第二十九話 「夜の戦い」
日が暮れるが、盗賊達の燃やした焚火の炎が周囲を爛々と照らしている。
耳に馴染んだショットガンの音が敵側から木霊した。
馬車を引いていた馬が悲鳴を上げ、横に倒れた。
途端に鉄の荷車も傾き横倒しになった。
「乙女像が!」
コモが悲鳴を上げる。
「撃て撃て!」
デルターは声を上げ、引き金を振り絞った。
もはや遮蔽物が無い。素っ裸だ。自分でもどうして良いか、咄嗟のことで分からなかった。だから撃つように叫んだのだった。十一人の盗賊達が散開しピストルを向けて次々発砲してくる。
デルターは腕に痛烈な痛みを感じた。脚にもだ。
焦ったあまり指示を間違えた。分が悪すぎる!
「茂みまで引け!」
デルターは痛みに負けじと声を上げる。
ランスが指示に従い茂みに飛び込む。
デルターもその後に続いた。
「コモ!」
デルターは茂みに伏せ必死に声を上げた。
「乙女像を見捨てろっていうのか!? イテッ!?」
コモがよろめく。撃たれたらしい。
「こっちに来い! お前が乙女像に執着してるのは分かってる! すぐに取り戻すから!」
デルターが言うとコモは飛び込んできた。
「二人とも撃たれたんですか?」
ランスが心配気な顔をして尋ねた。
「掠り傷だ」
「だ」
デルターが言い、コモが頷く。
さて、もはや正面切って戦うことができなくなった。戦術と言えば矮小かもしれないが、窮地に陥ったデルターは一計を案じていた。
「良いか、二人共、こうなったら茂みと夜に紛れて奇襲をかけるしか道はねぇ」
デルターが伏せながらランスとコモに向かって言った。
「だけど、敵の方は追って来ないぞ」
コモが応じた。
「追うようにしてやる」
デルターは飛び出すと、焚火の炎で茂みの隙間から見えていた盗賊の首領目掛けて狙い撃ちした。
イヅキ教官にも認められた俺の腕だ。どこかに当たってくれよ。
「ぐおっ!?」
首領が左手を押さえた。
「お頭!」
手下達が狼狽しながら振り返る。
すると賊の頭目はこちらを睨み付けた。
「俺を狙うとは良い度胸だ。殺せ! 奴らを殺して口から脳味噌を引きずり出してやる! 行け!」
「へ、へい!」
手下達は怯える様に応じるとこちらに向かって駆け出してきた。
「かかったな。本当は奴だけでも仕留められれば良かったが。だが、行くぞ、良いか、ここからは別行動だ。一人やったからって欲張るな。波みたいに引き上げろ」
「そして闇に紛れてまた一人って寸法か?」
コモが尋ねる。
「そうだ。じゃあな、死ぬなよ!」
「幸運を!」
三人は夜の森に散って行った。
二
闇に目が慣れてきた。そして頭上は半月だ。その月明かりが森の中を厳粛に照らしている。
撃たれた脚と腕は痛むが、どうにか動きに支障は無かった。
デルターは茂みと枝葉に身を伏せ、ピストルを構えて賊の到来を待った。
「奴ら、どこに行きやがった」
粗雑に草葉を掻き分ける音と賊達の声が聴こえてきた。
「お頭がお冠だ。こりゃ戦果無しじゃ撃ち殺されるに違いねぇ」
影が見えてきた。
その時だった。
遠くの方から悲鳴が上がった。
賊のものだろう。ランスか、コモがやったのだ。
「ちいっ、調子に乗りやがって。おいテメェら! 逃げたって無駄だ! 大人しく出て来い!」
そう叫ぶ賊の影に向かってデルターは銃口を向け狙いを定めて引き金を引いた。
乾いた音が三発轟き、影は倒れた。
デルターは素早く移動する。
ガサガサと草葉が鳴るが構わない。また暗闇に身を投じるまでだ。
「野郎! そこか!」
残された賊は半狂乱になって撃って来た。六発撃ち尽くしたのをデルターは耳で聴くと引き返した。
装填しようとしている影に向かって引き金を絞る。賊は断末魔の声を上げて倒れた。
安全を確認しデルターは賊の死体を漁り、ピストルと弾薬を取り上げた。
ついでに革袋も奪い、その中にフル装填のピストルを入れ腰からぶら提げた。
遠くで派手な音が鳴った。
コモのショットガンだと良いが。
デルターは再び闇の中を移動した。
そして足音を忍ばせ、耳を傾ける。枯れ枝を踏む音が聴こえた。
「ネズミのようにちょとちょろと!」
賊が声を上げる。一人の様だ。
再び離れた場所で銃声が四発響き、断末魔の声が轟いた。
「くそっ、良いようにやられてるだけじゃねぇか。だが、お頭も怒り狂ってる。チキショーが」
敵が言い終わるやデルターは銃口を向け三発撃った。
賊は倒れた。
デルターは再び安全を確認し、賊から銃と弾薬を探り当てる。
ふと断末魔の声が立て続けにいずれも離れた場所から上がった。
ランスとコモも順調のようだ。
もうこちら側に向かってくる賊はいないだろう。ということは、やることは一つだ。
デルターは覚悟を決め歩き出した。




