階層に進めんしなぁ…本当にどうしたものか。



 「暇潰しにタロット占いでもするかニャ…」


 「おいおい、湿気が酷い場所でカード何て広げるな」


 銃の手入れが終わったらしいコンフェが懐からカードを取り出して並べ始めたのを見て私は呆れ半分興味半分で立ち上がり、コンフェの近くに移動して並べられたカードを見つめる。


 「何を占うんだコンフェ?」


 「そうにゃね…暫くしてから探索を再開して扉が見つかるか占う?」


 「そりゃ良いな。 流石に数時間も歩き続けるのは骨が折れるしな…まぁ私には骨、無いけど」


 

 実際に占って状況が良くなるかは分からんが験担ぎにはなるか…。



 「じゃあ選んで?」


 「ハイハイ…うんじゃあコレにしようかな」


 「さぁニャんじゃろー…な!」


  床に並べられたカードの1段目、右から4番目を指差すとコンフェが伏せた状態のままで指で挟み、私の視線に合わせる様に立ち上がる。


 そして持ち上げられたカードの表紙が露わになった。


 「黒い布を纏う骸骨」


 「そして大鎌を携える。 …正位置のアルカナ、死神にゃ」


 第13目を象徴とするアルカナ…死神、か。


 皮肉だが…意味としては良いな。


 「死神か…運命の悪戯か私達もまた、死神だな」


 「立ち止まる事をこの星は赦さないって訳にゃよ。 ニャハハ! じゃあ早速探索再会―――ヴニャァァァ!!??」


 「コンフェッッ!?」


 コンフェが嬉しそうにカードを持ちながら壁に寄り掛かった途端、壁が回転しコンフェの姿が消える。


  …盲点だったな。 まさか、からくり仕掛けがあるとはな。


 「…成る程な、滑り台があったのか。 今行くからなコンフェ!」



 少し壁を押すと薄暗い部屋に、下へ通じる滑り台が見える。


 恐らく顔面から滑り落ちたなアイツ…。 



 カード占い様様だ…決着の時は案外近いのかも知れんな。







 ◇◆◇◆



 【第二階層・地下壕?】




 「ヴニャァァァ!! ――ヘブゥッ!?」



 「アハハ。 見事なヘッドスライディング、百点満点だ」



 長く続いた滑り台が終わり、先に滑り落ちて行ったコンフェが派手に転げ回る姿が見えて思わず笑いが込み上がる。

 


 「こんな狭い通路でサソリの真似何て変わってんな? コンフェ」


 「張っ倒すにゃよハービンジャー。 これは唯…床の耐久度を確かめていただけ。 アンタ重いからね!」


 「ハハハッ! 質の良い物は重いんだよ」



 床で突っ伏すコンフェを抱き上げて地面に下ろしながら周囲を伺う。


 薄暗い部屋には一切の物が置いておらず、あるのは私達が散々探し回っていた扉。


 …黒い錠前の付いた赤い扉だ。


 「どうやら正解を引いたみたいだな」


 「暗視装置を持って来て良かったにゃ…。 じゃあ開けるにゃよ」


 ヘルメットに装着していた暗視装置を目元に下ろしたコンフェの手によって赤い扉がゆっくりと開き、二階層の道が暴かれる。


 「私が前衛…。 コンフェは引き続き後衛でバックアップを頼む」


 「了解。 暗所での戦闘は少し得意にゃんだよね」



 そう言いながら重心を落として銃を構えるコンフェを一瞥し…先頭に進み出て赤い扉を跨ぐ。


 扉を越えた先もまた暗所の広がるコンクリートの通路…足音が反響し、何時交じるか分からぬ深淵の犠牲者の足音を然りと聞き取れるか不安が心で渦巻いている。


 

 「「……」」


 お互いに口を噤み薄暗い廊下を進んで行く。 役割は分かっている。


 一刻一刻が永久に感じながらも着実に状況は変異していた。


 「…何だ?」


 「にゃにこれ? …平衡感覚が…」



 警戒しながら通路を進んでいた私達を襲ったのは呪縛者では無く、目眩にも似た天と地が回る感覚だった。



 視界に映る光景は原型を留めずに歪み回り、やがて全ての光景が先程まで立っていた薄暗い通路等では無い。


 向かいの黒檀製の扉に赤い絨毯の敷かれた床、優しく揺れるランプの光が照らす意匠の凝った洋館の様な暖かな部屋に私達は理解よりも先に到達していた。



 「これが地下施設の姿かよ…」


 「暗視装置は…必要無かったみたいにゃね。 しかも瘴気も霧雨に混じる毒の心配もしなくて良くにゃったし」


 銃を構えつつ近くの家具を調べる、が特に異常は無く…分かるのは良い木材を使用している事だけだな。


 地下壕にしては不自然に凝った造りだが…。


 

