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●第百二十三話 天堂佑真の緊張に満ちた復習

こんにちは。活動報告でも言いましたが「おててを怪我して」しばらく執筆ができないので、申し訳程度に既存分を更新します。


そんなわけで第六章です! 歴代と雰囲気が違う今回は、依然と比べ物にならない規模でバトルのオンパレード。「波瑠の五年間」の塗り直しとなる逃亡編をお楽しみください!


とかいいつつ、今は『第六章‐始』の範囲だけを公開でやんす。

第一話は復習から。どうぞ!


     【0】




 夢を見ていた。


 オレの記憶に存在しないはずの、幼い頃の夢。


 広い広い草原を、一人の男の子が走り回っていた。


 空は青く、雲は白く、大地は緑に覆われていて、尊いまでに美しい。


 どこまでも果てなき理想郷。


 そこを、 色の髪の男の子が、楽しそうに走り回っていた。


 オレは彼の後を歩く。


 彼が勝手にどこかへ行ってしまわないように。


 同い年のくせに、保護者目線で、無邪気に駆ける男の子を追っていた。


 男の子の目は、輝いていた。


 見るものすべてに興味を持って、動くものすべてを目に焼き付けようとしている。


 …………いいや。


 目に、記憶に焼き付けていたのだ。



 だって男の子は、現実世界では(、、、、、、)目が見えなかったから。


 だからこの仮想世界で(、、、、、)見えるものが、男の子が見ることのできるすべてだった。



 低空を舞うモンシロチョウも。


 大空を飛ぶ雁の群れも。


 地を這うミミズも。


 どれもこれも、データの塊でしかない。


 決められた行動を取るデータでしかないのに、男の子は、興味津々に見つめていた。


 それが、オレには不思議で不思議でしょうがなかった。


 それとなく教えたことがある。


 全部が全部、データでしかない。


 この世界は偽りでしかないのに、どうしてお前はそんなに楽しそうなんだ、と。


 すると男の子は、さらりとこう答えたのだ。





      」


 なるほど、とオレは笑った。


 男の子も、満足そうに微笑んで。


 夢の続きは遠く、いつもそこで、途切れてしまうのだ。




   【1 盟星学園、応接室】




 ――――――二〇二〇年、東京オリンピックでの大規模テロを引き金に世界中で巻き起こった『新たなる戦争』。


 国家間のいさかいであった第二次世界大戦とは真逆の色をしている『連合国家VSテロ組織』という構図は、各国の自衛隊や軍事のみならず、多くの企業やメディアも協力する本格的な『戦争』であった。


 情報戦であり、武力が衝突することもあり、数多くの犠牲者を生んだのは当然のこと。


 この『新たなる戦争』こそが、後の七十年続く『第三次世界大戦』に繋がる、国家間での更なる軋轢を生み出していた。テロ組織には種類数多あるが、宗教を拠り所にする組織は少なくない。例えば、北欧で生まれたテロ組織が米国でテロ行為を行うことによって、米国民は北欧へ不満を抱き、責任を糾弾した。


 そんな『わずかな苛立ち』が世界に充満し、杯が限界を迎え、溢れかえった時。


 人類による最悪の同士討ち、第三次世界大戦が勃発した。


 国家という形さえ揺らぐ地球全土での破壊と争闘は、後に時代の転換点(パラダイムシフト)となる『超能力の誕生』を迎えるまで、延々と科学兵器による住処の圧縮を繰り返した。


