第1章 第19話 朝
朝。
目を覚ましたルナは、しばらく見慣れない天井を眺めていた。
「……」
どこだっけ。
そう思ったのは、ほんの一瞬だった。
「起きた?」
隣から声がする。
顔を向ける。
「……お姉ちゃん」
「おはよう」
「おはよう」
姉がいる。
昨日、王都に着いた。
王宮へ連れていかれて、マグナスと会って。
そして、ずっと会いたかった姉と会えた。
「まだ眠い?」
「ちょっと」
「じゃあ、もう少し寝る?」
「寝ない」
「どうして?」
ルナは身体を起こした。
「今日、王都案内してくれるんでしょ?」
「逃げないよ」
「でも、もったいない」
「ふふ」
姉が笑った。
「じゃあ、朝ご飯食べたら行こっか」
「うん!」
答えてから、ルナはふと思い出した。
「あ」
「どうしたの?」
「荷物」
「荷物?」
「宿に置いたまま」
昨日、姉に会う前に着替えて、旅の荷物はそのまま宿へ置いてきた。
「先に取ってくる」
「一緒に行こうか?」
「大丈夫。すぐ戻ってくるから」
「分かった。じゃあ私は準備してるね」
「うん」
今日は、姉と王都を歩く。
昨日は王都に着いたというのに、門から王宮へ連れていかれて、街を見る余裕なんてほとんどなかった。
どんな場所があるんだろう。
手紙に書いてあった場所も、見てみたい。
ルナは少し急いで身支度を始めた。
*
朝の王都は、もう動き始めていた。
店の前に商品を並べる人。
荷車を引く人。
パンを抱えて走っていく子供。
昨日とは、また違う顔をしている。
ルナは人の間を抜けながら宿へ向かった。
部屋へ戻る。
「よいしょ」
昨日置いた鞄が、そのまま残っている。
必要なものだけ持っていこう。
そう思って近づいて。
「……ん?」
足が止まった。
鞄の横に、小さな袋が置いてある。
「こんなの……」
置いた覚えはない。
手に取る。
ちゃり。
小さな音がした。
「……」
袋の口を開く。
中に入っていたのは、何枚かの硬貨だった。
「お金……?」
多すぎるわけではない。
けれど、今日一日、姉と王都を歩いて、何か食べたり、少しくらい買い物をしたりするには十分な額だった。
「……」
ルナは袋を見つめる。
手紙もない。
名前も書いていない。
でも、誰が置いたのかなんて考える必要もなかった。
「……ユニちゃん」
昨日、姉が言った。
――せっかくだし、王都を案内してあげる!
自分は、すぐに答えた。
――行く!
そのとき、ユニは隣にいた。
「もう……」
ルナは小さく笑った。
昨日、ユニは何も言わなかった。
明日は楽しんできてください。
それだけだった。
ルナは小さな袋を鞄へ入れた。
「……ありがと」
ここにはいない相手に、小さく言った。




