●第百二十四話 佐々木消の積極的な性的教育
申し訳程度の三日置き更新。
【3 盟星学園、普通科校舎二階廊下】
「ねえ、小野寺誠クン。天堂佑真がどこにいるか、知っているかしら?」
廊下を歩いていた小野寺誠は、聞き覚えの一切ない女声に足を止める。
振り返った先に立っていたのは、改造セーラー服を纏った女性だった。
胸元が大きく裂かれて豊満な谷間が視線を誘い、スカートも下着が見えるギリギリまで乱雑に切られていた。そこから伸びる大腿部の肌色は眩しく、視線を逸らしても短い裾からのぞくへそや見事なくびれが性的に魅力的だ。
(――――――冷静に観察してしまったけれど、えらい痴女が声をかけてきた!)
ここ、盟星学園はそもそもセーラー服ではない。部外者、それも全く見覚えのない者に名前を知られている恐怖に警戒心を、しっかしこの人美人だ。ぱっちり二重にすいこまれそうになるし柔らかそうな唇に触りたい衝動が、誠は頭をかきむしった。
(どうした僕ッ! 落ち着け僕ッ!)
心頭滅却。誠は大きく深呼吸して、改めて女性と対峙した。
「……佑真なら今、休学中ですよ。学校には来ていません」
本当は応接室に来ているが、真実を伝えるはずもない。厄介事の予感。早々に立ち去ろう。
「――そう。可愛い顔をして、嘘をつくのね」
そう考えた誠の背後で、ジャラ、と金属音がした。
【4 盟星学園、普通科校舎三階廊下】
応接室から出た佑真を、意外な人物が待ち構えていた。
「九十九か。久しぶりだな」
「カッカッカ。天堂佑真。お前と会うのは『高尾山』以来だな」
茶髪のツンツン頭、九十九颯だ。高尾山襲撃事件にて自身を《神上の宇》だと語って周囲を驚かせたものの、それ以来は会っていなかった。
「何か用か?」
「用があるのはこの部屋の中にいる人の方だ。一応あの人が俺の直属の上司だからな」
「ああ、天皇涼介さんか。陸軍の『一』番大隊だっけ」
九十九も九十九で【ウラヌス】に名を連ねる軍人である。佑真やキャリバンと所属は違い、陸軍第『一』番大隊――『大将』が率いる部隊に所属しているのだ。
そもそも盟星学園に彼が(年齢を偽ってまで)入学したのは、天皇波瑠と天堂佑真の監視・観察が目的だったはずだ。二人が休学した今、学校に残っている理由は何なのだろう。
「天堂、中で何を話していたんだ?」
先に九十九に質問されてしまった。
「ほとんどオレの話だったよ。『《零能力》は何?』って涼介さんに質問されて、それに答えているだけだった。オレ自身よくわかっていないから、あんまり答えられなかったわ」
「あの摩訶不思議な力のことか。『異能力を消す異能力』ってのは、この文の中だけで矛盾を起こしているが……カッカッカ。天堂自身も把握し切れていないのかよ。自分で理解できない力を使うの、怖くないのか?」
「九十九も《神上》を使うの、怖いのか?」
「……あー、そう返してくるか」
九十九は「むー」と唸りながら腕を組んだ。
「他の奴……天皇波瑠や土宮冬乃がどんな感覚で《神上》を使っているのかは知らないが、少なくとも俺は怖いぜ」
意外だった。高尾山襲撃事件で、実質的に終止符を打ったのは九十九の《神上の宇》が持つ力――『たぶん言葉による強制力だ』と誠から聞いていた。波瑠や桜の《神上》と比べるとまだ浅い部分しか見せていない気がするが、九十九は《神上》を行使していたはずだ。
「簡単にいえば、俺達の《神上》は神様の力だ。光一粒で誰かの人生を救うことができれば、言葉一つで誰かの人生をぶち壊せる、ルール無用の奇跡だぞ。失敗した時のリスクを考えると、どうしたって怖いに決まってんだろ」
だけど、と九十九は拳を握りながら続けた。
「これは《神上》に限った話じゃない――《超能力》だって《魔術》だって、使い方次第で毒にも薬にもなっちまう。本来、こういう特別な力に対しては恐怖を抱くべきだぜ」
「……」
「だが今の世界は《超能力》ありきで動いている。銃や剣と違い、己の脳がもたらす内側からの能力は、目に見える兵器ほど恐怖心を与えてくれない。超能力を使った傷害事件は増える一方だし、だからこそ『反能力社会派』が誕生したんだしな」