 地球上の至る所に、放射能や水素爆弾が作り上げた『進入禁止領域(デッドゾーン)』が点在していることは、今はさておき。


 超能力の誕生が、第三次世界大戦に仮初の終止符(ピリオド)を打つ。


 一番初めは、日本国・天皇家が後援(スポンサー)を勤めた多国籍軍事力だった。


 現在は日本国の『国家防衛陸・海・空軍独立師団』に変わり果てた――第三次世界大戦を休戦へと追い込んだ、世界最強の軍事力。


 超能力を初めて戦線へ投入した【ウラヌス】の功績は、語る必要もないだろう。


【ウラヌス】によって、絶望に包まれた七十年は一旦の閉幕を迎え、それから十六年の時が経とうとしている。




「――――――よう、天堂佑真。俺の名は天皇涼介。【ウラヌス】の階級は『大将』だが、一応『総大将』ってやつをやらせてもらっている」




 そんな軍の『総大将』と、元高校一年生の少年、天堂佑真は会っていた。


「お、オレの名前、知ってるんですね」


 緊張を一切隠しきれない佑真が今いるのは、先日退学届けを出したばかりの高校、盟星学園高校の応接室だ。


 突然の呼び出しを受けたかと思えば、気づけば家の前にリムジンがあって、波瑠とともに連れ出され、あれよあれよという間に応接室の椅子に座らされていた次第である。


 そして、目の前には【ウラヌス】の総大将――天皇涼介が、ワイシャツにジャージという非常に、非ッッッ常にラフなお姿で待っていた。


 さしもの佑真も適応しきれず、理解が追い付かない。


「おー、知ってるよー知ってる。だっておたく有名人だもん。夜空色の髪の少年、あのアーティファクトが『次代(ジダイ)英雄(エイユウ)』だの『(チイ)さな勇者(ユウシャ)』だの気に入っていた男だろ?【ウラヌス】入ったって聞いたから一度話聞きたかったんだよな。ところで最近暑くない? ここに来るまでマジ夏みたいだったんだけどさ、今四月だよな?」


「…………そうですね」


 シャツの襟元をあおぎながら、気だるそうにテキトーに話す涼介。圧倒される佑真の返事まで雑になっているが、緊張度は対極に位置していた。


 涼介はそこまで言って佑真の(一部が蒼に染まった)髪を見ると、


「あれ、お前の髪、別に夜空色じゃないじゃねーか。本物の天堂佑真か?」


「え?」


 予想外すぎる質問にどう答えようか悩みあぐねていると、涼介の隣に座る女性が、【ウラヌス】総大将の頭をベシッと叩いた。


「本物よ、兄さん。実の妹が連れてきたのに信じられないの?」


「真希が愛娘の婚約者を守る為に送ってきたダミー説」


「本物だってば! 兄さん、これ以上無駄口叩いて佑真君を困らせないであげて!」


 彼女は天皇涼介の妹であり、【ウラヌス】の『中将』を背負う天皇真希だ。


 二人ともが天皇家特有の『蒼髪』だが、性格はあんまり似ていない。隊長としての面しか知らなかっただけに、真希が気苦労する姿は新鮮だった。


「ごめんなさいね、佑真君。突然連れてきた上に、こんな面倒くさい男に会わせちゃって」


「い、いや、真希さんが謝ることなんて何一つ」


「なんだ真希。『お義母(かあ)さん』くらいの呼び方させていないのか?」


「本当にごめんなさいね、佑真君。こんな兄が『大将』で」


 ――――でも冷静に考えれば、真希が波瑠や桜をからかっている時に、どことなく似た雰囲気を感じなくもない。立場は違えど。


 ちなみに同行した波瑠は、道中で戸井千花や佐藤歌穂と再会し、久々に廊下で談笑している。波瑠にちょっかいを仕掛ける輩がいないか心配だったが、水野秋奈も一緒にいたので大丈夫だろう。


「冗談はこの辺にして」


 本当に冗談だったのだろうか――涼介は、椅子に座りなおした。


 座りなおしただけなのに、佑真は応接室の空気がピリッと緊張感を帯びるのを感じた。


「ただ自己紹介をするためだけに呼び出したわけじゃねーんだ。天堂佑真、今日はお前の《零能力》について話を聞きたい」


「《零能力》ですか?」


「ああ。真希もステファノも、波瑠ちゃんまでも把握していない《零能力》。お前が【ウラヌス】に所属している以上は、その力を俺も同レベルくらいには知りたいと考えている」


 波瑠のことは『波瑠ちゃん』って呼ぶんだ、などとどうでもいいことを思いつつ、


「……えっとですね、オレ自身、この力はよくわかっていないっつうか……」


「なに、俺達は『すべてを明かせ』と言っているわけじゃない」


 涼介は『待て』という風に手を前にかざし、


「真希達『〇』番大隊はお前の《零能力》を求めて軍に勧誘したらしいじゃないか。《零能力》の詳細を調査する、という条件(オマケ)付きでな。そこに『俺も一枚噛みたい』って勝手に出しゃばってきただけ。いくら【ウラヌス】の『大将』でも、俺はお前にとって部外者であり、警戒すべき相手だろう」


