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願いを魔法に  作者: 由吉


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第2章 第4話 見えていなかった依頼

街のギルドは、大通りから一本入ったところにあった。王都のギルドほど大きくはない。


でも、扉を開けた瞬間。


「おお、戻ったか!」

「薬草採取、終わりました!」

「誰か西の街道行くやついないかー!」


いくつもの声が飛び交っていた。


「……ここも賑やかだね」

「ギルドですから」


ユニちゃんが当たり前のように答える。


「それ、理由になってる?」

「なっています」

「ワン」


にゃん吉くんまで頷いた。たぶん。


中へ入る。


依頼を眺めている冒険者。受付で報告をしている人。大きな荷物を背負った人。装備を整えている人。


場所は違っても、ギルドの雰囲気はどこか似ている。


「まず宿を聞こうか」

「はい」


私たちは受付へ向かった。受付にいたのは、髪を後ろでまとめた女の人だった。


「いらっしゃいませ。依頼ですか?」

「今日は宿を探していて」

「ああ、旅の方ですね。でしたら――」


女の人が私たちを見る。


私。ユニちゃん。にゃん吉くん。


そして、ユニちゃんでもう一度止まった。


「……あれ?」

「?」


ユニちゃんが首を傾げる。


女の人は、何かを思い出そうとするようにユニちゃんの顔を見ていた。


「もしかして……」

「あ」


さっきのことを思い出す。


新聞。


でも、女の人はすぐに首を振った。


「すみません。先に冒険者証を確認してもいいですか?」

「はい」


私は自分の冒険者証を出す。ユニちゃんも、青いコートの内側から新しくなった冒険者証を取り出した。


受付の女の人が二枚を受け取る。


「ルナさん……」


私のものを確認して、次にユニちゃんの冒険者証を見る。


「ユニ・N・スターチスさん……」


そこで止まった。


「…………」


もう一度見る。冒険者証を少し近づける。


「…………S?」

「はい」


ユニちゃんが答えた。


女の人が顔を上げる。ユニちゃんを見て、また冒険者証を見る。


「え?」

「Sです」

「いや、見れば分かるんですけど……」


もう一度、ユニちゃんを見る。


「……本物?」

「本物です」

「ワン」

「君には聞いてないかな」


にゃん吉くんが首を傾げた。


「ワン?」


近くにいた冒険者が、こちらを見る。受付の女の人は慌てて声を小さくした。


「ちょ、ちょっと待ってください」


奥へ走っていく。


私はユニちゃんを見る。


「……こうなるんだね」

「何がですか?」

「Sランク」

「書いてあります」

「そういうことじゃなくて」


ユニちゃんは自分の冒険者証を見た。


「ちゃんとSです」

「うん。知ってる」


しばらくして、受付の女の人が戻ってきた。その後ろから、少し年上の男の人も一緒に来る。


二人で冒険者証を確認すると、男の人が頷いた。


「間違いない」

「……本当に十三人目」


女の人が呟く。


「新聞、届いてただろ」

「あっ!」


女の人が受付の下から新聞を取り出した。


そこには、見覚えのある写真。


ユニちゃん。私。お姉ちゃん。エレナさん。マグナスさん。ガルドさん。受付嬢さん。


あの日、みんなで撮った一枚だった。


「これ!」


女の人が写真と私たちを交互に見る。


「この子ですよね!?」

「ユニです」

「やっぱり!」


今度は私を見る。


「あなたも写ってる!」

「えっ」


私は思わず新聞を覗き込んだ。


本当だ。当たり前だけど、私もいる。


「……なんか恥ずかしい」

「なぜですか?」

「自分の写真が知らない街にあるんだよ?」

「新聞ですから」

「そうなんだけど……」


ユニちゃんは全く気にしていない。


「ワン」


にゃん吉くんも写っていた。しかも、ユニちゃんの頭の上で。


今とほとんど同じだった。



宿を教えてもらい、ギルドを出ようとした時だった。


「あれ?」


壁際を通った私は足を止めた。


依頼掲示板。


それ自体は珍しくない。村を出てから、何度も見てきた。


薬草採取。荷物運び。掃除。配達。


私たちが受けてきた依頼も、そういうものが多かった。


でも、少し離れた場所に、もう一つ大きな掲示板があった。


「ユニちゃん」

