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願いを魔法に  作者: 由吉


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第2章 第9話 持ち帰ったもの

小さな袋の中で、三つの魔石がぶつかる音がした。


もっと探せば、まだ見つかるかもしれない。


でも、ゴブリンは七体もいた。ほかにも隠れているかもしれない。


私は袋の口を閉じた。


「戻ろう」


ユニちゃんには聞かなかった。


自分で決めて、自分から言った。


「はい」


ユニちゃんが答える。


「ワン」


にゃん吉くんの光が少しだけ揺れた。


盾を持った女の人も頷く。


「私たちも戻る。管理所へ報告したほうがいい」

「奥へ行かなくていいんですか?」

「行かない」


女の人は、すぐに答えた。


「予定より魔獣が多い。こういう時は、調べるより先に知らせる」


魔石より、依頼より、まず戻る。


ギルドの受付で聞いたことと同じだった。


「一緒に行こう」

「はい」


私たちは、来た道を戻り始めた。



先頭には盾を持った女の人。その後ろを、剣と弓を持った二人が歩く。


私たちは三人の後ろをついていく。


行きよりも足音が多い。それだけで、暗い通路が少し狭く感じた。


「皆さんは、もっと奥へ行く予定だったんですか?」


私が聞く。


「ああ。今日は下の階層で素材を探す予定だった」


剣を持った男の人が答えた。


「下って、どこまであるんですか?」

「分からない」

「分からないんですか?」

「このダンジョンが、どこまで続いているのかはまだ確認されてない」


私は足元へ続く岩の道を見る。


この下にも、ずっと同じような場所がある。


「誰も一番下まで行っていないということですか?」

「そういうことだ」

「では、どれくらい深いんですか?」

「それも分からないな」


二十五階層かもしれない。五十階層かもしれない。百階層よりも深くまで続いているかもしれない。


誰にも分からない。


「深くなるほど、魔獣も強くなるんですか?」

「基本的にはな」


盾を持った女の人が答える。


「その代わり、質のいい魔石や珍しい素材も見つかる。宝箱が現れることもある」

「宝箱ですか?」

「誰が置いたのか分からないけどな」

「誰が置いたか分からない物を開けるんですか?」

「開ける」

「怖くないんですか?」

「怖い」


女の人は、当たり前のように答えた。


「罠があることもある。それでも、中にはダンジョンでしか見つからない物が入ってる」


珍しい道具。特殊な素材。今では作り方の分からない物。


そういうものが、ダンジョンの奥で見つかることがあるらしい。


「でも、そんなに深かったら、行って戻るだけで何日もかかりますよね」

「だから、階層の主を倒す」

「階層の主ですか?」

「いくつかの階層ごとに、ほかより強い魔獣がいる。冒険者は階層ボスって呼んでる」


階層ボス。


初めて聞く言葉だった。


「倒すと、その先へ行けるようになる。それと、近くにある転移台が使えるようになる」

「転移台……」

「入口と、その階層を行き来できる。毎回、一階層から歩かなくてもよくなるんだ」

「便利ですね」

「便利だけど、最初にそこまで行く時は歩くしかない」


一度も到達していない場所へは転移できない。


最初の人たちだけは、自分の足で下りなければならない。


「誰がそんな仕組みを作ったんですか?」


返事はすぐにはなかった。


三人とも顔を見合わせている。


「分からない」


弓を持った人が答えた。


「どうしてダンジョンがあるのかも、誰が作ったのかも分かってない」

「昔からあるんじゃないんですか?」

「古いダンジョンもある。でも、ある日突然現れたものもある」

「突然ですか?」

「昨日まで何もなかった場所に、入口ができることがある」


私は思わず足を止めそうになった。


「そんなことがあるんですか?」

「ああ。逆に、消えることもある」

「消えるんですか?」

「一番下まで攻略されたダンジョンが、そのあと消えたという記録がある」


