開幕
また、何も成せず終わるだけなのか
思えば、ずいぶんと遠くまで来た。
土地を越え空を越え星を越え、世界すら越えて。
人を生き返らせる。そんな禁忌を冒すために、ずいぶんと遠くまで来た。でも、止まることなんてできない。神様がいるなら謝ろう。仏様がいるなら謝ろう。だけど、その後になぜ『私たちの世界を壊したのか』と言う事ぐらいは許して下さい。
ああ、憎んでやりたい。でも誰を?
神か? 仏か? それとも人か?
そのどれも悪くはない。ただ、あれは自然現象なのだ。誰が、何かの意図があって壊したとか、何か原因があって壊れたとか、そんなものではない。壊れるべくして壊れた。
だけど、家族も、友人も、…………初恋の人も一緒くたにして壊れた世界がとてつもなく憎い。
なぜこうも私はしょうもない幸運と引き替えに恐ろしい不幸を呼ぶのだろうか。
でも、泣き言を言うヒマはない。私が原因ならば償いをしなければいけない。けど、償うべき相手も、弔うべき相手がいる地もない。
ならそこから直すしかない。世界の復元で償わないと。
そのためには補助が必要だ。強力な補助が。
渡った世界には幸い補助が十分できそうな人がいる。その人の力を借りよう。
月が赤い。異世界だからやっぱり違うんだな、と気のせいか大きな月を見上げる。
本当に、綺麗だ。だけど、魅入るヒマなどない。だって私は償わないといけないのだから。
────ああ、本当に私は一人ぼっちなんだ。
そう思ったら涙がこぼれてきた。抑えようとしたり涙を拭いたりしたけどずっと涙が出てくる。
誰か、隣にいて欲しい。見知っている誰でも良い。大嫌いな両親でも良い。とりあえず誰か傍にいて欲しい。
「誰か、だれかぁ……」
寂しい。心苦しい。怖い。それでズタボロの心に罪の意識がのしかかっておかしくなりそうだ。
今なら死んでもさほど恐怖とか痛みとかなさそうだ。だけど、私は償わないと────
「──────っ!」
吐き気がし始めた。いや、それは直後に嘔吐という形で解消されたが。
「ごほごほ、うぅ……」
頭が痛い。お腹が痛い。心が痛い。寂しさが、心苦しさが、恐怖が、何よりも罪の意識が体と心を壊していく。
「誰か、助けてよ……。──おえぇ」
吐き気を抑えようとし堪えるが一瞬たりとも抑えられずまた嘔吐する。
吐く、という行為はここまで体力を消費するものだったのか、と平均より貧弱な体の悲鳴を我慢しながら思う。
──まだ吐き気は収まらない。もう意識ははっきりしない。罪の意識や肉体の疲労、極度のストレスでまともな状態に戻れない。
「────梓紗!」
聞き慣れた、声が聞こえた。
いつか恋した想い人の声が、聞こえた。
適当に切りそろえた黒髪に、鍛えられた体をもつ、優しい男の人の声が、聞こえた。
霜月詠夜の声が、聞こえた。
ああ、ああ! 神とはなんて気紛れなのだろう! 絶望の後に逃げ道を用意するなんて、そこに逃げ込みたくなるだろう!
想い人が抱きしめてくる。
わかってる。もし犯した罪から逃げたらこの人に触れられなくなる。私自身が綺麗で潔白な霜月詠夜に、穢れた自分が触れることを許せなくなる。
だから、罪は償う。けど、今は。今だけは。
「うぅ……」
ちゃんと泣かせて欲しい。
「うあああぁぁぁ────────!!」
あぁ、人がこれほど暖かいなんて知らなかった。
あぁ、人がこれほど心地よいなんて知らなかった。
あぁ、人がこれほど●●になるなんて知らなかった──────。
こんなに●●になるなら、もっと早く──




