第二十八話 「コモの野望」
洞窟の中は暗かった。奥へ行く程、闇が濃くなってゆく。
だが、幅の広い洞窟だった。なのでデルターとランスは暗い中に息を潜め、入れ違いで歩いて来る賊とすれ違うことができた。
デルターは壁に片手をつきながら歩き始めた。
「イテェ!」
先の方から声が聴こえた。
「コモさんでしょうかね?」
ランスが後ろで囁く。
と、前方から誰かが歩いて来る足音が聴こえた。
その足音が止まった。
「誰か、そこにいるのか?」
問いと共にピストルの撃鉄を下げる音がするや、デルターは飛び出し、声と音を頼りにそいつに体当たりした。
「ぐえっ!? テメェ、何者・・・・・・だ」
デルターは相手の各部位を把握し腹に一発全力の拳を叩き込んだのだった。
賊は倒れた。気を失ったのだろう。
と、先の方から風を切る様な音がし、悲痛な声が轟いた。
デルターは確信した。
「コモだ」
「ええ、急ぎましょう」
二人は壁に沿って駆け出した。
二
部屋の中は明るかった。壁に幾つかの燭台が埋め込まれている。
縛られたコモが地面に転がり、賊達が蹴ったり、鞭で打ったりし、酒を片手に弄んでいた。
デルターとランスはその様子を入り口に顔を覗かせて窺っていた。
賊は十人。どうやってこの場を制圧すべきか。
デルターはピストルを抜いた。先程気絶させた賊からも奪っている。それを左右に持つ。装弾している余裕は無いだろう。計十二発と、ランスの六発でどうにかしなければならない。
その時だった。コモの目がこちらを見た。
「あ! デルター! ランス!」
馬鹿野郎が!
デルターは駆け部屋に飛び込み、銃撃を次々見舞った。遅れてランスも飛び出しピストルを撃っていた。
一瞬のことだった。辛くも賊は一網打尽にできた。
「よぉ、来てくれると信じてたぜ!」
腫れ上がり、血と傷だらけの顔でコモが言った。
ランスがナイフでコモの戒めを解いた。
「お、そいつは俺の銃じゃねぇか」
コモは嬉しそうにランスからショットガンを受け取った。
「コモさん、歩けますか?」
ランスが問う。
「ああ、身体中痛いが問題ない」
言葉通り、コモの服はところどころ破れ血が滲んでいた。
デルターは二丁拳銃に弾をこめる。
行きは良いが、帰りは怖い。
どこかで聞いた言葉が思い出される。
「良いか、二人ともこれからが本番だ。素早く脱出するぞ」
「おう」
コモが応じ、ランスが頷く。
三人は部屋を後にし駆け足で洞窟の闇を壁沿いに戻って行く。
そして外に出た。無論、飛び出す前に周囲の状況を確認したが、焚火を囲んでいた盗賊達はまだ寝たままだった。
さほど時間は経過していないのだろう。
「今のうちに逃げるぞ」
デルターが言った時だった。
コモが鉄の馬車の戸を開き中身を確認していた。
「よし、乙女像は無事だ」
「コモさん、駄目ですよ、早く逃げなきゃ!」
ランスが声を潜めて訴えた。
だが、コモは扉を締めると馬の轡を取った。
「ガラスの乙女像を置いて行けるかよ。帰って報酬ウハウハだぜ」
コモがニヤリとして言った。
デルターも堪忍袋の緒が切れそうだったまさにその時だった。
「おやおや、どこへ行くのかな?」
洞窟の中から片目に黒い眼帯をした賊の頭目が現れた。
「おい、お前ら、いつまで寝てんだ、起きろ!」
頭目が言うといびきをかいていた盗賊達が恐怖するように起き上がった。
「洞窟は一方通行でしたよね?」
ランスが驚いて問う。
「ああ、そういえば、あの部屋、隠し部屋があったな」
コモが言った。ポンプアクションのショットガンのスライドを引く。
デルターとランス、そしてコモは鉄の馬車の後ろに隠れた。
「逃げましょう、無茶ですよ」
ランスが必死の形相で言った。だが、コモが承知しなかった。
「見たところ、たった十一人だろう。ショットガン・コモ様がまとめて片付けてやらぁ!」
デルターは一瞬、コモを助けたことを後悔したが、自分は何てことを考えたんだと思い、神に謝罪した。
「こうなったらやるしかねぇ。二人とも死ぬなよ」
デルターは寝ている賊達からピストルを奪うという機転を利かせなかったことを悔やみつつ、覚悟を決めて撃鉄を下ろしたのであった。




