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第三十話 「決着」

 赤々と焚火が燃え、横になった馬の亡骸と鉄製の荷車がある。

 奴はどこだ?

 デルターは迂闊に飛び出さず、茂みから様子を窺った。

 頭目はどこに行ったんだ?

 ランス達が合流するのを待つべきだろうか。それが最善だろう。

 しかし、奴が現れ、ランスやコモが人質になってしまったらどうしようもなくなる。

 だったら行くしかない。

 デルターは茂みから歩み出た。

 両手に二丁のピストルを構えて周囲を警戒しながら確認してゆく。

 まさか、賊の頭目も俺達を討ちに行ったのか? それとも。

 デルターはポッカリ開いた洞窟を見た。この中で戦勝報告を待っているのだろうか。

 その時だった。

 金属が跳ね上げられる音がし、デルターは振り返った。

 荷車の両開きの扉から賊の頭目が姿を見せた。片目を隠す黒い眼帯が見えた。ピストルはこちらを向いている。

「ちっ!」

 デルターは引き金を引こうとしたが、敵の方が早かった。

 だが、幸い銃弾は逸れた。

 デルターは反撃し六発撃ち尽くすとピストルを捨て革袋からフル装填のピストルを出す。

 賊の頭目は駆けて避けながら銃弾を浴びせてきた。

 デルターも反対側へ駆けたが、動きながらピストルを撃つのは彼には難しかった。狙いが逸れるが、牽制の意味で撃ち尽くす。空になったピストルは捨てた。袋の中にもうピストルは無かった。

 今握っている二丁が最後だ。

 賊の頭目が茂みに飛び込んだ。

 今度はこちらが夜陰に紛れてやり返される番になるか?

 デルターがそう思った時だった。

「おう、これ以上撃ち合ってもまどろっこしいだけだ。一騎討ちしねぇか? 正々堂々とな」

 茂みから声が轟いた。

 弾薬には余裕がある。斃した賊から奪ったり、天幕を漁ったりしたからだ。だが、相手はどうだろうか。持っている弾薬も底を尽きそうなのでは無いのだろうか。

 だが、夜の森に紛れられるのは厄介だ。それに悪人を逃がすわけにもいかない。またどこかで血が流れるだろう。

 俺が禍根を断つのだ。撃たれた左腕と左足からは相変わらず出血が続いている。血を流し過ぎて倒れる可能性もある。だったらその前に決着をつけねばならぬだろう。

「その一騎討ちを受けよう」

 デルターが言うと茂みから賊の頭目が出てきた。

「そう来なくちゃな」

 賊の頭目は少し離れた場所で立ち止まると、ピストルを腰のホルスターに入れた。

「一騎討ちは初めてか? まぁ、最初で最後になるだろうがな」

 賊の頭目は言った。

 デルターは左手のピストルを捨て、右手の方を腰のホルスターに入れた。

 こういうのは昔小説で読んだことがあるぐらいだ。いわゆる、早撃ちだろう。何を合図に、いや、いつ撃つのか予測がつかない。それは相手も同じだが、一発外せば後が無い。

 デルターは緊張するのを感じた。早撃ちは得意じゃない。しかも早く打つだけじゃ駄目だ。相手の息の根を止めねばならない。

 二人は睨み合った。

 一騎討ちは始まっている。

 賊の頭目は余裕なのかニヤニヤしている。

 焚火の薪が爆ぜる音がした。

 瞬間、賊の頭目が素早くピストルを抜いた。

 デルターも慌ててピストルに手を掛ける。

 遅い。死んだ。

 それでもピストルのグリップを握り、引き抜こうとした瞬間、破壊的な音が鳴り響いた。

 賊の頭目が前のめりに倒れた。

「く、くそっ・・・・・・。卑怯だぞ・・・・・・」

「仲間がやられるのを見てられるかってぇの」

 ショットガンを構えたコモが賊の斜め後ろの茂みに立っていた。

「ちきしょう・・・・・・」

 賊の頭目はそれっきり動かなくなった。

 命と命を懸けた一騎討ちとは神聖なものなのかもしれない。しかし、コモが撃たねばデルターの命は無かった。

 デルターは用心深く倒れた頭目に近づいた。

 コモも近づいてきてうつ伏せに倒れた賊の死体を蹴り上げて仰向けにした。

 と、賊の頭目がピストルを向けてきた。

 だが、コモのショットガンの方が早かった。賊の頭目の頭は撃たれ今度こそ死んだ。

 デルターはコモの腕前と先読みの勘に感服していた。まさかそんな日が来るとは思わなかったが、さすがは傭兵を名乗ることだけのことはある。

「わるいな、助かった」

 命の恩人だ。とは言わなかった。言えばコモのことだ調子ずくに決まっている。

「お前らも俺を助けてくれたからな」

 コモは屈みこみ、賊の眼帯を触った。

「何をするんだ?」

「リンチされてる時に見た隠し部屋だよ。その鍵が」

 コモは盗賊の眼帯を剥ぎ取り、目玉を掴み取った。

「これだ。義眼だよ」

 コモは言った。

「こいつを壁の窪みに入れたら開いて・・・・・・見えたんだよ、金貨がたんまりとあるのがな」

 と言ったところでコモは右脚を押さえた。

「くそっ、だけど血が止まらねぇ。こりゃまずいな」

「俺もだ」

 デルターも応じた。

「せっかくの金銀財宝だってのによ・・・・・・止血が先かよ、クソ」

 コモが溜息を吐いた。あの命よりも金の方を取るコモが珍しく自分の命のことを案じている。

 その時、茂みを飛び出す影があった。

「二人とも遅れました!」

 息を切らしながらランスが現れた。ピストルをあらゆる方角へ機敏に向け、その様はまるで大根役者だったが、そしてデルター達を見て言った。

「どうやら出遅れたみたいですね。すみません、森の中を滅茶苦茶に走っていたら場所が分からなくなって」

 デルターもコモもランスをジッと見る。

「何ですか?」

 ランスが首を傾げて言ったのだった。

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