第八章 第一話
……大河二藤次忠季。相模国の足柄にて箱根権現の荘園を預かる地頭となる。北条家より託された曽我兄弟と、元は同国の平塚より逃げてきた遊女で虎御前というアバズレとで暮らしていた。彼女の歳は二藤次と同じくらいで、もう少しすると中年か。
三年も続いた、充実したこの暮らし。……もちろん、この生活を続けていくことはできる。しかしそれは本意でないし、二子も同じだ。
曽我兄弟……曽我十郎祐成と五郎時致は、父を殺された。十年以上も前、彼らが幼い時。実父である河津祐泰は、親族の工藤祐経に殺された。なんとしても仇を討とうと機会を窺っている。いったんは母の再婚相手である曽我祐信の養子となったが、弟の五郎が工藤を殺そうとした事件が起きたために居づらくなった。そこで二藤次が預かっている。
二子は騎馬の訓練をしない。鎌倉武士ならば当然の嗜みだが、彼らの目的は立派な御家人になることではない。剣の腕前だけを必死に磨く。素振りはもちろんのこと、二藤次自らが相手して稽古する。彼にしても目的は人を殺すことなのだから、利害は一致している。ただし二藤次はいまだ奥底を明かしていないが。
稽古を傍らで見て、虎御前は文句をかます。
「よくもそんな懸命にできますね。」
縁側より庭にいる男三人を相手に、いろんな言葉でののしる。たまに色仕掛けもする。……だが三人の真剣さには勝てず、ふてくされて台所へと向かうのである。