 そもそも信用されていないだろうしな、と涼介は付け加えた。佑真はドキリとしてしまう。


 佑真は今でも、あまり【天皇家】をよく思っていないのだ。


 いや、思えなくなってしまった、とでも言うべきだろう。あまりに鈍い第一印象を植え付けられたせいで、真希がどれだけいい人かわかっていても――佑真に波瑠(むすめ)達と変わりない愛情を注いでくれていても――【天皇家】というだけで、心の奥底が警戒してしまう。


 宿敵、天皇劫一籠のせいで。


 敵意を持たないとはっきりわかる波瑠、桜、楓が例外なのだ。


 真希はそんな心情を、佑真の口から一度直接聞いていた。


「佑真君。兄さんに言いたくなかったら、言わなくていいからね?」


「ああ。お前が不都合に思うことがあれば、隠して構わない」


「…………まあ、自分でもわかんないこと多いし、線引いて答えます」


「よし、じゃあ早速だ」


 涼介はあらかじめ持ち込んでいたと思しきタブレットを手元によせ、


「【ウラヌス】の調査資料には、『《零能力》は三秒間触れ続けることで、超能力、魔術を問わず消し去る異能』と記されている。まずこれは合っているよな?」


「は、はい」


「だが《零能力》にはもう一段階ある。正解か?」


 涼介がキッと真剣な眼差しを向けてくる。佑真は首を縦に振った。


「あることにはあります……この辺も報告しているんで教えますけど、オレ自身、何がキッカケであの段階に入れるのかはわかりません。右目がカッと熱くなって、両手や全身から〝雷撃〟っていう形で《零能力》があふれ出してきます」


「本人がトリガーがわからないってのは、不思議な話よね」


「理由は察せなくもないけどな」


 真希が苦笑すると、涼介がそう言い返した。


「『七月二十一日』『オリハルコン事件』『東京大混乱』、そして『高尾山襲撃事件』。いずれのケースにせよ、天堂佑真。お前は無我夢中で戦っていた。《零能力》を意識する余裕もないほどの強敵と戦っていたはずだ」


 ――――超能力者の頂点、体術の完成者、あるいは疑似神格。文字通り死闘の最中に《零能力》は第二段階とでも呼ぶべき〝雷撃〟を佑真に貸してくれる。


 身体を自傷するという、大きすぎるデメリットを伴って。


「天堂佑真は、俺や真希が経験したことのないほど『集中』しているんだろう。きっとトリガーは、俺達でいう『ランナーズハイ』や『ゾーン』に近いモンなんじゃないか?」


「一理ありそうね。本当は戦闘中にトリガーを引いているかもしれないけど、本人が無我夢中すぎて気付けていない。佑真くんらしいわ」


 ……大人、特に尊敬する隊長や、もはや別世界の『大将』に自分を好き勝手言われる恥ずかしさと戯れる佑真。


「少し脱線したな。《零能力》は〝雷撃〟になると、三秒間の制約が消えて『一瞬』で消せるようになる、しかも範囲は〝雷撃〟依存で、直接手で触れる必要がなくなる……これも真実か?」


「まあ、たぶん」


「たぶんて」


「わからないモンはわからないですよ」


 天皇劫一籠いわく、佑真の《零能力》は『還元(消すほう)』だけでなく、『創造(生むほう)』の二方向がある。けれど『創造』は未だにどこまでできるのかを理解していないし、佑真も滅多に使わないのだ。


 そっちを伏せたまま返事をすると、涼介は腕を組んだ。


「《零能力》……魔術でも超能力でもない、所有者も理解できない力か……そういや、魔法に対してはどうなんだ?《神上の力(GOD KNOWS)》を消し去るってのは『七月二十一日』の報告書で読んだけど」


 佑真はひっそりと思う。そんな報告書あるんかい。


「魔法も消せます……あれ? いや、消せない……?」


「煮え切らないな。消せないのか?」


「あら? 今更気付いたけど、消せるものと消せないものがあるわね。佑真君」


 真希も同じ結論にたどり着いたらしい。彼女にコクリと頷きかえし、


「《神上の力(GOD KNOWS)》の攻撃もカテゴリー的には《魔法》だと思うんですけど、そっちは大体消せます。だけど波瑠の《神上の光》の治癒は通じているし、三秒でキャンセルされることもないです」


