第×××××話 白の少女への黒い決断
今一度、選択せよ。
汝には、それができる。
決断できるのは汝のみだ。
その小さな体でどう動く? その皆無に等しい呪いでどう切り開く?
敵は強大だ。どのような選択をしようとも、必ず汝には敵が現れるだろう。
どう打破する? どう回避する?
未来さえ揺れ動く世界で、何を『善』と、何を『悪』と決断し、何を、確定させる。
目覚めもしないその体で、心で、なにを想う?
☆
「霜月詠夜。迎えに来ました」
少女の、神々しさと禍々しさが混ざり合っておかしい雰囲気を放つ声が響く。
それに、『彼女』に呼ばれた僕は、不思議と何かがかみ合った。
まるで、昔からの疑問が解消されたような、ずっと聞きたかった事を聞けたような、そんな感覚。
普通なら、それは空間すら軋ませる威圧を生じさせる声なのだろう。実際、紅我たちは冷や汗を流し『彼女』を睨むだけで動こうとしない。
なのに、僕はこの状態が『彼女』の本来の姿だと感じ取った。
もう、『彼女』なんてよそよそしく呼ぶのはやめよう。きっと、神々しさも禍々しさも兼ね備えてただずむ、神無月家の特徴である真っ白な髪に緋色の目をした少女は、間違いなく『神無月梓紗』だ。
きっと、この姿が正しい姿なのだろう。
「霜月詠夜? 聞こえているのですか?」
「──あ、うん。迎えに来たって一体どういう……?」
何か、この『梓紗』は嫌いだ。苦手と言ったら良いのだろうか。なぜか問答無用に敬意を払わねばならないこの感覚が出てくる。
「ああ、そうですね。いきなりですから混乱するのも当たり前ですね」
僕の返答に対して嬉しいものがあったのか、固かった表情が一気に無邪気に喜びを浮かべる。
同時に神々しさが増し、反比例するように禍々しさが減る。
「──待て、何なんだ、お前は」
しかし、焦った紅我の声に神々しさと禍々しさは初めの半々に戻る。
「何なんだ、なーんて聞かれても答える義理なんてありません。そもそも巫女を追い詰めて御子に戻したのはあなたたちでしょう」
冷ややかに紅我たちへと告げる『梓紗』。
「話を変えますが、霜月詠夜さん。私は貴方と帰りたいだけなんです」
その『梓紗』がどうも自分には見惚れるような笑顔を見せるので戸惑う。
でも、今はそんなことを考えている暇はない。
「──それは、この世界が壊れるって事だぞ」
それは、認めない。確かに少しの間だけ、一日もたたない間しか世話になっていないがそれでも恩を仇で返すまねはできない。
「……仕方ない事です。この世界はあまりにも不完全過ぎる」
その言葉に疑問を感じた僕は首をかしげる。
「……不完全って、どういう意味だ?」
「そのままの意味です。この世界、わざと必要な要素を抜かして崩れやすくしてあるんですよ」
『梓紗』の言葉にさらに分からなくなって頭をひねる。
「──あーもう面倒くさいです! 地球に大陸プレートがないって言ったら分かりますか!?」
その例え話に僕は背筋が冷える感覚を覚えた。
残念ながら詳しく知っている訳ではないが、大陸プレートは大雑把に言えば、大地そのものと言っても過言ではなかったはず。
「ぶっちゃけ、それぐらいこの世界はめちゃくちゃなんです! どっちみちそれが解消できないなら何もしなくても壊れてなくなるんですよ!」
苛立たしげに地面を小刻みに踏む『梓紗』は相当機嫌が悪いらしく禍々しさしか感じない。
「この世界が何もせずに消えたら無駄に消えたって事になりますが、私たちの世界を直して消えたら意味があったという事にはなると思います」
……確かに、それならこの世界を犠牲にしてでも──いや、何を考えているんだ、僕は。だけど、結局壊れてしまうなら……。
「好き勝手言うな。壊れないために俺たちがいるのに、無視するなよ」
またもや、紅我が口を開く。
鋭く、刃物のように『梓紗』を睨みつけている。
僕は、どうしたら、良いのだろう?
「あなたたちで壊れないなら少しはためらいましたよ! どうしようもないから此処であなたたちにも聞こえるように話したんです!」
どうしたら、みんなが納得できるのだろう?
「何度だって護ってきた! 今さら自然に壊させるほど大切じゃないわけでもないんだよ!」
そして、少年は選択した。
「──あ」
『梓紗』の手を引き家から出る。
紅我の追撃はどうやら『梓紗』が防いでくれたらしい。
「あぅ……ありがとう」
恥ずかしいのか、小さな小さな声で礼を言う『梓紗』。けど、僕はその声に何も返せない。だって。
僕の選択は、誰かの味方になるという選択ではないのだから。




