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願いを魔法に  作者: 由吉


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第2章 第5話 行ってみたい理由

ギルドを出た頃には、空が少し赤くなり始めていた。


「今度こそ宿だね」

「はい」

「絶対だからね」

「はい」

「ダンジョンには行かないからね」

「はい」

「……なんで全部同じ返事なの?」

「全部合っていますから」

「ワン」


にゃん吉くんが、ユニちゃんの頭の上で鳴いた。


私は振り返る。さっきまでいたギルド。その中に、あの依頼がある。


『西部第七ダンジョン 魔石採取』


「……」


ちょっとだけ。いや、かなり気になる。


「ルナ」

「なに?」

「宿はあっちです」

「分かってるよ!」


私は慌ててユニちゃんを追いかけた。



教えてもらった宿は、ギルドから歩いてすぐの場所にあった。一階が食堂で、二階が客室になっている。


荷物を置き、少し休んでから、私たちは食堂へ降りた。


「お腹すいた……」

「たくさん歩きましたから」

「列車にも半日乗ってたけどね」

「座っていました」

「それはそうだけど」


席に着いてしばらくすると、大きなお皿が運ばれてきた。パンに野菜のスープ。それから、焼いたお肉。


「おいしそう!」

「ワン!」


にゃん吉くんが、今日一番大きな声で鳴いた。


「にゃん吉くんもお腹すいてたんだ」

「ワン」

「ずっとユニちゃんの頭に乗ってたけど」

「ワン」

「……疲れたの?」

「ワン」


絶対に違う気がする。


「いただきます」

「いただきます」

「ワン」


パンをちぎり、スープにつけて口へ運ぶ。


「おいしい……」


温かい。


王都を出て、列車に乗って、知らない街へ来た。いろんなことを知って、ようやく一日が終わる。そんな気がした。


「明日はどうする?」


食べながら聞くと、ユニちゃんは私を見た。


「ルナはどうしたいですか?」

「私?」

「はい」


少し考える。


西の魔法都市へ向かう。それが私たちの目的だ。ここは途中の街なのだから、次の列車に乗ればいい。


でも。


「……もう少し、この街を見たい」

「では、見ましょう」

「いいの?」

「急いでいません」

「そっか」


私はスープを一口飲む。それから、もう一つ気になっていることを口にした。


「あと、ダンジョンも気になる」

「知っています」

「……そんなに顔に出てた?」

「出ていました」

「ワン」

「にゃん吉くんまで!」


ユニちゃんは、いつも通りパンを食べている。


行こうとも、やめようとも言わない。


だから私も、それ以上は言わなかった。



翌朝。


宿を出ると、昨日とは違う音が聞こえた。


カン。カン。カン。


金属を叩く音。木を切る音。荷車が道を進む音。街は朝から動いていた。


「昨日より工事してる人、多くない?」

「時間が違います」

「あ、そっか」


歩いていると、昨日見た修復途中の建物が見えた。何人もの人が、新しい木材を運んでいる。


その少し先には、一台の荷車が止まっていた。周りには作業着姿の人たちが集まっている。


「これだけか?」

「今日はな」

「また?」

「仕方ないだろ。入ってこないんだから」


何かを話している。


私は足を止めた。


荷車には小さな箱がいくつも積まれていた。そのうちの一つが開いている。中に入っていたのは、淡く光る石だった。


「……魔石」


見覚えがある。


ゲートから現れた魔獣を倒したあと、ユニちゃんが拾っていた石。でも、あの時はその先のことまで考えなかった。


「復旧に使うのかな」

「使うと思います」


ユニちゃんの声が聞こえたのか、近くにいた男の人がこちらを見た。腰に工具を下げている。


「ああ。使うよ」

「やっぱり?」

「街灯に工房、給水設備。工事用の魔道具にもな。直すものが多いから、今はいくらあっても足りねえ」


男の人が箱を見る。


「そんなに使うんだ……」

「普段ならここまでじゃねえんだけどな」


男の人は苦笑いした。


「復旧中だ。それに、近くから入ってくる量も安定してなくてな」

「近くから……」


昨日見た依頼書を思い出す。


『西部第七ダンジョン 魔石採取』


「ダンジョン?」

「ああ。この辺りじゃ、あそこから採れる魔石も多い」


ユニちゃんから聞いたことがある。ダンジョンは、魔石が多く採れる場所。列車を動かしている魔石も、そういう場所から運ばれてくる。


知識としては知っていた。


でも今、目の前には、その魔石を待っている人がいる。