「はい」

「あっちにも依頼がある」

「ありますね」

「前のギルドにもあった?」

「ありました」

「……やっぱり」


私は掲示板へ近づいた。


護衛。魔物討伐。危険区域での採取。


今まで見ていたものとは、少し違う依頼が並んでいる。


そして、一枚の紙で目が止まった。


『西部第七ダンジョン 魔石採取』


「ダンジョンの依頼……」


王都から列車に乗った時、ユニちゃんが教えてくれた。


魔石が多く採れる場所。王都の近くにもある。


存在は知った。でも、実際にギルドの依頼として見るのは初めてだった。


「こんなのもあるんだ」

「はい」


私は依頼書を読む。


報酬は、今まで見ていた依頼とは桁が違う。そして、その横に書かれている文字も違った。


『推奨Cランク以上』


「……Cランク?」


隣の依頼を見る。そこにもC。その隣にはB。さらに奥には、Aと書かれた依頼まである。


「こっち、ランクの高い依頼ばっかりだ」

「はい」


その時、後ろから声がした。


「こちらは、主に高ランクの冒険者向けですよ」


振り返る。さっきの受付の女の人だった。


「高ランク?」

「はい。特にダンジョン関係は、基本的にCランク以上。それに、複数人で挑む決まりになっています」

「複数人?」

「危険ですから」


女の人が掲示板を指す。


「内部は地上と環境が違います。魔物もいますし、道に迷うこともあります」


私はもう一度、依頼書を見る。


Cランク以上。複数人。


その二つを見て、ふと何かが引っかかった。


「……あ」

「どうしました?」


ユニちゃんが私を見る。


「分かった」

「何がですか?」

「王都にもダンジョンがあったのに、私が今まで知らなかった理由」


ユニちゃんは黙っている。


私は掲示板を見る。


今まで、ギルドへ行けば真っ先に探していたもの。


私たちでも受けられる仕事。


「私……ずっとFランクの依頼ばっかり見てたからだ」

「はい」

「ダンジョンの依頼なんて、最初から見る場所が違ったんだ」

「はい」


私はユニちゃんを見る。


「……知ってた?」

「はい」

「じゃあ、列車で聞いた時に教えてよ!」

「そのうち分かりますと言いました」

「言ってたけど!」

「分かりました」

「分かったけど!」

「ワン」


にゃん吉くんが鳴いた。


なんだろう。ちょっと悔しい。


受付の女の人が、私たちを交互に見る。


「えっと……お二人は、普段どんな依頼を?」

「いろいろです」


ユニちゃんが答えた。


「薬草を採ったり」


私も続ける。


「荷物を運んだり」

「掃除もしました」

「配達もしたよね」

「しました」


受付の女の人が、もう一度ユニちゃんの冒険者証を見る。


S。


そして、掲示板を見る。


「……ずいぶん堅実なSランクですね」

「はい」


ユニちゃんは普通に頷いた。


私は笑いそうになった。


「でも」


もう一度、ダンジョンの依頼を見る。


『西部第七ダンジョン 魔石採取』


列車を動かしていた魔石。それが採れる場所。


今までなら、きっとこの掲示板の前を通り過ぎていた。


自分には関係ないと思って。


でも、今は。


「ユニちゃん」

「はい」

「これって、私も行けるの?」


受付の女の人を見る。


「ルナさん自身は、この依頼の受注者にはなれません」

「やっぱり……」

「ただ、Sランク冒険者が責任者として同行を申請し、ギルドが許可すれば、補助者として入ることはできます」


女の人がユニちゃんを見る。


「もちろん、内部で何が起きても同行者の責任になります」

「……」


私は隣を見る。ユニちゃんも、私を見る。


「行きたいですか?」

「……ちょっと」

「ちょっと?」

「かなり」

「そうですか」


それだけ言って、ユニちゃんは依頼書を見る。


私は慌てて付け足した。


「でも、今日は行かないよ!」

「はい」

「まず宿!」

「はい」

「忘れてないからね!」

「何も言っていません」

「ワン」

「にゃん吉くんも!」


私は二人に背を向ける。


そして、ギルドを出る前に、もう一度だけ振り返った。


F。C。B。A。


今まで、私は一番端しか見ていなかった。


知らなかったんじゃない。


見えていなかったんだ。


その真ん中に、ダンジョンの依頼が貼られていた。


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