 「まぁ…何が出てくるか分からん…油断するなよコンフェ」


 「言われなくとも」


 赤い絨毯が敷かれた床を歩き、黒檀の扉を一気に蹴り開けて次の部屋へと飛び込む様に踏み込む。


 「敵さん…は、居ないようだ」


 「廊下と言うより部屋を無理矢理継ぎ接ぎした感じみたいにゃ。 さて、右か左に進むか…」


 

 部屋を跨ぎ、私達が出た場所は客室の扉が無数に広がる廊下であった。 コンフェの言う通り、廊下に似た雰囲気で左右に果てし無く続く廊下は私達が出て来た部屋と瓜二つの配置であり、左右どちらも上下左右バラバラにくっつけた異様な空間である。



  左右を警戒する私達の聴覚は何処からともなくノイズを掬い取り、視線が無意識に泳ぎ出す。



 「ぁアハはぁ!! 小鳥よ小鳥…何故こんな場所で貴方は囀るの?」


 「「誰だ!?」」



 「ここよ…此処、ンぅふふッ」



 ランプが照らせぬ廊下の暗がりにそれはいた。


 ギラギラと光る瞳と目元まで裂ける様な笑顔だけが浮かび、此方を見据えていた。



 「君は一体…」


 「私? 【タビィー・オレンジ】。 タビーって呼んで頂戴…色男さん、フフフ…」



 タビィーと名乗る笑顔のナニカに呆気に取られていると肩を誰かに叩かれ、慌ててそちらに振り向く。


 「コイツ何時のニャに!?」


 「あ、頭が無いぞ。 一体どうなってやがる…!」



 「ビックリしちゃった? 可愛いわねぇ…。 頭は最初から貴方達と居たと言うのに。 」



 私の肩を叩いていたのは何処かピエロにも似た黒とピンクの縞模様のファンシーな服を着た、頭部の無い身体だった。


 慌てふためく私達を笑う様な仕草、お腹を押さえて震える動作も混じえながら身体はまるで頭が付いているかと思わせる程に機敏な様子を見せる。


 「そうねぇ…お戯れも終わりにしましょうかフフフッ…」


 暗がりで光り、浮かんでいた笑顔は風船の様に上下に揺れながら頭部の無い身体へと向かい、近くまで浮かんで来たその笑顔を身体が受け取って首元へと近付ける。 するとくるりと一回転し、浮かんでいた笑顔が頭部の輪郭を徐々に取り戻していく。


 健康そうな肌色、短めな銀色と黒が混じる髪。 頭部から生える猫耳…。


 だが、歪に浮かぶ笑顔はそのままだった。


 「マジか…!?」


 「嘘、にゃ、にゃんで私にに…似てるの??」



 「どう? 惚れた? 完全無欠、一点の狂い無く貴方の好みの女よ私…」



 歪で不気味、悍ましいとも言っても良いタビィーは…コンフェに良く似て美しい顔立ちと背丈に私は銃の引き金が引けず、目が離せ無かった。


 「どいてヘラルド!!」


 「あ、コンフェ!」


 タビィーを前に判断が遅れた私の背中にあるレーザーダガー【マデューラ】をコンフェは手に取り、緋色の刃を展開させるのと同時にタビィーの首を斬り裂き、マデューラを私に投げ返す。