 佑真は両手をぐーぱーしてみせる。もしも《神上の光》に《零能力》が通じていたならば、佑真の腕は回復された三秒後に『ボロボロ』に戻っているはずなのだ。


 涼介は興味深そうに、


「ほう、じゃあ《神上》シリーズは通用しないのか? いやでも《神上の力(GOD KNOWS)》も《神上》……むしろ『真価』のはずだ。《神上》が通じないならあっちも通じない方が自然だよな……」


「そういえば佑真君、桜の《神上の聖》は?」


「うっ、そういや試したことないっすね」


 桜の《神上の聖》は『他者の強化』。桜はいつも多人数を対象とするので、万が一消したらまずい、と佑真は自ら『対象』から外れていた。


「敵意。条件。あるいは天堂佑真の無意識下での取捨選択か。その辺の線引きも調べる余地があるってわけだな、了解(オーライ)了解(オーライ)


 涼介はどこか楽しそうに、コクコクと頷いた。


 なんというか、拍子抜けだ。


(今日会うのは『大将』って聞いたから、もっと厳格な人……例えば長い白髪の爺さんみたいな感じを想像してたけど、なんか親しみやすい人だな)


 年齢も『大将』を名乗るには若いだろう。真希とそう年は離れていないはずだから、たぶん三十代。これでアーティファクトと渡り合う戦闘力を保有しているとは信じられない。


「ま、協力ありがとうな」


 涼介はタブレットを少しいじった後、そう言って白い歯を見せた。


「贅沢を言えば一度お前と手を交えて《零能力》を体験したいところだが、流石に『大将』と『二等兵』が理由もなく戦うわけにはいかない」


「兄さん、冗談キツイわ。佑真君ビビってる」


「おいおいビビるなよ。アーティファクトに勝つなら同じ『世界級』の俺にも勝たないと」


 ハッハッハ、と大声で笑う涼介と、ハ――――ッ、と特大なため息をつく真希。対照的な反応から、兄妹の関係性が嫌という程よくわかる面白い光景だ。


「何はともあれ、《零能力》を調べる対価だ。俺に力になってほしいことがあったら、真希を通じて連絡してくれ。できる限りで力を貸そう」


「へ?」


「ほんじゃ早速だが、天堂佑真。お前には重要な情報を一つ、教えておこう」


 とんでもない申し出に佑真がびっくりしている間もなく、涼介は告げた。


「最近だが、日本の各地で不審な動きが見え始めている」


「不審な動き?」


 疑問を呈したのは真希だった。


「そうか、真希は最近『中』の任務だったもんな。――『東京大混乱』を始点として、今の日本は『反能力社会派』のせいで国内がゴタゴタしている。こいつを隙と見たのかは知らないが、『米国(アメリカ)』を筆頭に『欧州連合』『中華帝国』……『オセアニア』の一部まで、我らが日本に干渉しようとしてやがるんだよ」


「ッ!?」


「そう驚くな、天堂佑真。お前にとっては衝撃的かもしれないが、俺達『軍事』サイドからすればいつものことだ。だからこその国家防衛軍だからな」


 涼介は冷静に振舞っているが、佑真にとって、連ねられた単語は大きな意味を持つ。


 今まで佑真だって、大きな事件にこそならなかったが、諸外国の刺客と波瑠をめぐって戦ってきた。しかし連中は個や小隊であって、軍の『大将』が動きを気にするほど大規模な動きは見せていなかったはずだ。


 真希とも親しくしてきたが、やはり彼らこそが世界の第一線に立つ人物。


 佑真とは比べ物にならない程たくさんの命を背負う『正義の味方(ヒーロー)』である。


「兄さん、具体的には?」


「動きが過激なのは『中華帝国』だな。佐渡島……日本海側の『進入不可領域(デッドゾーン)』付近をうろついているってよ」


「五年ぶりね……厄介なことにならないといいけど。他の国は?」


「目立つ動きこそしていないが、すでに日本に乗り込んでいるという情報をつかんでいる。俺達『軍事』も『警察』と協力してあぶり出そうと計画しているが、そう簡単に話は進まないだろう。なんとか『政治』の力も借りたいところだが、」


