幕間
☆
「美伊奈、美伊奈~? いる~?」
その声は男とも女ともどっちつかずな声で水野美伊奈を呼んでいた。
しかし声の主は何処にもいず、聞く者が聞く者ならばその声の主は化生だと言うだろう。
もしそうならば──
「部屋の中、入ってきて」
──扉越しにいない声の主を正確に見据えて返す幼子も同じく化生だろう。
声の主は扉の前になどいない。テーブルの下を探していたりして扉に視線を向けた延長線にもいない。それなのに、何処にいるかを示して見せた。
ただ、当人達はそんなことどうでもいいらしく、見えない何者かは幼子が居る部屋に入っていく。
「何の様? そっちから話す時は全員集まっている時位なのに」
「んー、ただの暇つぶしだよ。さすがに誰とも話さず一日を過ごしたら寂しいじゃないか」
「紛らわすのはいいから。何話しに来たの?」
見える限りで幼子は見えない何者かに呆れ顔をしていた。しかしそんな表情は見えないと言わんばかりに話を続けていく。
「ああ、話って言うのは『神』って言われる存在に対してどう思うか、という話だよ」
その発言に幼子は愚問とばかりにため息をつく。
「神なんていない。いるのはただ膨大な力を持った、欲に囚われた獣だけ」
幼子は淡々と言い切る。子どもとしてはあまりにも夢がない返答だが、考える者としてはある程度まで納得させられるぐらいには。
しかし主なき声はそれを否定する。
「神はいるさ」
そう否定する。
幼子はその発言に苛立ち「証拠は」と問う。
それに、主なき声は例え話で答える。
「例えば、この世界に神が居ないとしよう。うん。完全に居ない。ほんとは居たとかじゃないよ。でもさ、神じゃないだけで世界を自由にできる存在は居るんじゃないかな? たとえば空気。たとえば病。たとえば虫。たとえば動物。たとえば人間。たとえば星。たとえば銀河。たとえば宇宙。たとえば、この世界を創った誰か。ぱっと思い付くだけで九つの種族が世界を自由にできるんだ。世界を自由にできるなんて、もはや神と言えるんだよね」
そんな例え話を理解できず、必死に幼子は考える。
しかし、幼子は全く理解出来なかったらしく、後の言葉を待った。
その様子を視たように一拍合間をとり声は続きの言葉を紡ぐ。
「人間が言う神なんてのは大抵自らを救う存在か人間が敵わない力を持つ者をさすよね。なら、空気に酸素がなけりゃ人は死ぬし病は人を殺す。虫だって大軍になれば人を食らうし動物は人を食いちぎる。人の狂気は人間自体を終わらせるし星が激突すりゃ人間なんて木っ端みじんだ。銀河が牙を剥けば人間なんて消滅するし宇宙がおわらせにきたら人間なんて霞のようにいなくなる。世界を創った誰かが飽きれば、人間という種族は世界ごとなかった事になる。そう考えれば神と言われる存在なんてそこらにいるんだ」
その言葉に納得出来ないと言うようにかぶりを振る幼子だが、怯えが垣間見える事から否定したいだけなのかもしれない。
「ああ、でも救いを与える神なんていないか。うん。そういう意味では君と同じ見解だよ」
その発言に安堵したように幼子は表情を緩める。
「だから、僕は神に対してこう思う」
そして声は、次の言葉で話を締めくくる。
「神の存在は信じれど善性は信じず、と」
「さて、これは結局どう思うかだから、事の真偽なんてどうでも良かったけど、熱くなりすぎたね」
「……はぁ、相変わらず変な哲学持ってるようで」
「哲学なんてお綺麗なものじゃないよ。他人の意見を否定したくて作ったただのけちつけに過ぎないさ。自己哲学なのかもしれないけど、それが自分を殺していくんだから捨てられるなら捨てたいよ」
幼子と主なき声はたわいない話を続けていく。
答えは、あるのだろうか。