 「おっと…ナイススローイング! 」


 「来るにゃよ! 構えて!!」



 「首を刎ねろ! んゥフフ…アハハッ! 貴方達はもう生きて帰れないわ…だって、私が殺すもの」



 コンフェによって首を斬り裂かれて宙を舞うタビィーの生首はチェシャ猫の様な笑みを絶やさぬままに虚空へ消え。


 頭部が再び無くなった身体も段々と透明になって消えてしまったが、そんな光景を無視して私は身体の大きさを元に戻し、コンフェに視線を向ける。



 「迎え撃つなんて私達には性が合わない。 此方から出るぞコンフェ!」


 「そう言うと思ったニャ! ハービンジャーはそうでなくちゃ!!」


 コンフェが肩に乗ったのを見て、私はブースターへジェネレーターのエネルギーを送り込む。


 《メインブースター並びに関節部の姿勢制御用サブ・ブースター起動します》


 「振り落とされない様に確りと捕まっていろよ」


 「ガッテン承知にゃ!」


 ブースターに緋色の光輪が宿り、周りに置いてある家具を風圧で何もかもを隅に吹き飛ばす。


 《出力上方修正。 最高出力200%に修正…》


 「よーい…ドン!!」


 薄暗い廊下を緋色の光で埋め尽くし、その膨大に貯められたエネルギーを一気に解き放って隼よりも速く、零から音の世界の先へと加速する。


 凄まじい速度で後に流れて行く歪な廊下はやがて途切れ、私達の眼前に広がるのは果てし無く広がる暗黒空間、汎ゆる物の大きさ小ささが狂い浮かぶ異様な空間だった。


 「あ〜あ…もう追い付いて来たの? 馬鹿な小鳥。 態々寿命を縮めに来るなんて」


 「馬鹿なのはお前にゃ。 死んで善い子になると良いよ」


 「まぁ…そうゆう事だタビィー。 我等は死神部隊…いざ尋常に」



 飛行する私のカメラに映る暗黒に、無数の魔法文字とタビィーの笑顔が浮かび上がる。



 「騒がしい小鳥はさっさと殺すとして…色男さん。 貴方はゆっくりゆ〜くり…お互いの首を絞めて一緒に死にましょう? ゥフフフフハハハッ!!」



 魔法文字が赤黒く光り、人面の浮かぶ幾多の茨が暗黒に急速に広がっていく。


 「趣味の悪い奴…ッ!」


 「来るぞ! 撃ち払え!」


 苦悶の叫び声と共に茨が右から左へ、上から下へと変則的な攻撃が迫る。



 「押し倒され髪を掴まれ、肌を伝う棘と鞭は痛かったわ。 気持ちいいけどネェ…ゥフフ」



 「糞! 当たらねぇ!!」


 「此方に任せて!」


 左手で構えるマデューラでいなし、身体を捻ってギリギリで茨を避けながらエンフォーサーのEN弾をばら撒くが茨は器用にそれを避けながら際限なく伸びる。 避け切れなかった茨の棘がシールドに擦れて火花を散らす。


 前方を防ぐ様に立ち塞がる茨の壁はコンフェの持つメビウスのミサイル弾が一つの撃ち零し無く、茨の起点となる人面に命中し砕き爆ぜる。



 「助かったよコンフェ!」

 

 「次、来るにゃよ。 構えて!」



 命を刈り取らんと迫る茨が消えて魔法文字が黄色く光り、重く乾いた断続的な衝撃波が響く。



 「貴方は痺れる様な恋はした事がある? 私はねぇ…縛られながら延々と痺れる恋を押し当てられたわ。 ァアハハッ!」 



 「そうか。 私も痺れる様な恋を肩に背負い、君に立ち向かっているさ…勝ちを譲るつもりは無い」


 

 うねる蛇の如く、雷光が空間を駆け巡りながら死線が此方に向く。 私は速度を更に上げて電流が奔る空間を突き進む。



 「こうなるんだったら大軍率いて来た方が良かったなコンフェ?」


 「無駄死に増やして呪縛者を増やしたいにゃら良い提案かもね」


 四方八方から行く手を防ぐ雷を確実に避ける。 私が当たれば装甲を伝い、超高電圧が肩にいるコンフェを焼くだろう…絶対に被弾出来ない。



 「そりゃあ勘弁…だなっ!」


 「左手側はにゃーが!」



 進む私達に檻の様に張り巡る電流を流す球体状の雷が眼前から無数に迫るので慌てずにエンフォーサーで撃ち抜き、撃ち零した雷球はコンフェが撃ち抜く。



 「電流の檻如きじゃ私達の自由は縛れないにゃよ!」


 

 「だが…いい加減決定打を与えたい所だ。 そもそもの話、あの娘は呪縛者か? それともデーモン?」


 先程から彼女の殺意にはどうにも憎しみや恨みが変異した深淵の呪いでは無い物が混じっている気がしてならない…もっとこう、純粋な願いを感じる。


 「さぁね…。 現時点で言える事は彼女もまた、何かに縛られた呪縛者であるって事にゃ」


 「aaa…我等もまた、彼女と似た様なものか」


 英雄症候群に囚われた私は誰を救い、誰を愛したいのだろうか。



 …彼女を救えれば分かるかな?