それはともすれば、異能力に限られた話でさえないだろう。
小野寺の剣術、火道の体術、瀬田七海の持つ狙撃術や――佑真のエアバイク免許に至るまで。使い方次第で、人生を幸にも不幸にもしてくれる。
《神上》所有者の責任は十倍、百倍どころではきっと済まない。
だからこそ、波瑠の人生は壊れたのだ。
「大分話が戻るんだけどさ、九十九の《神上》ってどんな奇跡なの?」
「カッカッカ、今それを聞くのかよ。俺のネタ晴らしは上の人に許可を取らないといけないんだが、天堂だったら教えても大丈夫か」
「すっごい不安なんだけど」
「大丈夫だ。上司の口が滑っただけで、部下に責任はねえからよ」
そういえばオレの方が部下ですね! と佑真。悲しきかな、同級生は軒並み上司だ。特殊な境遇で【ウラヌス】に流れ着いた者だらけだが――そういえば、九十九はどうして【ウラヌス】にいるのだろうか。
また新たな質問が頭に浮かぶ。
「俺のは《神上の宇》。司るものは――」
その時だった。
「――があッ!」
小野寺誠が吹っ飛ばされてきて、廊下の壁に背中を強打する姿が佑真の視界に映った。
「誠!?」
九十九が振り返る前に、佑真は駆け出していた。誠が飛んできたのは、この階に上る階段の方からだ。あいつが吹っ飛ばされるなんて相当な手練れに違いない。佑真は冷静に構えながら、誠をかばうように突っ込んでいく。
「……佑真、来るなッ!」
誠がそう叫んだと同時に、階段をコツコツと歩く足音が聞こえた。
「ゆうま? ユウマ、あら、ひょっとして天堂佑真?」
そう呟きながら、廊下に一人の女性が登ってきた。
佑真は姿をよく見もせずに『敵』だと判断して拳を握る。安直だが、速度が一番出る真っ直ぐなパンチ。迷わず振るった拳は女性の鳩尾をめがけて放ったのだが、
クッ、と。
女性は曲芸のようなブリッジで、佑真の拳をかわした。
「な――っ!?」
「天堂佑真、はっけぇん」
ブリッジの体勢のまま、彼女は舌で唇を舐め回した。そんな彼女と目があった瞬間、佑真はなぜだか瞳から目を逸らせなくなる。大きな黒目が綺麗で、いつまでも見つめていたくなってしま
「話に聞いた通りのイケメンじゃなぁい、チョット髪色は違うケド」
「ッ、うわっ!」
完全に注意を奪われていた佑真は、右腕に野性的本能で悪寒を察知する。ほぼ逆立ちとなった女性が関節技を決めようと、脚を絡ませていたのだ。締まりのある柔らかさで、気持ちよくさえある太ももの肉感が腕を包み、心臓がどくんと鼓動を――
(――じゃ、ねえだろ! このままじゃ関節外される!)
脚をほどこうにも、なぜか力が入らない。
熱を帯びる頬に莫大な違和感を覚えた頃に、ようやくあの感覚がやってきた。
ぱちん、と。
三秒間、女性の『何か』に接したことで《零能力》が発動された。
佑真を支配していた『何か』が解除され、興奮の波が一気に凪いでいく。
「こんにゃろッ!」
全身を使って腕を引くことで、女性のバランスを乱す。倒れかけた女性は器用に開脚してバランスをとりながら――パンツがモロに見えていた――両脚で、バレリーナのように美しく直立した。
「スケスケ紐パンかよ。エッロいじゃねえか」
「ぅふふふ、女はいつでも勝負下着。常識よぉ、男子高校生クン?」
女性の甘ったるい声が、耳から脳へと溶け込んでくるようだ。佑真は首をブンブンと横に振り、ファイティングポーズを取った。
「で、あんた誰よ? 御生憎様、誠に手ェ出しといてみすみす見逃せるほど、オレは薄情者じゃないんだけど」
対して女性は、前かがみになるとブラウスの内側に両手を差し込んだ。意図してか意図せずか、ブラウスがわずかに浮くと黒いブラジャーがチラリと見えた。
「天堂。セクシャルを利用してくる美女なんて、戦場には五万といるぞ」
「わかってるよ。わかってるけど――見たいものは見たいでしょ」
「天堂、それを『わかってない』って言うんだ」
九十九の忠告に頷きかえす。佑真は、波瑠が戦闘中にスカートで空を飛び回るのは『それで男の人が少しでも隙を見せてくれたらラッキーでしょ?』という、性を活かした戦術を思い出した。
しかし、本当にそれだけか?
