表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/47

第17話 小さな願い

 老人は礼拝堂へ向かった。

 そこから私室までは、隠し通路で繋がっている。


「ハンセル様、お帰りなさいませ」


 長く仕える侍従が、待っていた。


「吸血鬼が妙なことを知らせてきた。地下牢へ行く」


 王宮に戻れば、国王ハンセルに戻る。


 なぜ自分に行けと言ったのか。思い当たるのは、すべてを奪われた孫娘だけ。


「陛下、それはなりません」


「わしが行けば、また奴が動くか」


「さようにございます」


 第二王子カールの背後に立つ男がいる。名はシュバルツ。


 強かで、抜け目のない。いずれは陰から支配する気だ。


「大魔女イゾルデはまだ見つからないのか」


「生死もわかりません……」


 イゾルデならば、あれを解く事が出来るかもしれない。


 後継者としていた魔女ブレンダを亡くして以来、イゾルデは表には出なくなった。その存在は今では伝説となっていた。


「吸血鬼は、ブレンダの子であったな」


 イゾルデの居所など、決して吐かないだろう。


 足元の地下へ向かうことさえ、今のハンセルには難しい。


 ◇◇◇


「お嬢様……」


 耳元の優しい声に目を覚ますと、暗闇にうっすらとベロニカの姿が浮かんでいた。


「お嬢様、これを」


 小袋にぎっしりと炒り豆が入っていた。


「もういいのよ。私はここでお終いにしたいの。あなたから時間をもらったのに、ごめんなさい」


「許しません。最後まで使い切ってください」


「ベロニカ……」


「それほど長くはありませんけど。もう少しだけ、お願いします。ここで諦めてはいけません」


「そうね。このままでは、すべてが消されてしまう」


 あの夜、何が起きたのか知りたい。


「ジュール様が力を貸してくださいます」


「ここへいらしているの?」


「私を呼んだのはジュール様ですよ」


 もう二度と会えないと思ったのに。危険を承知で来てくれた。


「無理をされないよう、それだけは伝えて。私なら大丈夫だから」


「はい。では私は、話の聞けそうな幽霊を探してきます」


 静かな気配が消えた。


「ジュール様……。もし私の罪が許されたなら」


 ――あなたの隣で眠りたい。


 小さな窓から見える月に、祈った。


 ◇◇◇


「やっと、手に入るぞ」


 カールがグラスを高く上げた。


「そのようだな」


 向かいに座るシュバルツも、同じくグラスを上げた。


「あとは、あの娘の証言だけだ」


「疑惑が晴れれば、うるさい第一王子派も黙るしかない」


 次の国王は“カール”だ。


 ロベルトと違い、カールに国を導く力はない。手を貸すと言えば、あっさり信じ、兄のいる屋敷に行った。


「しかし、誰があの娘を逃がしたのだろう」


「そんなことができるのは、魔女くらいなものだろう」


 カールに教えてなどやらない。そんなこともわからないのかと、哀れにさえ思う。


「シュバルツ。国中の魔女を消せ。あの吸血鬼もだ」


「ああ。わかっている」


 お飾りに言われるまでもない。残らず消し去る。


 ◇◇◇


 城のどこへ足を運ぼうが、誰も止めない。


 地下牢の番人も頭を下げて、扉を開けた。


「迎えは来ていないようだな」


 地下牢に現れたのは、カール。

 執務室で見た時よりも、顔が歪んで見えた。


「これをつけろ」と格子の隙間から投げ入れられたのは、太い銀の鎖。


 ビアンカは無言で首にかけた。


 カチャリと音がして、これは自分では外せないのだとわかった。


「本当にまだ餌食になっていなかったのか」


 砂になれたほうが良かったのに。風に乗ってあの城へ帰れた。


「あなたは誰なの。声が違う」


「薬がきれていたか。そうだ、カールではない。だが、私もカールだ」


 同じ顔。違うのはわずかに低い声だけ。


「血は流れてはいない。たまたま似ていてね。それが、魔法でこの通りだ」


 カールの影武者。それがシュバルツの役割だった。


「貧しい村では、売れる物なら何でも売られる。自分の子どもでさえもだ」


 誰にも知られずに、教育され、ひたすら同じになれと言われてきた。同じ食事、同じ動作。まるで自分など最初からいないようだった。


 背が違うと言われ、それも魔法で矯正された。あの時の痛みは、忘れることなどできない。


「あなたには、呪いだったのね」


「そうでもない。これからは私が表だ。そして私の子には、王族の血が入る」


 少しも笑っていないのに、口端が上がるのを見て、怖気がたった。


「私は、吸血鬼ジュールの妻です!」


「吸血鬼など恐るるに足らん」


 冷たい床を探るが、投げつける石はない。


「私が真実を話します」


「誰が罪人の戯れ言を聞く? 権力の前では、無力だ」


「小さな声でも、誰かが聞いてくれるわ」


「何を言おうが、覆らない。大人しく罪を認めろ。そうすれば命だけは助けてやる」


 ――足音が遠のく。


 その背を追うように、黒い羽が張り付いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