入口も、中にあった通路も、すべて消えてしまう。


残るのは、そこから持ち帰った物だけ。


「どうしてですか?」

「それが分かれば、苦労しない」


剣を持った男の人が笑った。


「分からないことばかりですね」

「だから潜る奴がいるんだろうな」


強い魔獣。希少な素材。誰が置いたのか分からない宝箱。そして、どこまで続いているのか分からない道。


私は後ろを歩くユニちゃんを見る。


「ユニちゃんは知ってる?」

「何をですか?」

「ダンジョンが、どうしてあるのか」


ユニちゃんは少しだけ考えた。


「知っていることもあります」

「教えてくれる?」

「今は必要ありません」


やっぱり教えてくれない。


でも、前ほど驚かなかった。


今は、自分で見たものだけで十分だった。



入口が近づくにつれて、外の光が見えてきた。


にゃん吉くんの身体から、少しずつ光が消えていく。


最後の一歩を踏み出す。


足元へ昼の光が落ちた。


「出られた……」


振り返る。


ダンジョンの入口は、変わらず暗い。


ほんの少し前まで、あの中にいた。


スライムがいて、ゴブリンに囲まれて、知らない冒険者たちと一緒に戦った。


鞄の中で、三つの魔石が小さくぶつかった。


「まずは報告だ」


盾を持った女の人が言う。


私たちは管理所へ向かった。



「七体?」


管理所の男の人の表情が変わった。


「ああ。第一採取区域の近くだ」


剣を持った男の人が、見たことを順番に説明する。


最初に五体。そのあと、奥から二体。


男の人は机の上に置いた紙へ書き込んでいく。


「最近、数が増えてるって話はあったが……」

「調べるんですか?」


私が聞く。


「ああ。ほかの冒険者にも注意を出す。必要なら、しばらく入れる区域を狭める」


管理所の人たちが確認するらしい。


私たちが戻ったことで、次に入る誰かが先に危険を知ることができる。


「報告、ありがとう」

「はい」


自分が見たことを伝える。


それも、持ち帰ったものの一つなのかもしれない。



街へ戻る頃には、空が赤くなり始めていた。


朝に出た西門を、今度は五人で通る。


そのまま、みんなでギルドへ向かった。


受付の女の人が私たちを見る。


「お帰りなさい」


その言葉を聞いた瞬間、少しだけ力が抜けた。


「ただいま」


私は依頼書と、三つの魔石を机へ置いた。


受付の女の人が一つずつ確認する。


大きさ。光。表面の傷。


最初に採った小さな魔石を持ち上げる。


「これも使用できます」

「本当ですか?」

「はい。大きくはありませんが、問題ありません」


三つとも街で使える。


胸の奥が少しだけ温かくなった。


箱いっぱいの魔石と比べたら、ほんの少ししかない。それでも、何も持って帰れなかったわけじゃない。


「依頼達成です」


受付の女の人が私の冒険者証へ記録を加える。


報酬が机の上へ置かれた。


道具屋で払った分より、少し多い。


私はお金を受け取り、鞄へ入れた。


「戻ってきたね」

「はい」


ユニちゃんが答える。


「誰も欠けずに」

「ワン」


にゃん吉くんが、ユニちゃんの頭の上で鳴いた。



翌朝。


私たちは駅のホームに立っていた。


遠くで列車の音が聞こえる。


この街へ来た時より、鞄の中の荷物が少しだけ増えた。


予備の魔道灯。依頼の報酬。そして、ダンジョンで見たもの。知ったこと。


魔石は、もう鞄の中にはない。


街で必要としている人たちのところへ運ばれていった。


それでいい。


列車がホームへ入ってくる。


扉が開いた。


「次は、どんな街かな」

「着けば分かります」

「それはそうだけど」

「ワン」


私たちは列車へ乗り込み、窓際の席に座る。


しばらくして、列車がゆっくり動き始めた。


修復途中の建物。朝から働く人たち。昨日通った西門。


少しずつ街が遠くなる。


私は、見えなくなるまで窓の外を見ていた。


列車は、必ず次の駅へ向かう。


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