(さっきオレは、何を《零能力》で消したんだ!?)
「……九十九、それに佑真。この人を直視しちゃダメだ」
誠のくぐもった声と同時に、女性は差し込んだ手を一気に引いた。
じゃらじゃらと音を立てて、引き出されるのは二本のチェーン。
「その人は、異状レベルで『女性』を武器にする……!」
「あたしの名前は佐々木消。よろしくねぇ、て・ん・ど・う・クン☆」
セーラー服の女性が――佐々木消が、二本のチェーンを引いて佑真に迫る。
廊下をヒールで蹴ると、左手のチェーンを振り上げた。上体を逸らして回避する佑真。振り上げられた左腕の袖から覗く腋と胸の付け根が、ピンポイントで焦点を引き寄せる。
「ぅふふ、腋フェチ?」
「太ももだよ!」
佐々木は回旋して右手のチェーンを横薙ぎした。今度は伏せるようにして鎖をかわし、窓がガシャンと音を立てて割れる。
「あらそうなの? じゃ、こっちでサービスしないとねぇ」
ヒュンとチェーンが鞭のように跳ね、全く同じ軌跡をなぞって打ち返された。佑真は後ろに思い切り飛んで避け、その横から二人の男が飛び出た。
九十九が顔の高さを容赦なく飛び蹴り、誠が懐に突き刺さる右ストレート。
狭い廊下では避けようのない攻撃を――佐々木は『下』で潜り抜けた。
リンボーダンスのように上体を大きく逸らした姿勢で、二つの攻撃をすり抜けたのだ。
「嘘だろ!?」「またか……!」
予想外すぎる回避に勢い余った九十九は廊下を転がり、誠も倒れ込む。
一方で佐々木は、その体勢からクネクネと跳ね起きた。豊満な双丘がぷるんと揺れて、スカートがふわりとまくれあがる。
佑真はギリ、と拳を構えていた。掌底一発、左足を大きく踏み込んで一気に接近し、骨を折るほどの強打を喰らわせにいく。
すでに距離は柔道の組手ほどしかない。避けようのない攻撃を、佐々木は。
ぐに、と常人ではありえないほど腰を曲げ、ほぼ『く』の字でかわした。
つま先だけでスピンをして佑真の背後を取ると、佐々木はギュッと背中から抱きついた。
「……はあっ!?」
「んぅふふ、ビクッって震えたぁ」
柔らかな脂肪がふよふよと背中に触れて(一部触覚が失われているのが悔しい)、吐息が首筋を撫でる(なんだか吐息に砂糖菓子のような甘さを感じる)。佐々木はぴっとりと佑真に密着すると、チェーンを手に巻いたまま、右手を佑真の股へ、左手を佑真の胸元へ触れさせた。
「っ!?」
「乳首を攻められるのは初めてぇ?」
「ッ、やめろ!」
ズボンの上から右手が何かをまさぐり、左手の細い指が佑真の胸板を這っている。ナンダコレハと思考が停止しかける佑真を、誠と九十九は動けずに見ていた。
「…………ナンダアレハ」
「…………何ってありゃ、どう見ても性感マッサージだろ」
「直接的な言葉にするな九十九! おいテメェ、佑真から離れろッ!」
「離してほしければ力づくでそうしてみなさいな――もっとも、アナタ達じゃ無理だけどねぇ」
佐々木は聖母のように誠たちに微笑みかけると、佑真の耳元にふうと息を吹きかけた。
だったら動いてやる――なんてことは、ずっと心のうちで叫んでいる。
しかし誠たちの足は力がすっかり抜けていて、動けなかった。
「媚薬にも色々種類があるのよぅ」
佐々木は佑真の身体をまさぐりながら、ちろっと舌を出した。
「今は技術も発展して、男性を刺激する方法はたくさんあるのぉ。例えばあたしの『香料』をちょっと多めに吸うだけで、アナタ達は身動きが取れなくなる。あたしの意のままに操れる性奴隷に成り果てちゃうし、ぅふふ」
佐々木は妖艶に微笑むと、佑真の首筋をピンク色の舌で舐めた。