 「貴方達…殺されそうになっているのにお気楽ね。 慢心は肌に刻まれる熱で消えるかしら? …余興はそろそろ、終わりにしないとね…」



 黄色く光る魔法文字が消え、魔法文字が赤く空間を満たし始めた最中に笑みを張り付かせたまま、怒りと憎しみの宿る瞳で頭と胴体の揃うタビィーが姿を現す。


 

 「色男さんには…余り見て欲しく無かったけど、仕方ないよね。 私は貴方達を殺して自由を手に入れる…鎖の繋がるベットはもう懲り懲りよ…!」



 「第二形態って奴か」

 

 「呪縛と混沌の両属性を持ち得るかにゃ…差し詰め、坩堝…か」



 暗黒の空間に広がる魔法文字が彼女の内へと急速に収まりだし、骨肉から悍ましい音を響かせながら体格を、骨格から翼まで生やして姿形を変えていく。


 その姿は正に悪魔と呼ぶべか…しかし余りにも美しく、それは助けを求めている慟哭そのものであった。



 …夜明けは朝日を待ち望んでいる。



 「自由を…私、だけ…の」


 

 「なぁコンフェ! 俺がアイツを救ってやりたいって言ったら怒るかッ?!!」



 「はぁ!?」


 炎に包まれる翼膜を広げ、火の粉の尾を率いて巨大化した両手の薙ぎ払いをブースターを吹かして後退して避け、エンフォーサーで脇腹を消し飛ばす。


 

 が…当然、この程度の傷は他愛も無い様に傷が塞がり距離を取られる。 互いに大きく膨らむ様に旋回して彼女は圧縮した滾る混沌を右手に、私はエンフォーサーにマデューラを着剣して近接戦闘に備え旋回し続ける。



 「魂まで歪められた者が助かった事ニャンて前例が無いよ!?」


 「なら作ってやろう! 前例を!」


 出来るか出来無いか、そう言う問題では無い…私がやると言ったら最後まで。 やっと捕まえた私だけの自由を、彼女も掴む権利がある筈だ。



 「生きては、返さない!!」


 「――行くぞッッ!」


 旋回を辞め、右手に携えた火球と共に突撃を敢行する様子を見て私も銃口を向け、銃剣マデューラの切っ先越しに彼女を見据えてブースターから緋色の光輪をより強く増幅させながら意識を速度をも加速させる。



 彼女が右手を眼前に上げ、位置が私のマデューラと重なり衝突した刹那、刃と火球が混じり合わずに反発する。


 衝撃波さえ飲み込み、光が歪む。 押し付け、差し伸べたい自由に対して真の意味の自由は確かに違う物だ…なら、強い奴が自由なのかも知れない。



 …私は、自由の筈なんだ。



 「嘘、そんな…私は唯、自由が―――」



 「悪いが私の自由、押し付けさせて貰うぞ。 …死ぬまでどうか恨んでくれ」

 

 マデューラの刃が拮抗していた莫大なエネルギーの壁をぶち破り、彼女の右手右腕ごと火球を切り裂いた。


 「空間が崩壊する! 助けるなら今しか無いにゃよハービンジャー!!」


 「ッ…あぁ!」



 タビィーが気を失った事により身体は元の姿を取り戻し、侵食領域が自壊し始めて重力では無いナニカに引き摺られる様に落下して行く。


 

 「□□□■? ◆◆◆…」


 「ヤバい! 深淵がまだ居たみたいにゃよ!?」


 「aaa…糞がッッ!! アスファルトにこびり付くガムみてぇな呪い野郎がぁ…俺の、邪魔をするんじゃねェッッッッ!!!!」


 気を失って落ちてゆくタビィーの左手を掴もうとした手は宙で空振ってしまう。


 それは遙か先、虚空から伸びる深淵の手が彼女を絡め取って飲み込もうと引っ張り出したからである。


 「何か、何か手がある筈…。 !? アレだ!」


 どうにか深淵の手を振り払えないかと焦燥が脳内を満たす最中、空間に未だ浮かぶ小惑星の様な岩石が目に留まる。


 「一か八か! しっかり捕まっていろよコンフェ!!」


 「分かったニャ!」


 装甲に喰い込む程に立てられた爪を一瞥し、小惑星へと私の身体の運用限界以上の速度で突っ込み…下半身の部品が悲鳴を上げる程に力一杯に小惑星を虚空から伸びる深淵の手へ蹴り飛ばす。


 「◆◆◆■□!?」


 「後は3つ!!」


 蹴り飛ばされた小惑星は狂い無く深淵の手に直撃し、弾けて消える。 残りは後3つだ。


 「…2つ!!」


 「□■□□――。」


 次の小惑星へ飛び移り、脚部が歪み火花を散らすが構わずひたすらに蹴る。 千切れ飛び、タビィーを拘束する手は残り2つ。


 「ラストぉッッ!!」

 

