幕間
遠いとおい、昔のお話。
あるところに、世界のどこからでも見える大きな樹の元で暮らす妖精がいました。
だけど、火の妖精に化けた人間がそこに暮らし、妖精は世界の外へ追いやられました。
その妖精たちの英雄たちは、その時に殺されました。
それ以来、その土地に何かの呪いが植えられ、人間を蝕むようになりました。
たとえそれが、遥か時空を越えた未来だとしても。
☆
殺雨生那は、単純に嫌な気配がした。
突然このような出だしをされても理解出来ないと思うので補足すると、星継舞姫という存在に嫌な予感がしたのだ。
今でこそ精霊の域にまで堕ち、戦闘一つとっても人間に勝てない彼女だが、元々は偽典により偽られたとは言え創造神、そして破壊神の属性をもつ神だった。自らの存在と人間で認識がズレることなど山ほどある。
だが、舞姫という女からは人間と神、両方の感覚を覚えるのだ。
授けられるべき人間としての属性と、恩恵を分け与える神としての属性、その両方が。
あまりにも歪。あまりにも異常。
それがゆえに距離を置く。
この数日間、舞姫という女に接触しなかったのはこういう理由だ。
だが、舞姫以外にも問題が一つ。
むしろそれが本題だ。
間接的にこれも舞姫が関係しているなのかもしれない。舞姫がここに来たときにそれは起こったのだから。
──一部の空間が、次元がおかしくなった。
ある場所はいきなり向きが逆になり、ある場所は間の空間が消え、ある場所は全く違う景色が見え、ある場所は宇宙空間に地続きで繋がっていた。
これは空間を操り、世界を管理している紅我の言うことなので間違いはないのだろう。
「……いささか不自然といったところじゃな」
タイミングが良すぎる、と言えなくもない。
詠夜という少年が来るのも、わしがここに追いやられたのも、梓紗という少女が暴走するのも、王華とい魔法使いが妹を連れてくるのも。
紅我から訊けばここ三日で起こった話と言う。
陰謀論など信じる気にはなれないが、ここまでくると、いっそ誘導している存在がいると考えた方が楽だ。
そして、最近極度に姿を隠す「作者」。
それが作った「スキルカード」とやら。
明らかに何か仕掛けがある。彼らの実力を知るなら、こんなものは要らないと分かるのに。
紅我、王華、シロハ、美伊名に一つずつ。
スキルカードの性質は何かの技術、技、術を保存する。他に保存したものをより良いものにするのと、砕けない。
他に情報はないか──?
「そこまで考えられたら上出来と思うよ?」
声がきこえる。男のような女のような、どっちつかずな声が。
「……『作者』か。お前は、一体何を考えとるんじゃ?」
「嫌だなぁ。作品を創る奴が登場人物に苦悩を味わわせない訳がないだろ? それを乗り越えてこその人間だ」
それは紛れもなく、人を害すことによって愉悦を得る行為だった。
「貴様…………」
「ま、でもそれを否定する権利も実力もないよね、君。運命を紡ぐ気も切り開く気もないんだからね」
「黙れ」
「黙れ? どの口が言うんだろうね。怒り妬み罵倒し──所詮それで終わる。今も同じだろ? 自身は一人も助けられない」
「黙れと言っておるじゃろうが!」
感情に任せて叫ぶ。気圧されたのか、はたまた呆れて口もきけないのか。どちらにせよ「作者」は黙った。
しかしそれも数秒のみで「作者」が声を発する。
「事実だろう? 結局星継舞姫を警戒こそすれ、監視もしていなければ救おうともしていない。これが『停滞』でなくて何なのさ」
言葉が、止まる。
「本当、どうするの? 僕としてはある程度余裕をもって事態にかかりたいわけだけど」
そうだ。真実、私からした事などありはしなかった。必要にかられ、受動的に何かの行動をしたことは山のようにあるが、能動的に行動をとったことはない。
「それとも君が謎を解いて紅我たちに伝えてくれるのかな?」
──そうだ。私が彼らの頭になればいい。せめて、出来ることを。
「ん、一応一歩目は出させたかな。ヒント貰ってくかい?」
「頼む。頭が冷えたのでな」
「特異点とスキルカードは関係ないよ。スキルカードと関係あるのは季節の方」
「……それが意味することが分からんが。特別な意味があるのか?」
「一番の山場、とでも。ただ美伊名だけは気をつけて」
「あの娘か、そこまであやつから危険な気配は感じないが?」
「まともな存在の中では彼女が一番強い。だからこそ彼女に課される試練も格が違う」
「ふむ。ありがとう、と言っておこうかの」
「ふぬけた態度、また気付けるの面倒だからやめないでね?」
「もちろん」
☆
つぎはぎだらけの問題、用意されてない回答。用意されてある四つの試練。約束された運命。
辻褄合わせ、また一つ。
欠落した試練は何として牙をむく?




