↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
願いを魔法に  作者: 由吉
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/139

第3章 第16話 海の上で

 目を覚ましたとき、ルナはしばらく天井を見つめていた。


 低い天井の向こうから、船体が軋む音が聞こえる。


 寝台も、波に合わせてゆっくりと揺れていた。


 ルナは毛布を押し退け、身体を起こす。


「……朝だ」


 向かい側の寝台を見る。


 にゃん吉君が枕の真ん中で丸くなり、その端ではユニが壁際へ寄って眠っていた。


「まだそこにいたんだ……」


「ワン」


 目を閉じたまま、にゃん吉君が返事をした。


「起きてるの?」


「ワン」


「じゃあ、そこユニちゃんの場所だって分かってるよね?」


 返事が止まった。


 にゃん吉君は、さらに身体を丸める。


「聞こえなかったことにした……」


「いつものことです」


 ユニの声がした。


「起きてたの?」


「今、起きました」


「おはよう、ユニちゃん」


「おはようございます」


「狭くなかった?」


「狭かったですよ」


 迷いのない返事だった。


 ユニが身体を起こすと、にゃん吉君も枕から離れ、ふわりと浮き上がった。


 そのままユニの頭上へ戻る。


「結局そこなんだね」


「ワン」


     *


 支度を済ませ、甲板へ出た。


 扉を開けた瞬間、潮の匂いを含んだ冷たい風が頬を撫でる。


 ルナは少し目を細めた。


 見渡す限り、海だった。


 港も山もない。


 水平線まで青い水面が続き、朝の光を受けた波が細かく光っている。


 船体の脇では水が白く砕け、そのまま後ろへ流れていた。


「すごい……」


 ルナは手すりまで歩き、両手を添えた。


 港から見た時より、ずっと広く感じる。


「本当に、何も見えないね」


「はい」


 ルナは水平線を見る。


「願いの泉も、海の向こうにあるのかな」


「分かりません」


「そっか」


 それだけ言って、ルナはもう一度海を見た。


 ユニの頭上では、にゃん吉君の白い毛が風に揺れている。


     *


「おはよう」


 背後から声がした。


 振り返ると、乗船を待つ列で出会った女性が立っていた。


 足元には、淡い灰色の小さな獣もいる。


「おはようございます」


 ルナが頭を下げる。


 女性はユニの頭上を見て笑った。


「今日もそこなのね」


「定位置です」


「ワン」


 灰色の獣が顔を上げた。


 にゃん吉君を見つめ、少しだけ近づく。


「昨日も気になっていたみたい」


「ワン」


 灰色の獣は首を傾げた。


「通じてるのかな」


「どうでしょう」


「ワン」


「それじゃ分からないよ」


 女性が小さく笑った。


 灰色の獣はしばらくにゃん吉君を見ていたが、やがて女性の足元へ戻った。


 朝の甲板には、少しずつ人が増えていた。


 手すりから海を眺める人。


 椅子に座って朝食を取る人。


 その間を、船員たちが慣れた足取りで行き来している。


 女性が海を見ながら尋ねた。


「二人は、島大陸の魔法都市まで? アステリアでしょう」


「はい」


「旅行?」


「調べたいことがあるんです」


 ルナは少し考えてから答えた。


「魔法のことで。アステリアの研究院へ行くつもりです。紹介状も書いてもらったので」


「そうだったの」


 女性は少し考えてから続ける。


「それなら、中央史料院にも行ってみるといいかもしれないわね」


「中央史料院?」


「昔の研究記録や測定結果、各地から集められた古い文献を保管している場所よ」


 ルナは女性へ身体を向けた。


「昔の記録もあるんですか?」


「かなり古いものまであるそうよ。私は中へ入ったことがないから、詳しくは知らないけれど」


 ルナは少し考えてから、ユニを見た。


「アステリアに着いたら、中央史料院にも行ってみよう」


「はい」


「何か見つかるといいわね」


「ありがとうございます」


 風が強くなり、ルナの髪を後ろへ流した。


 水平線の先に、まだアステリアは見えない。


 にゃん吉君はユニの頭上から、同じ方向を見ていた。


「ワン」


 船は白い波を残しながら、海の向こうへ進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。