「国内は今、『反能力社会派』の声が大きいわ。『政治』を動かすのは難しいでしょうね」


「……っと。天堂佑真、お前に大人のお話を聞かせてもしょうがないか。この辺は後で話そうぜ、真希」


「それもそうね」


 真希にそう言うと、涼介は佑真にも警告した。


「目的はどうあれ、連中が《神上の光》に手を出す可能性は十二分にある。波瑠ちゃんを、我が【天皇家】の令嬢をよろしく頼むぞ、天堂佑真二等兵(、、、)


「……はい!」


 天皇涼介『大将』。


 第三次世界大戦で活躍した、史実に名を残す英雄(ヒーロー)


 いつかゆっくり話を聞いてみたい、なんて思いながら、佑真は応接室を後にした。




   【2 盟星学園、応接室】




 佑真が退室した後、応接室で情報交換だけ済ませた涼介と真希の話題は、佑真に移っていた。


「天堂佑真……あれが波瑠ちゃんの婚約者か。真希はあの男でいいのか?」


「いいに決まっているじゃない。芯が一本通っていて、波瑠のことを本気で愛してくれている。母親として、これほど喜ばしいことはないもの」


「そうか。真希はきちんと母親やっているようで、何よりだ」


 へらへらと笑っているようで、どこか遠い目をする涼介。


「……兄さん、やっぱりまだ、子供のこと……」


「天堂佑真の髪の色(、、、)、お前は気づいて指摘していないのか?」


「っ」


 真希の言葉をぶった切るように告げられた言葉に、真希は思わず怯んでしまった。話を強引に逸らされたのだが、逸らした先が重大すぎる。


「……気づいていないわけ、ないじゃない。波瑠から、佑真君に隠れてこっそり電話されたくらいよ。佑真君の髪が、私みたいな『蒼色』に染まっているって泣きそうな声で」


 佑真の肌が白く染まり、その箇所は触覚が機能していない。


 視力こそ機能しているが、右目が赤に変色している。


 だけど、波瑠が一番気にしたのは『蒼髪』だった。


「今日肉眼で見て確信したわ。あれ、私たち【天皇家】の血筋に出てくる蒼髪と、そっくりそのまま、同じじゃない」


「そうだよな……あれ? 脱線するが、桜ちゃんは蒼くないよな?」


「あの娘は『原典(スキルホルダー)』……生まれながらの超能力者でしょ。電気が影響して、色素が抜けちゃったのよ」


 そういうモンか、と涼介は脱線にふわっと納得した。


「……佑真君の『蒼髪』が何なのかはわからない。だけど、あれが【天皇家】に関わるものだとしたら……」


「あいつが【天皇家】の血縁者だとでも言うのか? そいつはあり得ないだろ。あの年代でウチの血を継いでいるのは、お前の三姉妹と、もう死んだ(、、、、、)優樹(ゆうき)(まい)だけのはずだぞ」


「佑真君が発見された日ってね」


 真希が強く声を出す。


「二一二六年の七月二日……『the next children』の翌日なのよ。そして優樹君と舞ちゃんは、兄さんたちの子供は、あの計画の最中に襲撃してきた米国軍との戦いで、命を落とした事に(、、)なっている(、、、、、)


「何が言いたい」


「可能性の話よ。記憶を失う前の佑真君が、優希君という可能性」


 なっ、と涼介は口を開けた。


 けれどすぐにくしゃりと、蒼い前髪をかき上げる。


「それはありえない。優樹は死んだ。あいつはもう死んだんだ。つうか俺が実の息子を見て、気づかないとでも思うのか?」


「…………そうよね。私が波瑠を見間違うわけない。たとえ五年間離れ離れになっても、私は一目見て気付いたもの。『綺麗に成長したけど、波瑠は波瑠のままだったな』って」


「ああ。そうだろ。だからアイツは優樹ではない。絶対にだ(、、、、)。だが、じゃあ、あの蒼髪は……ともすれば、あの『蒼髪』にこそ《零能力》を紐解く鍵が、あるのかもしれないな」


 数秒間、兄妹は沈黙する。


 天堂佑真。


 記憶喪失の少年。


 唯一にして正体不明の力を持つ、『特異(イレギュラー)』。


 果たして彼は、何者なのだろうか?








【これが奇跡の零能力者(アムネシア)


   第六章 王者と愚者の邂逅編】







涼介さんは名前だけ何度か出ていた『世界級能力者』で、波瑠の伯父にあたる人です。夕日との間に生まれた舞・優樹兄妹を亡くしています。

夕日さんについては第四章エピローグで


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