「ないものは仕方ねえ。ある分でやるさ」


男の人は箱を持ち上げた。


「じゃあな」

「はい」


仕事へ戻っていく男の人の背中を、私はしばらく見ていた。



街を歩く。


昨日とは少し違って見えた。


修復途中の家。新しく取り付けられた街灯。工房。給水設備。


今までなら、ただ通り過ぎていたもの。そのどこかに、魔石が使われている。


あの時、魔獣が残した一つの石。あれも誰かの手に渡り、何かに使われたのだろうか。


「ルナ」

「うん」

「さっきから、魔石ばかり見ています」

「……うん」


歩きながら考える。


昨日、ダンジョンへ行ってみたいと思った。知らない場所だから、見てみたかった。


それだけだった。


でも、今は少し違う。


「ユニちゃん」

「はい」


私は立ち止まった。ユニちゃんも足を止める。


「昨日の依頼」

「はい」

「まだあるかな」

「ギルドに行けば分かります」

「……受けてみたい」


ユニちゃんは何も言わず、ただ私を見る。


だから私は続けた。


「ダンジョンを見てみたいのもあるよ」

「はい」

「でも……」


修復途中の街を見る。


「魔石、必要なんだよね」

「必要としている人はいます」


それだけ。


ユニちゃんは、行くべきとも、助けるべきとも言わない。


私はもう一度、自分で考えた。


それから。


「行ってみたい」


少しだけ間があった。


「分かりました」


ユニちゃんが歩き出す。


「え?」

「ギルドへ行きます」

「あ、待って!」

「ワン」


私は慌てて、その後を追った。



昨日と同じギルド。昨日と同じ掲示板。


そして。


「あった」


昨日と同じ場所に、依頼書は残っていた。


『西部第七ダンジョン 魔石採取』


そこには、やっぱり書いてある。


『推奨Cランク以上』


「……私はFランク」

「はい」

「ユニちゃんはSランク」

「はい」


私は二人の冒険者証を見比べた。


「すごい差だね」

「そうですね」

「今さら!?」

「ワン」


私は依頼書から手を離した。


「聞くだけ聞いてみよう」

「はい」


受付へ向かうと、昨日の女の人が私たちを見て、すぐに掲示板へ目を向けた。


「もしかして、昨日のダンジョン依頼ですか?」

「はい」


私は頷く。


「これ、受けられますか?」

「ユニさんは問題ありません」

「私は?」


女の人は私の冒険者証を確認した。


「ルナさんはFランクですから、この依頼の受注者にはなれません」

「うん……」

「ただし、ユニさんが責任者として同行を申請し、ギルドが許可すれば、補助者として入ることはできます。今回は採取区域も危険度の低い範囲に限定されますので、許可できると思います」

「本当?」

「はい。ただし、ダンジョン内での責任は、同行するユニさんに負っていただきます」


私は隣を見る。


「ユニちゃん、いいの?」

「はい」

「すぐ返事したね」

「一緒に行くつもりでしたから」

「そっか」


思わず笑ってしまう。


そこで、昨日聞いたもう一つの決まりを思い出した。


「あれ?」

「どうしました?」

「ダンジョンって、複数人で入る決まりなんですよね?」

「はい」


私は自分を指す。


「私」


次にユニちゃん。


「ユニちゃん」


そして、その頭の上。


「にゃん吉くん」

「ワン」

「三人」


受付の女の人が、にゃん吉くんを見る。


にゃん吉くんも、受付の女の人を見る。


「ワン」

「にゃん吉くんは、冒険者として数えられません」

「ワン!?」


にゃん吉くんが、いつもより大きな声で鳴いた。


「不服そう……」

「ワン」

「でも、ルナさんとユニさんで二人です。複数人という条件は満たしています」

「あ、そっか」


女の人は、もう一度ユニちゃんを見る。


「それに、責任者がSランクですから」

「……Sランクって、すごいね」

「Sです」

「知ってるよ」

「ワン」


にゃん吉くんだけは、まだ納得していない。


受付の女の人が依頼書を外した。


「それでは申請の手続きをします。そのあと、ダンジョンへ入るための注意事項と、必要な準備について説明します」

「はい」


私は返事をして、掲示板から外された依頼書を見る。


昨日まで、存在すら知らなかった世界。


列車の中で名前を知り、ギルドで入口を見つけた。


そして今。


私は、自分の意思でその依頼を選んだ。


「ユニちゃん」

「はい」

「ちゃんと準備して、行こう」

「はい」

「ワン」


初めてのダンジョンへ向けて。


私たちは、その一歩を踏み出した。



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