 足首が吹き飛び虚空へと飲み込まれて行くのを無視し、3つ目の小惑星を蹴り飛ばして深淵の手を弾いて残りは一つ。


 「■■■◆◆□――ッッ!!??」



 「暗く冷たいうろ底へ…一人で戻れ!!」


 痛む右脚で最後の一撃を放ち、小惑星を最後の深淵の手へと蹴り飛ばし虚空よりも底へと叩き戻す。


 深淵の手が離れて自由になったタビィーの身体を優しく受け止め、崩壊する空間をゆっくり降下していく。


 《警告。 右脚部損傷…姿勢制御パラメーター緊急補正を開始します》


 「ほんっっっと無茶し過ぎ…」


 「でも案外何とかなっただろ? ガハハッ!」


 無茶を咎める様に頭をコンフェに叩かれる。 私自身何とかなるとは思っていなかったからビックリだ。 …死ぬ気でやれば死なないとは誠の事だったんだなぁ…。


 「…で、この娘はどうする?」


 「そうにゃね。 先ずは詳しい身体実験…じゃなくて検査次第かな? 今は不思議な位には呪縛者やデーモンとしての残渣さえ感じ取れないしね」


 私の右腕で眠るタビィーは肺になる事も白い粒子となって消える事無く存在し、暖かな体温を感じる。


 私に分かる事は唯、彼女が生きている事だけだ。



 「見てハービンジャー。 アレ、3階層じゃにゃいかな?」


 「ん…? あ、あれか」


 空間が完全に崩壊し、空白地帯と化した空間に其処はあった。


 まるで切り取って貼り付けた様に一つ部屋が見える。 恐らく彼処が終点…今回の深淵の発生源だ。








 ◆◇◆◇



 【3階層・桎梏の地】




 「気を付けるんだぞコンフェ。 もしかしたら何かしら潜んでいるやも知れん」


 「分かっているにゃよ…。 ヘラルドこそ、そんな足の状態で歩き回らないでよ」


 「へいへい…」



 私とコンフェが降り立った地。 其処は正に誰かの記憶を切り取った様な一部屋となっていた。


 床に散乱する大人の器具に注射器、書類の山。 朽ちかけたキングサイズのベットに一体の白骨死体。


 壁から伸びる鎖に右手を繋がれていたのか骨にまで跡が刻まれている。



 「この死体は…タビィーなのか…」


 「…多分ね。 全体的に癒着痕が酷いにゃね…特に下半身に掛けて酷い」


 

 ヘルメットを外し、ベット状の死体を指でなぞる様に検分するコンフェがそう告げる。 コンフェの言う通り、長期間に掛けて受けたであろう暴力の跡が歪な骨の治癒の形跡から見て取れてしまう。

 


 《スキャン完了。 当該対象と個人名タビィーとの遺伝子構造の同一性は99.8%…同一対象と考えられます》


 「この流れだとまぁ…そうだよな」


 「やっぱそうにゃんだ…」


 「システムは彼女とそこの死体は同一人物だと言ってるしな、そうなんだろうよ」


 腕の中で眠るタビィーの髪を一撫でし、死体に視線を戻す。



 耐え難い屈辱と激痛の最中に願ったのだろう…自由を。


 私はそれを邪魔してしまった…。 今更謝って済む問題では無くなってしまった。


 「コンフェ…下がってくれ」


 「…」



 ベットから離れたコンフェを見て私は損傷した右足をベットに押し当て、故意にエネルギーを漏出させて火を放つ。


 火の付いたベットを中心に一気に火の手が部屋全体へと波及し、何もかもを燃やし尽くしていく。



 「これで…良かったんだよな」


 「うにゃ。 帰ろうか…みんにゃの元に…」


 コンフェが床に刻んだ転移魔法に乗り、燃え崩れる部屋から意識も身体も白い光に包まれて消える。




 …私が背負い歩こう、十字架はその為に有るのだから。


 【裁量の刺突剣】 贖罪の聖女の武具の一つ 一振りの刺突剣に3本の薄刃の短剣で一対の武器。 右手に握る剣で斬り裂き貫き 左手の指に挟む3本の短剣で払う様に斬り付け 逃げ惑う愚か者の背に投射する。 契りの代償は大きく そして冷たい血で終わる


 【メレナの大杖】 森人の冒険者メレナの大杖 古木を削り作られた大杖は手に 自身の魔力共によく馴染むだろう。 冒険者とは誰もが一度は夢見る物だが 実際の所は便利屋の様なものだ 危険な依頼 退屈な依頼もある 危険な迷宮に潜り 命を賭ける者もいる 選択肢は人それぞれだ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