開幕
拝啓、お姉ちゃんへ
こんな不出来な妹で、ごめんね?
未来から、舞より。
夢を見た……気がする。
世界そのものの弱音を聴く夢を、見た気がする。
星継舞姫はそんなぼんやりと纏まらない意識のまま目覚めた。
数日前に星継王華が私が知る世界から連れ出され全く知らない場所で暮らしていると妙にこんな夢を見るのだ。
始めは全く知らない男の子が、学び舎らしき建物に入る様子。
でもそれは次第にもう一人の少女と問答している光景に変わっていった。
男の子は出題側。
少女は回答側。
出題はどれもこれも何かの本質に関わるものだった。
例えば、『正義の所存』。
例えば、『人の常識とは』。
例えば、『行動とその無意味さ』。
例えば、『人の世の結論』。
まるで神が人に知性の証明を求めるような問答だった。
それに、回答側の少女はまるで繰り返されてきた問いと言わんばかりに、淡々と答えるのだ。
『誰かが犠牲にならなければいけなくなる時点でそこに正義はない』と。
『人の常識は他人に押し付ける為の詭弁であり、守らねばならない道徳は「綺麗事」と呼ぶ』と。
『ほぼ全ての行動は確かに無意味だが意味の無い事に意味を付けることに限れば無意味じゃない』と。
……『人の世はいわゆる地獄であり、何者も罪人として収容される監獄だ』と。
それは事情も知らせぬまま地獄へ落とした神を責め立てる幼子のようだった。
その回答を聞き、男の子は哀しそうに笑う。そこでいつもなら目は覚めるはずなのだ。
なのに今回はそれがなく、ぼんやりと何か逆らえない者の弱音を聞いた。
少しずつハッキリとしていく意識の中でなんとなく、「でも分からないんだろうな」と思いながら考えていく。
その弱音は何というか、「克服したものが克服出来ていなかった」っていう弱音のような気がする。
いやでも、もう一つ二つあったかも?
……もう良いか。分からないものは分からない。いつも同じ夢を見るのは怖いけど、今回は別の夢なんだし。
「作者」さんに買ってきて貰った洋服を取り出しそれを着る。
「作者」さん曰く恥ずかしかったとのことだが、巫女服ばかり着ていて、着物に慣れている私にとっては無駄な事にしか思えない。
「おはよ、舞」
「おはようございます、えっと──」
「……まあ、仲良くもなかったし、数年も会ってなかったら忘れられるか。王華よ」
「そうじゃなくて、どう呼べばいいのか……」
「あ、あぁ。お姉ちゃんでも王華でも、どっちでもいいわ」
「ごめんなさい。どうにも慣れなくて。あれ、でもどっちも悩む……」
「ま、本当なら舞と同じ反応だったんでしょうね、私も。体感とはいえすごい時間過ごしちゃったから、もう心構えができちゃったのよ」
似たような会話はこれでもう十数回目になる。いつもこう呼ぼう、こう呼ぼうと考えているのだが、いざ本人の前になると迷ってしまうのだ。そして小さい頃に私が一方的に嫌っていたからお姉ちゃん、いやでも王華……ともかく、忘れられてると誤解して、さっきの会話のようになってしまうのだ。せめてあちらで決めてもらえたら迷わないのに。
ちなみに、舞、というのは私のあだ名である。
「ゆっくり決めなさい。こういうのはじっくり考えていいものよ」
「……じゃあ、ひとまず王華さんで」
「ん、分かったわ。最終的にみんなさん付けになったわね」
「う、そりゃ、故郷の世界ではずっと敬語だったんですからそうもなります! これでも一生懸命崩してる方ですよ!」
私の言葉に穏やかに笑う王華さんに、少しだけ不満が出てくる。
「……そう言う王華さんは妙に偉そうな言葉遣いですよね」
「そんなこと言い出したら、どの言い方にもいちゃもんつけれるわ。それに、この言葉遣いは貴族ぶってる、ではないかしら?」
「あー、それです! 貴族ぶってるんです!……まあ、今回は大人げなかったということで終わりますけど」
など、王華さんと歓談を続けていました。
姉妹積もる話もあるだろうと気を使ってか、朝の時間は結構話しかける人はいません。もしかしたら私たち二人とも起きる時間が早いだけかもしれませんが。
「にしてもここの窓から見える景色って綺麗ですよね」
もうすぐ春も終わりかけらしいのに、一向に降り止む事のない桜の花びらが舞う景色を見ようと窓に視線を向ける。
そこには説明した通りに桜の花びら────
「……王華さん──」
「なに?」
「──この世界には花びらに混じって建物でも降ってくるんですか?」
──にまじり堂々と空から降ってくる白基調の建物がある風景が見えた。
そのインパクトに紛れて、薄く見える赤い月は、青空に映えて少しだけ綺麗だった。




