第3章 第21話 止まらない三番
演習場の奥で、それに気づいた係員が声を上げた。
「三番が動いてるぞ!」
その声をきっかけに、残っていた係員たちが一斉に動き出した。
三番はゆっくりと頭を巡らせる。
胸元の石は、不規則な明滅を繰り返していた。
昼間、訓練で動いていた時の青白い光とは違う。
強くなったかと思えば、次の瞬間には消えそうなほど弱くなる。
「停止命令は入ってるのか!」
「入ってる! 操作盤にも停止状態って出てる。それなのに、三番が反応しない!」
係員たちの声が飛び交う。
一人が演習場の端にある操作盤へ駆け寄り、並んだ石へ次々と触れた。
ルナも足を引く。
「ユニちゃん」
「はい」
ユニは三番から目を離していなかった。
その頭上にいたにゃん吉君も、身体を起こして演習場を見ている。
三番は一歩、さらにもう一歩と柵の方へ進んだ。
「まずい。あそこから離せ!」
二人の係員が左右から距離を詰める。
一人が手にした器具を三番へ向け、操作盤の前にいた別の係員が叫んだ。
「制御そのものを切る! 離れてろ!」
胸元の光が消えた。
三番の身体も、その場で止まる。
「……止まったか?」
係員が慎重に一歩近づいた。
直後、消えていた石に光が戻った。
「なんでだ。制御は切ったぞ!」
三番が大きく前へ踏み込む。
近くにいた係員が避けようとして足を取られ、地面へ倒れた。
「くっ……!」
「動くな、今行く!」
別の係員が駆け寄ろうとする。
だが、その前に三番の頭が、倒れた係員へ向いた。
ユニの足が一歩前へ出る。
その瞬間だった。
頭上から、白いものが飛び出した。
「え?」
にゃん吉君だった。
柵を越えて演習場へ入り、三番と倒れた係員の間へ回り込む。
「にゃん吉君!」
ルナの声が響いた。
三番と比べれば、白い身体はあまりにも小さい。
にゃん吉君は後ろを振り返らない。
「ワン」
三番の頭が、にゃん吉君へ向く。
次の瞬間、灰色の身体が地面を蹴った。
「危ない!」
三番が、そのままにゃん吉君へ突っ込んでいく。
ぶつかる寸前、白い身体がふわりと浮いた。
三番の頭が、その動きを追う。
にゃん吉君が右へ動けば、三番も右へ身体を向ける。
さらに奥へ飛べば、その後を追うように進路を変えた。
「ワン」
「今のうちです!」
ユニの声で、係員たちが我に返る。
「そうだ、急げ!」
二人が倒れた仲間のところへ走り、両側から身体を支えた。
「立てるか?」
「足をひねっただけだ。俺はいい。それより三番をどうにかしろ。あのまま柵へ出たらまずい」
「分かってる。肩貸すぞ」
その間も、にゃん吉君は三番から一定の距離を保ちながら動いていた。
柵へ向かおうとしていた三番は、いつの間にか演習場の中央近くまで戻されている。
「三番への供給を切った! これ以上、外から魔力は送られてない!」
「だったら、どうして動いてるんだ」
「内部に蓄えてた分が残ってるのか? 残量を確認しろ!」
「確認してる! ……いや、動いてる分じゃ説明がつかない。それ以前に、停止命令にも制御の遮断にも反応しないのがおかしい!」
三番の胸元の石は、まだ明滅していた。
「止められないのに……」
ルナは操作盤へ目を向けた。
「今日の昼、街の供給が一瞬おかしくなりました。その時間の三番の記録、見られませんか?」
操作盤の前にいた係員が振り返る。
「昼の記録?」
「はい。それと――」
ルナは三番を見る。
「消さないでください。異常が出ても、記録は残してください」
係員は一瞬だけルナを見てから、すぐに盤面へ向き直った。
「分かった。確認する」
表示を切り替え、記録を追っていく。
やがて指が止まった。
「……ここだ。昼」
「何かある?」
「三番はこの時間、停止状態だったよな?」
「ああ。昼前に異常が出たから、訓練から外してた」
「記録に反応が残ってる」
隣の係員が操作盤を覗き込む。
「何の反応なんだ?」
「分からない。少なくとも俺は、こんな記録を見たことがない」
三番が急に方向を変えた。
にゃん吉君を追うのをやめ、柵の方へ向かう。
「まずい、外へ出るぞ!」
にゃん吉君が三番の横を追い越した。
柵へ向かう進路の少し先で止まり、振り返る。
「ワン」
三番の首がそちらへ向く。
そのまま白い身体を追い、柵とは違う方向へ駆け出した。
その時、操作盤の光が揺れた。
「おい、まただ!」
並んだ表示が一つ、二つと不規則に明滅する。
係員が操作盤へ手を伸ばした。
「供給側にも変動が出てる!」
三番の胸元が強く輝いた。
動きが変わる。
これまでより速く、地面を強く蹴った。
にゃん吉君が上へ逃れる。
三番はその下を駆け抜け、勢いのまま大きく方向を変えた。
ユニの視線が三番へ向く。
「ルナ」
「うん」
「もう少し下がっていてください」
ルナは頷き、数歩後ろへ下がる。
三番が再び地面を蹴った。
にゃん吉君が、その進行方向から外れるように横へ移る。
さらに先へ飛び、振り返った。
「ワン」
その声を追うように、三番が向きを変える。
白い小さな身体の向こうで、三番の胸元が強く明滅した。




