第×××××話 停滞と進行
現実と虚構が入り混じる。
今確かに目にしている光景に、嘘が混じる。
感知している時間がおかしくなる。
全部曖昧に変わっていく。
はっきりしたモノがおぼろげに、おぼろげなモノがはっきりと。
どこにいるかも分からないで、ただはっきり見える貴方の魂を追っていく。
なのに、その貴方の魂さえもおぼろげに薄れていく。
私の中から、『神が居ない月』の私たちから貴方が消えていく。
ずっと待ち続けていたのに、消えていく。
待って、待ってと叫んでもどんどん貴方が知らない場所に行ってしまう。
どうしたら、どうしたら良いの?
私は、『神が居ない月』の一族はどう行動したら良いのですか?
★
「『梓紗』。僕は、霜月詠夜は────」
分かってますよ。きっと貴方は、誰かを守るのでしょう? 貴方は、戦うことに関しては三流もいいところでしたが、守ることに関してはギリギリ一流でしたからね。
そして、それは私じゃない。
覚悟は、できてます。
『神無月梓紗』ではなく『神の居ない月』の一族である私は、貴方を忘れられる。
私を責め立てる怨嗟はもう、叶えられない願いを前に消えている。
会いたい人が居ない訳じゃない。
決して、未練がない訳でもない……!
だけど! それでも今生きている人を壊すのはいけない事だって分かってる!!
だから、私が諦められるように、私をはね除けて下さい。
「──君とここで暮らせたらと思う」
……無理ですよ。あの人たちを省いても、それじゃあ私は諦めきれない。
「そう、ですか」
ああ、なんて未練がましい声なんでしょうか。いっそ恨みも悔しさも全部乗っけて言った方がまだましです。
「……本気で、そんな事を言うんですか」
こんなに声震わせちゃって、あの人がこういう時揺るがないって、知っているくせに。
「本気だよ。何もしていない今なら、まだ間に合う」
違います。何もしていないではなく、したことが目的に影響を及ぼしていないだけです。
「……無理です。無理に決まってます! 世界はそんなに都合良く回ってないんですよ!! 都合良く世界が回ってるなら、最初から私たちの世界は消えてないし、この世界だってこんなに壊れやすくないんです!!」
なんで、なんで、なんで分からないんですか。もう、詰みなんです。どっちかが、あるいは両方が負けて消える以外選択肢はないんです。
「……じゃあさ」
これ以上、何を話すんですか。両方は救えないんです。もう、いいじゃないですか。関われない事柄を気にかける必要なんてないのに。
「壊れないように、穏やかには過ごせないのか?」
穏やかなんて事は、ただ知らないだけです。絶対に、どこかでは、いつかは騒乱が起きるんです。
「できません。もう、選択肢はないんです」
あるとしたら、それはいつそれを選択するかだけなんです。
「……それでも」
『それは本当に? 目を背けてるだけじゃないの?』
……あの子の敵になっても、あの人を傷付けても、私はあの歪ながらも温かい世界に帰して見せます──!
「僕は、君に手を汚させたくない」
今、何を言った?
「君の、そんな辛そうな表情を見たくない」
私の救うという意思を。
「優しい君に、そんな残酷な事をさせたくない」
それ程度で否定するのか。
「だから僕は────」
「『黙れ』っ!!!」
もう抑えられはしない。
「いいですか、『貴方はそこで事が終わるまでまってなさい』……!」
怒りが、それ以上にあの人が自分の命を、感情を、心を考えていない事に焦りを感じる。
「自分の事なのに全く自分の心を考えないで、ただ人を救おうとして。何も、ないんですか?」
あの子みたいに救わないと、なんてそんな考えになってない事を祈る。
「もう、失いたくない。だから、平穏に暮らすんだ。暮らしたいんだ」
なんですか、それ。それって────
「──遠回りな自殺と、同じじゃないですか」
「……かもね」
もう怒った。ただの駄々っ子じゃないですか。
「なら、無理やりにでも連れて行きます!」
気絶させてから、この世界の力を使って、あの子が住んでいた世界を復活させましょうか。
「──でも、死に急いでいる君よりは、ずっとましだよ」
私の命令なんて知ったことではないと、あの人は立ち上がってそう言った。
その言葉に、泣きそうになりながら、胸が締め付けられながら、私は『霜月詠夜』と対峙した。