「こうして首元を舐められている天堂クンは、あたしの唾液が肌から吸収されて、ドンドン興奮しちゃうのよぅ」
そろそろ苦しくなってきたぁ? と佐々木は楽しそうに囁いた。佑真は鉄の意思で歯向かっているようだが、どうしたって抗えなくなってきているようだ。
「……そういう僕達も、そろそろ動けないね……」
「媚薬っつうかもはや毒だろこれ……クソ、しゃーねえ。小野寺、強引に肉体を動かすぞ。おそらくこいつを相手取るには、俺達は邪魔者らしい」
「は? どうやって――」
「こうやるんだ」
九十九は不敵に笑いながら、舌を出した。
そこに刻まれているのは《神上の宇》の魔法陣。
こいつが起こす奇跡は、言葉による強制力。
「《野郎ども、今すぐこのエロ女から離脱しろ》!」
怒号のような声が響き渡った。
その瞬間、誠の脳内にすうっと涼しい風が吹き抜けるような錯覚を得た。熱くてドロドロした何かが蒸発して、ただ『離脱しないと』という命令に体が従っている。
それは誠だけではないらしい。偶然通りかかった男子生徒、騒動をかぎつけた野次馬の垣根からも男子生徒だけが佐々木消と反対方向へ去っていく。
「流石に『神様』には勝てないだろ、テメェの『魅了』もよ」
そして自分の《声》を聴いた九十九も、全速力で離脱していた。危機感を一番近くで感じていたからか、その全力走は単なる《命令》以上の人間臭いものを感じる。
「《神上》を利用した離脱、か。九十九、キミの《神上》は一体何なんだい?」
「やすやす他人に手の内明かせるかっつーの! 俺はお前達の味方じゃねーからな!」
「敵でもないでしょ?」
「そいつはどうだかね」九十九は肩をすくめ、「……ところで、天堂は?」
言われてみれば、佑真がいない。逆方向に逃げたのかもしれないが、誠は嫌な予感がした。
「ひょっとして、九十九の命令を《零能力》で消しちゃったんじゃ……」
「あるいは奴の『魅了』から抜け出せていないか、だな。天堂は接近していたし、エロッエロなプレイを直接受けていた。影響を一番受けているだろう。どうする?」
「……そうだね」
誠は数秒の思案の後、携帯端末を取り出して、こう答えた。
「とりあえず、波瑠に佑真が太ももフェチだって教えておくよ」
【5 盟星学園、普通科校舎三階廊下】
九十九の命令が放たれると同時に、佑真は佐々木消の拘束を振りほどいて、回転蹴りを脇腹に叩き込んだ。
「ごふっ!?」
肉の感触を得た瞬間、容赦なくメリメリと抉るように力を込めて蹴り飛ばす。女性ゆえの軽さだろうか、簡単に蹴れこそしたが――佐々木は不自然な体勢での着地から、ぐにゃぐにゃと軟体動物並みの柔軟性で立て直した。
「いったぁい……ナニナニ!? なんであたしの『魅了』の下にいるのに動けるのよぉ!?」
「テメェのそれが《異能力》だからだ、クソッタレ」
対して佑真は、指を鳴らしながら告げた。
「多少の興奮は残っているからな。実際に『香料』や『視覚的刺激』も使っているんだろうが、テメェの『魅了』は超能力かそれに類する何かだ。でなければ、たった三秒間で性的興奮が消え去る理由が説明できねえよ」
「……《零能力》だったかしらぁ……ぅふふ、そっかそっか。通じているのかと思ったけど、あたしの『原典』も例外じゃぁなかったのねぇ」
鎖をまいた両手の指に舌を這わせる佐々木。確かに色気ある仕草だが、佑真の胸の高鳴りは一般男子高校生が女子のパンチラを見たレベルで収まっており、浅いレベルにとどまっている。
「あたしの能力は《欲望開放》。欲求、特に性的欲求に干渉する『原典』なのよぅ」
だ・か・ら、と一音ずつ区切って佐々木は告げた。
