↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
願いを魔法に  作者: 由吉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/48

第1章 第8話 届かない距離

「……写真の少女って、お前か?」

 少し離れた場所から、低い声がした。

 ルナが振り返る。

 使い込まれた防具を身につけた男が立っていた。年齢は三十前後だろうか。頬が赤く、近づいてくると酒の匂いがした。

 男はユニと新聞の写真を見比べている。

「白銀の髪に青い服。頭には、白くて丸いの」

「ワン」

「鳴くのか……」

 男は一瞬だけ黙ったが、すぐにユニへ視線を戻した。

「黒龍の子供を親元へ返したっていう少女、本当にお前なのか?」

「はい」

「それで、Sランク試験の候補者?」

「そう書いてあります」

「記事の話をしてるんじゃねえ。お前自身が、それだけの奴なのかって聞いてるんだ」

 ユニは少し考えた。

「分かりません」

「……は?」

「試験は、まだ受けていませんから」

「自分が強いかどうかも分からないっていうのか?」

「何と比べるかによります」

 男の眉が動いた。

 ルナには、ユニが男を挑発しているようには見えなかった。

 本当に、聞かれたことへ答えているだけだ。

「王都日報は話を大きく書くからな」

 男は新聞へ目を向けた。

「白銀の少女が一人で黒龍事件を終わらせた。今度はSランクの候補者。ずいぶん出来すぎた話じゃねえか」

「一人ではありません」

「何?」

「幼い黒龍がいました」

「そういう意味じゃねえよ」

「そうですか」

 男の顔が険しくなる。

「俺は長いこと冒険者をやってる。何度も怪我をして、仲間が倒れるところだって見てきた。それでも、まだBランクだ」

 男は腰に下げた登録証を握った。

「それなのに、こんな小さな子供が、いきなりSランクの候補者だと? 簡単に納得できると思うか?」

 その声には怒りだけでなく、悔しさのようなものも混じっていた。

「そう思うのであれば、それで構いません」

「……何?」

「あなたが納得するかどうかは、あなたが決めることです」

「俺に認められなくても構わないって?」

「はい」

「……気に入らねえな」

「そうですか」

「だったら証明してみろ」

「何をですか?」

「Sランクの候補に選ばれるだけの実力があるってことをだ」

「必要ありません」

「逃げるのか?」

「戦う理由がありません」

「口では何とでも言える」

「そう思うのであれば、それで構いません」

 男の顔がさらに赤くなった。

 ルナは一歩前へ出る。

「もういいでしょ。ユニちゃんは試験を受ける候補に選ばれた。それなら、そこで確かめればいいじゃない」

 男がルナを見る。

「お前は何だ?」

「一緒に旅をしてる、ルナ」

「こいつが本当に何者か、知ってるのか?」

「……今、知らないことがたくさんあるって分かったところ」

「知らねえのかよ」

「でも、ユニちゃんが嘘をつく子じゃないことは知ってる」

 男はしばらくルナを見つめ、それからユニへ視線を戻した。

「本当に、記事の少女なんだな?」

「はい」

 男が一歩近づく。

「だったら、そのくらいは確かめさせろ」

 男の手が、ユニの肩へ伸びた。

「ちょっと!」

 ルナが長杖を握る。

 しかし、男の手はユニへ届かなかった。

「……あ?」

 ユニの肩まで、あとわずか。

 ほんの少し腕を伸ばせば触れられるはずなのに、その距離が縮まらない。

 男がもう一歩踏み出す。

 それでも、指先は届かなかった。

「なんだ、これ……」

 酔いの浮かんでいた男の顔に、困惑が広がる。

 ユニは動いていない。

 避けてもいない。

 ただ、そこに立っている。

「ユニちゃん……?」

「はい」

「何かしてるの?」

「何もしていません」

「本当に?」

「はい」

 男はもう一度だけ手を伸ばした。

 やはり届かない。

「そこまでです」

 受付から鋭い声が飛んだ。

 男の動きが止まる。

 先ほどルナの対応をしていた受付の女性が、こちらを見ていた。

「ギルド内で、ほかの冒険者や利用者へ無断で触れる行為は禁止しています。離れてください」

「俺は、ただ確かめようと……」

「本人の許可なく触れることを、確かめるとは言いません」

「……」

「離れてください」

 男はユニから手を引いた。

 困惑したまま、自分の手を見つめている。

「俺は別に、傷つけるつもりじゃなかった」

「分かっています」

「……分かってるのかよ」

「はい」

 男の勢いが少しだけ弱くなった。

 受付の女性は近くにいた職員へ声をかける。

「お水をお願いします」

「酒はもう飲んでねえ」

「だから水を飲んでください」

「……分かったよ」

 男は渋々、近くの椅子へ座った。

 それでも、ユニを見る目には疑いが残っている。

「試験、本当に受けるんだろうな」

「王都へ行けば分かると思います」

「また、はっきりしねえ答えだな」

「まだ受けると返事をしていませんから」

「候補者本人が新聞で初めて知ったのかよ……」

 男は額を押さえた。

「どうなってんだ、王都は」

 ルナも同じことを思った。


     *


「ルナさん」

 受付から名前を呼ばれた。

「あ、はい!」

「登録証ができましたよ」

 ユニの正体と新聞に気を取られ、登録のことを忘れかけていた。

 ルナは慌てて受付へ向かう。

「こちらが冒険者登録証です」

「……これが」

 受け取った小さな登録証には、ルナの名前と出身地が刻まれている。

 そして、その下に書かれた文字。


 Eランク。


「私、冒険者になったんだ……」

「はい。今日から正式に冒険者です」

 ルナは登録証を見つめた。

 世界に十二人しかいないSランク。

 その特別試験の候補者。

 そんな話を知った直後だから、登録証に刻まれたEという文字が、とても小さく見える。

「……Eからなんですよね」

「はい。新規登録者は、原則として全員Eランクから始まります」

「みんな?」

「はい」

「そっか」

 最初から。

 それでいい。

 ルナは登録証を大切にしまった。

「ユニちゃん」

「はい」

「私、Eランクになった」

「はい」

「ユニちゃんは、Sランク試験の候補者」

「そうみたいです」

「……差がすごいね」

「比べる必要はありません」

「え?」

「ルナは、今日冒険者になったばかりです」

「……うん」

「なら、今日のルナはEランクです」

 ルナは登録証へ触れた。

「そっか」

「はい」

「じゃあ、ここからだね」

「はい」

「ワン」

 世界に十二人しかいないSランク。

 その十三人目になるかもしれない少女が、今まで当たり前のように隣にいた。

 黒龍の子供を親元へ返し、事件を終わらせた少女。

 ルナが半年間、ユニちゃんと呼んできた少女。

 知らなかったことは、まだたくさんある。

 それでも。

 ルナ自身の冒険者としての旅は、今日、Eランクから始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。