「あたしの刺激的な格好で男の子が得るコーフンを、通常の十倍にも五十倍にもできるってワケ。普通のパンチラが強力な媚薬になる、とってもとってもエッチな能力なのデス」
だから誠は防戦一方を強いられていたし、九十九や佑真もうまく戦えなかった。『《超能力》に頼ろう』という考えまでもを妨害する、理性を奪う恐ろしいスキル。
「けどおかしいわ。あなたは三秒で消せていたというのに、どぅしてあたしの抱擁に甘んじていたの? 気持ちよかった? イキそうだった?」
「気持ちよかったのは否定しない。ただ、あのままだと誠や九十九を巻き込みっぱなしになりそうだったんで、フリをさせてもらったよ」
「……ぅふふ。可愛い男の子を見かけちゃったからつい声をかけてしまったのよ。浮気してごめんなさいね、天堂クン。今度はアナタだけにご奉仕してあ・げ・る・か・ら☆」
「いいや、これ以上は遠慮させてくれ、クソビッチさん」
佑真は窓際によると、ガラッと思いっきり窓を開いた。まるで真夏のような熱気が校舎内に一気に流れ込んでくる中、ゴウ、と風切り音が響く。
「生憎だけどオレは今、この娘しか眼中にないからさ。他の女を見る余裕はねーんだわ」
開いた窓から飛び込んできたのは、長い蒼髪の少女だった。
今日は髪をポニーテールにまとめていて、白いうなじにわずかに浮かぶ汗の雫が、形容しがたい瑞々しさを宿していた。
天皇波瑠。
超能力をいかんなく発揮して廊下に着地した少女は、そのついでに佐々木消を氷漬けにすると、佑真の両肩を掴んだ。
「佑真くん大丈夫!? 怪我してない!?」
「お、おう。大丈夫だけど、相変わらず強いね波瑠ちん。一瞬でカタついちゃった」
「誠くんから佑真くんが襲われてるって聞いて、特徴は『エロい』って言ってたから適当に氷漬けにしちゃったけど、この人であってる? 無関係な人を巻き込んだりしてない!?」
「あってるぞ。氷漬けでもエロいなこの人」
「………………」
エロい人は一応首より上が出ているのだが、一瞬でついた決着に言葉も出ないようだ。
改めて、Nо.2こと《霧幻焔華》の強さを目の当たりにした。本当にこの娘を守る必要はあるのかな、と思わなくもないけれど、佑真は波瑠をギュウと抱きしめた。
「……ふえっ!? ゆ、佑真くん、ここ、学校!」
「あー、やっぱこのサイズ感とこの香りだ。波瑠ちん可愛い超可愛い」
「……んんっ!?」
ギュウと抱き寄せたまま、佑真はあえて佐々木に見せつけるように波瑠の唇を奪った。触れ合うだけの簡単なキスでも、目の前三センチで顔がかああっと一気に朱色に染め上がる。
佑真は自分のタガが外れている気がするが、あれだけ媚薬をかいで塗られたのだから仕方ないのかもしれない。うんきっと仕方ないんだ、と頭の中で片づけた。
「~~~~っ! だ、だからまだ周りに人がいるんだってば! TPO! りぴーとあふたーみー!」
ジタバタポカポカする波瑠ちんは、顔がりんごみたいに真っ赤だった。純真無垢なかわいらしさが胸の奥をきゅんとさせる。周囲に残る野次馬さんは幸か不幸か女子生徒だらけで、キャーキャー言われながらシャッター音がいたる所で発生していた。
「と、ところで佑真くん、ふ、ふと、太ももフェチって、本当……?」
「どこから聞いたのそれ……どこかと聞かれれば好きなだけでフェチってほどでは」
「……こ、今度、膝枕したげる、ね」
「ねえ恥ずかしいなら無理しないでいいからね? でも顔真っ赤で誘ってくる波瑠ちん死ぬほど可愛い」
「佑真くん……」
「貴様が天堂佑真か」
そんな垣根を押しのけて。
バッカプルの阿呆な空気を一蹴する野太い声が、降り注いできた。




